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2014.02.20

中台の閣僚級会談について

 11日から14日にかけて中国と台湾が1949年の分断後初めてとなる、閣僚級の会談を南京と上海で実現した。日本にとっても重要な話題のはずだが、日本からはオリンピックや豪雪の話題に隠れてあまり見当たらないように思えた。が、あらためてネットで検索してみるとそうとも言い切れないようだった。ただ、あまりわかりやすいとも言えないようには思えた。日本での報道検証をかねて、今後の日本の外交にも重要な話題であるのでこの時点で、まとめておきたい。
 会談の枠組みについては事前のロイター記事がわかりやすい。「中台が歴史的会談へ、政治問題は議題にならない見通し」(参照


[台北 28日 ロイター]台湾の大陸委員会の王郁琦主任委員(閣僚)は、2月11─14日に中国の張志軍外務次官と会談を行う。1949年以降で最高位級の中台会談となる。
 ただ、王氏は会見で「今回の訪問で難度が高い政治問題は取り上げない」とした。
 中国の習近平国家主席は昨年10月、中台問題の政治的解決を永遠に先送りすることはできないと述べ、政治対話の促進を呼び掛けた。これに対し台湾の馬総統は、政治対話は急を要しないとの立場を示し、貿易に力を入れる考えを表明している。
 王氏によると、2月の会談では、相互に代表部を設置する案や台湾の国際機関への参加、中国に留学している台湾の学生に対する医療について議論する。
 王氏は、会談が「誤解を回避するために、正常な意思疎通の仕組み」を作ることを目的としているとした。
 中国の国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は、今回の会談について、「双方が踏み出すこの重要な一歩は、意思疎通と理解を向上させるだけでなく、両岸関係の将来の発展を共に促進することに貢献するだろう」と語った。
 会談は南京と上海で行われる予定。

 ざっと読むと中台の緊密な連携が進んでいるかのように見える。後で一例を挙げるがそのように受け取る人々も日本にはいる。
 ロイター報道に間違いはないが、微妙な部分もある。王郁琦主任委員が政治問題を取り上げないとしたのは、台湾政府・馬政権の意向というより、事前に台湾の議会で彼の権限が拘束されていて、公式な合意事項の書名や主権についての言及は禁じられているためだ。その意味で、台湾側からすると前提的な枠組みとして、今回の会合は政治ではありえなかった。
 そのような非政治対話であれば従来からも重ねているのに、なぜ今回の事態になったかというと、非政治対話が一段落して、話のネタが尽きたということがある。そこで、大陸側からの要望と台湾・馬政権の業績作りの思惑が重なって今回の会談になったと見てよい。つまり、台湾の市民の多数は今回の会談に警戒を持っている。この警戒心は、今期で終わる馬政権の評価に反映する。
 他方、大陸側としては、ごく簡単に言えば中国人の思考形式からして、なんらかの名目的な進展があればよいので、政治的対話に見えるような看板が掲げられたことだけで大きな成果になっている。加えて、台湾・馬政権が親中政権のうちに、台湾問題の歩を進めておきたいという思惑もある。
 さらにまとめると、この会談は、いかにも中国的思考の産物だと言える。日本人もこの思考様式については学ぶ必要がある。
 逆に、非難という意味ではないが、いかにも日本人らしい受け止め方、中台の緊密な連携という見方の一例として、東京新聞(中日新聞)の社説を挙げておく。13日「中台会談 真の民主共有してこそ」(参照)。

 中国と台湾が一九四九年の分断後、初めて閣僚級の会談を実現させた。時に鋭く対立してきた歴史を振り返れば、中台の平和的発展に向け新たな段階に入ったと歓迎できる。
 国共内戦以来、中台ともに中国大陸と台湾の双方を支配していると主張し合ってきている。
 中国は七九年、「台湾同胞に告げる書」を発表して、台湾の「武力解放」政策を、「一国二制度方式での平和的統一」へと大きく転換させた。
 こうした穏健な台湾に対する政策は国際社会の共感を得られるものである。
 将来的に、中台が平和統一を成し遂げるかどうかは、中華民族自身の決めることである。
 しかし、今の中台の政治や社会の姿をよく観察すれば、中国が切望する統一に向けた本格的な政治対話はまだ早いように映る。
 台湾はすでに、選挙による民主主義体制への平和的な移行と高度経済成長という“台湾経験”を成し遂げている。
 中国は社会主義市場経済という壮大な社会実験により、経済面では国民をある程度豊かにすることには成功した。
 だが、真の民主化という意味では、まだまだ民よりも党や国家に重きがあるように映る。
 中台会談が開かれた南京の地下鉄駅の壁には、習近平国家主席が訴える「中国の夢」の大きな公共広告が目立った。
 看板には「有国才有家」と大書してあった。「国があってこそ家がある」という意味だろう。道理はその通りであるが、やはり人間や家庭よりも国の権威を優先するような思想が垣間見える。
 習政権は「報道の自由」や「民主的な社会」など、学生に教えてはいけない七つの禁句を大学に通知するなど、社会の管理や言論統制を強めている。
 世論調査などによれば、台湾では圧倒的多数の人々が「現状維持」を望んでいる。最高指導者を直接選挙で選ぶ台湾の民衆は、今のままの中国と一緒になることを望むとは思えない。
 南京の繁華街・新街口の交差点には辛亥革命を成し遂げた孫文の大きな銅像が立っている。
 中国と台湾の双方で「国父」と尊敬される中華民族の偉大な先人である。
 孫文が説いたのも、民族、民権、民生の「三民主義」である。中台で真の民主を共有できるよう一歩ずつ対話を進めてほしい。

 事実レベルの間違いはないが、いくつか指摘したほうがよい点はある。
 まず、「中台の平和的発展に向け新たな段階に入ったと歓迎」できるか、それが中台の市民にどのような意味を持つかは具体的なレベルで考察する必要がある。現実問題からすると、現状そのような段階には入っていない。中国が台湾に向けて配備したミサイルの削減すら進展していない。
 次に「将来的に、中台が平和統一を成し遂げるかどうかは、中華民族自身の決めることである」ということだが、現状の国連の枠組み、つまり、米国主導でなされた中国政策の結果からすると、それが間違いでもない。だがそもそも台湾を「中華民族自身」としてしまうことを台湾の市民がどう受け止めているかについては、よく検討したほうがよい。ごく基本線で言えば、同民族でも同一国家である必要はない。まして、同言語でも同一国家や同一民族と見るべきでもない。国家とは政治体制への市民の選択であって、台湾市民が、大陸の独裁政治を受け入れるかについて、自由主義諸国は見守ったほうがよい。
 とはいえ、こうした論点を東京新聞が理解していないわけでもないのは、後段の論調からもわかる。
 あと一点補足すると、以下の結語は大陸でも台湾でも知識人の失笑を買うようには思われる。

 南京の繁華街・新街口の交差点には辛亥革命を成し遂げた孫文の大きな銅像が立っている。
 中国と台湾の双方で「国父」と尊敬される中華民族の偉大な先人である。
 孫文が説いたのも、民族、民権、民生の「三民主義」である。中台で真の民主を共有できるよう一歩ずつ対話を進めてほしい。

 東京新聞の記者は台湾での独裁政治時代の「三民主義」の扱いについて知っているだろうか。この記事からは明確には想像しがたい。万一、知らなかったら先輩記者から学ぶとよいだろう。
 日本での受容としてもう一例、対極的なのは、産経新聞だろう。台北で唯一発行されている日本本土の新聞でもあると私は理解している。同日「中台会談 台湾は民意映した戦略を」(参照)より。

 中国と台湾が1949年の分断後初めて、中台関係を担当する閣僚による直接会談を行った。
 朝鮮半島とともに「東アジアの火薬庫」ともいわれてきた台湾海峡で、対話による緊張緩和が進むことは歓迎したい。
 しかし対話が、強大化した中国に台湾が取り込まれていくプロセスになってはならない。台湾の馬英九政権には、現状維持を志向する民意を映した対中戦略を求めたい。
 国共内戦で血を流した双方は、相手の支配地域を含む「中国全土の正統政権」という建前の下、相互の主権を認めず、建前を棚上げして「民間」の窓口機関を介し、対話・交流をしてきた。今回の会談は、その「間接話法」から閣僚級の「直接話法」に切り替えたところに従来との違いがある。
 11日の南京会談では、実質的な領事機能を持つ連絡事務所の相互開設などが協議された。しかし、会談を中台統一への政治対話の入り口とみる中国側に対し、台湾側は実務的な経済関係の円滑化と信頼醸成に重きを置いたといえる。閣僚協議の継続に当たり、その基本線を崩すべきではない。
 台湾・行政院大陸委員会が昨年末に公表した住民の世論調査では中台の協議制度を「支持する」との回答が68・7%に達している。経済を中心にした対中依存の強まりを考えれば、当然だろう。
 だが、同じ調査で、84・6%が中台関係の「現状維持」を望むとし、台湾のケーブルテレビが昨秋に「独立か統一か」の二者択一で回答を求めたら、71%が統一を拒否する姿勢を示している。台湾の民意の所在は明らかだ。
 台湾の安全の守護者である米国も歴史的に関係が深い日本も、力による台湾海峡の現状変更を懸念し、対話による関係改善を促してきた。日米の国益は、台湾の民意と同じ中台関係の「現状維持」にある、といっていい。
 台湾海峡をめぐっては、世界第2の経済力を蓄え軍備拡張に走る中国がいつまでも現状に甘んじてはいない危険性がある。日米台とも警戒を怠ってはならない。
 会談に際し、「民主」「人権」への言及は中国側の要請で封印されたという台湾報道もある。台湾が中国とは際立って異なる価値観を放棄したのなら、残念だ。
 中国の思惑に引きずられないためにも、民意に根ざした対話指針を内外に説明してほしい。

 産経新聞らしい主張が多少鼻につくが、注意したいのは、「「独立か統一か」の二者択一で回答を求めたら、71%が統一を拒否する姿勢を示している。台湾の民意の所在は明らかだ」という点であり、先にも言及したが、この台湾市民の民意を無視すると、馬政権は吹っ飛ぶ。2012年の台湾大統領(総統)選挙で馬は「平和協定」に言及して撤回した経緯もある。
 もう一点、注意したいのは、「日米の国益は、台湾の民意と同じ中台関係の「現状維持」にある、といっていい」というのは正しく、米国側の思惑もそのとおりだろう。日本では日中間の枠組みで語られることが多いが、この問題の事実上の前線にいるのは台湾であり、米国と台湾の関係である。この事は逆の視点からいえば、台湾が大陸側の統一に傾けば、米国としても台湾への荷担がしづらくなり、しいては日本との同盟関係も弱体化せざるをえない。
 今後の動向だが、三つの注目点があるだろう。一つは、習近平・中国国家主席と馬英九・台湾総統との首脳会談を模索する動きである。今回の会談でもその片鱗が見えたようだが、現状ではほぼありえないだろう。またほぼありえないだろうというなら、馬総統が巧妙な手法で「中華民国が存在する事実」を中国に認めさせることだ。そうなれば、圧倒的な台湾の外交勝利にはなる。
 二点目は、すでに言及したようにポスト馬政権の動向である。現状では誰も読み切れないと言っていいだろう。具体的には、2016年の台湾大統領(総統)選挙である。前回は国民党の馬英九氏が民進党の蔡英文氏を80万票差で破ったが、馬の続投はない。現実論として台湾経済は大陸に依存している。経済的な政策は優先されるので、馬政権が大きく失敗しなければ次も国民党続投となる可能性は高い。
 三点目は2017年の香港の「行政長官普通選挙」である。2047年までは香港は一国二制度がとられていることが建前だが、その動向を占うのがこの選挙になる。すでに香港では活発な議論が進展している。日本ではあまりこの報道を見かけないような印象がある。が、この件については、意外というのもなんだが外務省の情報が簡素にまとまっている。「香港情勢と日本・香港関係」(参照)より。

2.最近の政治情勢
(1)香港SAR政府は、「反逆」、「国家分裂」、「反乱扇動」、「中央人民政府転覆」、「国家機密窃取」の行為等を禁止する「国家安全条例」を2003年7月までに成立させることを目指していた。しかし、同法案は香港市民の自由・人権を脅かすとして反対論が高まり、2003年7月1日には50万人規模の反対デモが行われ、同法案は9月には廃案となった。
(2)以来、民主派は民主化加速の訴えを強め、2007年の行政長官選挙・2008年の立法会選挙での全面普通選挙実施を要求した。しかし中央政府は、2004年4月には、2007年・2008年の選挙で全面普通選挙は実施しない旨の全人代常務委による「決定」を行い、民主派の要求を斥けた。2007年12月、全人代常務委員会は、2012年の行政長官選挙・立法会議員選挙での普通選挙の導入を再度否定するとともに、2017年の行政長官選挙及び2020年の立法会議員選挙での普通選挙の導入を可能とする「決定」を行った。2012年の二つの選挙(行政長官と立法会)については、2010年6月、立法会は、行政長官選挙委員会人数の800名から1200名への増加、立法会議席数の60から70への増加などを含む「香港基本法」改正案を採択した。
(3)新制度の下で2012年9月に第5回立法会選挙が行われ、民主派の獲得議席は70議席中24議席となり、引き続き選挙制度を巡る議論で否決権を有する三分の一以上の議席数を維持した。

 現実的に見れば、中国政府が香港の自治を認めるわけもなく、香港での締め付けは今後もきつくなるだろう。これは台湾の命運を事実上数歩先取ることになる。
 蛇足として日本がこうした動向にどう対応するかだが、全体構図から明白なのは、民主化の支援を図ることに尽きる。日本は防衛的で国家主義的な動向を進めるより、アジアにおける民主化の支援を優先すべきだ。同時に、国内に視野を狭める反政府的な批判より、アジア全体の民主化のなかで日本の役割を問いただしていくほうがよい。
 
 

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コメント

うーん…で?日本の外務省がなにか行動してるんかね
日本のマスゴミも中国大本営から脱却する努力もしてない
偉いさんがやることはもう注視することでなく日本人がどうすべきかを導く努力が必要なんじゃないの
それが何も見えてこないんですけど…(このブログからも)情勢オタクと無知層の壁が厚くなるばかりじゃ先細るだけだよ

投稿: | 2014.02.23 04:50

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