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2014.07.11

2014年ガザ空爆、雑感

 イスラエルによるガザ空爆が短期間に激しくなり、国際問題化しているので、現時点での雑感を簡単に記しておきたい。
 まず、現在の空爆のきっかけだが、7日夜以降、ハマスが支配するガザ地域から160発のロケット弾がイスラエルの都市に向けて発射され、エルサレムやテルアビブに着弾したことだ。今回ハマスが使用したロケット弾の射程は100キロメートルに及ぶとみられ、この範囲にイスラエル人口の6割が居住する。また、この域には、今回攻撃があったがディモナの原子力施設も含まれている。
 8日未明、イスラエルは報復としてガザ地区の約150を空爆した。これによってガザでは、ハマス以外に一般の女性や子どもら合わせて16人が死亡した。
 米国は8日記者会見で、「どの国であろうと、市民を標的にしたロケット弾による攻撃を認めるわけにはいかず、イスラエルが自国を守る権利を支持する」と述べ、イスラエルによるガザ地区への空爆を支持した(参照)。
 その後も、ガザからのロケット弾攻撃とイスラエルによるガザ空爆は続き、ガザ側の発表では少なくとも78人が死亡したとのことだ(参照)。
 今回の衝突は、2008年と12年の衝突に継ぐもので、これらのときと同様に、ガザ地区での民間人被害が大きく問題視されている。こうした点について、朝日新聞「イスラエル、地上戦も視野 ガザ空爆、作戦拡大を宣言」(参照)は次のような表現で言及している。


 イスラエル軍はこれまでにガザの軍事拠点など550カ所以上を空爆した。イスラム組織ハマスなど武装勢力の拠点を狙っていると主張するが、犠牲者の3割は女性と子ども。警告弾なしに突然空爆するケースが増えている。

 「警告弾なしに突然空爆するケースが増えている」という朝日新聞報道の表現の意味は、通常であれば警告弾があることを示している。
 イスラエル空爆の事前通告の状況については、否定面であれ言及した朝日新聞報道を除き、NHKを含め日本側ではあまり言及されない。WSJ記事の日本語翻訳では次のように言及されている(参照)。

 イスラエル軍は8日、ガザ地区南部の都市にある家屋が、同軍の標的になると警告したが、その家の家族8人(いずれも非戦闘員)が警告時間より早い時刻に帰宅して攻撃に遭い死亡した。イスラエル空軍は意図的な殺害ではないと説明した。
 イスラエル政府は、ハマスが民間人の多く住む地区からロケット弾を発射しているとし、自らをイスラエルからの報復の危険にさらしていると説明した。
 イスラエルの人権団体は、武装勢力のメンバーとされる人の自宅を標的にするという軍の方針を批判した。
 同団体は10日、「たとえ攻撃に関与しない民間人が負傷していないとしても、こういった家屋は合法的な軍の標的ではなく、攻撃は国際人道法の重大な違反となる」と述べた。

 朝日新聞報道では空爆警告について「警告弾」のみを記していた。また、WSJ記事では「警告」があったとしているがその実態については言及されていない。それでも、ここでは警告が「警告弾」ではないことは読み取れるだろう。
 イスラエル空爆の警告の実態については、9日付けのニューヨークタイムズ記事「イスラエルはガザ標的に電話とチラシで警告する(Israel Warns Gaza Targets by Phone and Leaflet)」(参照)が詳しい。記事表題からも、警告の実態が、電話やチラシであることがわかる。
 同記事は、ガザ空爆の標的に5分以内に撤去せよと電話があったという現地の話から切り出されている。2008年の衝突以降、イスラエルとしても人道上の理由で、空爆時には電話とアラビア語のチラシで警告を出している。こう続く。

A further warning came as the occupants were leaving, he said in a telephone interview, when an Israeli drone apparently fired a flare at the roof of the three-story home. “Our neighbors came in to form a human shield,” he said, with some even going to the roof to try to prevent a bombing. Others were in the stairway when the house was bombed not long afterward.

イスラエル無人機が三階建ての家に照明弾を放ったとき、居住者が去るさなか追加警告があったと彼は電話インタビューで言った。「私たちの隣人は人間の盾を形成した」と彼は言った。いく人かは屋根に上り空爆を阻止しようとした。まもなく空爆があったとき、他の人は階段にいた。


 これは特殊な事例かもしれないが、ガザ側で「人間の盾」を形成する動向もあるのだろう。
 もちろん朝日新聞が述べるように警告が行き渡らないこともあるし、誤爆もある。また、警告があっても空爆がないこともあるらしい。こうしたこともニューヨークタイムズの同記事に言及がある。関心のある人はリンク先を読まれるとよいだろう。
 今回の衝突だが、前段として双方の少年の殺害事件があった。
 6月30日、2週間ほど行方不明だったイスラエル人少年3人が自治区ヘブロンで遺体で見つかり、イスラエル政府はハマスによる犯行と非難した(ハマスはこれを認めていない)。これに関連して、イスラエル側の報復と見られるが、パレスチナ人少年が殺害され、パレスチナ側の抗議運動が展開されていた。
 時系列の文脈としてはこの事件による憎悪の連鎖に見えるし、それがきっかけであったと見ることはできる。
 だが今回の空爆には、それとは別の双方の文脈があり、ワシントンポスト社説(参照)なども言及している。
 簡単にまとめると、イスラエル側としてはハマスが貯蔵している武器の削減を狙っている。この間衝突が少ない期間が続いたので、ハマスのロケット弾貯蔵が増えていることにイスラエルは懸念していた。
 他方ハマス側ではイスラエルに拘束された活動家の解放とエジプト国境の閉鎖解除を狙っているとのことだ。この点については、2012年の衝突について触れたフォーリンアフェアーズ「なぜハマスは紛争を挑発したか――流れから取り残されることへの焦りと強硬策」(参照)の一部が依然継続しているとも見られる。

 ハマスの指導者は、「いまやより射程の長いロケットやミサイルを持っている」と表明して、イスラエル人を恐怖に陥れ、殺害し、そこで戦闘を終えるつもりかもしれない。だが、ハマスによるテルアビブその他のイスラエルの中枢地帯への攻撃が続くとすれば、イスラエルは、現在の空爆作戦だけでは国土と市民を脅かすロケットを完全には破壊できない。この場合は、イスラエルは地上軍を送り込んででも、ロケットやミサイルを破壊しようとするだろう。
 状況がどうなるか、それを主に左右するのはハマスだ。ハマスの指導者たちは巧妙に紛争を挑発し、ガザの民衆を不必要なリスクにさらしている。イスラエルはできるものなら、ガザへの侵攻は避けたいと考えているし、紛争の早期終結をはかりたいと考えている。だが、これまでのところ、ハマスの指導者は戦闘を続けるつもりのようだ。

 2012年での懸念である「いまやより射程の長いロケットやミサイル」については、今回のハマスの攻撃で示されもした。が、同時に、イスラエル側としても対空防衛システム「アイアンドーム」の性能を見せつけることになった。迎撃率がかなり上昇している。
 ワシントンポスト社説はこうした状況の打開としてイスラエル・パレスチナ和平を希求しているが、現実的には、双方が和平を求めているとはとうてい思えないという意思を示したのが今回の衝突の意味でもある。あるいは、ハマスと合同したファタハについて、イスラエルとハマスがこの点では同じく試している状況かもしれない。
 現状、国際社会はまだ今回の衝突に対応できていないが、米国のおっとりとした対応を暗黙に受けいれている状態なのだろう。
 双方に和平が求められるとしても、従来通り米国が主導しなければならない。それがまだ有効な時期ではないと、オバマ政権は見ているのだろう。
 
 

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コメント

>>7月30日、2週間ほど行方不明だったイスラエル人少年3人が

こちらは6月30日ではないでしょうか・

投稿: 773 | 2014.07.13 14:10

773さん、ご指摘ありがとうございます。訂正しました。

投稿: finalvent | 2014.07.13 14:35

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