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2013.07.23

中国の「海警局」発足の意味

 参院戦の騒ぎに隠れてしまったきらいがあるが、中国で22日、名目上は日本の海上保安庁に相当する「海警局」が発足した。それだけ聞くと、「中国にだって海上保安庁があっても不思議ではないでしょう」といった印象も持つ日本人もいるだろうが、もう少し深い意味がある。というのも、そういう印象の人には、「そもそもこれまで中国に海上保安庁がなかったのか」という疑問を投げかけてみてもいい。
 もちろんこれまでの中国にも海上保安庁に相当する国家機能は存在していた。通称「五龍」と呼ばれる、公安部公安辺防海警総隊(海警)、農業部漁業局(漁政)、国土資源部国家海洋局中国海監総隊(海監)、交通運輸部中国海事局(海巡)、海関総署密輸取締警察(海関)の五機関である。
 尖閣諸島海域関連では、なかでも農業部漁業局の漁業監視船、国土資源部国家海洋局中国海監総隊の海洋監視船がうろついていた。だが、そのように管轄が異なっていた各組織が今回「海警局」として統一されたというのが今回の表向きのニュースではある。
 統一されることの基本的な意味は機能強化と理解してよい。が、それは二つの面から理解できる。ひとつは、これまでは五龍は競合・対立していたことだ。中国におけるこの手の対立組織は、中国人の御得意行動なのだが、外国を刺激合うことで存在主張を高める。尖閣諸島あたりの中国船のうろつきも、彼らの内部的な権力闘争の側面があった。これが今後統一されるということは、中国の内政で強固な権力が出現したと理解できる。
 もうひとつの面は、その「より強固な権力」の必要性は何か、ということだが、これは表面的には、中国にとっては自国領土であるべき尖閣諸島および関連の利権を防衛するということである。日本などからもそう見られているむきがある。
 しかし、海洋資源が期待される、尖閣諸島を含む東シナ海であるが、そうした経済的な利権のために、それでだけこれだけ大がかりな国家機能の統合を行うわけもなく、当然ながらこれは軍事的な意味合いがある。
 なにより今回の五龍統合は人民解放軍の羅援少将の提案であることも暗示的だ。昨年3月9日の読売新聞記事「中国版の「海保」構想 9部門統合プラン 解放軍少将が提案」より。


【北京=竹内誠一郎】中国で、東シナ海などの海上警備にあたる準軍事部門「国家海岸警備隊」の創設構想が浮上し、全国人民代表大会(国会)開会中の北京で関心を集めている。人民解放軍の羅援少将が提唱しているもので、海洋権益の保護強化に向け、警備の効率化を図る狙いだ。
 羅氏によると、中国の海上警備には、国土資源省国家海洋局に属する巡視船「海監」、農業省漁政局に属する漁業監視船「漁政」など9部門があたっている。複数の部門が同時に同じ性能の船舶を導入するなど効率が悪く、複数の指揮系統により、警備行動の混乱を招くこともあったという。
 羅氏の提案は、9部門を統合し、国家海洋局を格上げした「国家海洋省」か、関係部門で設立する「国家海洋委員会」に所属させるものだ。羅氏は、日本の海上保安庁と同等の武装を想定しているとし、「日本側と同様の組織とするので脅威とはならないはず。ただ、相手の挑発行動があれば相応の対応をする」と語った。
 羅氏は、軍のシンクタンク、軍事科学院世界軍事研究部副部長などを務めた軍のスポークスマン的存在で、当局が、羅氏の発言を通じて、国内外の反応を探っているものとみられる。

 米国もこの動向に軍事的な意味合いがある点に注目していた。五龍時代の5月のニュースではあるが、「尖閣などへ中国「ファイブ・ドラゴン(五龍)」新たに30隻投入へ 米国防総省報告」(参照)より。

【ワシントン=佐々木類】米国防総省は6日、中国の軍事行動に関する年次報告書を発表した。尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐる中国の挑発行為に初めて言及し、中国国家海洋局など5つの海洋執行機関「ファイブ・ドラゴン」の公船を使って圧力をかけ、それを海軍艦船が後方から支援していると指摘。ファイブ・ドラゴンは、2015年までに新たに30隻を投入するとの見方を示した。

 2015年という年号に独自の意味合いがあるが、同記事では説明されていない。これは後でふれる。
 今回の統合で、同局には北海、東海、南海の三分局が設置され、合計11の「海警総隊」という実動部隊をもつようになった。全配置人員は1万6296人。所属船艇は3000隻を超える。実動部隊というのは武器を使用するということで、報復措置用である。
 形式上は警察権力ではあるが、実質上、軍事的な意味合いをもつと想定できる。日本の海上保安庁も実質軍事的な意味合いをもたされているので、今回の中国海警局の発足は日本の真似と言えないこともない。余談だが、中国海警局の船舶デザインは日本の海上保安庁と米国の沿岸警備隊の船舶デザインに似ていていて、なかなか味わい深いまねっこ感もある。というか、そもそも日本の海上保安庁も米国の沿岸警備隊を模したものだ。米国の沿岸警備隊は五軍として軍として数えれることもあるように、基本これは軍隊のようなものである。
 中国「海警局」の本来の意味は何か?
 「第一列島線(First island chain)」の制海権確保である。

 別の言い方をすれば。第一列島線までの制海権が中国によって握られれば、日本にとってはシーレーンの確保が中国軍に奪われることになる。その末路は日本人ならABCD包囲網などから推測が付くだろう。
 この中国による第一列島線までの制海権の構想だが、1997年中央軍事委員会常務副主席を退任した劉華清が当時描いた中国海軍の発展計画では、当初、「躍進前期」として2010年までとしていた。すでに当初予定時期が過ぎていて、現状5年遅れたことになる。先ほどの「2015年」はそうした意味がある。
 ここから付随的に了解できることがある。中国側からは、「民主党政権時代に日本が尖閣諸島を国有化したから、中国の国益を守るためににこの海域に船舶を頻繁に送るようにした」というように言われるが、ようするに中国側の謀略(石原慎太郎など日本国内の国粋主義勢力に民主党政権が対応せよとして尖閣諸島の国有化にしむけたこと)に民主党が籠絡されなくても、現在の東シナ海の緊迫は中国としてはタイムスケジュール的な展開だったということだ(参照PDF)。
 今後はどうなるだろうか。
 単純な力の均衡だが、「海警局」の人員は先にふれたように1万6296人。対する日本の海上保安庁は1万2808人と若干劣る。大型船舶は中国側が2012年に60隻となり、日本の現状の51隻を越える。日本側の対処がなければ、これから2年以内に、中国「海警局」の力が上回ることになる。
 こうした力のバランスが崩れたとき中国がしかけてくるのは、先日のロックオン(レーダー波照射)でよくわかるように、日本側としては正当防衛であれ武力行使の誘発である。中国はこれから、日本側が武力行使を迫るような危機をなんども演出するようなシーンを打ち出してくることになるだろう。
 日本側としては、ひたすら我慢に我慢を重ねて、戦前のように「もう我慢ならない」とならないようにするしかないだろう。なんともやりきれないが、より具体的には、この海域の力のバランスを台湾とともに強化していくしかない。ただし、その台湾の軍事力も早晩、中国軍と均衡が崩れることになりそうだ。日本が我慢に我慢を重ねていても、第一列島線での暴発は、台湾やフィリピン側で起きるかもしれない。

cover
アジア三国志
 中国、日本、そして最近中国と軍事的な軋轢を深めているインドの三国の軍事的な状況は、2008年の書籍になるが、ビル・エモットの『アジア三国志』(参照)がわかりやすい。この書籍については、きちんとした書評を書いてこなかったが現時点でも多くの日本人が読まれるとよいだろうと思う。
 
 

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2013.07.22

2013年、参院戦、雑感

 事前に今回の選挙の予想をブログに書いてなかったという点では後出しジャンケン風になってしまうが、大きく予想外な結果というのはなかった。ブロガーでもあり実際のところ熱心な部類のツイッター利用者でもある私は、ネットからも今回の「ネット解禁選挙」を見ていたが、選挙結果とネット活動についても想定外のことはなかったように思う。
 ネットから覗いた選挙の風景では、山本太郎氏やワタミこと渡辺美樹氏が話題だった。が、私には彼らの主張とその国会議員としてのステータスが今後の国政に大きな影響力を与えるとは思えなかった。それでも話題は話題であり、ネットの話題らしく消化されていくのを面白ろおかしく傍観していた。
 話が今回の選挙の重点からは逸れるが、ネットで話題の山本太郎氏の主張と支持は、ネットと現実をまたがり、興味深い現象でもあったとは思う。彼の主張は基本3つあり、(1)反原発、(2)反TPP、(3)ブラック企業の規制、だった。このように簡素にまとめてみると、共産党の主張・論点と同じであることがわかる。ということは、山本氏の特徴はコンテンツ(主張内容)よりもメディア(何をつかって主張したか)とレトリック(主張のしかた)である。メディアとレトリックに酔う少なからぬ人がいたという意味だ。こうした現象をもって、メディアにはネットが活用されたとも逆説的に言えば言えるだろう(活用され過ぎて選管違反でもあるようにも見えたが)。また、共産党の今回の微妙な躍進には加えて、コンテンツ(主張内容)部分への共感と反自民党、さらに民主党への幻滅ということでもあっただろう。現実世界での共産党の活動は高齢層が多く、老人たちのパワーの潜在力に感得するものはあった。
 今回の選挙の重要な論点はなんだったか?
 実はそれが不在だというのが論点だった。有権者にしても自分の一票がどのように国政に反映するのかはっきりとしていなかった。
 山本氏の主張ような3点がこの選挙の論点だと思う人には明瞭な選挙ではあっただろうが、多数にしてみれば国政に求めるものは、生活につながる経済の向上であり、その点において、前民主党政権は失敗していたという幅広い印象が覆せなかった。経済が上向きなら、総選挙の重要性の認識が減るというのは大衆の「合理的な無関心」の当然の帰結である。
 経済が論点であるなら、アベノミクスが論点であり、その3矢、(1)金融緩和、(2)財政出動、(3)構造改革、についてどのように野党が対論を出せるかが論点になるはずだった。
 だが、その部分こそ、メディアやネットからははっきり見えなかった。くどいが、山本氏や共産党のような論点が事実上の目隠しになっていて、結果的に自民党を利していた。
 多様な意見はあるが、日本国民の暗黙の総意が今後の経済の向上であるなら、アベノミクスがどのように今後機能していくか、潜在的な問題点がどこにあるかが問われなくてはならない。そこが明瞭ではなかった。しいて言えば、みんなの党は論点を理解していた。維新党も一部では理解されていた。一部というなら民主党も同じ。この状況から言えば、こうした理解者を薄く団結する政治力が不在の選挙であった。この不在は、私が見やすかった東京都選挙区で結果的に大きな負の影響をもたらしていた(山本太郎は落選させることができたはずだったと思う)。
 山本氏・共産党的論点、あるいはその延長とも言えるが、(4)憲法改正、も論点化されてはいた。安倍自民党総裁も意図的にそこを薄い団結の焦点にしている向きもあった。
 しかし懸念されるという意味での改憲は自民党が単独安定多数になってからの課題であり、早急な課題ではない。今回の選挙の枠組みで課題になるとすれば、自民単独で参院が仕切れるようになればということだが、そうならなかった。今回の結果では公明党との連立がなければ不可能である。しかも公明党の主張は改憲ではなく加憲である。私も、加憲というのはよいアイデアであると思うので、この面では現実問題としては公明党を支持したい。
 参院選後の最大の政治問題は、10月をメドに迫る消費税増税の決定がある。これについて今回の参院選の結果がどのように反映するかが、実は、今回の参院の最大の難問でもあった。どう読むかが難しい。
 自民党が優勢になることが、消費税増税回避につながるとは言えないのがその難点の核心である。私の見てきたところでは、安倍総理は現時点での消費税増税は危険だという認識を持っているが、それが自民党内で支持されるかまで読み切れない。逆になる可能性も高い。
 単純な議論にすれば、であれば、消費税増税に反対する野党勢力に荷担すればよいではないかということになる。この点では増税策を推進してきた民主党の出番はない。すると、その補助勢力として役立つのは、みんなの党か維新党かということになる。そこが今回の選挙で個人的に迷ったところだった。なお、共産党や社民党など旧左翼系の政党も消費税増税に反対しているが理路がまったく異なるので、その荷担は混乱を招くだけになるだろう。
 この文脈で言えば、今回国政で自民党が優勢になったことで、旧来の自民党政治に戻ったという判断は選挙後の現時点で言うことはできない。その判断は、消費税増税決定が下される10月の時点でということになるだろう。以前も書いたが、消費税が日本経済に深刻な影響を与えるのは8%増税が終わった時点なので、その間、アベノミクスがまさに旧来の自民党のように利権と再配分の政党に堕してしまえば日本経済の先行きは懸念される事態になる(そうでなくても中国経済の消沈化も懸念されるが)。
 具体的に今回の選挙ついて、特に新味はないとも言えるのだが、NHKの結果表示がわかりやすかった。ちょっと見にはわけのわからない図だが、20秒も見入っているといろいろ納得する(参照)。

 今回の選挙で明瞭でもあり前回などからも予想もされていたが、一人区は優勢な政党が全取りしてしまう。今回は自民党が圧勝した。この時点で、自民党の圧勝と民主党の敗退は予想されていた。「ねじれ解消か」は偽の論点だった。
 二人区やそれ以上の区については後に回して、比例区については、基本的に国民の支持政党の傾向が反映する。これも今回は自民党と組織票の固い公明党ががっちりと押さえた。その他の党もそれなりに押さえていて、どの政党もきちんと選挙運動していたことが読み取れる。
 残りは、中選挙区的な二人区やそれ以上の区であり、数が増えれば比例区に近づく区分だが、ここではその傾向通り、国民の支持や既存基盤のある政党が比例的に上がってくる。ざっと見た印象では、民主党が壊滅したわけでもない。
 今回の選挙をもって二大政党は終わったという議論も見かけたが、むしろ、民主党は、鳩山さんや菅さんのように抜群に面白い人を整理して、みんなの党や維新党と集合すれば、新しい勢力にはなりうるだろう。アベノミクスが自民党の混乱で頓挫したときの代替勢力として期待したい。
 その他の雑感としては、社民党が諸派になるのかとか、沖縄の社大党とはなにかということも思うことはあるが別の機会にしたい。
 
 

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