ああ、安倍政権の外交センスは嘆かわしい(訂正追記あり)
訂正・追記(同日)この記事末に追記したが、10月3日に菅官房長官から「自由で開かれた体制」を求める旨の談話があった。よって以下の関連記述は間違っていたことになる。以下は、それを見落としている時点の記述である。その事実を認識した現在、安倍政権の対応は正しいとしたい。
香港で普通選挙を求める市民のデモについて、二つ気になっていることがある。
一つは、日本のリベラルと称する人たちのこの運動への関心が低いことだ。あるいは関心があっても、香港の人たちはデモ行動ができて偉いという程度で、香港の人たちが民主主義の基本である普通選挙を求めているのだということが、よく理解できてないんじゃないか、という印象があること。まあ、しかし、これは印象にとどまるのでブログの話題にはならない。
もう一つは、安倍内閣がこの問題に沈黙しているかに見えることだ。率直な印象をいうと、この「黙っていようっと」という印象は、安倍内閣を批判する種類のリベラルとも共通しているように思える。しかし、それについては大したことではない。
問題は、なぜ安倍内閣が、自由主義国で民主的な普通選挙を持つ日本として香港の民主化について言及しないのだろうか?ということだ。
他国への内政干渉になるから普通しないでしょ、ということだろうか。中国共産党政府がそう言っているのを真に受けるのも、彼らの領土主張を真に受けるくらい滑稽なことに思えるが。
米国オバマ大統領は、中国の王毅外相に直接、批判を述べている。朝日新聞「米大統領「香港市民の志を支持」 中国外相は強く反発」(参照)より。
オバマ米大統領は1日、香港で行政長官選挙の改革をめぐる抗議デモが拡大していることについて、訪米中の王毅(ワンイー)・中国外相に「香港市民の志を支持する」と述べ、香港の安定には開かれた制度が必要との考えを伝えた。ホワイトハウスが発表した。これに対し、王氏は「中国への内政干渉だ」と強く反発した。
ケリー国務長官もこの点は明確にしている。
ケリー氏は会談前に記者団に対し、「できる限りの高度な自治と法の支配に基づく社会が、香港の安定と繁栄には重要だ」と指摘した。その上で、学生らに催涙弾を使った警察当局に抑制を求め、「デモ参加者の平和的に意見を述べる権利が尊重されることを希望する」とも語った。
香港のかつての宗主国でもあり、香港の民主化が50年間保たれることで中国と合意した英国でもキャメロン英首相は言及している。「キャメロン英首相、香港デモでの衝突を「深く懸念」」(参照)より。
キャメロン氏はスカイニュースに対し、香港の中国返還の際の英中合意に触れ、「中国側と設置した(一国)二制度の下で香港の人々に民主的な将来を与えることが重要との合意があった。それ故、今起きていることについて私は深く懸念しており、この問題が解決することを望む」と述べた。
とはいえ、フランスのオランド大統領やドイツのメルケル首相がこの件について言及したという報道も聞かないので、日本の安倍首相だけが特異というものでもないのかもしれない。
とま、そう思っていた。
そうしたなか、ジャパンタイムスでスタッフ・ライターの人が興味深い記事を昨日、書いていた。「Japanese officials silent on drama unfolding in Hong Kong(香港で展開しているドラマについて沈黙を守っている日本の政府高官)」(参照)である。
In the past few days, high-ranking government officials were willing to discuss the importance of keeping Hong Kong stable, prosperous and free. The city is particularly important to the future of Japan and the Asia-Pacific region, they said.この数日のこと、いくにんかの政府高官が、香港を安定させ、繁栄させ、自由にしておくことの重要性について快く議論していた。あの都市は、特に日本とアジア太平洋地域の将来に重要であると彼らは言っていた。
But when pressed by reporters, they have been tight-lipped about whether they support the pro-democracy demonstrations in Hong Kong and residents’ calls for universal suffrage. This has raised suspicions they are afraid of upsetting Beijing.
しかし、レポーターが強く押すと、香港の民主化賛成デモと、住民らの普通選挙権への要求を支持するかという点について、彼らの口は固かった。このことで彼らが、北京を動揺させることを恐れているという疑惑を招くことになった。
The four high-ranking government officials contacted by The Japan Times, two who spoke publicly and two who spoke separately on condition of anonymity, responded exactly the same way: by ducking the question.
ジャパンタイムズが接触した、4人の高官--公然と話した2人、および匿名を条件に別個に話した2人--は判を押したような反応をしたのである。つまり、質問を回避した。
This signals that not responding is the government’s official policy on the Hong Kong demonstrations.
これは、反応しないということが、香港のデモについての政府が公式な方針であるということの合図なのである。
これは安倍政権の方針ということだ。
ああ、安倍政権の外交センスは嘆かわしい。
率直に言って、ひどいもんだなと思う。そして、このことが、ひどいことなんぜと声を上げないリベラルなんて、ナンセンスでしょと思う。
もちろん、外交的な配慮があることは理解できる。
Prime Minister Shinzo Abe is trying to arrange a meeting with Chinese counterpart Xi Jinping on the sidelines of the Asia-Pacific Economic Cooperation forum in November in Beijing. This is widely believed to be another reason for Tokyo’s restraint, though Suga denies it.安倍晋三首相は、北京で11月に開催されるアジア太平洋経済協力会議フォーラムに合わせて、中国側の相手として習近平との会合を手配しようとしているさなかである。管はそれを否定するが、これが、日本政府による抑制のもう一つの理由であると広く信じられている。
率直なところ、日本政府は、英米の指導者ほどのトーンではなくても、とにかく結果として天安門事件の流血を避けるような配慮として言及があってもよいのではないか。たとえば、「香港での普通選挙を求めるデモは平和裏に解決することが好ましい」くらいには。
そしてその結果として中国側からの会談ボイコットになるなら、それを甘んじて受けるべきだろう。そうすれば、批判していても対話を維持する米国への対応と、日本への対応の差が明確になってよい。
関連して言及しておくと、中国政府へのチキン対応は、ダライ・ラマの扱いで国際問題になっている。
一番ハデにヘマにやったのが南アフリカである。あるいは中国の手前そうならざるを得なかったのかもしれないが。「南アがダライ・ラマ入国拒否、ノーベル平和賞6人が国際会議ボイコット」(参照)より。
【9月26日 AFP】南アフリカ政府がチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ(Dalai Lama)14世への査証(ビザ)発給を拒否したことに抗議して、ノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)受賞者6人が南アフリカで来月開かれる国際会議へのボイコットを表明した。カナダを拠点とする「ノーベル女性の会(Nobel Women's Initiative)」の広報担当者が25日、述べた。
「ダライ・ラマはチベット問題に対して非暴力的な交渉による解決を呼び掛けている」と、ノーベル女性の会はボイコット発表の際に述べた。
さらに、中国政府がダライ・ラマの移動の自由を制限するために政治的な圧力をかけていると非難し、「中国は南アフリカが同宗教指導者の入国を拒否したことに公式に謝意を表明した」と付け加えた。
これは南アだけの問題ではない。グローバルポスト「No one likes the Dalai Lama anymore(ダライ・ラマを好む人はもう誰もいない)」(参照)で包括的に触れていた。
英国のキャメロン首相は2012年5月、中国政府の警告に反してダライ・ラマと会談したため、中国の怒りを買った。そして中国をなだめるためにいろいろ苦労したらしい。寛容とされるノルウェーでも、劉暁波にノーベル平和賞を与えたことで中国の怒りを買い、その反動でダライ・ラマと高官の接触は拒まれた。
つまり、中国は、自由主義諸国も香港と同様にしてくれるということでである。手始めに身近なところから。
追記(同日)
ニュースに見落としがあった。10月3日に菅官房長官からの関連の談話があった。ANN「菅長官、香港に「自由で開かれた体制を望む」」(参照)より。
菅官房長官は、香港で学生らによる大規模なデモ活動が続いていることついて「1国2制度において、自由で開かれた体制が維持されることを強く望んでいきたい」との認識を示しました。
菅官房長官:「我が国としては、香港において引き続き1国2制度のもとに、従来からの自由で開かれた体制が維持されて我が国と緊密な交流関係が維持されていくことを強く望んでいきたい」
香港の民主的な選挙を求める大規模なデモ活動は、香港の学生らが行政長官の辞任などを求めて今も座り込みを続けています。菅長官は「香港の平和と安定はアジア太平洋地域の繁栄と発展に重要な役割を果たしている」と述べ、引き続き事態を注視していく考えを示しました。
追記・補足(同日)
ジャパンタイムスの記事でも管官房長官の談話については言及していたが、否定的な文脈からクローズな場での発言だと私が誤解していた。関連部分は以下のとおり。
“The future of Hong Kong is extremely important to the future of Japan. The prosperity and stability of Hong Kong will play an important role for not only China, but also for the whole of Asia,” Chief Cabinet Secretary Yoshihide Suga said Friday at a news conference.「香港の未来は日本の将来に極めて重要である。香港の繁栄と安定性は中国のためにだけでなく、アジア全体のためにも重要な役割を果たすだろう」と内閣官房長官菅義偉は記者会見で金曜日に語った。
But when asked whether Japan supports the street protests, as the U.S. White House officially did on Monday, he didn’t answer.
しかし、米国ホワイトハウスが月曜日に公式にしたように、日本が街頭での抗議を支援するかどうかを尋ねられたとき、彼は答えなかった。

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