フィナンシャルタイムズは安倍内閣による第二次消費税増税に懸念
安倍晋三首相は、日本経済に打撃を与えるなら、消費税率10%への引き上げは「無意味になる」とフィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで述べた。時事「消費増税、「経済に打撃なら無意味」=安倍首相、英紙インタビューで」(参照)ではこう伝えている。
同紙電子版が19日報じたところによると、安倍首相は、消費税増税の狙いが次世代のための社会保障財源を確保することにあると強調。ただ、「他方で、われわれはデフレを終わらせるチャンスをつかんでおり、これを失うべきではない」と指摘し、「もし増税で経済が成長軌道を外れたり、減速してしまったりすれば税収が増えず、全てが無意味になってしまう」と述べた。
該当のFT記事は19日付けの「Abe balances tax rise against economic damage」(参照)だろうか。
The Japanese economy shrank 7.1 per cent between April and June compared with a year ago after Mr Abe’s government raised consumption tax from 5 per cent to 8 per cent. A second rise has strong backing from the Bank of Japan, the finance ministry, big business and the International Monetary Fund, which all want action to reduce the country’s mountainous debt. A postponement would require a change in the law.安倍氏の政府が消費税を5パーセントから8パーセントまで引き上げた後、1年前にと比較しすると、4月と6月の間に日本経済は7.1パーセント縮小した。第2増税は、日本銀行、財務省、大企業と国際通貨基金から強い支持を得ている。彼らはとにかく山のような国債を減らしたいのである。延期するなら法律改変が必要となる。
But Mr Abe said: “By increasing the consumption tax rate if the economy derails and if it decelerates, there will be no increase in tax revenues so it would render the whole exercise meaningless.”
しかし、「消費税増税によって、仮にこの経済が軌を逸し減速するなら、税収増加は期待されないし、すべての実施が無意味になる」と安倍氏は語った。
特に注目に値するインタビューでもないように思われる。ただ、消費税増税見送りの意図を安倍首相が持っているとも一部で受け取られたのか、管官房長官はコメントを出していた。「「増税先送り示唆」報道を否定=菅官房長官」(参照)より。
菅義偉官房長官は20日午前の記者会見で、安倍晋三首相が消費税率10%への引き上げを延期する可能性を示唆したとの英経済紙フィナンシャル・タイムズの報道について、「そうしたこと(先送り示唆)ではない。首相が常日ごろ発言していることを申し上げた」と述べた。
同紙は消費税の再増税に関し、首相がインタビューで経済に大きな打撃を与えるなら「無意味になる」と述べたと報道。この発言について、菅長官は「当たり前のことだ。いつも通りの発言と全く変わっていない」と指摘した。
実際、「いつも通りの発言と全く変わっていない」と以上のことはないのだが、そういう含みを持つにはフィナンシャル・タイムズ側の報道からの印象もあったかもしれない。というのも、そう連想させるような関連記事が他にもFTにあった。「Abe has no easy fix for Japan’s economic woes」(参照)である。社説ではないが論説に近い。
In recent months a succession of weak economic data has raised concerns that Abenomics is stalling. This has prompted questions about whether the government should continue with a planned increase in the consumption tax next year.この数か月、弱い経済データが連続することで、アベノミクスは行き詰まっているのではないかという懸念が起きている。このことで、日本政府が来年消費税の計画的増加を続行すべきかどうか疑問を投げかけている。
Mr Abe must decide by the end of this year whether to press ahead with the second planned increase of the tax to 10 per cent in 2015. Much depends on whether consumer sentiment bounces back in the third quarter. In an FT interview this week, he said he was considering delaying the second increase, saying the move would be “meaningless” if it inflicted too much damage on the economy.安倍氏は、第二弾として計画された10パーセントへの2015年の増税についてこの年末までに決断しなければならない。趨勢は消費者マインドが第3四半期に回復するかにかかっている。今週のFTインタビューで彼は、第二次増税の遅延を考慮していると語り、仮にこの経済に大きすぎるダメージを与えるなら、この動向は「無意味」になるだろうとも述べた。
He is right to be wary. After all, if the effect of the tax is merely to slow the economy further, there will be no increase in tax revenues, making the entire exercise meaningless.
彼が慎重なのはよいことだ。結局、税金の効果が、さらに経済を減速させるだけなら、税収の増加はなく、その実施自体を無意味にするだろう。
FTの社説ではないが、消費税増税第二弾延期を肯定的になぞっている。
しかし、この記事はこの記事で、日本の消費税増税を強く否定しているわけでもない。この先話題はこう転換する。
Decisions on the consumption tax are not going to change the direction of the economy. It is only one of many factors. The government needs to persuade Japanese businesses to stop hoarding cash and invest in new equipment and infrastructure. It also needs to press ahead with labour market reforms, overhauling a workforce dominated by protected regular employees who are unproductive and difficult to fire.消費税についての決定は、経済の方向性を変更させない。それは多くの要因のほんの1つにすぎない。この政府は、日本のビジネス界を説得し現金の貯蔵をやめさせ、新設備とインフラストラクチャーに投資させる必要がある。それにはまた、非生産的で、解雇しづらく保護された正規従業員で支配された労働力を再点検し、労働市場改革を前進させる必要がある。
むしろ興味深いのは、FTとしては日本の経済停滞の問題の主要論点として、「解雇しづらく保護された正規従業員で支配された労働力を再点検」が挙げられていることだ。この問題は、私の印象では、日本のマスコミやネットではそのまますぐ「新自由主義」という奇妙なラベルを付けられ非難の対象となる。
さらにFTのこの寄稿では安倍政権への期待は低い。
Mr Abe still has time on his hands before the next election, due in 2016. But the exuberance has gone out of Abenomics. Mr Abe must continue with his course and not allow himself to be distracted. However, no one should expect a miracle cure.安倍氏には、2016年予定の次回選挙前に行政を手中にできる時間がまだある。しかし、アベノミクスの活力はもう失せている。安倍氏は責務を継続しなければならないし、気を散らしてはならない。しかしながら、この奇跡的治療を期待すべきではない。
率直にいえば、まあ、前回の消費税増税でやっちまったな感が強く、その失態の痛手からある程度戻ることは可能であるにせよ、大きく明るい方向に転換することはなさそうに思える。さらに率直に言えば、安倍内閣後の政府にまったく明るい展望はもてない状況なので、奇妙な政局でぐだぐだやっていないで、普通の政治・外交を地味に進展させることを願っている。
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