いねむり先生 [DVD](出演。藤原竜也・西田敏行)
気になっていたがなんとなく見忘れていて、いまごろなんとなく見た。「いねむり先生」(参照)として表題にある「先生」は色川武大である。別ペンネームの阿佐田哲也と言ってもいいかもしれない。
![]() いねむり先生 [DVD] |
普通に感動的だと言ってよいし、色川という人間というか巨大な魂の姿が、伊集院を通してよく描けていると思う。といいつつ、原作『いねむり先生』(参照)は未読。理由は、伊集院静になんとなく抵抗感があるからだ。いやなんとなくというより、夏目との関係で、若い女に手を出すおっさんというのはいやだなあと思っていた。夏目は私と同い年なので、そういう思いが強い。
映像作品としてよく出来ていたと思う。民放ドラマがベースになっているが(参照)、そこで可能な線をぎりぎりなところまで表現の可能性をひっぱっていた。映画との差はというと、難しいが、旅先で描かれる地方の風景は美しかった。
この物語は、色川に魅了された人とそうではない人にとっては、見え方がどうしても変わってしまうだろうと思う。色川を演じた西田敏行は好演だったと思うし、他にこの役者にやらせたいというのがなんとなく思いつかない。だが、諸所、これは色川ではないなと思った。伊集院(作品ではサブロー)を演じる藤原竜也も好演だったと思う。というか、私の伊集院への抵抗感をうまく払拭する若々しさがよかったし、先生への愛情の演技もとてもよかった。
この作品では終盤までにところどころに思い出としての夏目(作品ではマサコ)の映像が出てくる。物語でも、サブローがマサコ主演の映画ポスターを見てショックを受けるシーンがあるが、実は私も、マサコの病床シーンを見ながら、ぐぐっと胸に痛いものを感じていた。
私は夏目のファンというほどではないが、27歳で突然ぷつんと糸を切られたような人生をどう受け止めてよいのか、また彼女を「さらっていった」かに見えた結婚のありかたに違和感を感じていた。
![]() 夏目雅子 メモリアルブック |
物語で知ったのだが、伊集院と夏目との付き合いは7年ということだった。ということは、夏目が20歳ごろから、この中年おっさんの毒牙にかかっていたのかと、つい思ってしまうが、それは私も当時は若かったからで、伊集院もそのころはまだ20代だったわけだ。10歳以上も年上のおっさんというイメージだったが、そうでもなかったのだな。
文芸界というか著名人の交流というのにはあまり関心をもたないせいか知らないでいたが、物語に黒鉄ヒロシや井上陽水が出てくるのも面白かった。時代だなあ。もう何年になるかと思い出して夏目雅子の没年1985年を思うと、もうあれから30年経っている、というか、彼女、俺と同い年だしなあ。生きていたら、56歳かあ。
色川が亡くなったのは1989年。60歳だった。そしてその頃、伊集院は39歳。まだ30代だったわけだ。ドラマで老人たる風体の色川だが、あれがだいたい今の自分くらいの年齢かとも思う。
物語は、亡くなった妻への思いに苦しむ伊集院の魂の救済ということだが、見ていると、なんとなく自分の魂の救済にちょっとつながっているようにも思えた。というか作り手の側にもそうした思い入れがあってできた作品だろうし、基本的なターゲットは私の世代だろうか。
若い人が見たらどう思うだろうか。
普通に一つのフィクションとして見るということになるのかもしれないし、それはそれでいいのだろう。でも、色川とか夏目とか、ほんと、人間じゃなかったよ、あれは、なんなのだろうという存在だった。
| 固定リンク
「書籍」カテゴリの記事
- 『ツァラトゥストラはかく語りき』の思い出(2018.03.21)
- [書評] コックリさんの父 中岡俊哉のオカルト人生 (岡本和明・辻堂真理)(2017.12.12)
- [書評] 東芝解体 電機メーカーが消える日(大西康之)(2017.06.18)
- [書評] 学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで(岡田麿里)(2017.04.15)
- [書評] 李光洙(イ・グァンス)――韓国近代文学の祖と「親日」の烙印(波田野節子)(2015.09.24)
コメント