[書評]反音楽史(石井宏)
言語を勉強すると微妙に感覚や感性が変わってきて面白いのだけど、ドイツ語を勉強し始めて、自然にドイツ的なものに関心が向くのか、あるいは無意識がそういうふうにドイツ語的な感覚で配列されるのかよくわからないのだけど、何か微妙に変わってきて、自分でも不思議だったのだが、ブラームスとか聴くようになった。以前は好んでいなかったのに。
聴くというより、わかるという感じだろうか。その他、モーツアルトやベートーヴェンやバッハもそうなのだが、ドイツの音楽がなんか、以前よりくっきりわかる。どうやらワーグナーにも感覚が届いてきた。(副作用で小林秀雄が以前よりわかるようになった。)
これはいったいどういうことなんだろうか? というのとたまたまマイブームの『のだめカンタービレ』がシンクロしてしまって、どうにも奇妙なことになった。
さらに言うと、そろそろ書こうかと思うだのけど、もう一台ブルートゥース・スピーカーを買ったら(以前ちょっと欲しいなと言ってやつ)、こいつがすげー性能よくて、クラッシックを聴いたら全然迫力違う。もちろん、ホールの広がりはないけど、低音は身体にじゎ~んとくるくらいは来る。というわけで、空いた静かな時間があれば、クラシックばかり聴いていた。そういうなかで、あれれ?と思ったことがある。
これは未だに解けないのだが、なぜ、日本人のドイツ語学習者の発音は変なのか?ということ。おこがましい話が、たぶん、カタカナ英語と同じでカタカナでドイツ語を覚えてしまうというのがあるだろうし、戦前の日本の教育などもそうした部類だったのだろういうのもわかる。それにドイツ語はフランス語みたいに国家統制してないみたいなので、方言がいろいろあるのだろうと思うが、それにしても、あの”r”の音はおかしい。日本語だと”g”に近いはずだ。
でも他人のことはどうでもいいやと思っていたのだが、なんとなく、これは、Bühnendeutschという「舞台発音のドイツ語」というやつじゃないかと思うようになった。つまり、人口言語的発音なんだろう、と。ほんとうかどうか自分で確認したわけではないけど、独和辞典なんかでも舞台発音だったらしい。
考えようによっては、日本人がドイツ語を学ぶというのは、独文科とかになるし、当然文学や音楽ということだから、舞台発音のほうがよいというのもあるのかもしれない。
それで、なんでこの奇っ怪な舞台発音ができたかだが、ウィキペディアとかみると、19世紀末らしいのだが、それにしてもこんなアルヴィオラ・トリルを使うのかとぼんやり疑問に思っていた。
が、ふと、これって、偽イタリア語じゃね?と思った。
モーツアルトのオペラ、『後宮からの誘拐』、『フィガロの結婚』、『ドン・ジョヴァンニ』、『コシ・ファン・トゥッテ』は全部イタリア語で、『魔笛』だけがドイツ語。その理由は知ってはいたが、それにしても、モーツアルトの時代、オペラというのはイタリア語でやるものだったのだろうし、彼自身の旅人生や父親の葛藤を見ても、イタリア志向であることがわかる。それがこの舞台発音のアルヴィオラ・トリルの”r”なんかと関係しているんじゃないか。
![]() 反音楽史 |
紹介文に「モーツァルトは名前をイタリアふうに書き換えた。なぜ、ヴィヴァルディは二百年以上も音楽史から消されていた。なぜ、真実の音楽史をスリリングに解き明かす!ドイツ人がでっちあげた虚構をあばく」とあり、興味を引くように、やや偽悪的に書かれているが、音楽史という点ではパウル・ベッカーの音楽史をたたき台にしているという他は、著者。石井宏が詳しいモーツアルトの話に、各種面白挿話をまとめた感じがした。読んで、まあ、そういうことだよねと思った。サリエリもイタリア人だし。
本書の趣向はそれはそれとして、もう一つ以前からなんとなく、クラッシック音楽というジャンル自体、ベートーヴェンの創作なんじゃないかというのも、この本で少し納得した。ヘンデルについても、ああ、やっぱりそうじゃんとか思った。このあたり猫猫先生風味ではあるな。
とはいえ、自分としては、「反音楽史」という着想の面白さより、ベートーヴェンからブラームスが出てくるまでのドイツのクラッシック音楽というのは、かなり芸術性が高いものだなとしみじみ思うようになった。
あと、シューマンからブラームス、そしてそこからドボルザークという流れで、ブラームスがこのベートーヴェン的なクラッシック音楽を立て直したというの感じがしてきた。なので、これはこれでいいじゃんという感じである。
まあ、難しいこと抜きにして、以前よりクラッシック音楽が自分には楽しくなったので満足だし、本書もふつうに読んで面白かった。
もし、音楽に関心があって未読だったら、エンタテイメント感覚でこの本、軽く読んでみるといいですよ。
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