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2014.09.26

オバマ大統領が後世に残す名言「武力でわからせてやる!」

 ぼけっと国際ニュースを見ていたら、オバマ大統領が出て来て、またなんかごにょごにょ言っているなあと聞き流していたのだが、ふと、え?と思った。ちょっと待って。今、なんて言ったの? ほかのこと考えていた。
 ニュースは録画したのを見ることにしているので、おもむろに今のところに戻ってみた。あんだ? 赤毛のアン? ちがう。おいおい、なんか、すげーこと言っているぞ。
 話は、24日、ニューヨーク開催の国連総会で演説である。イスラム教過激派組織「イスラム国」打倒の演説である。ブッシュ大統領のときのように各国に支援を求めていたのだが、その中で、こう言っていた(参照)。

The only language understood by killers like this is the language of force.

こんな人殺しがわかる言葉は、唯一、軍事力という言葉である。

 「ランゲージ(language)」なんて面白い修辞を挟んでいるけど、言っていることは、こう。

人殺しには武力で叩きのめす以外わからんだろう。

 まいったなあと思った。
 これがノーベル平和賞受賞者の言葉なのである。戦後70年の平和主義が、どっかーんとふっとんだような感じだ。
 どんな残虐な人間でも人殺しをしているのには、それなりの理由がある。平和を求めるなら、まずそこを考える。そして、言葉で可能なかぎり対話を試みる。それが平和の基本なんだが、なんなの、これ?
 確かに世界は残酷に満ちている。オバマ大統領の奥さんのミッシェルさんも、私たち少女を返して(#BringBackOurGirls)と訴えていたが、そこにも殺戮はある。シリアのアサド政権に至っては、現状のイスラム国の数倍もの殺戮を行ってきた。だが、そこには関与してこなかった。
 本来なら、オバマ大統領がイスラム国に対応しなければならないのは、「こんな人殺し」だからという理由ではない。軍事力を行使するのも、それ以外に通じない相手だということではない。
 なのに、こんな最低の修辞を繰り出すようになってしまったのはどういうことなのだろうか。
 イスラム国をどう見るかは、いろいろな考えがあるだろうが、そこには、世界の少なからぬイスラム教徒によるカリフへの待望と、西側社会に絶望した若者の姿がある。それらが石油の利権や、イラクのスンニ派の不満などの構造と奇妙に結合してイスラム国が出来ている。
 そこには、「こんな人殺し」でくくれない構造がある。
 平和というのは、その平和を崩す構造への対応である。その対応のなかで「武力」というオプションも限定的にある、というなら理解できる。今回の件でも、実際にはそういう対応になっている。なのに、そのリーダーたるものが、こんなめちゃくちゃな修辞を投げかけてしまった。
 ヘンテコな修辞だけ切り出して批判していると思われてもなんなので、関連の文脈も引用しておく。


This group has terrorized all who they come across in Iraq and Syria. Mothers, sisters and daughters have been subjected to rape as a weapon of war. Innocent children have been gunned down. Bodies have been dumped in mass graves. Religious minorities have been starved to death. In the most horrific crimes imaginable, innocent human beings have been beheaded, with videos of the atrocity distributed to shock the conscience of the world.

このグループは、彼らがイラクとシリアで出会うすべての人にテロをしかけてきた。母、姉妹、および娘は戦争の武器としてレイプを余儀なくされている。罪のない子供は銃で撃ち殺されている。遺体は共同墓地の中に放り出されている。少数派の宗教派は餓死している。想像できる最も恐ろしい犯罪として、無実の人が斬首され、世界の良心に衝撃を与えるために、残忍なビデオが配布されている。

No God condones this terror. No grievance justifies these actions. There can be no reasoning - no negotiation - with this brand of evil. The only language understood by killers like this is the language of force. So the United States of America will work with a broad coalition to dismantle this network of death.

このテロを容赦する神はない。どんな不満があるにせよ、これらの行動は正当化されない。この種類の悪には、情状酌量もありえないし、交渉もありえない。こんな人殺しがわかる言葉は、唯一、軍事力という言葉である。だから、アメリカ合衆国は、この死の連鎖から死を除去するために幅広い連合で働くことになる。


 刮目してビデオで見ると、これは、黙示録的修辞である。この世の終わりのような最終的と思わせる残虐な行動を言葉で絵として描き出し、その映像的なイメージで人々の感情を呪縛させ、そのなかで正義を語る。
 これをやってはいけない。正義は黙示録的修辞で語っていけないというのは、平和主義の基本である。
 そして、処罰するとき、軍事行動を取るとき、神を語ってはいけない。「このテロを容赦する神はない」として武力を行使するとき、自らを神の側にして立ってはいけない。その愚行を普通人は歴史から学ぶものだ。
 このオバマ大統領の演説には、もう一つ、ぞっとするような修辞も使われていた。それは排除すべき対象を「癌」と描くことだ。

There is much that must be done to meet the tests of this moment. But today I’d like to focus on two defining questions at the root of many of our challenges - whether the nations here today will be able to renew the purpose of the UN’s founding; and whether we will come together to reject the cancer of violent extremism.

現時点の課題満たすためにすべきことが多くある。しかし今日は、私たちの課題の根幹で、二つの疑問を定義することに焦点を当てたい。それは、ここに集まる諸国家が国連(連合国)設立目的を更新できるかどうかということ、また、暴力的な過激主義の癌を拒絶するために力を結集できるかどうかということだ。


 演説の主目的は国連の再定義ではあるだろう。そこは理解したうえで、排除すべきものに「癌」という修辞のレッテルを貼るべきではない。
 「癌」の修辞はこの演説でもう一箇所使われている。

On issue after issue, we cannot rely on a rule-book written for a different century. If we lift our eyes beyond our borders - if we think globally and act cooperatively - we can shape the course of this century as our predecessors shaped the post-World War II age. But as we look to the future, one issue risks a cycle of conflict that could derail such progress: and that is the cancer of violent extremism that has ravaged so many parts of the Muslim world.

相次ぐ問題について、私たちは、異なる世紀に書かれた規則書に頼ることができない。私たちが私たちの限界の向こうに目を向けるなら、また私たちがグローバルに思考し協調行動を取るなら、私たちの先人が第二次世界大戦後の世界を築いてきたように、私たちもまたこの世紀の道を形作ることができる。しかし、私たちが未来に目を向けるとき、一つの問題が紛争の循環を危険にさらし、その進展を逸脱させうる。それが、暴力的な過激主義の癌であり、イスラム教世界の多数を破壊してきた。


 率直に言えば、イスラムの世界の内紛に、連合国(国連)の論理をそのまま接合することは危険だろう。連合国によって可能なのは、それがただ、連合国の世界秩序に逸脱した場合の対処だけであり、その内部にイスラム世界の多数を取り込み、それによって一部のイスラム教の動向を癌として排除することは、大きな誤りである。
 この、西側には陶酔的にも響きかねない変な演説は、私をとほほな気分にさせた。どうしてこうなってしまったのか。スピーチライターが無教養なのか、あるいはオバマ政権に多文化を理解するブレインが存在しないのか。
 いずれにせよ、間違った道に世界が進むときには、そのしっぺ返しが必ず生じる。いやそれ以前だろう。実際のころ、大げさな修辞が語られるとき、事態は行き詰まっているのである。
 
 

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「時事」カテゴリの記事

コメント

>
どんな残虐な人間でも人殺しをしているのには、それなりの理由がある。平和を求めるなら、まずそこを考える。そして、言葉で可能なかぎり対話を試みる。

相手が戦闘態勢できているのに、対話?その時期はとっくに過ぎています。

何か勘違いをしておられませんか、

はっきり言って、オバマはむしろ対応が『遅い』ぐらいです。

投稿: dirtymanjr. | 2014.09.26 15:37

>スピーチライターが

私もこれは?ですね。オバマも読む前に目を通すでしょうから、最終的にはオバマの責任になるのでしょうけれども。
ブッシュよりあれな印象になってきてしまって困惑するばかりです。ブッシュさんはもともと言い間違いが多い人でったので、それをわかっている見る側の目がある意味やさしかったせいもあったかな。

投稿: nessko | 2014.09.26 16:04

じゃあ、どうやってこの問題を解決するんだよ!

こういうのが一番平和ボケしてんじゃないのかなと思う。安全地帯から正論振りかざして、現場を見下すやつ。

こんなところで意見を書きなぐったって何の役にも立たないから
イスラム国の支配地に行くか、ホワイトハウスの前で叫んでこいよ。

投稿: | 2014.09.26 16:12

あの映像を公開して敵対するものに恐怖を与え自分たちの都合のいい要求をする彼らの戦略はもう誰も弁護しようがないでしょう
彼らに資金援助している中東各国のセレブたちもすでに殲滅の標的内に入ってると思われます。

投稿: | 2014.09.26 18:18

軍事力で秩序を維持するのは当然。むしろ後手後手すぎた。ここまではfinalvent氏も同意なんじゃないかな?これまでのブログから受けた印象で、実際に氏の考えを適切に把握してるわけではないけれど。
ここでの問題は軍事力投入の是非ではなく大義の設定
こういう演説は「現場」じゃなくてスピーチライターが安全な場所で大義名分をせっせと考えるものなんですがどうしたんでしょうか
第三者の視点が要求され、またそのように働くスピーチライターには切羽詰って「やっちまえ」と叫ぶような事情なんてひとかけらも存在しません
どうにも稚拙なスピーチですが、この稚拙さも何か意図があるのでしょう
これまでのオバマブランド平和路線?を維持しつつ「やむをえなく」やります方向の原稿を作るのは可能なのになぜこのようなスピーチになったのか
最初の平和路線が足を引っ張っているので、弱腰のイメージを払拭するためにあえて過激に逆張りせざるをえなかったのでしょう

投稿:   | 2014.09.26 19:04

まあオバマが当初目指していた
「派兵をせずに舌先三寸のみで平和を構築する」
という試みは完全に失敗に終わりましたし。

投稿: murasaki | 2014.09.26 22:00

興味深く読ませていただきました。

いくつかの言い回しから察するに、おそらくこのブログ記事を正しく解釈するためには、前提となる教養もしくはコンテクストの理解が必要に感じました。具体的には「平和の基本」「平和主義の基本」「神を語ってはいけない」等等の言葉です。

このあたりの断定的な前提は、ある程度の研究結果やコンセンサスのとれた共通認識であるのか、それとも特定の人間(または特定の範囲の人間)の主観・持論に過ぎないのか、まずそのあたりの扱いが気になります。

無教養なもので単純に判断に困っております。前者であった場合、その理解・学習の助けになる書籍等ありましたらご紹介いただけますでしょうか。それによって私の価値観は変わるかもしれませんし変わらないかもしれませんが、まずはこのブログ記事を正しく解釈できないことには何も始まりませんので、お力添えいただけると嬉しいです。

この発言は、煽りの類ではなく純粋に知識欲および歩み寄りを目的としたものであることをご理解いただければ幸いです。

投稿: kobayan_tokyo | 2014.09.26 22:43

>はっきり言って、オバマはむしろ対応が『遅い』ぐらいです。
まったくだ。

投稿: | 2014.09.27 00:28

The only language understood by killers like this is the language of force.

language of force. を、「肉体言語」と訳してしまいそう。

唯一、この様な殺人者どもに通じるのは肉体言語である。

海兵隊員が「サブミッションこそ王者の技よ」とか言いながら、ISISの戦闘員を絞め落とす的な何か

投稿: | 2014.09.27 00:46

オーディエンスの解釈は自由で、相手を説得できれば正義なわけですが、そんな前提話は置いておくとして、翻訳とその解釈が不思議な印象を否めません。

>The only language understood by killers like this is the language of force.
>こんな人殺しがわかる言葉は、唯一、軍事力という言葉である。
>「ランゲージ(language)」なんて面白い修辞を挟んでいるけど、言っていることは、こう。
>人殺しには武力で叩きのめす以外わからんだろう。

"force"を武力・軍事力と訳していらっしゃいますが、"force"は多義語であるのでそれを武力・軍事力とするのは些か勇み足なような気がします。軍事力も含めた政治的圧力だとか、そのような抽象的表現のように私は解釈できます。
どのように解釈し、論を進めていくかはオーディエンスの勝手ですが、それで誰かを非難をするのは紳士的ではないような気がしました。

論旨はそんな場所ではないとは重々承知しておりますが、ただ少しだけ気になったので。

投稿: tetsuoh | 2014.09.27 08:58

日本での報道はオバマの軍事行動に賛成するものばかりなので、このブログのように異なった面からの見方は貴重だと思います。
これまで見たどの記事もイスラム国の残虐さばかりを喧伝していて、米軍がどれだけ残虐なことをしているかは日本ではまったく報道されていないと感じます。これでは偏った意見しか出てこなくて当然です。反対の立場からの報道が見たいです。

投稿: milk | 2014.09.27 09:01

以下の一文にブログ主の誤謬が端的に顕れていると思いますね。

> 率直に言えば、イスラムの世界の内紛に、連合国(国連)の論理をそのまま接合することは危険だろう。

『イスラムの世界の内紛』ではないです。
イスラム国は、”米国とその協力国は、民間人を含めて皆殺しにする”と宣言しているのです。

ブログ主が、こんな当たり前のことをミスリードさせる理由がわからないから、気持ち悪いな。

投稿: | 2014.09.27 09:39

極道さんといえどもこの問題の50%以上を把握する事は不可能である。ましてや今後予想外の事が起きるか等、誰も判らない事だ。

よって、個人の意見は例え断定口調であっても一つの仮説として読むべきであって、どうしても気に入らないのなら、仮説を否定する事実を述べるべきだろう。そうでなければ失礼な話だ。極東さんは全知全能の存在ではない。当たり前の事ではないか。

米軍VSイスラム国を考えた場合、無実の人が殺されるのは悪だと無条件に考えるのは、個人的にはあまりに幼稚だとしか思えない。この現実的に残酷な世界の想像力がないのだろうか。

イスラム国の実態は個人的には良く解らない。だから、確かに直感的には反発や強引さを感じる。ただどういう前提でこうした結論がでるのか、その全てを語る事は不可能なのだから、極道さんの意見はそうなのかと思うしかない。そして、極東さんの分析力を高く評価する立場から言わせてもらえば、この内容は衝撃的だ。しかしこれで米国が壊滅する事はないだろう。これは99%の正しさでは納得できない問題だ。

なので、贅沢を言えばしっぺ返しとはどうしたものが予想されるのかもう少し具体的に書いてくれれば読者としては嬉しかった。

投稿: Hiro Matsuura | 2014.09.27 11:08


ヒラリー・クリントン大統領を強く希望します。

投稿: 昨日な世界へようこそ! | 2014.09.28 08:29

ただ力のみが彼らの蒙を啓くだろうってのを思い出したよ。
こっちを使えばもっとかっこよかったのにね。オバマさんが稚拙な(?)演説をするときは、本気の行動を伴っていることが多い気がするので、(ビンラディンの時とか…)まぁついにマジな軍事行動を取ることにしたんだなーと思いました。
俺がこの演説で考えたのはその程度。どっちが勝つか、勝って欲しいかが重要だろうと思うね。イスラム国との戦いは、痛み分けにはならないだろうね。上記の通り、オバマは本気だと思うから。

投稿: | 2014.09.29 06:16

個人的な意見だけど
この手の批判する人は
「じゃあどうすればよかったのか」がないから見ててもふーんで終わるんだよな

投稿: | 2014.10.03 10:20

アメリカに長く住んでいます。この年になって、アメリカの”悪”がわかって来ました。日本が日本人本来の”優しい”精神文化をなくし、アメリカの暴力に満ちた悪い部分の影響を受けすぎてしまったように思います。是非、連絡を取り合いたいです。日本の社会が少しでもアメリカから離脱する方向にもっていきませんか?

投稿: シルベスタ | 2014.10.05 02:03

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