トルコ軍による「クルド労働者党」(PKK)空爆の意味
国際情勢を見ていると悲惨な事件にもあまり驚かなくなる。まして、想定可能な事件であると、「やはりな」というくらいな印象に終わることが多い。しかし、14日に発表されたその前日のトルコ軍によるトルコ南東部ハッカリ(Hakkari)県ダグリカ(Daglica)村の「クルド労働者党」(PKK)への空爆(参照)は、予期されないことではなかったにも関わらず、さすがに驚いた。トルコ側の言い分としては、後述するコバニでの戦闘に連鎖してPKKがダグリカの警察署を銃撃したため、空爆で対応したとしている。
まったく予期できないことではなかったが、まさかそこまでやるのかという思いがあった。前兆は先週の状況である。日本では台風騒ぎで他のニュースが薄い扱いではあったが、トルコ各地でクルド人のデモ隊と治安部隊が衝突し、5日間で31人が死亡し、1000人以上が拘束される緊張した事態が起きていたことだ(参照)。今回のトルコ軍によるクルド人PKKへの空爆は、まずPKKへの威嚇と見てだろう。そして2013年3月のトルコとPKKの停戦は事実反故になった。
このトルコによるPKKへの空爆の結果、国際社会としては、トルコはイスラム国のクルド人居住地域やトルコへの侵攻をどう見ているのか改めて疑問を抱くことになってしまった。
背景となるトルコでのクルド人デモだが、同質のデモがドイツで起きていたことから見るとわかりやすい。ドイツのハンブルクでは、7日から8日、クルド人と「イスラム国」支持派の間で衝突が起き20人以上が拘束された。クルド人としては、反イスラム国の訴えである。特に、クルド人には、アイン・アルアラブ、クルド地名コバニ(ちなみにオバマ米大統領もこの呼称を使っていた)がイスラム国に制覇される危機感が強い。
加えてトルコ国内でのクルド人デモの主張には、トルコが裏でイスラム国と通じているのではないかという疑念もあるようだった。エルドアン大統領は、PKKとイスラム国を同質に見ているし、そこからイスラム国による、PKKのシリア支部組織である民主連合党(PYD)潰しを狙っているのかもしれない。
トルコの思惑は別として、国際社会が注視しているのは、イスラム国が侵攻中のコバニの状況である。現下、米軍はコバニ近郊の21カ所を重点に空爆しているし、この空爆に地上側でクルド人勢力も参加しているようだ(参照)。
コバニが問題になるのは、イスラム国がここを制圧すると恐るべき虐殺が行われる懸念があることに加え、軍事面から見ても、北部ラッカからアレッポまでが支配下に置かれ、実質トルコとシリアの境界の一帯がイスラム国となり、ここを拠点に戦闘員の拡大や闇貿易が強化されることだ。かつてアサド政権がクサイルを支配下に置いた時点でシリア問題が絶望的な状況になったように、コバニがイスラム国下に置かれるとイスラム国が確固たる存在となり国際社会としては絶望的な状況に陥る。
今後はどうなるか。コバニで西側が優勢となるためには、地上部隊の投入が不可欠だろうと見られている(参照)。だが、その決断を米国を中心とした勢力が決断することは難しいだろう。
また、こうした流れから見ると、このトルコのPKK空爆の意味は、トルコの支援が必要される地上部隊への期待を疑しくすることだ。
今後はどうなるかだが、どちらかというと、イスラム国はコバニを制圧するだろう。そしてそれを契機として国際社会としてはかなり絶望的な状況になっていくだろうという印象が強い。
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