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2014.09.06

米国務省のサキ報道官批判の話題は、何が問題だったのだろうか

 ツイッターのタイムラインを見ていてちょっと気になる話題があった。一読して、なんだろうと思った。言うまでもないことだが、単純に、「なんだろうこの話は?」と思っただけである。





 一読して思ったのは、誰か著名な人が女性差別発言をしたのだろうか、という疑問と、実際にはどういう英語表現が性差別発言になるのだろうかという疑問の二点が私にはあった。
 当然ながら、この時点で「明らかにおかしい記事だ」とは私にはわからない。そこで気になってリンク先の記事を読んでみた。
 毎日新聞「米国務省:報道官批判に副報道官が「性差別的」テレビ批判」(参照)である。記事全文の引用は好ましくないが、記事検証の意味合いもあるので、以下に引用してみたい。新聞記事なのでまず概要がくる。

【ワシントン和田浩明】オバマ米政権に批判的な米FOXテレビの男性キャスターが米国務省のサキ報道官を「あの女は、実に力量不足に見える」などと女性を見下すように番組で批判した。これについてサキ氏の同僚でやはり女性のハーフ副報道官は4日の定例会見で、「男性に対してであれば使わない表現で、性差別的だ」と異例の批判を展開した。

 簡素にまとまっているが、話題は実は二点ある。
 一つは、保守系のFOXテレビのキャスターが女性のサキ報道官を見下す発現をしたということで、その内容は、「あの女は、実に力量不足に見える」ということ。
 二つ目は、サキ氏の同僚の女性報道官ハーフ氏が、FOXキャスターを批判したということ。その際の文言は、「男性に対してであれば使わない表現で、性差別的だ」ということ。
 記事本文を見ていこう。

 人気キャスターのビル・オライリー氏が3日の番組でサキ氏を批判した。米国人2人を斬首して殺害したイスラム過激派組織「イスラム国」へのオバマ政権の対応に関するサキ報道官の2日の定例会見での説明について「職務に見合った重みが無い」などと述べた。

 概要に加えて、「職務に見合った重みが無い」という文言が加えられている。
 この文言は、先の「あの女は、実に力量不足に見える」という内容、とどういう関係があるのだろうか? 二つの文言なのか、「職務に見合った重みが無い」という文言の内容が「職務に見合った重みが無い」なのだろうか。
 日本語で考えると、著名人が「あの女は、実に力量不足に見える」と言ったら、たしかに「女性を見下す」ように感じられる。ただし、その場合、日本語のポイントは「あの女」という日本語の響きにある。
 そこは英語の原文がどうなっているかはやはり気になるところだ。「あの女」に侮蔑的な隠語が使われていたなら完全にアウトだろうし、だがいくら保守系メディアのFOXでもそこまでするだろうか?
 二点目の問題もこう掘り下げられている。

 これに対し、ハーフ副報道官はまず4日に短文投稿サイト「ツイッター」で、「(サキ)報道官は理知的かつ上品に外交政策を説明している」などと反論。会見でさらに真意を問われると「性差別的で個人攻撃的な発言だ。反論するのは私の義務だと思う」と説明。さらに、「男性が公的立場にある女性にこうしたことを言った場合、より多くの人が批判してほしい」とも呼びかけた。

 事態は概要部とやや印象が違い、どうやらまず、ツイッターでハーフ氏の呟きがあり、それが問題視されて、会見で真意が問われたということだ。
 ここで少し奇妙に思えたのだ。毎日新聞の報道だと、最初にFOXキャスターによる「女性を見下す」発言があり、それが問題を起こしたかに見えることだ。だが、これが問題化した経緯は、サキ氏の同僚のハーフ氏が、おそらく私的にツイッターで呟いて、それが問題化したという手順のようだ。
 つまり、問題は、ハーフ氏の私的なツイッターでの呟きが原点にあることになる。
 ここで問題を整理し直す。何が問題のなのか。この記事からは二つ読み取れるだろう。
 一つは、ハーフ氏のツイッターの呟きによって、FOXキャスターの発言が「女性を見下す」女性差別発言であることが公的に明確になったので、それが問題だということだ。
 もう一つは、それが会見で問われるということは、私的なツイッターの呟きと報道官としての公的な発言がまず問われたということだ。
 二点目はつまり、報道官として公私の意識が問われたという問題だろう。そういう事態をツイッターが引き起こしたことがこの話題が異例である点だろう。
 以上を考えてみると、その真相はいっそう、なんなのだろうか、という疑問がわいてくる。原文を調べてみた。
 まず、FOXキャスタービル・オライリー氏の発言だが、現物がすぐわかる。以下である。



“With all due respect and you don't have to comment this, that woman looks way out of her depth over there just the way she delivers. It doesn’t look like she has the gravitas for that job.”

「で、失礼ながら、あなたはコメントしなくてけっこうですが、この女性は、その報道だけではそこにある問題がわかってないようですね。まるで、彼女はこの仕事のための厳粛さをもっていないようだ。」


 英語の口語表現はけっこう難しい。簡単に英語の解説をすると、「With all due respect」は「恐れながら」というフレーズ、「be out of your depth」は「知識や経験などを持っていない」ということ。
 さて、毎日新聞にある二つの表現「「あの女は、実に力量不足に見える」などと女性を見下すように番組で批判した」と「職務に見合った重みが無い」がどう対応しているかだが、次のような対応だろう。

「あの女は、実に力量不足に見える」: that woman looks way out of her depth over there just the way she delivers.
「職務に見合った重みが無い」:It doesn’t look like she has the gravitas for that job.

 直訳ではないようだが、意訳として適切かどうかは、私の英語力では判断しがたい。
 気になった「あの女」という表現だが、侮蔑的な隠語ではなく普通に「that woman」だった。ただし、そのように性を特定する表現自体がすでに問題なのかもしれない。
 原文がわかった段階で、このFOXキャスターの発言はハーフ氏が指摘したとされる「性差別的」だろうか。ところで、「性差別的」だが、関連の報道をなどを見るとその表現の英語は"sexist"に相当するようだ。
 さて、率直なところ、私の感性からすると、このFOXキャスターの発言が「性差別的」と言えるのかわからなかった。理由は、女性であることに差別が向けられているより、報道官としての適正が問われているだけで、たまたまそれが女性だったという印象があるからだ。ただ、このあたりの私の感性は、現代米国社会的にはすでに「性差別的」なのかもしれないので、気を付けたい。
 次に、実際上、話題の起点となるハーフ氏のツイッターの呟きだが、これも現物がある。


 発言の要点は以下である。

@statedeptspox explains foreign policy w/ intelligence & class. Too bad we can't say the same about @oreillyfactor: http://bit.ly/WfVr6v

サキ報道官(@statedeptspox)は、外交問題を知性と上品さをもって説明している。ひどすぎて、私たちは同じ事は、FOXキャスターのオライリー(@oreillyfactor)に言えない。


 原文にあたって意外だったのは、ここではどう読んでも「性差別的」な文脈が直接的には見当たらないことだ。私の勘違いかもしれないが、この時点でも「性差別的」という問題の文脈はなかったのではないだろうか。単に同僚を庇ったくらいに見える。
 具体的にこの話題が展開される会見はどうだっただろうか。現物がある。

 すでに公式にも発表されている(参照)。


MS. HARF: No, I appreciate the opportunity to give more than 140 characters here. I think that when the anchor of a leading cable news show uses, quite frankly, sexist, personally offensive language, that I actually don’t think they would ever use about a man against the person that shares this podium with me, I think I have an obligation, and I think it’s important to step up and say that’s not okay. And quite frankly, I wish that more people would step up when men say those things about women in public positions and say that it’s not okay.

ハーフ:いいえ、私は、140文字以上の文字与えられる機会をいただいて感謝します。主要なケーブルニュースショーのアンカーの言葉が、ざっくばらんに言えば、性差別主義者の、個人攻撃的な言葉だと思いましたし、私は実際、彼らが、この演壇を私と共有する人に対して、それが男性だったら使うであろうとは思いません。私には、義務があると思いますし、私はこんなのはOKではないと進んで言うことが重要だと思います。そしてざっくばらんに言えば、男性がこの手のことを公的な場にある女性について言うときは、もっと多くの人が、こんなのはOKではないと進んで言うべきだと思います。

QUESTION: So you don’t think that the criticism would have been directed at a man who had replied – who had given similar answers from the podium?

質問者:とすると、応答者、つまりこの演台から同様に答えた男性対して直接向けられてきた批判ではないとお考えなのですね?

MS. HARF: I think some of that language – we’ve seen it before – was – would – I – no, I don’t think would be used against a man. Some of the language used about my colleague I don’t think would be.

ハーフ:これまで使って来た言い回しについていうなら、違います。男性に向けて使われてきたものではありません。私の同僚に向けられた言い回しのいくつかはこれまではなかったと思います。

QUESTION: By this one person in particular --

質問者:特定のこの人に向けたということではないと

MS. HARF: In general.

ハーフ氏:一般論です。

QUESTION: -- or just in general?

質問者:つまり、単に一般論だったと。

MS. HARF: In general.

ハーフ氏:一般論です。


 ざっと訳したので誤訳があるかもしれないが、重要なことがいくつか見受けられる。
 まず、「性差別的」というのは、特定のFOXキャスターではなく、その言い回し(表現)だという点である。繰り返すが、オライリー氏が性差別主義者だと糾弾しているわけではない。
 ただ、このハーフ氏の言い方からすると、そう受け捉とられかねない状態への弁明ではないかという印象を受ける。
 次に気になるのは、「公的な場にある女性(women in public positions)」という表現だが、そもそもこの問題がジャーナリズム側から注目されたのは、FOXテレビという保守系の報道機関が性差別的であるからだ、というより、公的な立場にある政府関係者が民間のジャーナリストを「性差別主義者」だとして批判したのではないかという、公権力の濫用の疑念があるからではないだろうか。
 ちょっと無理な読みをしているかのようにも受け取られるかもしれないが、これをハーフ氏が一般論に持ち込もうとしてるのは、個別論、つまり、FOXキャスターを指名することに問題があるからこそ、公的な場でこのように弁明する必要があったのではないだろうか?
 もう少し延長してみると、そもそも公的な立場にあるハーフ氏のアカウントからツイッターで私的に見られる非難の言葉が漏れたことも問題にあるのではないか?
 どうなんだろうか。
 当然ながら、この手の話題は、保守的な立場ならFOXを支持するだろうし、リベラルな立場ならFOXを非難するか「性差別的」表現を非難するだろうから、各種意見を読んでも、読む前からわかりきった不毛のようにも思えるが。
 だが、保守系とも思われないCNNへの寄稿「State Department's wrestling match with Bill O'Reilly」(参照)が興味深かった。

Let's say Harf is right, and O'Reilly's attack against Psaki was sexist and wrong. It would still seem a totally inappropriate use of her official position at State to call out a cable news personality and defend her colleague, especially considering what else is going on in the world.

ハーフが正しく、サキへのオライリーの攻撃が性差別的で悪かったとしよう。それでも、ケーブルニュースのパーソナリティを呼び出し、自分の同僚を防御するというのは、彼女の公的立場を完全に不適切に使っていると思われる。特に、他の現実に進行していることを考え合わせればだ。


 やはり、公的な立場が問われている面はあるだろう。
 つまり、この話題がニュースであるなら、「性差別」が問題というより、公権力とジャーナリズムの問題として、問題の枠組みがあるということだろう。
 
 


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コメント

"That woman" という表現が、問題ですね。公的な地位をもつ男に対して"That man"とはと言うことはないので。

投稿: | 2014.09.06 19:29

当事者同士の話じゃないなら、気にすることないんじゃないかな。あと、差別というのは、失うものがあったかどうかの方が重要。いい加減、刀は武士の魂、みたいに、失うものがないのに、異常にこだわり、また、相手が失っているのに、それに対して無責任とか、やめてほしい。

とにかく、性差別で異常なのは、風俗嬢は借金を返すために貞操を失うのは当然だというのが、今でもあるのが異常すぎる。だったら、国の政治家も官僚も、国の借金を返すために、自分自身の貞操を売れよ。それと、戦時中、借金漬けにして大儲けした人間や、そこから飲食や恋愛の便宜をうけていた上官とか、こんな不名誉な人間を隠して、なにもないっていう神経の方もどうかしている。で、そういうことをネタにして、ずっと儲けてる新聞社も、悪魔的すぎる。失っている人たちをちっとも救済していないし。

投稿: | 2014.09.07 07:59

引用されているCNNのOpinionを執筆したS.E.Cuppは、元FOXニュースのホスト、グレン・ベックのもとで働いていたこともある保守派の人です。現在所属するCNNでも「保守派コメンテーター」という立ち位置です。(CNNは最近、保守派の評論家も多々雇っているので「CNNだから保守ではない」とは必ずしも言えないと思います)

それから、ビル・オライリーは以前から繰り返し女性差別的発言をしてきた人ですので「またか」という面もあったのかもしれません。サキ報道官を名前や肩書ではなく"that woman"と呼び、(過去の)具体例をあげずに個人的な印象だけ("(she) looks~"という表現)で批判したのなら、「性差別」といわれてもしようがないと個人的には思います。

投稿: KS | 2014.09.07 09:36

私には、"that woman"という表現は、「あの野郎」の女性版のように聞こえます。というと、「あのあま」ほど侮蔑的でなくて「あの女」ぐらいでしょうか?

副報道官は、わたしたち女性には使えない表現だといっています。この問題を解決するには、男性も女性に許される表現だけを使う、もしくは、女性にも「あの野郎」などといった言葉を許す、このどちらかです。

投稿: とんちゃん | 2015.01.07 16:29

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やっぱり海外ニュースは原文にあたらないといけないんだなーと思える件。 http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2014/09/post-82c1.html (また毎日かとかいっちゃダメw) [続きを読む]

受信: 2014.09.06 19:05

» てんぱった顔 [YS Journal アメリカからの雑感]
6月に米国務省ハーフ副報道官このインタビューを観た時、本格的にてんぱっってるなーと思った。 国務省の公式会見でも、いるも憑きものが付いている感じがする。 ホワイトハウス、国務省の報道官は、オバマの選挙キャンペーンのスタッフであり、若くて頭は良いのだろう...... [続きを読む]

受信: 2014.09.08 10:12

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