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2013.11.20

年取って学んでも意味ないとも思うけど、学ばないと社会の害になりかねない。そこでお勧めの三冊なども。

 先日、ぼやっとツイートしたのだが、「年取って学んでも意味ないとも思うけど、学ばないと社会の害になりかねない」ということ。あとからぼんやりいろいろと考えた。
 まず、ネット的な文脈で言うと、誰かを批判するという意図はまるでない。つまり、あいつは年取って学んでないから社会の害だとか非難・糾弾する気はない。なにより、自分について思うことだ。
 もうちょっと言うと、僕なんかもいろいろ本や雑誌を読んだり、英語のサイトとか読んだりしているけど、基本、知的関心からで、さほど「学ぶ」という意識があるわけでもない。気になることは調べるかな、というくらいだ。ただ、その調べるかな、ということが普通の知的関心で済む範囲をちょっと超えるあたりで、「学ぶ」という感覚が起きる。普通に、高校生が「生物」や「地理」を学ぶというくらいの感覚だが。
 そこで、じゃあ、実際にそうして「学ぶ」ということをして、社会の害になるのを若干免れたかもしれないという実例はなんだろうかと、思い直してみた。
 いろいろ思うことはある。このところよく書いている筋トレとか語学とか。しかし、もうちょっと一般的な意味で、いわゆる知的関心の読書から、「勉強になったなあ」という部分に移行するような読書としては、具体的にどういうのがあるかなというと、ふと三冊思い浮かべたので、そういう文脈で書いておきたい。
 新刊書ではないし、ある意味、状況的に若干古くなっているのだけど、この三冊を読んで「学んだ」おかげで社会や世界をきちんと見ることができるようになったなという実感はある。たぶん、その分、社会の害にならずに済んだのではないか、とも。

1 「世界を動かす石油戦略」
 2003年に出た本なのでもしかして絶版かなと思ってアマゾンを覗いたら案の定、絶版だった。ただ、中古で1円から売っているし、たいていの図書館とかにもありそうだ。

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世界を動かす石油戦略
 この本で、なるほどなあと勉強になったのは、石油というのは、ありがちなコモディティだということ。いやそんなことは当たり前ではないかと頭では理解はするのだが、昭和32年生まれの私などは、若い頃リアルに石油ショックを経験しているし、日本が戦争に追い込まれた歴史などもよく聞かされたものなので、石油について、「油断」大敵的な考えや、米国石油メジャーがどうたらとつい連想してしまいがちだ。ちなみに、逆に言えば、先日cakesに書評を書いた山崎豊子『不毛地帯』(参照)などはつい心情的に理解できたりする。
 しかし実態はというと、OPECにも石油メジャーにも石油価格の価格決定権のようなものはないし、米国の石油の中東依存は低く、また今後、石油が枯渇して世界経済が困窮することもない。こうした悪夢のような幻想は本書を学ぶとすっと消える(別の問題意識は生じるが)。もっとも、この手の幻想を騒ぐ人には独特の雰囲気があって、それだけでちょっと引いているものの、関心の片隅くらいには置くといった負担もなくなる。
 本書出版から10年経て、現状はどうかというと、状況は多少変わりつつあるし、リビアの石油の特殊性やアフリカの石油資源といった問題もあるが、本書の基本的な枠組みが変わるわけでもない。この10年間、本書の指針で世界を見ていくとけっこうすっきりとわかったし、その延長から理解できたことも多かった。
 本書の考え方の延長から、現下のシェールガスやロシアの極東開発なども見えてくる部分もある。これらの問題もすっきり見える書籍があるとよいのだけど、あまり知らない。特に、今後北極海航路がエネルギー戦略にどう影響があるかなど、中露関係と絡めて知りたいが、良書は知らない。
 いずれにせよ、今読んでも本書は良書だし、この本を読んでないで、変な幻想をばらまいて社会の害になっている老人は多いなあと思うことがある。

2 「アジア三国志」
 著者のビル・エモットはそれ以前からフォローしていた論者だが、本書が出た2008年には随分と野心的な作品だなと思った。内容はというと、表題が暗示するように、これからのアジアの力学は、日本・中国・インドを中心に経済・軍事面で動くということだ。ちょっと蛇足的にいうと、韓国は基本的に雑音でしかない。困った雑音や道具にはなりうる。北朝鮮は軍事的な意味より、現下のシリアなどと同じで国際ルールと人道問題にはなりうる。

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アジア三国志
 本書が出た2008年時点ではまだ中国の軍事的な海洋進出が明確ではなかったが、各種の動向は本書のフレームワークできちんと説明できた。また日本政府が軍事面で長期的に何を意図しているのかもよくわかったし、民主党政権がその点で旧来の頭脳のまま壊滅的な道を進んでいることもわかった。まあ、これらも社会の害の部類だなあと傍観していた。
 インドについては、浮沈は大きい。現状は沈静している。また、日本ではほとんど報道されないが、中印の軍事緊張はこの間、けっこうあった。ただ、両国ともけっこうきっつい状況になるとそれなりに緩和に乗りだし、特に李克強はいい仕事をしている。このあたりの中印の交渉などは、日本ももっと注視すべきだが、日本のジャーナリズムの意識は薄い。あと、日本がうっすら抱くインドに対する親和感は甘すぎるかなという印象はある(核やミサイル問題も)。
 いずれにせよ、そうしたリアリズムや全体フレームワークを見る面で、未だ本書は必読書と言っていい。多少情報が古くはなっているし、震災と民主党政権で思わぬ弱体化をくらった日本が想定外だったというのはあるもの、現在のほうが出版当時より理解しやすい。

3 「日本経済にいま何が起きているのか」
 2005年の出版なので絶版になっているかと思ってはいた。これも案の定絶版だった。著者は現在日銀副総裁ともなった岩田規久男である。当然、リフレ論なのだが、高橋洋一などのリフレ論とは違い、また他の岩田の書籍とも違い、リフレ論を高校の教科書のように懇切に説明している。表題を見ると状況論のような印象を受けるが、きわめてシンプルな書籍である。そこが良かった。

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日本経済にいま何が
起きているのか
 本書が良書かというと、いろいろな評価があると思う。また、専門スジからはそれなりの実証的な批判もあるだろうと思う。
 自分にとって良書だったのは、リフレ論については、20年前くらいのクルーグマンの論調などの影響もあって、けっこう相対的に見ていた自分だったが、本書を丹念に追っていって、そのシンプルな説明でけっこう腑に落ちたことだった。
 安倍政権になってから、リフレが日本経済の突然主役に乗りだし、当初は珍妙な批判が目に付いたが、時が経つにつれそうした初期の珍妙さは減少したものの、状況論的な暫定的な是認のような議論が多くなってきた。これは、実はけっこう危ういなと思っている。露骨にいうと、安倍政権への敵意からせっかくのまともな金融政策までおじゃんにするような政争のトリックが仕掛けられる可能性はある。もちろん、安倍政権を単に支持するわけではないが、現行の金融政策はせめてあと一年は継続してほしい。雑音が起きて、状況が変わると、状況論的な暫定的な是認はすべて逆流するので、そのあたり、流されるのではなく、基本のリフレ論を理解しておくほうがよいだろうと思うのである。これは、リフレ派が正しいとかいう次元の話題ではないが、まあ、私などもけっこう誤解された。
 本書もかなり古くなっていて、その後の米国FRBの動向の意味などは十分に反映されていない。なかでも、次期FRB議長に指名されているジャネット・イエレンはリフレ派の基本をさらに労働市場の観点から見ている人なので、むしろ、そうした視点での、本書の延長のようなシンプルな解説書があれば、読んで学びたいと思う。こんなことは初歩の初歩だと識者からは笑われそうだが、シンプルな説明で腑に落ちるというのがとても大切なことだと思う。
 蛇足がてらにいうと、こうした基本もわからずに、日本経済の成長だとか企業の生産性だとか、奇妙の煽りを盛り立てては社会の害になる議論は、ご勘弁してほしいなあと思うのである。
 
 

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コメント

知識・見識・胆識っていうんでしょ?

若いと知識だけになっていてもしょうがないけど・・・、それにしても、ネットは、知識と、その嘘との境界線を遊ぶのが主流なままな気がする。寄付は知識だけじゃカバーできないのに、まぁ、ネタにしてずいぶんひどいことやっているのを見て、気持ち悪かった。ま、国民についての見識もない政治家とか役人とかから比べれば、かわいいもんだけどね。

そうそう、あと、子育てで苦労している若い人がいるみたいだけど、見識から学ばないと。身近に人間の子供についての見識をもっている人がいないなら、犬の調教がオススメ。ゴールデンレッドリバーは、小学一年生らしいし、犬についての見識がある人の話だと。ま、欧米人だと、犬ともディスカッションできるかもとか。

投稿: | 2013.11.21 07:15

見識がない年寄りは醜い
これを老害と名称したのか知らないが
さて学ぶ見識ある年寄りの豊富な知識と経験はそりゃ凄い価値ある素晴らしい宝だ
と同時にそれも老化により色褪せる
判断力の劣化である…自動車の運転が一般的
残念だがこれは誰も避けられない今のところ
だが
身体的な寿命は科学の賜物で大分伸びてる いや伸び過ぎてバランスを崩した年寄りが老害に変わり果てる
見識の違いで差はあるけど引退の判断力は自分では難しい

年寄りは草木を愛する家もそうだが身体が丈夫ならやはり生き物が良い
猫はとても可愛い
子育てに近いか?後継者としては不足だが
死ぬまで仕事があるわけだ

投稿: | 2013.11.24 13:13

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