消費税増税。来年の花見は、お通夜状態になるか
来年(2014年)4月の消費税率8%への引き上げが決まった。それなりにマクロ経済を勉強してきたように見える安倍首相のことだから、もしかするとこの時期での決定は先延ばしにするのではないかという一縷の望みはあったが、むなしかった。
「この時期で」というのはデフレのさなかということだ。9月27日発表の消費者物価指数(CPI)では、前年同月比0.8%上昇で3か月連続プラスとなり、これをもって同時甘利明経済再生相は、閣議後会見でデフレを脱却しつつある過程にある、と述べたが、加えて、まだデフレ脱却に至っていないことも認めていた。同日のロイター「デフレ脱却しつつある過程=8月CPIで甘利経済再生相」(参照)より。
同相は8月CPIを受け、日本経済は「長いデフレから脱却しつつあるという過程にある」との認識を示した。もっとも、電気代やガソリン代など円安の影響を除いたコアコアCPIは同0.1%低下と引き続き水面下にあり、「これがプラスに転じ、大きなショックでもない限り、もとの状態に戻らない環境が整備されたときに(デフレ)脱却といえる」と語った。
その上で、物価が上がっても賃金が上がらないような状況では、デフレ脱却にはならないと述べ、企業業績の改善が賃上げに反映され、設備投資や消費に結びついていく「好循環」が不可欠と語った。
安倍内閣としては、デフレの指標となる「電気代やガソリン代など円安の影響を除いたコアコアCPI」に着目し、消費税増税決定の判断材料としていた。7月9日ロイター「〔焦点〕政府のデフレ脱却判断、「コアコアCPI」採用へ」(参照)より。
5月全国消費者物価指数(除く生鮮、コア)が前年比0.0%とマイナスを脱し、デフレ脱却の局面が近づいているとの声が一部のエコノミストから出ているが、政府はエネルギー関連を除いた「コアコア指数」で判断する方針を明らかにしている。コア指数の上昇には、単純に需要の強まりと判断できない「訳ありケース」が含まれているからだ。デフレ脱却判断のハードルが高くなり、結果として消費増税判断に影響する可能性もある。
このようにコアコアCPIを基準にデフレ脱却時期を判断した場合、脱却を政府が宣言するタイミングは、コアCPIを基準に判断する場合よりも、かなり先送りされる公算が大きい。
そのことは、政府が秋にも判断する消費税率の引き上げ判断に対し、微妙な影響を与える可能性がある。
安倍晋三首相周辺のリフレ派と呼ばれる学者や専門家が、増税実施の判断にはコアコアCPIの上昇定着を伴うデフレ脱却の確認が必要と主張しかねないためだ。
結果からすると、今日の消費税増税決定で、コアコアCPI上昇の定着を待たずに見切り発車した形になった。
また、同種の指数として東大物価指数(参照・参照)もある。
いずれにせよ、デフレ脱却の見通しがまだたっていない時点で、消費を圧迫する消費増税が決定された。
どうなるか。
今日夜7時のNHKニュースでもエコノミストたちの予想をまとめたグラフを示していたが、来年3月ごろまでは駆け込み需要で消費の動向は崩れず、経済成長も緩やかに続くが、3月に入るころか、その半ばあたりで、ズドーンと急降下をはじめる。その渦中で消費税が上がることになる。
これでは、お通夜のような暗いお花見ということになるのではないか。
その後は、一時期の落ち込みは来年の8月に向けて持ち直していくとも予想されるが、それでも現在のような状態には戻らず、失われた30年に向けて、日本が邁進していくことなるか、あるいは、安倍首相はなんとか2年もちましたね、立派でした、みたいなことになるかもしれない。
こうしたことは安倍首相本人もわかっていても、どうしようもならかったのだろうという気もする。
記者会見では、安倍首相は増税の衝撃を和らげる点に配慮しているふうでもあった。日経「消費税、14年4月8%を政府決定 経済対策5兆円 首相「経済再生と財政健全化、両立しうる」(参照)より。
消費税率引き上げは橋本龍太郎内閣で1997年4月に3%から現行の5%に引き上げて以来、17年ぶり2回目。民主党政権だった野田佳彦内閣で12年8月に成立した消費増税法に基づく。3%分の引き上げで消費税収は年8.1兆円増える見通しだが、初年度の14年度は約5兆円増にとどまる。政府は5兆円規模の経済対策で負担増の痛みを和らげたい考えだ。
8兆円の増税に対して、5兆円規模の経済対策、というのだが、問題は単なる引き算ではないことだ。消費税は一年で終わるのではなく、恒久措置となる。さらに2015年にはさらに2%上がって10%になる。デフレ脱却もしれない状態でこれが続く。
困ったことになったと思うが、とりあえず、8%に上げようとして、ずどーんと日本が沈むか、散りゆく桜の風景とともに静観するしかないだろう。
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コメント
お通夜にはなりませんよ。貧乏人が増えて、気軽になれて、明るい毎日です。ただ、一部、強烈に恨む人がでて、金持ちが用心棒を雇わないと街を歩けなくなるんでしょうね。そうこうしているうちに、国全体も貧乏になるし、日本の大銀行にある金が、外国人のものになってしまって、いくら増税しても、日本国民が貧乏人ばかりなので、たいして財政の足しにもならなず。つまり、日本全体がホームレス状態になりそうですね。
当たり前のことです。欧米にしても世界中、エリートという人は必死に働いていたり、高い税率を背負ったりしているのに、日本のエリートは、チンタラやって、序列争いが仕事で、浮気しまくってセクハラ三昧なんだから、負けるに決まってるでしょ。日本式科挙の官僚と、日本式宦官の大企業のなれのはてです。で、一番苦しむのは、日本のエリートたちです。バカだから、笑。
できたら、気がついて、真面目に真剣に必死に働いてほしいものなんだけどなー、エリートのみなさん。
投稿: | 2013.10.02 06:34
今年はアベノミクスに湧いたけど桜が咲くのが早くて盛り上がらなかった。
もう盛り上がる花見は起きないんですかね…
投稿: a | 2013.10.02 19:08
10月の日銀短観も判断材料にはしなかった。 当初、安倍さんは、「消費税増税の判断は10月の日銀短観を見てから決めます」と繰り返し説明していたわけだが、今朝(10月2日)の読売新聞朝刊4面に、興味深い記事が載っていた。
<9月10日午後、首相官邸の執務室。 麻生・菅・甘利が安倍を囲むようにして座った>という場面から始まるこの記事の内容は、増税に伴う経済対策を2兆円にしてくれという財務省に対して、麻生が5兆円を分捕って来たという話がひとつ。 そしてもうひとつは、公共事業などの財政出動一色だった麻生案より、安倍は甘利の提唱した復興特別法人税廃止など法人税減税が経済再生につながるという案に乗ったということ。 税制改正措置が2.5兆円になる。
「この線でお願いしたい」「しょうがねぇなあ。 頑張ってみるか」安倍の要求に麻生が答えた。 4人はその場で、消費税増税の代わりに消費税の約2%にあたる5兆円規模の経済対策を行う方針を確認した。 予定通り消費税率を4月から8%に上げることが決まった瞬間だった。 読売新聞の記事はこう結ばれている。
つまり9月10日の時点で増税は決断されていたわけだ。 コアコアCPIどころの騒ぎではない。 とは言え、当初から安倍さんが、増税ありきで動いていたとは言い難い。 だが、社会保障・税一体改革関連法に明記された景気弾力条項(景気が悪ければ先送りしようねという条文)は、財務省が巧妙に仕組んだまやかしだと気付いていた。 財務省はこんな脅しをかけている。 もし消費税増税を延期、または破棄したら、三党合意を破棄したとみなし、民主党の海江田が内閣不信任案を発議する。 野党だけでなく、公明や大多数の自民党議員も賛成に回る予定だ、と。
こうなれば、もはや政策というより謀略だ。 先にはIMF出向職員の口を使って増税賛成を発信させ、自ら人選した有識者会議でも賛成させ、さらにはマスゴミを使って9月半ばから増税決定を書き立てさせ、今月の日銀短観にまで手を加えた痕跡がある。 姑息なまでに姑息な手段を重ねて安倍さんを追い込んで行った財務省。 これが今回の騒動の真実だ。 なぜそうまでして財務省は…という解答は、紙幅の関係で割愛するが、国民はすべて知っているぞと言っておく。 近いうちに倍返しだ。
投稿: お | 2013.10.03 03:10
さっそく<倍返し>が来ましたのでご連絡。
これは<倍>どころか<十倍>返しですwww
<内閣人事局の設置>に関する法案。
秋の臨時国会に提出されます。 現行の人事院は財務省の所管です。 それを内閣に移行させようとしています。 これにより人事院の権限を政府に移し、官僚、特に財務官僚の好き勝手ができないようにします。
当然、財務省の人事も内閣が握ります。 姑息な日本売りを続ける財務省には<因果応報>と言ってやりましょう。 この法案が成立すれば、財務省はまさにグゥの音も出なくなりますwww
投稿: お | 2013.10.05 01:59
国民からこれ以上借金しようにも、金融機関の株式を外国の年金基金に買いまくられていては、それもできないのでしょう。
日本の財政健全化が世界的な要請なら、それに応えない訳にはいかないということではないでしょうか。
投稿: enneagram | 2013.10.07 07:09