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2014.05.03

無料語学学習サイト・Duolingo(デュオリンゴ)の微妙な楽しみ

 無料で語学が学べるDuolingoというサービスがある。知っている人もいるかもしれない。へえ、いいじゃないのと思う人もいるかもしれない。しかし、先日までは日本語話者を対象にしていなかった。だから知らない日本人も少なくないだろう。英語を使う人がフランス語やスペイン語を学ぶという感じのサービスだったのだ。
 そこで僕は英語でフランス語学習をするのにこれを使っている。音声中心のピンズラー方式でフランス語を学習したので、"je veux"と"elle veut"の違いがわかっていなかった。お恥ずかしいかぎり。
 で、Duolingoが便利かというと、微妙な感じ。話が前後するけど、このサービスにはディスカッションの機能があって、「現状Duolingoはこれでいいのか」とか「文法をもっときちんと教えろよ」とか、いろいろみんなが議論はしている。それもけっこう面白い。
 このDuolingo、先日、日本人向けに英語学習のサービスができた。
 そういうのあるといいよねと思っていたので、どんな感じなのか触ってみた。
 結論からいうと、まず怒った。
 教材が変なのだ。正解が、これじゃなーい、の連発。おまえら日本語がおかしいだろ、という感じだったのだ。そして、がっかりした。
 それで終わりでいいじゃんと思っていた。しかたないよ、無料だし。こんなものよ。昨今の無料ブログのクオリティを見れ。
 だったのだが、怒りモードにあるとき、私のほうが正解ですよ、というのをちょこっと通達したら、数日後、あなたの解答を採用しました、という連絡があって、ほぉっと思った。
 そこで僕は考えなおした。
 考えてみたらDuolingoというのは利用者が作っていく語学サイトなんだよな。
 せっかく自分は日本語のネイティブだし、それなりに英語も勉強してきたんだから、これは日本語としてどうよ、というのをいちいち指摘していくかな、と思い直した。
 というわけで、この数日は精力的にやっている。もう教程の半分くらいに来た。
 当初は、これじゃなーい、を連発したが、正しい日本語やきれいな日本語というのでなくてもいいか、それも許容かな、というのはそれでいいか、と思うようになった。そして、さすがにこれはなあ、というのだけ指摘するようにした。
 その過程で、いや、反省。意外と考えさせられる事例もあり、存外に自分の英語の勉強になる面もあった。
 話はそんだけなのだが、文章で書いてもリアリティがないんで、ちょっと例でも上げてみますかね。




スープはドリンクするのか?

 思わずスクリーンショットしたのが、これ。「私は私のスープを飲みます」の英訳なんで、"I eat my soup."としたら、不正解。正解は、"I drink my soup."。いやあ、切れるでしょ。フツー。

 そのあと、ちょっと考え直して、"I drink my soup."って言うのかな、現代英語では、と思って、いろいろ調べてみた。
 結論、言える。どうやら、スプーン使うならeatだけど、マグでぐびっだとdrinkだよね、ということらしい。ほお。Duolingoにはマグの絵は出てこなかったのだけど。




日本語で主語を省略するのは「私」だけではないよ


 「その都市を知っています」というので、"We"で訳したら、バツだった。
 正解は、"I"というわけ。
 まあ、一人称だと日本語では省略されるという原理で教材作っているのだろうな。ちなみに、僕が"We"にしたのは、フランス語だと"On"だし、フランス語の"On"の感覚が日本語の人称省略に近いと思っているからだ。
 おまけに言うと、"On"使うと、"Nous"の活用形覚えなくていいしね。さらについでいうと、"Tu"だと"Vous"の活用形覚えなくていい。というか、フランス語ってそういう仕組みの言語になってんじゃないの。つまり、"Nous"と"Vous"にはちょっと構えた感じがあるんじゃないか。ええと、話題は、Duolingoでした。戻る。




「船長は朝に港にいます」なのか?

 "The captain is in the port in the morning."という問題を見て、まあ、これはあれだなあ、今のDuolingoのスタッフだと「朝船長は港にいます」が正解だろうなとわかった。
 そこで読点を使うかな「朝、船長は港にいます」とも思った。
 口語だとそういうことなんだろうけど、書き言葉的には、それはちょっと文法が違うんで、これは、「船長は朝は港にいます」だろうと考えた。「昼は別のとこだよね」という含みである。まあしかし、これは不正解だろうなと思ってデバッグがてらに入れたら、案の定の結果だった。
 しかも「船長は朝に港にいます」は日本語として不自然。このあたり、不自然と感じる日本語の能力がまだスタッフにはないのだろう。なぜ、それが不自然かの説明はちょっと難しい。「に」が重なることにも不自然さがあるが、それは修辞上の問題。「船長は朝には港にいます」なら自然になるので、文法的な問題。しかし、まあそんな議論をしていてもしかたないよね。




「ここにランプがあります」のランプは、"a lamp"それとも"the lamp"

 「ここにランプがあります。」もちょっとためらった。ランプをどう英訳するか。
 重要なのは「が」という格助詞。日本語の「が」については、三上章が提起してそれをFillmoreの格文法とかで受けて、新情報と旧情報で使い分けるとかいう議論がある。あれをまとめたのは久野暲だったかな。いずれ、「が」が新情報を担っているので、ここは、"a lamp"になるのだけど、まあ、そういう回答をしてみるか、不正解。まあ、しかたないか。
 しかし、英語で見たとき、"Here is"と来たとき"the"が想定されるやすいというのが、あるのかもしれない。「ほらあれがめっかった!」という感覚かもしれない。




「あなたは人間です」って、それまでベム?

 これはシュール。「あなたは人間です。」。いや、それどういうシチュエーションの発話なんだろ? この手のシュールな問題は、フランス語学習のDuolingoにもよく出てくるので慣れていた。
 ただ、どう答える、これ?「あなたは人間です。」の英訳?
 考えると、シチュエーションをつい想定するし、やたらとシュールなシチュエーションしか浮かばない。
 ベタに訳したらどうかなと。Duolingoでは多くの場合、ベタに訳すと正解になるし。で、"You are a human being."。
 バツでした。正解は、"You are a person."、うーむ。
 ところで、"You are a human being."っていう英語はありなのか。ちょっと気になってコーパス的に調べると、言えなくもなさそうだった。
 そういえばと思って、Gingerにもかけてみた。文法的なんじゃねの答えが出たあとこんなお勧めが出た。


You are a great human being.
You are a valuable human being.
A wasted human being you are.
You are a free human being.
You are a beautiful human being.
You are a wonderful human being.
You are a fabulous human being.
You are a disgusting human being.

 英語だと、"human being"が問われるのは、「汝はいかなる存在なりや?」ということみたいですね。つまり、ハイデガーのように存在そのものを答えるのではなくと、ああ、これ冗談です。最近ツイッターとかでも思ったのだけど、冗談って通じない人多いものです。というか、僕の冗談がひねくれているのもあるけど。




「少年と彼の父」って日本語はどうだろか

 "It is like the relationship of a boy with his father."は、ああ、これはDuolingoベタが回答だろうと思った。つまり「それは少年と彼の父の関係に似ている。」なんだろう。
 だけど、日本語でそう言わないです。「少年と彼の父」なんて、日常言うのは僕くらいなものです。
 というわけで、回答例にあるかなと思って、より自然な「少年とその父」を入れてみたら、バツでした。Duolingoは300くらいまで解答が入れられるので、この解答も採用されるとよいけど。
 そういえば、"a boy with his father"よりも、"a son with his father"じゃないのと思って、Gingerにかけたら、そう勧めが出て来ましたね。




見えたカップルは一組?

 「カップルが見えます。」かあ、覗き? うーむ、まあ、べたに考えると、"I can see couples."かな、感覚としては、"some"が来そうなんだけどと思って入れたら、バツでした。正解は"I see can see a couple."または"I see a couple."でした。
 "see"には「見える」という含みがあるので、"can"は要らないよねとも思ったのだけど、ついベタに考えてしまった。というわけで、Duolingo使っていると、Duolingo的な語学の学習になっちゃう面はある。
 で、"a couple"か"couples"かなんだけど、前者だと、「おーい、いるかよ、ホントにカップルがいるかあ?」という感じではないかな。
 というわけで、この手の話もそろそろ飽きてきたことかと思います。詳しく知りたいかたは、有料のnoteのほうでどうぞ(冗談です)。




でもまあ、これはこれで面白いんじゃないの

 Duolingoの現状、これじゃ語学の勉強に使えないという人もいるかと思う。
 だけど、割り切ってしまうと、裏にいる英語話者とかバイリンガルの人の言語感覚がわかって、それはそれで面白いもんです。
 僕としては、普通に日本語のネイティブとして、これじゃなーいのバグチェッカーとしてDuolingoに貢献したいなと思うようになった。
 ちなみに、Duolingoの面白さはこうした、無料の教材より、本来の翻訳プロジェクトとディスカッションやSNSの機能にある。だけど現状、日本人向けにはそのサービスが公開されていない。
 いや、ディスカッションはあるんでちょっと覗いて見たら、お前もそうだよと言われるかもしれないけど、延々とした些末な議論なども見られた。
 日本人って、これもお前もなーの部類だけど、英語にコンプレックスありすぎなんですよね。ツイッターが日本で流行って、年に一度バルス祭りがあるといった一種の特殊な文化的な現象として面白いのかもしれないけど。
 
 

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「言語」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。ブログを拝見させていただきました。Duolingoの日本語チームのTaekoです!

今はまだベータ版ですが、どうして不自然な正解例が出てくるのかには理由があります。私達は全員ボランティアで、最初に言われていたのが英語の文一つにつきできるだけ沢山の日本語訳を入力するようにということでした。ユーザーさんの回答がやや不自然でも一応文として成り立っていたら正解として扱えるようできるだけ正解数を増やしているんです。制限があり各英文につき3000パターンしか入力できないのですが、私共少数のボランティアが仕事/本業の合間をぬって一生懸命作業をした結果が今のベータ版です。正解例についてはシステムが勝手にそのパターンから選んでしまうようで、そこも何とかしていくつもりです。

今は沢山のユーザーの方からの報告をもとに、正解数を大幅に増やしていっているところです。毎回の報告本当にありがとうございます。ご迷惑をおかけしています。皆さんの協力で後ほど正解数が増えて使いやすくなっていくことを願っています。


それでは長文失礼いたします。

投稿: Taekovsky | 2014.05.07 07:40

Taekovskyさん、コメント、ありがとう。

「正解例についてはシステムが勝手にそのパターンから選んでしまうよう」という話はとても納得しました。どうしてあまり好ましくない正解を表示するのか疑問に思っていましたから。

「ユーザーさんの回答がやや不自然でも一応文として成り立っていたら正解」については、フランス語のほうでありがたさが身にしみています(アクサンのエラーでも通るので)。あまり厳しくしないようが学習者に助かります。

記事にも書きましたが、現在はできるだけ、肯定的にDuolingoをサポートできたらと考えています。

日本語・英語のimmersionも期待しつつ。

投稿: finalvent | 2014.05.07 12:19

私と同じ思いの人は沢山いるんですね
私もフランス語を学びたくて、Duolingoを使い始めました
フランス語版はかなりしっかししている印象です、しかも、ユーザーのツッコミが半端無いので日々良くなっていますね

それに比べて日本語<>英語は、もちろん両者の言語が離れすぎているにしても、美しい文章は蹴られ、プログラムにあわせてレベルを下げても日本語の現在形と過去形の微妙な使い分けが元で蹴られ、こんなにひどい状態ならベータ版にしておいた方が良いと思われるほどですが、懲りずに正解や日本語の文法的背景などを英語で説明しています

Duolingoの今後の発展に期待しつつ、オランダ語が加わる日を楽しみに待っています

でも、ちょっと日本語の酷さが楽しかったりもするかな・・・

投稿: informatie | 2014.05.13 01:08

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