2014年年末衆議院選挙、雑感
衆議院選挙が終わった。ブログではいつも選挙前に自分の見通しを記してきたが、今回はポリタスに寄稿(参照)したのでブログには書かなかった。
率直に言うと、ブログに書くと気が滅入る嫌がらせが多く、忙しいときにその対応に時間を割くのがめんどくさい。というか、ブログに書くと不快なレスポンスが想定されるとあまり書く気力がしてこない。ただ、それでもいけないなあとは思う。
この件で言えば、私は自民党の支持者ではないが、自民党が勝利するだろうという見通しを持っていた。だが、そう書くと、自民党支持者であるとして批判を受けるという図柄がある。辟易とする。日本が負けるだろうと言えない戦中はこんな感じだったのだろう。戦争は負けるべくして負けたのであり、今回の与党は勝つべくして勝ったのだから、思想や意見というものを主張するなら、現状を冷静に見つめて未来に向けた見通しを構想していくしかない。戦後を復興させた人々はそうしていた。
選挙結果は与党で326議席なので、余裕で317議席の「衆院の優越」が得られ、与党としては圧勝になったことは予想どおりだった。私は自民党単独でそこまで行くのではないかとも思っていたのでその点では外した。自民党は議席数では1議席減らしたが、「0増5減」で見れば減らしたというより現状維持であった。
公明党は4議席伸ばして民主党は10議席伸ばした。そもそも小選挙区制に向かない小党が総崩れしたのを民主党が吸収したとも言えるが、民主党の支持が国民に少なくないことは再確認された。それでも、投票率の低い選挙における組織票的な公明党との比率から考えると、民主党の組織票が十分活かされた形にはなったと言えるだろう。
他方、小渕優子議員の当選などを見ると地方では自民党の基盤は強いとも見えるが、全体としては自民党はその傾向を脱しつつあり、よりポピュリズム的な政党に変わりつつあるが、今回はそのメリットが出せなかったように見えた。こうした傾向は自民党の選挙のやり方において、民主党の有力候補の狙い打ちに顕著だったように思う。率直にいえば、こうした自民党の選挙戦略はポピュリズム的すぎて国政という点からは好ましくない。
公明党が躍進したことで、公明党が与党のキャスティング・ヴォートを握ることになった。公明党は支援母体の創価学会でXデー問題を抱えているので、これが国政に影響してくるなら、ろくでもないことになりかねない。逆に言えば、公明党は急いでより市民政党として成熟してほしい。その意味で、今回の旗印だった「軽減税率」はインヴォイス制の構想なかで解消される方向を取れば好ましい。
今回の選挙は、全体としては与党圧勝という評価は崩れないので、アベノミクス信任であるとは言えるだろうだろうが、公明党との協調のなかで推進せざるをえないし、官邸側としては自民党内での非金融緩和派を圧倒できるほどの信託を国民から受けることはできなかった。そこが今後の危うさとして残ることになった。
実際のところ、今回の選挙の意味というのは、来年中に任期を迎える日銀審議委員2名(3月・宮尾龍蔵、6月・森本宜久)の後任人事だと言ってよい。
今回の解散の原因となった消費税増税についてだが、消費税増税の有識者会議で当初、財務省や内閣府の選んだ人選に官邸側が不満を持ち、増税延期派の識者をねじ込ませた経緯があった。露骨に言えば、そうすることで、消費税増税反対解散の名目を作るようなものであり、米国からノーベル賞受賞の経済学者クルーグマンまでそのショーアップに使われた。
そもそも憲法の趣旨からすれば「7条解散」は憲法解釈のバグみたいなもので、ひどいことをするなとも思えるが、このまま消費税増税で日本経済が沈めば、再配分政策など各種福祉政策や雇用改善も途絶しかねない。もちろん、そんなことはないと政策的に主張してこれを阻止するということも可能だが、少なくとも今回の選挙ではそうした争点も出て来なかった。
10月31日に黒田東彦日銀総裁のもと追加緩和が決断されたが、日銀内での票決は5対4という僅差であり、今回の衆院選挙でアベノミクスと称される金融緩和への支援が弱いとこの傾向が逆転される可能性がある。その意味で、日銀審議委員2名の人事が、今後の日本を決定するだろうし、今回の選挙の意味はそこで判明するだろう。
もちろん、金融緩和はもう十分だという意見もあるだろう。そうなれば、印象としては、野田政権がだらっと続いていたような日本にはなるだろう。私としては、そうなれば日本は経済的に没落して、再配分や雇用改善の道筋は見えづらくはなるだろうと思う。
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コメント
もう、ぜんぜん違う風景を、ずっと見てたからなぁ。次の選挙は、投票率は40%代になるよ。別に自民党が理想しかいわないからじゃなくてね、単純に老人たちが投票にいくのをどっと諦めるんだよ。びっくりするほど独居老人がいて、政府がしてくれるのは、お金だけ、それで、どんどん社会から隔離された姥捨て山状態。
で、結局、国政の政治家は、自分が住んでるいるところの住民をまるで見てないんだよ。国政方針が変でも、たぶん、一番地域のことを知っている共産党は伸びたし、公明党だって、かなり地域のことがわかってるけど、今後は、どんどん自民党に擦り寄って、地域を無視すれば見捨てられるでしょ。さすがに、軽減税率が、コメとクジラだけだったとかになったりしたら。
ということで、今後の選挙は、組合や金より、地域情報だね。都会は、やばいね。独居といえば、若い人も多いし。そういう意味では、ネットの活用もかわってくるかなぁ。ニコキャスとかいうサービスがはじまったけど、若い人のことだけ考えず、独居老人が若い人を簡単に見られるようにしてあげて、ついでにニココインで小遣いをあげられるってのもいいかもね。どちらにしても、地域情報をどう収集できるかだろうな。じゃないと、もっともっと、投票にいかなくなるよな。助け合いができる国政政治家がでてこないかしら!
投稿: | 2014.12.15 11:20
>ブログに書くと気が滅入る嫌がらせが多く、忙しいときにその対応に時間を割くのがめんどくさい。
>というか、ブログに書くと不快なレスポンスが想定されるとあまり書く気力がしてこない。ただ、それでもいけないなあとは思う。
余計なお世話かもしれませんが、
10年以上このブログを見てきたものとしては、
市井の声としてのブログ、を言われてたfinalventさんがこの数年で
グルっと回ってマスコミ側(書籍やポリタス、cakes等)で
書き始めているのが、なんだかブログというものの限界であり
終焉のような気がしています。
もちろんポリタスのようにブログ的なキュレーテッドメディア
をマスコミとして捉えるのは間違いかもしれませんが。
しかしポリタス、まあ面白いけど、知識人、文化人同士の大喜利化と
牽制でこのまま進んでいって建設的な何かが残りますかね。
(立ち上げ間もないのにすでに内輪で空気を読み合ってるような)
その中でfinalventさんの記事は真摯に、ストレートに書かれていて
ためになりました。
投稿: 市井の人 | 2014.12.15 13:58
「軽減税率はインヴォイス制の構想なかで解消される方向を取れば好ましい」ということは、極東ブログさんは軽減税率に反対なのですか? 私は消費税を導入している諸外国がすべて軽減税率をもうけているように、軽減税率を導入すべきだと思いますが。
投稿: 南の原っぱ | 2014.12.15 14:26
私は消費税の再上げを止めたのは、財務省の元々からの策略だと考えている者です。
考えて見て下さい。財務省の人間ってそんなに間抜けなんですか?色々なシュミレーションを考え作って置いたのではないでしょうか?
8%上げた時点から、巧く事が運べばそのまま10%にする。景気が沈めば先延ばしする。その時は景気条項は外すようにさせる。
この位の事を考えないで官僚が勤まる訳が有りませんよね?
こういう策略に乗せられているのが、我が国の官僚の外に居るエコノミストやマスメディアなのではないでしょうか?
若しかしたら自民党やメディアもエコノミストも、全てこの策略の下で叫んでいるのだとも思っています。
投稿: hotaka43 | 2014.12.17 01:26
>「だが、そう書くと、自民党支持者であるとして批判を受けるという図柄がある。辟易とする。」
同情いたします。全く該当部分の論旨には賛同します。
>「私は自民党の支持者ではないが、」
では、何党の支持者で、今回は何党へ投票なさったのでしょう?と、素朴な質問をしても宜しいでしょうか。妙な誤解を受けないためにはそれが1番ではないかと。
投稿: | 2014.12.22 07:19
消費税が景気に悪影響を及ぼすならば、同じ様に円安・インフレによる実質所得・購買力の低下をもたらす金融緩和も悪影響を与えるし、実際に円安による悪影響は消費税より大きい。
円安は輸出企業にとってプラスの面もあるが、内需産業にとっては短期間で40%も輸入品の価格が上がったのだから、これに比較すれば消費税の3%増など誤差に過ぎないと言えるほどのインパクトが有る。
つまり、金融緩和に賛成しながら消費税増税に反対するのは、経済に無知だと告白しているのと同じ事です。
投稿: X | 2015.02.03 06:52