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2014.02.15

オーストラリア近海にまで出て来た中国海軍

 日本に関連する国際報道を見ていて、たまに日本でさして話題にならないニュースに出くわす。海外の関心と日本の関心にズレがあっても不思議ではないが、多少気になるときは、ブログに記すようにしている。今回のそれは、先月末から今月にかけて実施された中国海軍の演習である。
 国内でニュースにならなかったわけではなかった。たとえば、2月7日共同「中国海軍が実弾訓練、西太平洋で」(参照)はこう伝えていた。


 中国国営、新華社通信によると、中国海軍南海艦隊の艦艇が西太平洋の海域で7日、実弾射撃訓練を実施した。遠洋での武器運用能力を確認することなどが目的という。
 同通信は「中国海軍が公海上に設けられた臨時の軍事訓練海域で訓練することは国際法に合致している」と主張し、海軍艦艇は今後も西太平洋で訓練を続けると強調した。
 訓練には揚陸艦やミサイル駆逐艦など3隻が参加した。3隻は1月26日、南シナ海の南端にある「曽母暗礁」(英語名・ジェームズ礁)で「主権宣誓活動」を行っている。(共同)

 共同の報道はごらんのとおり新華社通信の孫引きであるが、この記事をまとめた記者が問題の重要性を理解していないわけではないのは、1月26日のジェームズ礁の「主権宣誓活動」に言及していることからわかる。
 このニュースの重要性が日本人にうまく伝わっているのだろうか。そう懸念するのは、西太平洋やジェームズ礁の意味合いが日本人に伝わらないのではないようにも思えるからだ。
 1月26日のジェームズ礁での話題は、別のニュースもあった。同じく共同「南シナ海南端で示威行動 中国艦隊、領有権を明確化」(参照)より。これもまた、新華社の孫引きではあるが。

中国国営新華社通信は26日、中国海軍南海艦隊の上陸作戦用の艦艇などが同日、南シナ海の南端にあるジェームズ礁(中国名・曽母暗礁)で「主権宣誓活動」を行った、と伝えた。
 同礁周辺は石油や天然ガスの埋蔵量が豊富とされ、マレーシアなどが領有権を主張している。今回の活動は中国の領有権主張を明確に示すための示威行動とみられる。
 艦隊は上陸作戦用の艦艇やミサイル駆逐艦など3隻で編成。自ら参加した蒋偉烈司令官はセレモニーで演説し「戦いに備えて戦いに勝ち、実戦能力を不断に高め、海洋権益を守らなくてはならない」と訴えた。
 新華社電によると、戦略的要衝である同礁海域で、中国海軍は定期的にパトロールを行っている。
 同礁はマレーシアから約80キロの距離にあり、中国大陸からは約1100キロの距離。(共同)

 地図を見ると、その重要性が簡単に見て取れる。
 地図のピンの位置である。ここで中国は主権を主張したのである。

 さすがに国際社会が仰天した。
 米国でも反応を示さざるを得なかった。経緯は、「ジェームズ礁」の参照はないが、ワシントン白戸圭一氏の毎日新聞記事「米国務次官補:領有権巡り対中批判…「地域の緊張高めた」」(参照)が日本語で読める記事では比較的詳しい。


【ワシントン白戸圭一】ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は5日の米下院外交委員会公聴会で、中国による東シナ海、南シナ海での海洋進出や防空識別圏の設定が「地域の緊張を高めている」と述べ、西太平洋の空と海で勢力拡大を図る中国を批判した。南シナ海での領有権拡大に関する中国政府の主張についても「国際法に矛盾している」と明言した。
 領有権争いで一方に肩入れすることを避けてきたオバマ政権が、中国の領有権に関する主張を否定するのは異例。ラッセル氏は4日の記者会見でも中国の対外政策を強く批判する一方、アジアの安全保障に果たす日本の役割を評価した。4月のオバマ大統領の訪日に向け、米国の「同盟重視」と「対中けん制」が鮮明になった。

 2月7日の共同より先に、日経は2月1日に同じ話題を扱ってはいた。「中国海軍、東インド洋で演習」(参照)より。

 【北京=島田学】中国海軍は1日までに、大型揚陸艦「長白山」などの艦隊を東インド洋に派遣し、敵との交戦を想定した軍事演習を実施した。近く潜水艦などと連携して「敵からの海上封鎖を突破する」ための演習も実施する。中国にとってインド洋から南シナ海に抜けるルートは、中東から原油を輸入するシーレーン(海上交通路)に当たる。今回の演習はシーレーン確保が念頭にあるとみられる。
 中国の国営新華社によると、同艦隊は1月20日に海南省三亜を出港。南シナ海を越えてインドネシアのスンダ海峡を抜け、同月29日に東インド洋に入った。
 これまで中国海軍の演習は中国近海や南シナ海、西太平洋が中心で、東インド洋での単独演習を公表するのは異例だ。

 記事は間違いではないが、日本の視点の文脈が抜けているので重要性がわかりにくい。
 この話題を日本のジャーナリズムがどう扱うのか気になって見ていくと、意外にも朝鮮日報が比較的詳細な記事を出していたのに気がついた。「「第1列島線」を突破した中国海軍に米日緊張」(参照)より。

 中国海軍が、米軍の「独壇場」だった太平洋で新たな航路を開拓し、勢力範囲を広げている。フィナンシャルタイムズ紙(電子版)が13日に報じた。習近平政権の発足後、中国は1980年代に自ら設定した海上防衛ライン「第1列島線(沖縄・台湾・フィリピンを結ぶ線)」を難なく突破し、米国・日本などを緊張させている。

 「第1列島線」の文脈はフィナンシャルタイムズ「Chinese navy makes more waves in the Pacific」(参照)にある。
 全体像の理解としては、朝鮮日報記事に掲載されている地図がわかりやすい。

 日本国内では、日中間の海域の問題は、尖閣諸島問題に矮小化されがちだが、基本はこの第1列島線の突破にある。別の言い方をすれば、尖閣諸島問題といった領土問題として扱っても問題の本質はつかめない。
 朝鮮日報の記事には、この問題がオーストラリアに与えた影響への言及はない。この地図からは同国も省略されている。しかし当然ながら、今回の、事前通知なしに実施された(参照)中国海軍の軍事演習はオーストラリアの近海でもあり("this was the first time the Chinese have carried out military exercises so close to Australia’s northern maritime border."・参照)、同国にも衝撃を与えた。オーストラリア・ネットワーク・ニューズによる同国外相の見解を一例としてあげておく。話題は11分あたりから。

 抑制して語られているが、これを機にオーストラリアの対中政策への変更が感じられる。オーストラリアのジャーナリズムも、これに関心を向けている。例えば、ブリスベンタイムズ記事"China's military might is Australia's new defence reality"(参照)など。


Asked about the significance of the Chinese navy exercises on Friday, Foreign Minister Julie Bishop told the ABC that China's growing power in the region and around the globe needed to be acknowledged.

中国の海軍演習の意義を問われ、ジュリー・ビショップ外相はABCに、この地域と世界に中国の台頭する軍事力は認めざるをえないと金曜日に語った。

''The United States has long been the single greatest power in the Pacific, in Asia, in fact globally,'' she said. ''But we recognise that there are other countries that are emerging as stronger economies, other countries are building up their militaries. Japan is also redefining its defence stance.

「米国は太平洋、アジア域、そして事実上地球全体で、最大の軍事力を単独で長く保持してきた。しかし、強力な経済力として出現しつつある他の諸国のことも私たちは認識している。こうした諸国は自国の軍隊を形成しつつある。日本もまた、自衛のあり方を見直している」と彼女は語った。

''So we are in a very different world. It's a changing landscape and our foreign policy must be flexible enough and nimble enough to recognise that changing landscape.''

「つまり、私たちはとても異なる世界にいるのです。状況は変わっていますし、私たちの対外戦略も、状況の変化を認識するために、十分に柔軟にかつ迅速である必要があります。」'


 こうしたところから、オーストラリア政府の変化やそれに対応する同国のジャーナリズムの動きが垣間見られる。対して日本はどうだろうか。
 安倍政権の右傾化については、日本国内のジャーナリズムでは頻繁に取り上げられているが、国際的には中国の軍拡への防衛の一面もあり、関係する他国との関連のなかでも捉えていく必要がある。
 ただ、今回の話題を見ていても、そういう面が日本のジャーナリズムには弱いようには思えた。
 

追記(2/16)
 ブコメや関連ツイートをざっと見たら、オーストラリアの地理に詳しくない人を見かけた。非難の意味はないが一例を挙げておく。なお、「マレーシア」とあるのはインドネシアの誤解か、実際には記事を読まれていないのかもしれないので、オーストラリアの地理理解の問題とは異なるかもしれない。

 欧米人でも尖閣諸島を見て「それ、日本近海じゃなくて中国でしょ!」といった反応を持つ人もいるくらいなので、しかたがない面もないかもしれないし、ゆえに高等教育での地理の学習が重要なのかもしれない。
 参考までにオーストラリアの経済水域に関連した同国海軍の地図を挙げておく。詳細は地図のリンク先を参照されたい。

Operation RESOLUTE is the ADF’s contribution to the whole-of-government effort to protect Australia’s borders and offshore maritime interests.
 

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コメント

 脅威が増したのは何故なのか、から考えないと意味が無いですよね。「山河全紅」国を富国強兵国にさせたのは、ビスマルクの「鉄は国家なり」を地で行った溶鉱炉設置から始まっているんではないですか?それの最初は日本です。まぁ、日本が行わなくても他かの国が行ったでしょうから、これを今更とやかく言ってもしょうがないのですがね。それでも、それで儲けてバブルを最盛期にしたのも事実でしょ。
 その為に脅威になった、と言っても、それこそ自業自得ってもんじゃないですか?更にこの脅威増大にに手を貸したのは、米国を始めとする西側先進諸国が輸出入で彼の国と貿易を行ったからですよね?そりゃあ覇権を企むのはいけません。しかし米国だって、イギリスだって皆その覇権をやってるじゃないですか。それを非難しないで、「山河全紅」国だけを非難するのは、片手落ちってもんでしょ。
 それこそ自由主義と共産主義の戦いかも知れませんが、それを惹起したのも自分達ってことですよね。
 そういう事を隠蔽したような記事を書くのはいただけませんね。書くなら平等にしましょうよ。自分達も悪いが、あっちも悪いってね。だってさあ、68年前位まではあの辺全て西洋諸国の植民地だったし、大東亜共栄圏なんて言って侵略していたじゃないですか。その辺をしっかり書いて挙げないと、今の若者は、直ぐシナがァになりますよ。

投稿: hotaka43 | 2014.02.16 00:19

<ただ、今回の話題を見ていても、そういう面が日本のジャーナリズムには弱いようには思えた>

弱くはありません、意図的に無視しているだけです(キリッ!)。 その心は、シナさまをして、容易に第一列島線を抜けて外洋に出ていただきたいからです。 そのため我々マスコミは、安倍政権を右傾化だと言い募り、シナさまにご都合の悪い記事はすべてスルーするという手法を以って、側面援護を行っておる次第です。 いわゆる<工作>ってヤツですね、大きな声では言えませんがwww 

え? 進捗状況ですか? それははかどっておりますよ! 昨今は韓国政府の協力のもと、在日の皆さんにも加担していただきまして…。 うっとうしいのはネットで真実を書き立てるヤツラでね、だから<ネトウヨ>って名前を付けて差別化を謀ってやりました!  このネーミングは韓国民団! うまいこと言いますね、流石は外宣右翼を作って真正右翼を排除した経験者ですわ。 日本人は右翼という言葉に恐怖を感じる、その恐怖は在日によって植えつけられたものだって未だに知らない日本人が大多数ですからね! 愛国者が国民から恐怖の存在にされるなんて爆笑でしょ! それもこれも、私どもマスコミが永年に亙ってやって来た一億総痴呆化計画の成果ですわ(エッヘン!)。

どこが反日工作の中心か、ですって? え?! 唐突に核心ですか! それはその、マジでここだけのお話ですよw  ネットで流しちゃダメですからね。 それは言わずと知れた朝日新聞さんですよ。 コラムを書いてる陸忠偉さんね、彼はシナの国家安全保安部次官! 平たく言えばシナの諜報機関の高官なんです、凄いでしょ!  外務省もこの人にコロッと騙され、新日中友好21世紀委員会のメンバーに選出、と。 いやはや、日本人ってどこまで馬鹿なんでしょうね! ま、そんなこんなで、日本破壊計画もはかどるはかどる! 

(以上、マスコミの意見を代弁してみました)

投稿: | 2014.02.17 01:39

finalvent氏が今回の航路の最南下部分がオーストリアにまで達した、という点に注目なさったのに対し、Tweetの方は問題点はジェームズ礁にあると見て、その位置からレーシア近海と呼ばれたのでしょう。

ただでさえ言葉足らずになりがちな言葉のキャッチボールなのに、140字しか使えないTwitterでのやりとりは、どうしても言いっ放しになりがちで、なかなか話が深まらないのが残念です。

投稿: juntera | 2014.02.17 11:23

今回はかなり端折っているのでわかりにくいでしょう。

a.ジェームズ礁事案については、個人的には非常に遺憾と述べざるを得ません。
ジェームズ礁は、ここは常に海面下にあるためどの国も領有権の主張を行うことはできません。
では、中国の行為は問題が無いのか?いや大有りなのです。なぜならジェームズ礁はマレーシアの排他的経済水域内に存在し、ここを中国が自国領土などと武力を持って主張するのは、ASEAN各国に対する挑発行為に間違いありません。

b.もう一つ残念なのは、オーストラリアの反応を見誤っていることです。
オーストラリアの2013年以降の国防戦略について、日本語でよくまとまっているのはこれ。
http://www2.jiia.or.jp/pdf/research_pj/h25rpj05/140114_fukushima_report.pdf

ここで、オーストラリアが衝撃を受けたのは、ASEAN諸国、とくにインドネシアとの同盟を強固にする意思をもっているオーストラリアに対し、わざわざジャワ島南岸を通過するのは、オーストラリアの国防戦略に対する挑戦に他なりません。

これが、どういう意味を持っているのかは、中国は国際的な取り決めを知らないといわざるを得ません。先般の東シナ海の防空識別圏をあたかも自国領空であるかのような公式発表とその後、発表と違って実務上は確たる変更がなされていないこと、そして今回の事案についても、近隣諸国どころか政権交代後、友好的であったオーストラリアまで警戒させてしまうというのは、見事すぎる読み違いでしょう。

投稿: F.Nakajima | 2014.02.17 21:41

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