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2014.09.22

巧妙に修辞で覆ったオバマ米大統領による第三次イラク戦争

 今月の10日のことだが、米国オバマ大統領はイスラム国の残虐報道に反応してか唐突にイスラム国の対処計画を発表した(参照)。
 先月28日では、対処を計画を問われた彼は、素直に「戦略はまだない」と発言して、米国民から落胆と失笑を買っていた。共和党ジョン・マケイン上院議員などは嘲笑もした(参照)。
 オバマ大統領は何も考えていなかったか。そう見えるのも、さすがにまずいと思い直し、新しい演説を考えたのが10日のこれではなかった。
 内容は、イラクでの空爆を拡大するという、特に意味のない修辞だけではすまかったので、これまで否定してきたシリア国内での空爆も承認した。ただこれも、当初から軍からも言及されていたことで特に新しい対応計画というほどのことでもない。
 彼は加えて、期限の定まらない長期的な対応になるとした。つまり、前回同様、「戦略はまだない」という発言の言い換えのようにも聞こえた。米国民も議員もこの件はほとんど、えんがちょみたいなものだし大した反応もなかった(参照)。
 その後、ケリー国務長官の動向や米議会での経緯を見ていると、実態は少し違う。どうやら、戦争忌避の修辞と正義の旗を掲げて、オバマ大統領はまたイラク戦争を始めるんじゃないかなと思えてきた。そのあたりを少し書いてみる。
 話題の前提は、今回の米国の介入は空爆に限定されることだ。地上軍の投入はない。もっともそれを言えば、子ブッシュのイラク戦争も当初はそうだった。
 オバマ大統領が空爆、というときは、東京大空襲で焼夷弾をむやみに落としたみたいに爆弾を落とすのではなく、リビアでやったように、ドローン型殺人ロボットで効率的に殺人することになる。そこで重要なのは、地上側からの誘導である。
 だが、この地上側誘導にも直接的には米側の人員が荷担しないとなると、いわゆるシリアの反政府組織を使うか、独自に米国兵ではない傭兵部隊を使うことになる。だが、シリア内の反政府組織はイスラム国よりアサド政権の打倒が重要なので、後者の養成が重要になる。
 そんな筋で見ていくと、なるほどなあという展開になってきた。
 その前に、日本人の戦争観はちょっと独自なので最初に補足説明すると、戦争を実質的に継続するときに、国民として戦争賛意の意思として示されるのは議会における戦争予算の承認である。日本の太平洋戦争でもこの手順は踏んでいるので、ようするに日本人は戦争を承認していた。
 オバマ大統領の戦争計画だが、まず下院で予算承認された。この際に、内容も当然説明される。概要は日経「米下院、シリア反政府勢力への軍事支援予算を可決」(参照)より。


【ワシントン=川合智之】米議会下院は17日、過激派「イスラム国」に対抗するためオバマ大統領が求めたシリア反体制派勢力への軍事支援を認める修正予算案を、賛成多数で可決した。早ければ18日にも上院で最終承認される見通しだ。米軍地上部隊を派遣しない代わりに、シリア反体制派の訓練や空爆を通じてイスラム国の壊滅を図るオバマ氏の包括戦略が実現に向け動き出す。
 穏健なシリア反体制派がシリア領内のイスラム国と戦うのに必要な武器を提供するほか、サウジアラビアで要員約5千人を軍事訓練する。米政府は必要経費を5億ドル(約540億円)と見込む。

 重要なのは、「サウジアラビアで要員約5千人を軍事訓練」というあたりである。
 その後の上院ではどうか。APを受けた記事のようだが毎日「米議会:シリア反体制派の訓練承認 「イスラム国」に対抗」(参照)より。

【ワシントン和田浩明】米上院は18日、シリアとイラクで活動するイスラム過激派組織「イスラム国」に対抗するため、穏健派と米国が認定したシリア反体制派を訓練し、武器などを供与する権限をオバマ政権に付与する決議案を賛成多数で承認した。前日に下院も認めており、オバマ大統領は「議会との共同歩調で米国は強くなれる」と歓迎した。
 支援対象は「自由シリア軍」などの主に世俗系の反体制派。ケリー国務長官は18日の下院外交委員会公聴会で、「少なくとも七つの組織がある」と証言した。オバマ大統領によると訓練は「複数のアラブ諸国」と連携してシリア国外で行われる。サウジアラビアは受け入れに同意した。反体制派には小火器や車両の提供から始め、信頼できる部隊にはより高度な装備を渡す計画だ。
 AP通信によると、米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長は18日、訓練開始までに3カ月、完了に1年かかるとの見通しを示した。1年間の訓練可能数は5000人を超える見通し。

 上院でも承認された。
 ただ、毎日新聞記事だと、対応は「複数のアラブ諸国」で、「サウジアラビアは受け入れに同意した」ということで、サウジアラビアはその一つというトーンで書かれている。記事としては誤りではないが、実質サウジになる点が重要ではないかと思われる。
 この点は、下院についての読売新聞「米、シリア反体制派の訓練承認…内容は示されず」(参照)に関連情報がある。

シリア反体制派への軍事支援は、「イスラム国」掃討に向けた戦略の「四つの柱」の一つ。「イスラム国」よりも戦闘能力や装備で劣るシリア反体制派に対し、米軍がサウジアラビアで訓練を行うとの方針を示していた。ただ、下院が可決した法案では、反体制派への訓練内容や武器供与の具体的な内容は示されていない。

 一連の報道で重要なのは、「四つの柱」である。これが、表面的であれオバマ戦略になるからだ。だが、ざっと見渡した範囲ではこのあたりについての国内報道は見当たらなかった。
 「四つの柱」については、直接米軍からも提示されている。DoDニュース「Hagel Explains President’s Strategy to Destroy ISIL」(参照)より。重要なのはサウジについての言及である。

And, the president has asked Congress for $500 million to train and equip moderate opposition forces to confront terrorists operating in Syria. “We have now secured support from Saudi Arabia to host the training program for this mission, and Saudi Arabia has offered financial support as well,” Hagel said.

そして、大統領は議会に向けて、シリアで働いているテロリストに対して適度な反対勢力が立ち向かえるよう訓練と装備のために5億ドルを頼んだ。「私たちは今や、この任務に向けて教育プログラムを主催するよう、サウジアラビアから支援を獲得し、またサウジアラビアはさらに財政援助を提供した」とへーゲルは言った。


 以上を簡単にまとめると、サウジアラビアを実質的な傭兵訓練と後方基地にして、第三次イラク戦争に突入するということだ。
 前回の子ブッシュまでは米国兵が参加することに意義があるとして、実質は米国内の民間傭兵を活用したが、国家の戦争とした。これがもう受けないので、オバマ時代では、タックスヘイブンならぬソルジャーヘイブンのようにして、米国関与を表面的に消して、さらに金銭面もサウジに依存するということになる。
 頭いいなあオバマ大統領、戦争の「飛ばし」みたいだ。
 私はこれ話の流れは、しかし子ブッシュの時と同じで、サウジアラビア主体なのではないかと思う。
 7月ことだったが、こういうニュースがあった。共同「国境にサウジ兵3万 過激派「イスラム国」の勢力拡大を警戒」(参照)より。

 中東の衛星テレビ、アルアラビーヤは3日、サウジアラビア軍がイラクとの国境地帯に兵士3万人の部隊を配置したと報じた。イスラム過激派「イスラム国」の勢力拡大を警戒した対応とみられる。詳細は不明だが、イラク軍が国境地帯の警備から撤退したとの情報がある。サウジは、イラクと約800キロの国境を砂漠地帯で共有している。国営サウジ通信によると、アブドラ国王は「サウジの治安と安定のために必要なあらゆる手段を講じる」との方針を示していた。

 もとからサウジの動きの準備は出来ていた。あとは、どういうふうに米国を巻き込んで戦争を始めるかがこの数か月問われていたと見てよさそうだ。
 この時期の流れでもう一つ気になるのは、6月ごろ5億ドルの支援を議会に求めていたことだ。6月27日「シリア反体制派支援を強化=5億ドル支出、装備供与-米」(参照)より。

【ワシントン時事】オバマ米大統領は26日、シリアのアサド政権と戦う反体制派への装備供与や訓練に必要な経費として、5億ドル(約510億円)の支出を承認するよう議会に要求した。シリア内戦は隣国イラクに飛び火するなど、地域情勢を一段と不安定化させており、オバマ政権は反体制派への支援を大幅に拡充することで、内戦終結に向け局面転換を図りたい考えだ。(2014/06/27-07:55)

 私の勘違いかもしれないが、今回のオバマの対イスラム国対応計画費は、これではないだろうか。
 6月時点の予算問題の話はよくわからないが、サウジアラビア側が主導でオバマのお尻を叩くような話は7月ころから進められていた、ということのように見える。
 
 

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