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2014.10.11

加藤達也・産経新聞前ソウル支局長による朴槿恵大統領への名誉毀損起訴の不可解

 韓国の司法当局が、加藤達也・産経新聞前ソウル支局長を朴槿恵大統領への名誉毀損により情報通信網法違反の罪で在宅起訴した件について、私はごく基本的なことを勘違いしていたかもしれない。
 名誉毀損とされた該当文章だが、現在でも普通に産経新聞のサイトから「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」(参照)として読むことができる。率直に言って、こんなくだらない内容が自由に読める報道の自由が日本にはあるのである。
 私が勘違いしたかもしれないと思ったのは、この内容を韓国語で翻訳した記事(参照)が名誉毀損の対象になっていたのだと思い込んでいた点である。
 そのうえで私は、わざわざ他国に行って他国の言語で嫌がらせのような記事まで発表することはないのではないかと思っていた。
 とはいえ、原文を読まない限り、なにが名誉毀損なのかも判断しがたいし、私は韓国語を読みこなす能力がないので、詳細が分からない以上、判断は控えるしかないだろうと思っていた。
 それが勘違いだったかもしれない。
 名誉毀損とされたのは、まさに、この産経新聞のサイトに日本語で記載された記事そのものだったらしい。そんなことがありうるんだろうか?
 疑問に思ったのは、昨日zakzakという産経系のサイトに掲載されたコラム「「行方不明」「下品」…事情聴取で浮き彫りになった日韓の言語文化の違い 産経前ソウル支局長起訴 」(参照)を読んでからのことである。


 【ソウル支局】韓国検察が産経新聞前ソウル支局長に対する一連の事情聴取で重点を置いたのは、前支局長がコラムで使った「行方不明」「下品」といった漢字語についてだった。これらの言葉は通常、韓国語では日本語より強い意味となる。「朴槿恵(パク・クネ)大統領を誹謗(ひぼう)した」と検察側が前支局長の在宅起訴に踏み切った背景には、こうした日韓の言語文化の違いもあった。

 正直なところ、まさかと思った。が、この先を読むと、どうやら、産経新聞のサイトに日本語で記載された記事がもとで起訴されているとしか読めない。

 2日間にわたった8月の聴取で検事が時間を割いたのは、「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…」というコラムのタイトルに、なぜ「行方不明」という言葉を使ったのか-だった。
 沈没事故当時の朴大統領の居場所について、大統領府の秘書室長は「分からない」と国会で答弁していた。日本では首相の動静が分単位で報じられるが、朴大統領は事故当日、7時間にわたって大統領府内の所在がはっきりしなかった。
 前支局長は「国会の質問者や国民が所在を明確に知りたかったはずだ」と強調したが、検事は、大統領府内にいたのだから「行方不明ではない」と指摘し、記事は虚偽であると認めさせようとした。
 「行方不明」は韓国語では、「行方をくらます」といった強い意味で受けとめられる。前支局長は、日本語では同じ敷地内にいて姿を見かけない程度でも使うと説明したものの、検事とのやり取りはかみ合わなかった。

 これが本当なら、日本語で書かれた、通常日本人向けと想定される記事について、韓国検察は、裁判のために韓国語に翻訳したもので、起訴を行っていることになる。これはどう考えても、翻訳の質の問題ではないかと思えてならない。
 問題の該当となるコラムだが、私も8月時点で読んで、下品なくだらないコラムだなと思ったが、そう思った理由の最大の点は、独自取材がなされていないことで、読めばわかるが、韓国でのデマをまとめた以上の内容になっていなことだ。この点は、各方面の識者からも指摘されていて、このコラムが名誉毀損ならなぜ元ネタの記事は名誉毀損にならないのか疑問視されていた。
 しかし、ことの大半は、検察側の私的な翻訳の解釈だったのだろうか。
 zakzakの記事では同質の翻訳問題が取り上げられている。

 次いで検事が追及したのは、コラムで「『下品な』ウワサ」という表現を使った意図だ。前支局長は、「品格が落ちる」という意味で漢字熟語の「下品」を使ったと説明。だが、韓国語では「下品」はほとんど使われず、「賤(いや)しい」を意味する強い言葉で訳されがちだ。検事はこの言葉を「誹謗」の一つとみなしたようだ。
 コラム中の「政権の混迷ぶり」「不穏な動きがある」という表現も問題視された。「混迷」や「不穏」は政権の不安定さを伝える用語として日本の報道でしばしば使用される。だが、韓国語の「混迷」はより強い意味となり、「不穏」は「反逆的な陰謀」を示す言葉としても用いられる。
 このため検事は、これらの単語は「大統領を誹謗するためのものではないか」と迫った。(後略)

 このzakzak記事では、結語として次のように述べている。

 日本語と韓国語には同じ漢字語が多いが、ニュアンスが異なる言葉も少なくない。さらに、韓国ではハングル表記が主で、漢字の本来の意味に疎くなっている。こうした事情も今回、誤解を生んだ背景にある。

 もし問題の核心がそうなら、その前提は、韓国語が日本語と同じという認識が潜んでいることになる。別の言い方をするなら、韓国検察が加藤氏のコラムを名誉毀損とするなら、それをきちんと翻訳して司法に提出しなければならないはずだ。
 このzakzakが伝えている事実部分は本当なのだろうか?
 基本的に日本語を解する日本人向けに日本国内と想定されるサイトに発表した言論が、たまたま記者が韓国にいたという理由で名誉毀損で裁判に掛けられるのだろうか? 
 以上の構図が本当なら、自由主義国家として考えられない事態である。どうなのだろうか?
 以上の疑問が自分では明確になっていない。
 しかし、その点が明確になっていなくても、そもそもこの起訴は言論封殺として批判されるべきだろう。
 気になるのはこの検察の背後である。読売新聞「韓国市民団体、名誉毀損の告発を乱発」(参照)より。

 【ソウル=吉田敏行】産経新聞ソウル支局の加藤達也・前支局長(48)が情報通信網法の名誉毀損罪で在宅起訴されたきっかけは、現地の市民団体による刑事告発だった。
 被害者本人の告訴が必要な日本と異なり、韓国の名誉毀損罪は、第三者の告発でも捜査・起訴できるため、告発が乱発される要因にもなっている。

 この読売新聞記事の真偽もいまひとつよくわからない。そもそも名誉毀損として成立するためには、被害者の意思が必要であり、それに反してまで第三者が起訴ができるとは思えない。もしそうであれば、朴大統領の意向が関連していることになる。
 私の知識は不確かなので、仮定に仮定をかさねることになるが、もし今回の名誉毀損に、朴大統領の意向が関連しているなら、韓国国家はべたにもう独裁者による暗黒状態と言ってよいだろう。
 ただ、正確な事実関係がわからない。本当に、日本語の記事を私的翻訳で検察が起訴したのか、朴大統領の意向が関連しているのか、この二点は現状の報道から明確にならない。
 こうした現状は、日韓問題に閉じないことは、米国務省のサキ報道官は8日の会見でも示されていたことでもあきらだろう(参照)。

QUESTION: In South Korea, former Seoul bureau chief of the Sankei Shimbun, the Japan’s daily newspaper, was indicted on charge with defamation of President Park. Do you have any comment on that?

質問者:韓国でのことですが、産経新聞(日本の日刊紙)の前ソウル局長が朴大統領の中傷容疑で起訴されました。あなたはこの件にコメントがありますか?

MS. PSAKI: We are aware of the reports that the Seoul prosecutor’s office today indicted the Sankei Shimbun Seoul bureau chief -- bureau editor for defamation. We’ve been following the investigation by the Seoul prosecutor since its initiation. We certainly don’t have additional details. As you know, we broadly support freedom of speech and expression, and we have outlined in the past, and including in our recent reports that we issue annually from the State Department, about our concerns about the law on the books in South Korea.

サキ氏:私たちは、ソウル検察当局が今日、産経新聞ソウル局長(編集局長による中傷)を起訴したという報告を知っています。私たちはその開始以来ずっとソウルの検察による取り調べを追っています。私たちは確かなところ、追加の詳細情報を持っていません。ご存知のように、私たちは幅広く、表現言論の自由を支持し、以前にまとめましたが、韓国の法律記載への私たちの懸念については、私たちが毎年国務省から出るしている最新報告書に含めてあります。


 米国としては、言論の自由の侵害として注視していることを明確にしているものの、詳細な事実関係がよく認識できないということのようでもある。
 なお、サキ報道官が言及している報告書は国務省は2013年版の人権報告書・韓国(参照)である。
 該当となるのは以下である。

Libel Laws/National Security: The law broadly defines and criminalizes defamation, which could have a chilling effect on news coverage. The law calls for a punishment of up to seven years in prison. In 2012, according to a media report, more than 13,000 defamation complaints were filed and 3,223 persons were convicted. While the vast majority of those found guilty were fined, 24 individuals were sentenced to prison.

名誉毀損法/国家安全保障:該当法律は幅広く中傷を定義し、有罪としている。このため、ニュース報道に対して萎縮効果を及ぼすことができる。法律は最高禁固7年の処罰を要求している。2012年には、メディアの報告によると、13,000を超える中傷不満が申し立てられて、3,223人の人が有罪宣告された。有罪とされた大部分に罰金が科され、24人の個人が禁固刑を宣告された。


 試訳文中の「萎縮効果」は”a chilling effect”の定訳語だが、原義は「身も凍るほどの影響」ということで、英語のニュアンスが伝わる。
 ぞっとするね、ということだ。
 
 

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コメント

日本のサーバから日本語で発信した記事だから、ほんとうに不可解。
この記事を韓国語に翻訳した韓国の主婦ブロガーは、懲役4ヶ月執行猶予1年になった。これも不可解。
韓国では、現大統領が、大統領に対する暴言がひどすぎると発言したことをきっかけに、ネットの常時監視取締りをはじめらしい。にわかには信じられない。
ちょっとした大統領の暴走ならまだいいが、朝鮮半島が危機的状況になりそうだという見込みでもあるのか?あまりに不可解なので、明らかにされていない深遠な理由があるのかと思ってしまう。

投稿: ナナシ | 2014.10.11 20:41

おやじの後を継いで独裁を始めただけですな。
未来もおやじと同じにならなければ良いのですが・・・。

投稿: murasaki | 2014.10.13 00:32

「「行方不明」「下品」…事情聴取で浮き彫りになった日韓の言語文化の違い 産経前ソウル支局長起訴 」はzakzakで掲載されていますが、元は産経の記事ですね。
http://www.sankei.com/world/news/141009/wor1410090050-n1.html
起訴された記者の手記も公開されており、そちらで別の単語でも同様に翻訳のニュアンスが問われ否定していたことが記されています。
http://www.sankei.com/affairs/news/141010/afr1410100011-n1.html
尚、起訴状は産経新聞のサイトで読めますが、起訴状には特に言語は書いてないようです。
とはいえ、日時的には日本語版な気もしますし、そもそも韓国語でこの記事は公開してない気が。
http://www.sankei.com/world/news/141009/wor1410090010-n1.html

投稿: | 2014.10.14 02:33

ちょっと気になったのですが、”the law on the books”を「書籍に関する法律」と訳すものなのか?

”the law on the books”は”the law in action”に対する言葉で、前者が法律の規定、後者が法律の実際の運用のことだと思うんですけど。

投稿: 竹林庵 | 2014.10.16 15:15

竹林庵さん、ご指摘ありがとうございました。その件については、無知でした。以下のサイトなどで確認しました。「法律記載」と訂正しました。
http://goo.gl/X3Ovgi

投稿: finalvent | 2014.10.16 15:25

これは根っこには、セウォル号事故の時の、大統領の「空白の7時間」問題というのがあって、もともとこれを左派メディアなどは厳しく追求していたわけですね。で、それに対して青瓦台は非常に過敏になっていました。しかし正面切って反論も出来ず、関連した瑣末な噂部分に焦点をあてた産経が見せしめとして犠牲にされたということでしょう。まさに国内メディアへの「萎縮効果」を狙って。

しかし結果的には「7時間」問題が内外にますます広まってしまったように思う。

投稿: | 2014.10.18 13:07

記事は、韓国ではなく日本の読者向けでしょ。
韓国語の訳のニュアンスが日本語よりも強いとか弱いとか、韓国側にいかなる言い訳があろうと
スパイ行為をしたわけではないメディアの記者を逮捕する理由にはならない。
韓国のやり口をまねして、韓国大統領の謝罪を求めてもいいと思うぞw

投稿: tom | 2014.10.29 20:52

この程度の記事で起訴されるなんて、とてもじゃないが同じ価値観を共有する国とは言えませんね

投稿: | 2014.10.30 06:56

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