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2013.12.07

特定秘密保護法が6日夜の参議院本会議で可決、その雑感

 特定秘密保護法が6日夜の参議院本会議で可決され、成立した。ごく簡単に言えば、見切り発車の法律となった。
 見切ってよかったのかと言えば、自民党、特に安倍首相はかなり譲歩したし、国内外から批判されていた問題点の多くも修正されたので、ここで廃案にするデメリットとメリットをバランスして見れば、しかたがなかったかという苦々しい思いはある。
 日程的に押していたのは、本法案と両輪になる日本版NSCである国家安全保障会議の効果的な運用ということがあった。逆に言えば、この法案の阻止は日本版NSCの弱化に繋がり、現時点で日本の外交・軍事弱化のメッセージを出せば、そうでなくても日本のメディアなどから発信される混乱した日本の外交・軍事情報で中韓などが勘違いした攻勢に繰り出しているなか、さらなる混乱を招きかねない。
 もう一つ日程を押していたのは、来年度の税制改正や予算編成作業だった。消費税増税によって、経済の悪化が想定されることから、各種の対応が求められる。
 今回の特定秘密保護法で可決ではいろいろな意見もあったが、タメの議論も多かった。例えば、総理が40万件とも言われる特定秘密を点検することは現実問題として不可能だといった指摘だが、9割がたは地図情報なのでその問題設定は本質的ではない。「拡大解釈」も危険視されたが、そこで重要なのは、戦前との比較といった拡大解釈の物語ではなく、現実的な現在のチェック機構のほうだった。国外からも人権の点での指摘があったが対象とされる諸点は土壇場で修正を受けている過程だったので、報道側ではもう少し整理も必要だっただろう。
 現時点で重要なのは、発車前にどたばたと口約束された、なかでも「情報保全監察室」の扱いである。
 菅官房長官は5日の参議院特別委員会で、「法律の施行までに内閣府に20人規模の『情報保全監察室』を設置して業務を開始したい。必要な場合は立法により、できる限り『情報保全監察室』を『局』に格上げすることを約束する」と述べたが、現状では「必要な場合は立法」という口約束だが、これを(1)法改正に盛り込み、また、(2)同室の独立性を高めて行政から分離できれば、とりあず及第点ではないかと私は思う。
 この後者の点についても、菅官房長官は「法案の付則に盛り込まれた独立した公正な立場で検証し、監察できる新たな機関は、法的にも高度の独立性を備えた機関であるべきだと考えている。実際の業務遂行の在り方などを検証しつつ、『内閣府設置法』などの改正の検討を進めていきたい」と述べ、全体としての方向性の認識は正しく示されている。が、機構的には内閣府内に設置されることになりそうなので、大きな課題を残したことになった。
 それにしても、みんなの党に押され、土壇場でチェック機構が出て来たのは、当初はそれだけずさんな法案だったことが否めない。ただし、土壇場の経緯を見ると、安倍首相はこの欠陥を予期していたようにも見受けられた。今回の法案は「強行採決」という批判もあったが、そもそも現自公体制なら、往事の民主党政権のように最初から議論もせず文字どおり「強行採決」させることもできた。むしろ、安倍首相はそれを避け、みんなの党を中心に野党や国外の批判を吸収したがゆえに、土壇場の修正となった。
 むしろ、ずさんさの根は、自民党と官僚機構のなかにあったのかもしれない。
 一連の経緯で私が一番残念だったのは、民主党の海江田万里代表が「天下の悪法が衆院を通過してしまった。全くの暴挙であり、参院の努力で廃案に追い込もう」と述べたことだった。もともと民主党政権時に蒔いた法案であり、政権政党まで担った民主党が、この法案の重要性を理解できないわけがなく、そうであれば、土壇場を前倒しにしてチェック機構を法案に盛り込む提言を積極的にすべきだった。しかし、海江田代表の頭にあったのは、「廃案に追い込もう」ということだった。落胆した。現下の政治風景でなにが残念かといえば、現政権がこけたとき、金融・経済政策と外交・軍事政策をきちんと堅持できる代替政治勢力が見当たらないことである。
 もう一つ余談めくが、知識人の頽落した光景にも溜息が出た。そんなものは1980年代の反核騒動で経験済みと言えないこともないが、むしろ、それ以降に登場した、オールタナティヴな知性が今回の件で、ばたばたと屈していく光景を見た。洒落た諧謔や、中立的な冷静な視点で議論を展開していたオールタナティヴな知性が、たとえば反自民ならなんでもいいといった素朴な政治構図に落ちていく様を見るのは、なんとも言いがたいものだった。

 ちなみにチェックの4機構をまとめておく。ソースはNHK報道である(参照)。

「情報保全諮問会議」
 政府が「特定秘密」の指定や解除、それに「特定秘密」を取り扱う公務員らに対して行う「適性評価」の統一基準の策定にあたって、有識者から意見を聴く会議。
 メンバーは、情報保護、情報公開、公文書管理、報道、法律の各分野の専門家。彼らは、政府が「特定秘密」の統一基準を策定したり変更したりする際に意見を述べる。また、「特定秘密」の指定や解除などの状況について、年一回、総理大臣から報告を受け、総理大臣が国会に「特定秘密」の実施状況を報告する際に意見を述べる。ただし、メンバーには、個別の特定秘密の内容を知る権限は与えられない。

「保全監視委員会」
 米国務省や国防総省などの代表者で作る「省庁間上訴委員会」に相当する機関。
 総理大臣が「特定秘密」の指定や解除などの状況をチェックする役割を補佐する。具体的には、定期的に会合を開き、大臣など各行政機関の長が行う「特定秘密」の指定や解除の状況、有効期間の設定や延長、特定秘密を取り扱う公務員らに対して行う「適性検査」の実施状況をチェックしたうえで、総理大臣が「情報保全諮問会議」や国会に毎年提出する報告書を作成する
 メンバーは、内閣情報官に加え、外務省と防衛省の事務次官や警察庁と公安調査庁の長官らが想定されている。

「独立公文書管理監」
 米国国立公文書館の下「情報保全監察局」に相当する機関。
 特定秘密文書の廃棄の可否を判断するほか、特定秘密の指定期限を過ぎた文書が国立公文書館に適切に移管されているかなど、文書の保存や管理の状況をチェックする。
 この機関には個別の特定秘密の内容を知る権限を与えられ、適切な運用を行っていない行政機関の長に対しては、是正を勧告することもできる。

「情報保全監察室」
 「保全監視委員会」とは別に「特定秘密」の指定の妥当性などをチェックする。具体的な内容については未定だが、原則としては「ツワネ原則」に準じるものになればよいだろう。
 
 

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コメント

機密情報が漏れるようなことがないことを切に願いたい。年明けに、外国のWEBですっぱ抜かれたりしないように。

心配なのは、断片的に公務員が、秘密をもらしたつもりがなく、流すこと。で、外国人がそれをつなぎあわせると、秘密がわかるってこと。これは、別に特殊なスパイじゃなくて、普通の外国人が取材や社交するだけでも、流れていきそうで、まだ、信用ならない。それと、なぜ、マスメディアは、地道にそういう取材活動を積み重ねないのが不満だな。別に機密じゃなくても、大切な情報財産を失ってばかりいるみたいで。ただ、日本語で拡散しずらいが壁になってるだけで、とほほ。要するに、関心がないのだろうな、日本の・・・

投稿: | 2013.12.07 19:54

アメリカとの連携とか言われていますが、結局、アメリカの秘密は死守させられて、日本の秘密はアメリカしだいで公開されるんだろうとしか思えません。戦後何度目かの敗戦。
そして、こんな法律があれば守屋さんの事件は事件にならなかっただろうし、会計検査院ももはや怖くないし、動く金が大きい防衛省が汚職の殿堂になるのもすぐでしょうね。
この法律さえあれば、一色さんの件は、もみ消された可能性が高いし、下手すれば拉致問題までもみ消された可能性がある。これから何か海外勢力がらみの事件があったとしても、それを防げなかった官僚が失点を糊塗するために、もみ消す可能性もある(特に中国がらみ)。
こんな醜聞が明るみに出たら国益を損なう。国益を害してまで公開する覚悟があるのか。あんたの支持率も落ちるぞ。と官僚に迫られたら、それに対抗できる政治家はいないでしょうし。

投稿: takayamasi | 2013.12.07 20:17

>土壇場の経緯を見ると、安倍首相はこの欠陥を予期していたようにも見受けられた。

わざと「欠陥」を入れておいて、野党に修正させつつ手柄を取らせるつもりだったんじゃないですかね?
むかしはそういう「プロレス」をやってたような…

投稿: | 2013.12.07 21:59

存じなかったのですが、反対声明を出している著名な方が結構いたのですね。最近はテレビも新聞も見ないので、知りませんでした。

投稿: kansatsusha | 2013.12.07 22:14

自作自演であり不正戦争
日本が中国と戦争する

投稿: 不正戦争 | 2013.12.07 23:36

 この法律がずさんなのをブログ主さんが承知であれば、廃案または継続審議をブログで主張される事が筋でしょう。与党は両院過半数なのですから、別に次に修正して通すことは可能ですので、急ぐ理由は実はありません。

 そもそも第三者機関の設置及びその内容は普通に国会提出の段階で法律に盛り込まれていて当然だと思われますし、そうすれば普通に考えればその内容を審議するための国会となったでしょう。わざと欠陥法案を出したのは第三者機関の内容を国会で野党と協議したくなかったのが理由でしょう。

 この法律は賛成反対以前に提出する事自体憚れる欠陥法案なことは、誰の目にも、提出している自民党の議員達の目にも明らかな法律でした。常識的にまともな頭があれば反対されて当然の法律でしょう。これは、後で野党から反発を受けることを想定の上で、途中で第三者機関を出すことをにおわせるような修正協議をすることで、妥協したかのような印象操作をするために、わざとテクニカルに欠陥法案を提出したということです。維新の橋下市長がよくやるような姑息な手段です。

 元々欠陥法案を出した自民党に問題があるのに、それを理解しているにも関わらず、野党、マスコミに責任転嫁するブログ主さんの神経が疑われます。

投稿: いえ | 2013.12.09 00:39

ツワネ原則のご本尊がダメ出ししてるしw
いつものことながら自民を買いかぶりすぎなんだよねファイナルさんは
石破なんかあれなんにも分かってねーじゃん

投稿: | 2013.12.14 02:14

この法案に反対してる人間の意見って何時も同じだよな
「欠陥がー」を繰り返すだけで何が欠陥なのか具体的に説明しない
民家人からも逮捕者が出るとかいうデマに騙されてるわけじゃないよな?
この法案で変わることってのは公務員の機密を漏らした時の罰則が少し厳しくなるのと(以前から罰則はあった)、誰がそれを秘密に指定したのかが明確になることくらいだよ

投稿: | 2013.12.27 16:02

正直 反対してるサヨクの面々が気持ち悪かった
本案も特別騒ぐような強制的なものはなくやっと独立国として必要なことに着手したに過ぎないのにな

投稿: | 2014.02.23 05:14

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