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2014.10.06

モディ首相時代の中印関係(アルナチャルプラデシュ州問題)

 インドがインド人民党(Bharatiya Janata Party、BJP)のモディ首相の時代となった。これに合わせて、新しい中印関係、というか、中印日関係について少し触れておきたいことがある。
 基本的な構図は、中国に対して日本とインドが領土問題を含み緊張関係にあることだ。この構図からは、自由主義の日印の関係強化によって、中国の軍拡を抑制し、自由主義諸国の関係にどのように上手に取り込むかという課題が浮かびがある。概論としてはそうだが、個別から見ると微妙な印象がある。
 首相就任後活発な外交を展開しているインドのモディ首相だが、インドの思惑としては経済面では日中を両天秤に掛けている。この戦略は自然なので、日本の安倍首相は5年間で3.5兆円の投融資を行うと賭けた。相手は中国であり、これに上回るかが見どころだったが、習主席からは同期間で約2兆2千億程度で受けた。形の上では日本側の賭けが買ったが、中国としても微妙なバランスの額である。
 このモディ・習会談の際、興味深いことがもう一点あった。この投資を決めたのは9月18日、ニューデリーで実施された会談だったが、その前日、モディ首相がその故郷グジャラート州に習主席を招いているさなかに、中国軍がインド北部カシミール地方で実効支配線を越えてインドに侵入しインド軍と対峙したことだ。首脳会談が平和裏に進んでいるなか、軍事衝突の危険があったのである。
 軍事を背景にしたいかにも中国らしい外交のやり方だとも言えるし、インドもこうした中国の手法には慣れているのできちんと受けていた。もっとも平和主義国である日本側から見ると、奇妙にも見える。
 冗談はさておくとすれば、普通に考えてもこの中国のやり方は異常なことである。中国という国はこういうわけのわからないことをする。
 難しいのは、中国のこうした行動に総合的なメッセージが存在するのか、軍の行動が政府下にないため、政府の意向とは別にこういうことが起きるのか、それすらもよくわからないことだ。当然、こうした行動は、他国に不可解な恐怖を与えているのだが、そのことも中国は理解しているふうではない。
 中印会談時の中国軍の軍事的な威嚇については、当の習氏としても困った事態と見ていたふしもある。帰国後、彼は軍に対して異論とも取れるメッセージを出していたからだ(参照)。もっとも、たとえそうであっても、困った事態にはまったく変化が起こりそうもない。
 今回の中国軍によるインドへの軍事的な威嚇だが、モディ・習会談が直接の背景ではないのかもしれない。
 6月のことだがインドは、中国の地図で、インドが実効支配しているアルナチャルプラデシュ州について、中国領の南チベットとして記載されていたことに批判を表明し、国際社会が注目した。
 この批判は、中国の領土対応が突然変わったことで偶発的に起きたことではない。モディ首相が選挙活動をしていたときから、関連する領土問題についての主張には大きな比重で含まれていた。
 モディ氏は首相就任前にアッサムに趣いた際、「この地球上のいかなる権力もインドからアルナチャルプラデシュを消し去ることはできない」とも述べていた(参照)。
 こうした点からすると、中国側としては、今回の軍事的な威嚇はモディ首相に対するテストの意味合いもあっただろう。むしろ会談がテストに適した時期と見られていたかもしれない。繰り返すが、こうした中国の奇妙な外交手法は、今後日本にも適用されるので、日本人もこうした手口は学んでおくとよい。
 個別にアルナチャルプラデシュ州問題を現時点で簡単に再考してみたい。これは中国が南チベットと呼んで自国領土主張している問題だが、奇妙な呼称からも連想が付くように、当然チベット問題とも関連している。この点については以前このブログでも危機の可能性がある時点で言及したことがある(参照)。今回は簡単に地図で再確認しておこう。赤い部分がそれである。

 この位置に関連して日本人として留意しておきたいことの一つは、アルナチャルプラデシュ州の西側の部分が、ブータンであることだ。ブータンが日本に対して親日国であるとアピールしたい背景は、こうした地図から一目で見て取れる部分がある。この地域に第3の勢力を関与させておきたいのである。
 アルナチャルプラデシュ州を巡る緊張の今後だが、日本も含めた国際社会としては、問題地域であることは認識しても、あまり事を荒立ててほしくない地域でもあり、そのメッセージは、話を聞きそうにもない中国は別として、インド側に伝えられてはいる。
 だがそもそも、モディ氏が首相になったこと自体、この領土問題がインド国内でナショナリズムと結びつきやすい状況にあることを示している。
 日本側や西側報道からはあまり見えてこないが、今回のモディ・習会談でも、アルナチャルプラデシュ州問題に関わる、ブラマプトラ川ダムの問題がインドのアッサムでは主張されていた(参照)。
 このダムについては環境問題としても重視されてきつつある(参照)。近い時期に、突発的な問題が発生する可能性もあるだろう。
 
 
香港・真正的普選
 
  

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