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2013.09.13

一人でマッサージができるフォームローラーが、気持ち、ええ。

 筋トレ関係の本を読んでいると、フォームローラー(foam roller)という道具が出てくる。発泡スチロールみたいな素材でできた、直径15センチで1メートルほどのポールである。床において転がし、筋肉のマッサージのように使うものらしい。ライフ先生も使っていた。

 使い方の動画なんかもけっこうネットにある。

 

 見てるとなんか気持ちよさそうなので、とりあえず買ってみることにした。

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スレンダーポール
 僕がアイアンガーヨガをはじめたころはヨガマットもプロップも日本では入手が難しくて米国から買ったものだったが、フォームローラーはどうかというと、日本でもいろいろあった。
 っていうか、間抜けなことにあとで気がついたのだけど、ジムにも置いてあった。けっこう普及しているようだ。名称はかならずしもフォームローラーではないようだった。とりあえず、形状も同じみたいなので、スレンダーポール(参照)というのを買ってみた。
 届いて手にしてみると意外にでかいというか、アマゾンのでかい箱に入ってきたせいもある。そしてそのわりに軽い。非常に軽い。当然だろうとは思う。固さはというとけっこう固い。発泡スチロールみたいに壊れやすいかというと、それがそうでもない。あとこの手のものは化学物質臭がひどいことがあるけど、そうでもない。なんか気に入った。小さい子供がそばにいたら、「泣く子はいねがぁ」とか言ってぽかっとやりたくなるようなツールである(やっちゃだめですよ)。
 早速、床に座ってライフ先生よろしくふくらはぎの下に置いて、コロコロとやってみる。あー、気持ちええです。なんかこのままコロコロとやってテレビでも見ようか。とつい、録画していた「酔いどれ小籐次」を見ながら、ナレーションのおもてなし声にうっとりしちまいましたよ。そんなことをしている場合か。
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ミニフレックスローラー
 他の部位にも使えるというか。背中のコリとか腰のコリをほぐすのにも使える。マッサージ器の類より効果的な感じがする。寝るとき使えたらいいんじゃないかと小型のも買ってしまいましたよ。ミニフレックスローラーというやつ(参照)。これはこれで便利。
 大きい方のフォームローラーだが、マッサージ以外にもストレッチにも使えるし、コアトレーニングにも使える。あれだ、プランクでコロコロと。動画がありそうなもんだと思ったら、あった。

 ライフ先生の本を読むと、フォームローラーは、自己筋膜解放(SMR: Self-Myofascial Release)に使うとある。マッサージというわけでもない。いろいろ理論とか背景はあるらしい。身体がほぐれて気持ちよければええんでないの。

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Foam Roller Workbook
 ということなのだが、ついもっと知りたくなり、解説書もあるかと思って探したら、「ポールを使ったコロコロダイエット」(参照)くらいしか見当たらない。そう来たか、日本。
 ああ、そうだ、ライフ先生の本にもあったのだから、別に日本語でなくてもいいやと探すと、「Foam Roller Workbook」(参照・Kindle)というのがあって、見ると、これで十分かな。いろいろ使おうと思えば、使える、と。
 ユーチューブや各種サイトにも解説はあるけど、この本のほうがフォームローラーの使用法という点では少し詳しいようだった。というか、それなりに詳しい。
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The MELT Method
 ついでにその関連のお勧め本を見ていたら、フォームローラーを使ったヒーリングの本というのがある。「The MELT Method」(参照)である。ついでに買ったみた。ごちゃごちゃいろいろ書いてある。それほどトンデモ理論でもないけど、リフレクソロジーっぽい内容も含まれている。世の中いろいろなんこと考える人がいるもんだなあ。
 読んでてこの本で面白いと思ったのは、足裏のほぐしに小さいボールを使うというのがあって、その小さいボールって、あれ夜店のスーパーボール釣りのあれじゃないのとか。
 そう思ったら止まらない。早速百均でスーパーボールを買って、足の裏でころころとやってみる。ふひゃあ、これもまた気持ち、えーです。自宅でパソコンしているとき、座りながらころころとやったりとか。
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スーパーボール
 「スーパーボールですっきりリフレ」みたいな本でも書きたくなりますね。「リフレですっきり安倍総理」とか。消費税はいそいで上げないでくださいね。話題が違う。
 
 

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2013.09.12

腹筋トレーニングでなぜシットアップとクランチがいけないのか

 Ooops! 前回の記事で、腹筋のトレーニングでシットアップとクランチはもう標準的じゃないよっていう余談をつい書いてしまったら、なぜだよ、仄めかさないで教えろよ、みたいな声が、あった。でも、あえて書くまでもないじゃん。そんな情報、あちこち落ちているじゃん。ネーバーまとめとかにもあるんじゃないの。
 うーむ。どうかな。ちょっと書いておきますね。腹筋トレーニングでなぜシットアップとクランチがいけないのか。それと、どうすりゃいいのか。
 そうはいっても、僕みたいな、筋トレ初心者が書いてもなんなので、2009年のNewsWeekにあった関連の話題を簡単に紹介するってことで、ここはひとつ。オリジナルは"Stop Doing Sit-Ups: Why Crunches Don't Work"(参照)。以下、意図は汲みつつも適当な話に作り直しているので、正確にはどうなんだよというのが気になったら、英語のほうの情報をきちんと読んどいてくださいな。
 それでは。
 
   ※   ※   ※
 
 みなさん、下腹を引っ込めたいと思ってるわけですよね。だから、きっつい腹筋運動をしたら、おなかが引っ込むと思っているわけです。クランチとかいう腹筋レーニング(仰向けに寝ながら上体を曲げて起こして頭をおなかに近づける運動)を何十回もペコペコと運動すれば、いいんじゃないの、とかね。でも、それってほんと?
 残念。クランチみたいな腹筋運動って体幹を鍛えるのに最善の運動ではない。それどころか、背骨とか腰を痛めるかも。
 リチャード・ガヤ(リチャード・ギアじゃないよ)っていう背骨の専門家の先生は、「もうずっと前から、長時間のクランチは教えてない」と言ってる。あまりに、ぐにっと体幹を曲げていると背骨の一番弱いところに力がかかりすぎるからだ。そこは、たくさん神経が集まっていて、痛めやすい部分なのだ。

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Low Back Disorders
Ph.D. McGill Stuart
 別の背骨の専門家、スチュワート・マギルという先生も言ってる。背骨というのは小さい盤を積み重ねたようにできているから、腹筋運動で何回も曲げていると、その盤の接続が金属疲労みたいになっちゃうよ、と。やり続けていると、接続部分が、ぶにゅっーと飛び出して、椎間板ヘルニアになって、痛くてひどいことになるよ、とも。
 じゃあ、腹筋運動、どうしたらいいのさ?
 マギル先生によると、だからぁ、背骨を曲げるんじゃなくて、脚のほうから曲げて腹筋に力を入れるといい。
 腹筋台とかに寝て、ぐいっと上体を起こす、よくある腹筋運動、シットアップなんかはどうなの?
 マギル先生の答え。「あれ、一回やるごとに背骨をちょっとづつ壊しているようなもんですよ」。先生のお話は、続く。
 クラッチを一、二度やって終わりにする人はいなくて、なんとかおなかをへこまそうと腹の筋肉が痛くなるまで何十回も繰り返す。あれねえ、水着でかっこよく見せるよりも背骨のことを考えたらどうかね、と思うけど。あの手のことを勧めるコーチもいるけど、あんなのやっても腹の筋肉が偏って発達するだけで腹周り全体がスリムになるわけじゃない。結局、シットアップとクランチで頑張っても、だめ。
 どうしたらいいんですか、マギル先生。
 もともと、腹筋ってなんのためにあると思う? シットアップやクランチあるわけじゃないんだよ。人間が何か動作をするときに背骨を支えるのが腹肉の役割なんだ。背骨自体は、支える筋肉がなければ、ゆるゆるしているわけ。だからだね、腹筋を鍛えるなら本来あるべき用途で鍛えないといけない。体幹というのは腹筋だけじゃないんだから総合的に鍛えないとね。だから、腹周りだけきれい見せるための運動は、ない、ということ。運動するなら、従来とは違った運動のほうがいい。
 例えば、腕立て伏せなんかでも、普通に考えられているよりいろいろな筋肉を使うものだし、体幹を強化する機能も向上させる。これには腹筋も含まれている。人間の動きとしても本来ある体幹の筋肉のありかたに合っている。自然に身体全体を鍛えれば、体幹も鍛えられる。背骨を伸ばして仰向けになり腰を手で支えた状態で、足を直角に上げてから静かに降ろして一定の角度で止めるという運動とかもある。他にもあるからユーチューブ見といて。
 ああ、そもそもだね、体脂肪が多すぎるなら、体幹を鍛える以前の話。改善の9割は食事を見直すこと。それに合わせて、サーキット・トレーニングして身体全体を動かして、カロリーを燃焼させたほうがいい。体幹の運動にもなる。通常の筋トレでももいい。体脂肪を10パーセント以下に落としてかっこよく見せたい気持ちもわかるけど、身体を壊すよりはましでしょ。


 
 

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2013.09.11

[書評]一流選手の動きはなぜ美しいのか からだの動きを科学する (小田伸午)

 ところで2020年のオリンピック開催が東京に決まった。すでになんども書いてきたがオリンピックには関心がないものの、東京には来ないだろうとは思っていたので驚いた。欧米諸国からは遠いし、チェルノブイリ原発事故のように福一原発事故を理解している欧米諸国でもあるからだ。
 しかし、決まってみると、そういえば、オリンピックって中国が大量に金メダルを獲得するし(当然中国人がたくさんやってくる)、韓国も日本より多くの金メダルを取るのだから(当然韓国人がたくさんやってくる)、中韓がそろって東京オリンピックに取り組むというのも、この地域の緊張緩和にはよいこという想定もあったのでは、と思えてくる。

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一流選手の動きは
なぜ美しいのか
からだの動きを
科学する (角川選書)
 オリンピックには経済効果はないとも言われているし(とりわけ騒ぐような話題でもない常識として)、しかも2020年の東京オリンピックは湾岸でのエコノミーな大会になるので、1964年の東京オリンピックとはわけが違う。それでも、投資分くらいの経済の活性化はあるだろうし、この件で気持ちも前向きになる人が、後ろ向きになる人よりも多そうだから、まあ、いいのではないか。余談ついてで言えば、1964年の東京オリンピックをリアルに見てきた自分としては、あれは、東京に残る戦前・戦中の軍都の施設や占領軍施設(参照)を撤去する口実にもなっていたなと思う。そのあたりの感性を持つ人がめっきり減ったなあと感慨深い。
 かく、観戦スポーツには関心のない私だが、スポーツ全体に関心がないわけでもない。学生時代は陸上をやっていたし、大学では水泳、『考える生き方』(参照)にも書いたが、社会人になってからヨガとかフェルデンクライスとかしてたし、ダンスもやりたいなとかも思っていたものだった。最近ではマイブームは筋トレ。
 で、『一流選手の動きはなぜ美しいのか からだの動きを科学する (小田伸午)』(参照)。あっと驚くような新知見はないように思えたが、普通に面白い。著者は1954年生まれで私より3つ年上だが、冒頭彼が中学生で陸上部だったときの話が出てくる。「マック式ドリル」である。ようするにももを高く上げれば速く走れるという指導で、僕が中学生のときでもそんな雰囲気だった。もちろん、これはそう簡単な話ではない。そこから、この本は、身体の主観的な感覚の話題に移る。このあたりも、なるほどと思える。最近、エリプティカルマシンを使うのだが、これ前進しているのか後進かよくわからなくなる。マシンのほうで負荷をいろいろ変化させているみたいだが。
 第2章がまた面白い。いわく「細マッチョがゴリマッチョに勝つ」ということで、100キロのボディビルダーと60キロの空手選手の腕相撲の話がある。想像が付くように勝つのは空手選手。瞬発力が違うからだとも想像できる。が、では具体的になぜその瞬発力が出るのか、ボディビルダーは運動神経がトロいのかというと、そうではなく、「得体の知れない力」があるからで、それを解析すると空手選手は力を込めるときに、身体を急速に降下させ、つまりその加速で瞬間だけ百貫デブ状態になるからだ。それで「得体の知れない力」が支えられる、と。まあ、この話も中国武術にある発勁ですね。また、相手の力の入れ方をだますという話もあるけど、これも武術の本とかによくある話。いずれにしても、「からだの動き」でその機能は変わる。第2章では足の機能の話もいろいろあって面白い。余談だが、現代人は足が機能的に硬くなっているなあと思う。
 第3章はいわゆる体幹(コア)の話が多い。このあたりもすでによく話題になるところ。私が学んでいたフェルデンクライスでは、コアというより背骨から力をどう伝導させるかという話題だった。実際のところ、表題でもある「一流選手の動きはなぜ美しいのか」というのは、コアとの連動の機能的な美しさでもあるのだろう。
 最後の第4章は走り方に特化した話題。このあたりは、最近のボルト走法の研究とかでも興味深い分野だが、本書ではれいの「なんば」に集約されている。
 全体としては誰が読んでも面白い本だなという印象だが、56歳にもなった自分からすると、もうこうはいかないんですよね。最近、筋トレ関連で、スポーツをする中高年をよく見かけるようになったが、楽しくてやっているという心理効果が重要だとしても、これはまずいんじゃないかという体型や動きをよく見かける。中には若い気分の人もいるし、タニタの体組成計とかだとかなり10歳くらい若い年齢が出る人もいるのだが(ちなみに自分)、体組成と運動はまた別の話。
 とりあえずスポーツ習慣は中高年には健康によいとはいえるのだろうけど、これでいいのかなあという感じがしている。
 筋トレなんかでも、一生懸命腹筋100回!というのも見かけるけど、先日、ネットでちょっと話題になった、米国では学生には平泳ぎはさせないと同じようで、米国の筋トレにシットアップはもう事実上ない。代わりにでは、クランチかというと、これももうなくなっているんですよ。「10のパワー 週一回のゆっくりフィットネス革命(Power of 10: The Once - a - Week Slow Motion Fitness Revolution)」(参照)やその関連で紹介した「「科学による身体 一週間に12分で効果の出る科学的プログラム(Body by Science : A Research Based Program to Get the Results You Want in 12 Minutes a Week)」にも、シットアップはないし、いわゆる繰り返すクランチもない。理由は簡単で、身体壊すから。
 そのあたりの、そうだなあ、スポーツで身体を壊した中高年、なんつう本があったら読んでみたいものだが、ちょっと話題が暗いですよね。
 
 

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2013.09.08

ハングルは15世紀の制定当時、どのように呼ばれていたのか、その名称を記せ。

 『歴史が面白くなる東大のディープな世界史(祝田秀全)』(参照)という本を暇つぶしがてらに、にやにやしながら読んでいたが、「ハングルは15世紀の制定当時、どのように呼ばれていたのか、その名称を記せ」という設問に至って、くすりと笑った。

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歴史が面白くなる
東大のディープな世界史
 この本は、分野としては受験参考書なのだろう。東大入試の世界史の過去問から面白そうな設問を取り出して、解説を付けながら、模範解答を示すという書籍である。世界史は暗記物とも言われるが、この本に掲載されている問題の大半は論述問題なので、単に事項を暗記して答えるわけにはいかない。解答に至るまでの理路を理解することが重要になる。
 しかしまあ、それだけ言うと、やはり受験参考書ですよね。そういう受験参考書が珍しいわけではない。
 ところが、この本で選ばれた問題はなかなかひねりがあって楽しい。さすがは東大というべきなのか、東大の先生はクイズがお好きだなというべきか。なかでも、先の設問である。全体は、こうなっている。

 近代になってから韓国の出版物の多くは、日本の漢字仮名交じりと同様に、漢字ハングル交じりで作成されてきたが、近年ではハングルのみとする傾向が強まっている。ハングルは15世紀の制定当時、どのように呼ばれていたのか、その名称を記せ。
[2004年度・第3問・問(5)]

 設問を見て吹いてしまった。やるなあ。即答できますか? 
 面白いと思ったのは、この問題、前半の文章はなくてもいいはずである。設問というなら、「ハングルは15世紀の制定当時、どのように呼ばれていたのか、その名称を記せ」だけでいいはず。
 前半の「近代になってから韓国の出版物の多くは、日本の漢字仮名交じりと同様に、漢字ハングル交じりで作成されてきたが、近年ではハングルのみとする傾向が強まっている」というお話はうるさいよという感じだが、ようするに、クイズ番組(といいつつ最近のクイズ番組というのを見たことなくて、先日「タイムショック」が復活しているのを知ってびっくりした)の早押しひっかけと似たような構図になっている。
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 この本でも指摘されているが、前半部分がないと「訓民正音」あるいは「正音」と答えそうになる。出題者側からは、そういうふうに条件反射するか受験生、という趣向になっていたのかもしれない。
 その点で出題者の思いは前半にあるはずだが、その思いは相当にひねくれている。
 まず、「近代になってから韓国の出版物の多くは」というのは、近代以前の韓国の出版物はどうだったか、という含みがある。
 そもそも「近代以前の韓国」ってなんだよ、というのはさておくとして、概ね、女真族と見られる李成桂が打ち立てた李氏朝鮮の時代を指しているとしてよいが、ちょっと微妙なのは、李氏朝鮮が1897年にに国号を大韓帝国として皇帝を頂く帝国を自称して以降は近代のなのか。いずれにせよ、李朝ではハングルは「漢字ハングル交じり」ではなかった、ということを出題者は言いたいことがここからわかる。
 「漢字ハングル交じり」になったのは近代以降である。その嚆矢はというと、この本にもあるが、朝鮮政府顧問の井上角五郎が提言して実現した官報「漢城周報」で、それ以前の「漢城旬報」は朝鮮の公式文書のように漢文だった。
 この井上の提言は、朝鮮の近代化には、ナショナルな言語である朝鮮語の新聞の発行が重要だとした福沢諭吉の示唆を受けてのものだった。ようするに、福沢諭吉が、「漢字ハングル交じり」を生み出したと言ってもいい。当時の朝鮮知識人はこの「漢字ハングル交じり」に反発していた。
 つまり、前半の「近代になってから韓国の出版物の多くは、日本の漢字仮名交じりと同様に、漢字ハングル交じりで作成されてきたが、近年ではハングルのみとする傾向が強まっている」というのは、「福沢諭吉の指導で、韓国の出版物の多くは、日本の漢字仮名交じりと同様に、漢字ハングル交じりで作成されてきた」ということ。そして「近年ではハングルのみとする傾向が強まっている」という近年は、光復後のことである。
 あらためて言うまでもないが、日本語と韓国語の文法はほとんど同じ(おそらく同起源の言語に日本が白村江戦で負けてから和語を当てはめて作成した人工言語が日本語なのだろう)なので、「漢字ハングル交じり」のハングル部分は、いわば日本語の「てにをは」に当たる。このため、この時代の朝鮮人は、「てにをは」に相当する日本語を覚えるだけで、日本の岩波文庫はもとより、日本で流布されている書籍の大半をそのまま読むことができた。うがった見方をすると、そういうことがないように、李承晩は「漢字ハングル交じり」を排したと言えるのではないか。幼い子供にも千字文を学ばせていた国なんだから、戦後の日本のように基本の漢字くらいは残しておけばよかったように思うが。
 設問に戻ると、ハングルは李氏朝鮮の第4代王の世宗が「訓民正音」として1446年に公布したもので、意味は「民を訓える正しい音」ということ。つまり、漢字の音を表記するための工夫だった。漢字があってこその「ふりがな」と言ってもよいだろう。元来は、朝鮮半島が元朝支配下にあったときの文化遺産であるパクパ文字を元にしたものだった。
 なお、「訓民正音」はその公布年からしても、当時のその音の仕組みを記した漢文書籍を指す。その書籍の公布をもって「訓民正音」という歴史事象が創作されたというほうが正しいかもしれない。いずれにせよ、それをもって「ハングル」の当時の呼称と言えるかは、むずかしい。
 世宗は「ハングル」の普及のために諺文庁という文化機関を設置したが、李氏朝鮮の第10代王・燕山君の時代、1504年にいわばハングルの焚書坑儒的な弾圧が行われた。また燕山君がクーデターで失脚した後の第10代王・中宗もハングルの弾圧は引き続き、諺文庁も閉鎖された。かくしてハングルは公式には禁止された。もちろん、日本人のひらがなのように民衆の文字としては利用されてはいた。
 さて、当の設問に戻る。
 「ハングルは15世紀の制定当時、どのように呼ばれていたのか、その名称を記せ」だが、どう答えるか。
 ここでウィキペディアを見ると、関連項目はこう書かれている(参照)。

1446年にこの文字が頒布された当時は「訓民正音」あるいは略して「正音」と呼ばれた。これは「民を訓(おし)える正しい音」の意である。しかしながら、この文字は当初から「諺文(언문、オンムン)」という卑称でも呼ばれていた。

 ウィキペディアを見ると、東大のこの過去問の答えは、「1446年にこの文字が頒布された当時は「訓民正音」あるいは略して「正音」と呼ばれた」とあることから、「訓民正音」あるいは「正音」となるだろう。
 そうなのだろうか? ちなみに本書は、この答えを採っていない。
 歴史学的には同時代資料、あるいはその時代に近い資料を探る必要がある。重要なのは、史書「世宗實錄」巻102の、世宗25年(1443年)12月30日、庚戌の条にこうあるこことだ。

是月, 上親制諺文二十八字, 其字倣古篆, 分爲初中終聲, 合之然後乃成字, 凡干文字及本國俚語, 皆可得而書, 字雖簡要, 轉換無窮, 是謂訓民正音

 資料では28文字は「諺文」(おんもん)と記されている。実際、この件で形成されたのが「諺文庁」であった。設問が問う、同時代の呼称としては、「諺文」が正しいのではないか。ただし、その機能を称賛して、「訓民正音」とも呼んでいる。これを字母の呼称と介せないわけでもない。
 なお、ウィキペディアには「諺文」について、「卑称」とし、こう続ける。

「諺」とは本来俗語の意であり、中国語に対して朝鮮語を指して「諺」あるいは「諺語」と呼んだものである(文字頒布の書である『訓民正音』においてもこの用語が現れている)。従って「諺文」とは「俗語(朝鮮語)を表す文字」という意味である。この「諺文」という呼称はその後広く用いられ、日本併合時代までこの呼称が用いられた。

 この説明は正しいだろうか?
 この時代、中華圏の文化に迎合していた李朝では、漢文が公式文書である。当然、それ以外として、ひらがなのように読み下すための表音文字が公式ではないとされるのは同義反復にも近い。また「中国語に対して朝鮮語を「諺」と呼んだ」というのは、彼らの意識では、中国語が方言化したようなものだったということではないだろうか。
 ただし、燕山君以降の弾圧の経緯を見ると、このウィキペディア的な解釈はそのころにはあっただろう。
 ま、話は以上である。東大側の正解は何であっただろうか。
 余談になるが、ウィキペディアを見ると、なんとか、「諺文」を「正音」に置き換えようと、努力している人がいるようすがうかがえる。それをもって歴史修正というほどでもない。歴史とはそもそも史観であり、史観のなかで歴史事象が命名されるものだから、歴史学的に「正音」としてもよいだろう。が、「ハングルは15世紀の制定当時、どのように呼ばれていたのか、その名称を記せ」となると、それとは別になる。
 ところで、この問題で私が「くすりと笑った」のは、ウィキペディアでは「日本併合時代までこの呼称が用いられた」とあるが、これは昭和の時代の人なら「オンモン」という呼び方を知っていた。日本にいる朝鮮人や朝鮮系の人々も普通に使っていたものだった。つまり、そのころは、普通に、現在、ハングルと呼ばれている表音文字は「オンモン」だった。東大の問題は昭和的には常識の部類だったのである。もちろん、それゆえに歴史学的に正しいというわけではないが。
 むしろ「ハングル」の登場に多少違和感があった(朝鮮語という意味ではある程度知られていたが)。
 私の記憶にもあるが、NHKで「ハングル講座」が開始したのは、1984年つまり昭和59年のことだった。このころいろいろ話題になっていた。普通に考えれば、「ハングル講座」ではなく、「朝鮮語講座」だからである。もめていた。「朝鮮語講座」ではなく「韓国語講座」だろなども。結局、「アンニョンハシムニカ・ハングル講座」になったが、さらにもめていた。「ハングルって文字だろ」「ハングル語講座か?」などなど。そのなかで、「文字はオンモンだろ」とも言われていたのだった。
 
追記(2013.9.11
 DG-Lawさんが『赤本』と『入試問題正解』を当たったところ、両者とも正解は「訓民正音」とのこと。




 

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