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2014.05.04

[書評]7カ国語をモノにした人の勉強法(橋本陽介)

 書名に惹かれて「7カ国語をモノにした人の勉強法(橋本陽介)」(参照)という本を読んでみた。面白かった。かなり同意できる内容だった。

cover
7カ国語をモノにした人
の勉強法
 書籍の名称は、たいていは出版社や編集者が付けるものだ。よく書評なのでは書名についていろいろと評が付くこともあるが、そういう場合、著者というのは困惑するしかない。とはいえ、この書名については、嘘があるというわけでもない。では、モノにしたという「7カ国語」は何か、とまず見ていく。

 私はこれまで言葉と文学に関する研究を行いつつ、数多くの外国語を学んできました。母語である日本語の他に、中国語、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語を習得し、まだ習得には至りませんが、韓国語などを学んでいます。

 「7カ国語」は、日本語を含めて、中国語、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語ということだろう。
 韓国語についてはかなり謙遜されているので、逆に言えば、他に上げられている言語の習得度はかなり高いのではないかと思われる。それに加えて、よく多言語者の言語カウントに多いロマンス系の語が少ないこともその信頼性を高めているだろう。フランス語とスペイン語が混乱したという挿話も本書には含まれている。
 また、中国語が筆頭に置かれているのも興味深い。本書を読むとわかるが、著者が実際に外国語習得として意識されたのが、高校三年生のときの中国への短期留学だった。そのとき、こう感得された。

 外国語で話すということは、こういう感覚なのだということが、このときにつかめたのでした。すると、それまでの英語から始まった自分の語学学習の方法が、まったくダメなものだったということがわかりました。

 本書の真価は、この「外国語で話すということは、こういう感覚なのだ」という内的な感覚についての、ある種、レポートになっている点にある。

 この本の読者の多くは、日本語を母語とし、新たに外国語を学ぼうという人たちだと思います。外国語を母語にすることは、特別な環境でもないかぎりムリですが、「母語のように話す」のであれば、まったく不可能なことではありません。この「母語のように話す」ときの感覚とは、いかなるものなのでしょうか。
 外国語のできない人は、この感覚がつかめていません。私も外国語のひとつも話せなかったときには、外国語で話すということがどういう感覚なのか、まったく見当もつきませんでした。もちろん、どういう勉強をすれば、それが可能になるのかもわかりませんでした。
 いまの私は、複数の言語を外国語として理解し話すことができますが、たしかに不思議な感覚です。まずその不思議な感覚について、振り返ってみることにしましょう。

 そして語られることが興味深いのだが、まず、外国語を話すということは「モード」の切り替えであり、そうてきぱきと切り替わるものではないとしていることだ。通訳や翻訳のプロセスとは違うとしている。
 次に、「空欄」という表現をしている。英語、フランス語、スペイン語を例として。

 つまり、それらの言語を喋っているときは、頭の中にそれぞれ、「冠詞のスペース」「名詞のスペース」「be動詞のスペース」「形容詞のスペース」というような空欄ができあがっていて、そこに自然に語が埋まっていく感じになります。

 このあたりの説明で、「ああ、あれか」と共感する人が多いだろう。
 特に、英語とフランス語を学ぶと、このあたりの感覚は、あれだと思うものがあろうだろう。
 著者はこの先に、ロシア語の例を持ち出す。ロシア語の場合、この三か国の「空欄」の仕組みが異なるというのだ。そしてそれゆえに、ロシア語の習得は難しかったという。と同時に、難しいがゆえに、先の三か国語の「空欄」的な要素に気がついたともいう。
 この話題は本書ではいったん途切れるが、では著者はどうやってロシア語を習得したかという記述を繋いでいくと、見えてくるものがある。
 短期留学で徹底的にロシア語の音に耳が慣れたときに、ある変化が起きた。

音声の体系が頭に入ると、不思議なことに、あれほど頭に入らなかったロシア語の単語もするする暗記できるようになりました。この点は本当に強調しておきたいところです。とにかく、死ぬほど音を聞くのが大切です。


 ところが、教科書のような話し方ではなく、実際にはロシア人がロシア語で話すリズムをずっと聞き続けていると、一週間後くらいから話せるような気がしてきました。すると、複雑な語形変化が自然と頭に入るようになり、単語はすんなりと覚えられるのです。2週間もするころには、すっかりロシア語のリズムが身についており、単語帳はそれほど増えていないのにもかかわらず、原書をスムーズに読めるようになりました。


改めて言語のリズム、ネイティブスピーカーが話すリズムをきっちりととらえることが、「文法」「リーディング」「語彙力」にまで、よい影響を及ぼすことを痛感しました。

 著者のいう、「空欄」と「言語のリズム」が、外国語習得の鍵であるということが伺われるが、その内的な部分へのアプローチは、私の読んだ限りではまだ十分に考察はされていない。おそらく、その「言語のリズム」が「空欄」を形成するのだろうと思うし、おそらく著者もそれに同意するだろう。
 もう一つ重要なことがある。この過程で、著者は音と世界を結びつけるという点に注目はしている。そしてソシュールなどにも言及されている。しかし、重要なのは、ただソシュール言語学的な記号的結合よりも、状況と発話の結合である。

 外国語が何ヵ国語もできる人を私は何人も知っていますが、そういう人たちは初級の内から学習した言葉をすぐに使うことができます。なぜすぐに使えるかというと、最初から覚え方が違うのです。
 彼らは、与えられた文を単に暗記するのではなく、それを実際に使う場面を想定し、頭の中で、あるいは口に出して使っています。

 こうした語学学習のある秘訣みたいなものをこうした形で抜き出すと、ほとんどピンズラーの原理と一致するのも興味深い。私がそういう視点で読んでしまったというのもあるだろうが。
 あと、ちょっと些細な点を取り上げるみたいになるが。「"strength"をどう発音するか」という項が興味深かった。この著者の説明が間違っているという指摘ではないのでそこは留意されたい。

"strength"をどう発音するか
 次に音節の話をしましょう。(中略)
 ところが、英語などでは違います。例えば、"strength"という語は、"e"という母音を中心とした、ひとつの音節です。その母音の前に、"s""t""r"と3つも子音が重なっています。
 ところが、この単語をカタカナで表記すると、どうなりますか。「ストレングス」です。日本人は、ひとつの音節である"strengh"を「ス」「ト」「レ」「グ」「ス」という6つの「単位」で認識しています。ここで、音節ではなく、単位「モーラ」という語を用いたのは、この2つが微妙に異なるためです。
 私たちが実際に「ストレングス」を発音するときも、さすがに「ス、ト、レ、ン、グ、ス」というように6つの音節にまではなりませんん。おそらく"strengus"くらいの感じになっているのではないでしょうか。それでも、もとの言葉は1音節ですから、それが4つか5つの音節で発音されてしまうが、ほとんどです。

 些細な話というのは、"strength"という語の発音は、IPAで示すと、/strɛŋkθ/というように、"g"の音は無声音になることだ。
 あるいは、さらに"g"がドロップして、/strɛŋθ/または/strɛnθ/になる。
 なにがこういう現象を引き越しているかというと、まさに「言語のリズム」に関連した法則があるからだ。
 と同時に、"strength"というのは、実は英語という言語の正書法の結果であり、語学学習は、その母語者の再学習と同じように正書法をつい一緒に学んでしまうことになる。この例で言えば、"strength"という語が"strong"と関連があることを文化として覚えよという正書法の要請からこのように表記されている。
 実際、語学を音声から学ぶとき、実にやっかないな問題は、正書法だ。障害だと言ってもよいかと思う。
 特に英語の場合、正書法を権威づける国民国家の機関が存在しないので、さらに混乱が広まる。もちろん、そこが英語のよい面でもあるのが、困った面でもある。
 英語を学習するとき、この点(正書法とリズムの関連)が、もっとも配慮されなければいけないのではないかと思うが、日本の英語教育では難しいだろう。
 
 

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コメント

 よく外国語を外国語として(日本語を介してではなく)読めとか話せとかおっしゃる人がいます。しかし,浅学な私には,その意味やイメージがまるで理解できませんでした。
 この本ではその点にもふれている本のようです。さっそく注文して読んでみようと思います。

投稿: 神宮司公三 | 2014.05.05 09:31

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