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2013.10.30

とりあえず30日間ピンズラー方式でフランス語を勉強してみた

 特に深い理由もないのだけど、とりあえず30日間フランス語を勉強してみた。しいていえば、脳トレになるだろうかという思いだった。
 脳トレというのは筋トレからの連想である。筋トレを初めてもうすぐ5か月。成果は依然、あるような、ないようなという程度。なので、やりかたは間違っているのかもしれないし、そもそも、自分の年齢を考えたらそんなものさ、というのはあるかもしれない。
 それでも、この年になっても、筋トレやってみるもんだなという実感はある。あると言えばある。もともと太っているタイプではないが、さらに身体がしまった感じはする。脚はかなり軽くなった。腕の筋肉は思ったほど付かないが、肩の筋肉が少し付いてきたのか、衣服が着やすい。姿勢って肩と胸の筋肉のことだったのなと思う。それと筋トレに合わせてやっている有酸素運動の成果なのかわからないが、いまだに半袖で通している。で、今度は脳トレ。
 脳トレが必要なのか。ボケて来たのか自分? 年取って脳がボケて来た感はあるかというと、残念ながらあるなあという感じがしていた。では脳トレに効果があるかというと、これは現状では医学的にはよくわかっていない。でも、やってみて悪いものでもないだろう。では何をするかということで、語学なんかいいんじゃないか、フランス語とか、という単なる思いつきだった。
 大学に入ったころ、大学生というのは第二外国語をするものだというのと、アドバイザーがNHKでフランス語を教えていた三保元先生だったので、フランス語でも勉強するかなと思ったものだった。ちなみにフランス文学は彼女に学んだ。
 当時のフランス語の勉強だが、岩波書店の学習書とか買って自習した。そのころ古典ギリシア語やラテン語を学んでいたので、そんなのと並行していた。
 古典語というのは文法を理解したら、あとは字引で文章を読むばかりなのだけど、現代語というのは、そういうものではない。だけど、なんとなく古典語も現代語も同じような感じで理解していたので、結局、フランス語がどういう言語かというのは理解しても、使える語学としては全然身につかなかった。
 その後、ドイツ語とかもちょっと囓ったけど同じようなもの。さらにその後大学院に進むにあたり、第二外国語が必要になり、こともあろうかロシア語を学んだ。いちおう学んだのだが、これが完膚なきまでになんも覚えていない。語学、だめだ、自分。そもそも英語もろくにできないし。
 という状態で、人生は過ぎていって、50歳も過ぎて、いまさら語学なんか勉強しても残された人生、そんなにないし、そもそも頭脳も劣化するばかりと諦めの境地だったが、渡部昇一が70歳近くなって、若い頃に断念したラテン語を本格的に勉強しはじめたことも思い出し、そういうのもあるかもしれないと思い直していた。
 そもそもこの年になって、ゼロからスタートというほどでもないが、ほとんどゼロになっている状態で、第二外国語とか修得できるんだろうか?と考えたら、自分で実験してみたくなった。
 若い頃、英語の教職課程も取って、自分がたいして英語もできないのに、英語をどう教えるかという理論も少し学んで、各種の語学教授法があるのは知っていた。あれをフランス語で自分に適用したら、いったいどうなるんだろう? こりゃもう、試してみるしかない。

cover
Pimsleur French I,
Comprehensive
Learn to Speak and Understand
French with Pimsleur
Language Programs
 たまたまオーディブルに「ピンズラー」があった。日本のアマゾンでCD版も売っている(参照)。ピンズラーというのは応用言語学者のPaul Pimsleurで、独自の言語学習法を確立した人である。どう独自かというと、いくつか基本の理論があるのだけど、簡単にいうと、音から順に入る。つまり、対話的に教えていくということ。教本はない(実際にはある)。この際、できるだけおうむ返しはさせない。「はい、私のあとについて言ってください」というのは基本的にはない(実際にはある)。
 この手の語学学習法は、グレーデッド・ダイレクト・メソッドといって、いくつか種類があって、理論的にはピンズラーが優れているかはよくわからない。まあ、ごたくはいいからやってみるか。英語でフランス語を教えるという教材である。頼るのは耳と記憶力だけ。第一段階は30日間。一日のレッスンは30分。
 実際のところ、自分がどこで、これを放り投げるのかというのにも関心があった。どうせ第二外国語なんて、むりむりと思っていたのだった。
 結論からいうと、第一段階、30日が終わった。どのくらい成果があったかだが、限定された語彙なら、ひょいと口をついてフランス語が出てくるようになった。自分でもけっこう驚いている。
 フランスに行って、ナンパして、食事して、お買い物して、20ユーロは高いですね、18ユーロでどう。ダコール。みたいなことは言える自分がいる。もうちょっと言うと、初級フランス語くらいの文法は知識じゃなくて自然に音感みたいにカバーできた。
 第一段階は基本的に三つに分かれている。最初の10日間は、こんなんでいいのかなあという感じだが、それでも、ばしばし問われては、喋らされる。ほんと、記憶力テスト、脳トレという感じ。
 次の10日間は、徐々に語学学習が深まるという感じ。文法的な説明はあるけど、極めて少ない。驚いたことに、文法を類推させるような問いかけがある。
 どこで自分は断念するのかなと、そして残りの10日間くらいになると、当初、英語だったインストラクションがフランス語になってくる。つまり、フランス語で問われて、フランス語で答えるというものが多い。言われているフランス語を聞いて問いかけを理解しないといけないので、ぐっと難しくなり、1日30分じゃむりだと二回くらい聞くようになる。1時間かかる。でも、二回目くらいにはわかる。レッスンの冒頭に、それまで学んだ単語と文法で一連の会話を聞くのだけど、あれれ、自分、フランス語聞いてわかっているのかという、変な気分になる。
 これはすごいやと思った。一日30分なら30日で15時間だけど、実際には20時間以上はかかった。というあたりで、TEDにあった20時間でなんでも学べるという話を思い出した(参照)。この話題、昨日のGIGAZINEにも載っていた(参照)が、20時間で新しいことを身につけるには4つのことが重要。余談だけど、これって基本的にデカルトの方法序説と同じ。

(1)習得したいスキルを分解する
(2)自分で間違いがわかるくらいにまで学習する
(3)じゃまになる物事を排除する
(4)少なくとも20時間は練習する

 これらの点で、ピンズラーはすべて満足している。スキルは最初から分解されグレーデッドされている。間違いはすぐにわかる。じゃまになる……というのはなんだけど、文字を排除するのは意外に語学に役立つ。20時間はぴったり。
 文字を排除するというのは、これは言語学ではごく基本の考え方なんだけど、語学学習ではなにかと徹底されない。しかし、Pimsleurはさすがに言語学者だけあってけっこう徹底させていた。それでも、文字を全部排除するわけにはいかず、レッスン9から読み方のレッスンが入る。これがまた実に独自なものだった。あと、レッスン28に、ものすごい爆笑もののレッスンがあって感動した。
 さて、これがしかし万人に向くかというと、わからない。なにしろ基本は英語でフランス語を教えるのだから、それだけで、めんどくさいなあと思う人もいるだろう(実際は逆で、英語とフランス語の違いがよくわかってよいのだけど)。
 あとで知ったのだけど、ユーキャンというサイトにピンズラー方式で日本語でフランス語を教えるという教材があった(参照)。費用は29,000円ということだけど、いちおうスタンダード価格ではある。このユーキャンのだと、ちょうど私がやった第一段階しかないみたい。ちなみに、英語のほうは第四段階まであって、どのくらいのレベルかサンプルを視聴したが、英語の第四段階でもごく初級という感じだった。
 あと、ユーキャンは「標準受講期間:3ヵ月(最短1ヵ月)」とあるけど、自分の印象では、Pimsleurは人間の記憶忘却曲線みたいなのも考慮しているようだ。日数の忘却率が想定されていると感じた。なので、毎日続けたほうがよいと思う。これは、ほんと魔法みたいなんだけど、記憶力トレーニングにもなっていて、面白かった。
 さて自分はこの先まだ第二段階へ進むのかというと、まあ、できるとこまでやってみようかなという感じ。
 
 

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2013.10.20

フランスでロマの女学生が学校で拘束され強制送還された事件の意味

 海外で注目されているニュースなのに、なぜか日本では取り上げられないニュースがある。軽視されているのか、なんらかの理由で無視されているのか。あるいは特段の理由はなく、単に意味を読み取るが難しいだけなのか。理由は単一ではないだろうが、そういうニュースがあればできるだけ、ブログで拾うようにしている。このところのニュースでは、フランスでロマの女学生が学校で拘束され強制送還された事件が半ば日本では無視されていた。
 日本でまったく報道されなかったわけではない。だが、時系列を整理して、日本での着目度や、何に着目した報道だったかを検討してみると興味深い。
 この種類のニュースで日本語で報道されることが多いのは、AFPによるものだ。今回も17日に報道があった。「15歳ロマの少女を学校行事中に拘束・送還、仏閣内に亀裂」(参照)である。


【10月17日 AFP】フランスで、ロマ民族の15歳の少女が校外での学校行事に参加中にスクールバスから降ろされて警察に身柄を拘束され、その日のうちにコソボに強制送還されたことが分かり、不法移民の取り扱いをめぐって仏政府内部で閣僚が対立する事態となっている。
 発端は今月9日、東部の町ルビエ(Levier)でロマ民族のレオナルダ・ディブラニ(Leonarda Dibrani)さん(15)が学校行事でバス移動中に警察に身柄を拘束されたことだ。この事件は今週になって初めて、就学年齢の子どもの強制退去処分に反対するNGO団体「国境なき教育網(Network for Education without Borders、RESF)」によって明らかにされた。
 当日の詳しい状況は不明だが、その場に居合わせた教師の話と内務省の主張はいずれも、レオナルダさんが他の生徒たちの目の前で拘束されたわけではないとの点は一致している。しかしこの教師がRESFを通じて公表したところによれば、他の生徒たちは何が起きているのかを完全に認識しており、ひどいショックを受けているという。
 レオナルダさん本人は次のように当時の様子を説明している。「友達も先生もみんな泣いていました。中には、警察が私を捜していると知って『誰か殺したの』とか『何か盗んだの』とか直接聞いてくる子もいました。バスまでやって来た警察は私に降りるよう言い、それからコソボに帰らなければならないと告げました」

 事件があったのは、9日のことだが、これが大きなニュースとなったきっかけは同報道にあるように「国境なき教育網(Network for Education without Borders、RESF)」が「今週」明らかにしたことによる。今週は14日以降である。
 ニュースになる理由は、誰でもわかるように就学中の学生を強制送還するというようなことがフランスのような先進国で行われたこと、また行われているということである。
 だが、このニュースにはもう少し複雑な陰影がある。この点もAFPが触れている。フランス内政の問題である。あとで触れるがEUの問題でもある。

■割れる仏政界、「学校は聖域」と与党左派
 バンサン・ペイヨン(Vincent Peillon)国民教育相は「学校は聖域であるべきだ。われわれは権利と人間性に基づいた指針を保持しなければならない」と主張している。
 これに対しマニュエル・バルス(Manuel Valls)内相は、レオナルダさんとその両親、1歳~17歳のきょうだい5人の強制送還は正しい措置だったと反論する一方、対応に問題がなかったかどうか見直すよう関係各所に命じた。同内相の説明によると、一家の強制送還は既存の手続きに沿ったもので、亡命申請が却下されたためだという。
 与党内の左派勢力から噴出した強い批判を受け、ジャンマルク・エロー(Jean-Marc Ayrault)首相もレオナルダさんの権利が侵害されたことが確認されれば、一家がフランスに戻れるように手配すると約束した。
 一方、野党議員はバルス内相の見解を支持し、強制送還処分が取り消されればフランスが不法移民を歓迎しているとの誤ったメッセージを発信することになると警告している。

 ごく簡単に言うと、「与党内の左派勢力から噴出した強い批判」ということからわかるように、オランド政権によるロマ排斥をバルス内相が汚れ役として引き受けているということだ。
 この問題に注視してきた人は知っているように、ロマ排斥を強行に進めてきたのは、右派とも見られることもあったサルコジ政権だったので、今回左派勢力としても事態に困惑しているかに見える。が、左派勢力にはあとで述べるが、別の思惑もありそうだ。
 今回のニュースがさらに大きな話題となったのは、AFP報道の翌日の18日の、ロマの少女の強制送還に抗議する高校生のデモが着目されたからだった。
 この話題は、日本の報道を見渡すと東京新聞系が19日朝刊で拾っていた。「移民送還 仏デモ拡大 政府批判、全土に」(参照)。

【パリ=野村悦芳】フランスで今月、少数民族ロマの女子中学生が、同級生の前で警察に連行され、その後、国外退去を強いられた。オランド大統領の左派政権に対し人権軽視の批判が起き、パリなどでは処分に抗議する高校生らが十八日、デモを繰り広げた。一方で、反移民の極右政党、国民戦線が支持を拡大しており、フランスが抱える移民問題の難しさが浮き彫りになっている。
 パリ中心部では約二十校の生徒が、労組メンバーらとともに、政府批判を連呼した。高校生の大規模デモは十七日からフランス全土に広がっている。

 この時点で三点、注目したい。一つは、ロマ学生排斥といった政治問題に、フランスの高校生が意識的に参加していること。二点めは、労働組合などがオランド政権を明確に批判していること。三点目は、右派政党がロマ排除を支持していることだ。記事では「反移民の極右政党、国民戦線」と表現されているが、この動向は「極右」とのみだと言いがたい。同記事では汚れ役のバルス内相の支持として描かれている。

 仏国内に二万人以上いるとされるロマは、不法占拠の土地に集団で住むケースが多い。バルス内相は最近も厳しい態度で臨む方針を示し、左派から批判を受けたが、政治家の好感度を問う世論調査では一位となった。

 ロマ排斥の動向はフランス国民の多数に支持されている現状がある。
 さて、日本での報道という観点で時系列に意識してこの事件を見直して、興味深いのは、どの時点で、どこがどのように報道を開始するかである。
 全体傾向として、日本の場合、時事・共同などの外信(現地記事のサマリーのようなレベル)を大手紙が追うことが多く、政治的な意図がなければベタ記事的に扱われる。これに並行してNHKが独自に取り上げることがあり、むしろNHKの動向が独自の視点があり興味深い。今回はどうだったか。
 NHKの最初の報道は「10月19日 9時8分」付けの「仏 移民女子生徒拘束に批判強まる」(参照)だったようだ。

 フランスで、旧ユーゴスラビアのコソボ出身の15歳の少女が通っていた中学校で、不法滞在だとして警察に身柄を拘束され、強制送還されていたことが明らかになり、教育現場での当局の対応に抗議デモが行われるなど批判が強まっています。
 フランス東部のルビエで今月9日、コソボ出身の15歳の中学校の女子生徒が、通っていた学校の敷地内で不法滞在だとして警察に身柄を拘束され、その日のうちに強制送還されました。
今週、地元のNGOが警察の対応を非難しこの問題を明らかにすると、フランス国内で大きな反響を呼び、教育の現場に警察が踏み込むのは許されないとの批判が広がっています。
 18日、パリでは高校生らがデモを行い、参加した高校生たちは「フランスは人権の国なのにもはや人権などない」と抗議の声を上げていました。
 この問題は政界でも大きな議論となっていて、政府は警察の対応が適切だったか詳しい調査を進め、不適切だったと判断した場合には強制送還の措置をいったん取り消すとしています。
 この少女の家族は、地元の当局から滞在許可の申請を却下されていて、右派などからは、強制送還の措置を支持する意見も出るなど、移民政策を巡る議論に発展しかねない状況で、政府は対応に苦慮しています。

 NHK報道はAFPに2日に遅れた形になっている。この時点でNHKが取り上げた背景には、18日の高校生デモがきっかけだったことが伺われる。また、フランス政治の背景にも若干言及がある。簡単にまとめるなら、高校生デモといった反応がなければNHKは取り上げなかったかもしれない。NHKの着目点は人権とはいいがたい。
 NHK報道で興味深いのは、その前日の18日にフランス極右政党を取り上げていることだ。「フランス 極右政党支持が拡大」(参照)。

 フランスでは、世論調査でオランド大統領に対抗するリーダーとして極右政党の党首がふさわしいと答えた人が全体の半数近くに上り、オランド政権が経済建て直しの効果的な道筋を示すことができないなか、極右政党への支持が拡大しています。
 フランスのテレビ局などは16日、オランド大統領に対抗するリーダーとして主要な野党の中で誰を選ぶか、およそ1000人の有権者を対象に世論調査を行いました。その結果、反移民や反ユーロを掲げる極右政党「国民戦線」の女性党首ルペン氏と答えた人が全体の半数近い46%に上り、2番目に多かった最大野党所属で前首相のフィヨン氏の18%を大きく引き離しました。
ルペン氏は、おととし、「国民戦線」の創設者である父から党首の座を引き継ぐと、愛国主義的な主張を堅持しつつも45歳という若さとソフトなイメージで、若者や労働者などを中心に支持を広げています。
 国民戦線は、今月に入って、フランス南部の県議会議員の補欠選挙で、候補者がおよそ54%の圧倒的な得票率で当選したほか、来年のヨーロッパ議会に関する世論調査でも、回答者のおよそ4分の1の支持を集め、与党や最大野党を上回りました。
 ヨーロッパの信用不安がくすぶり続けるなか、オランド政権は、経済建て直しの効果的な道筋を示すことができておらず、国民の与党や最大野党への不満を背景に極右政党への支持が拡大しています。

 マリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)の動向はそれ自体としては興味深いが、このNHK報道では18日の時点で、ロマ女学生排斥の動向との関連は、取り上げられていない。しかし当然ながら、今回のロマ女学生排斥事件とジャンマリー・ルペン率いる国民戦線の動向には関連があり、フランスの政局とも関連してくる。今回学生運動の背景と見られる左派勢力も、ジャンマリー・ルペンの動向との文脈にあると見てよいだろう。
 当の事件の現状だが、すでにバルス内相に汚れ役を押しつけるだけではすまなくなり、すでにオランド大統領が動き出している。この点については、NHKで今日の報道があった。「学校で生徒拘束 フランスの移民政策に波紋」(参照)。

 フランスで、旧ユーゴスラビアのコソボ出身の中学生が、不法滞在だとして学校で身柄を拘束され強制送還された問題で、オランド大統領は19日違法な点はなかったとしながらも復学を認める方針を明らかにしました。
 これは今月9日、フランス東部のルビエで、不法滞在だとして国外退去処分を受けたコソボ出身の一家のうち15歳の女子中学生が学校の敷地内で警察に身柄を拘束され、その日のうちに強制送還されたもので、この措置に反対するデモがフランス各地で起きたほか、警察が教育現場に入って生徒を連行するのは行き過ぎだという批判が出ています。
 フランスのオランド大統領は19日、テレビ演説を行い、「調査の結果、強制送還の措置自体に問題はなかった」とする一方、女子生徒が学業を続けたいと望む場合には、本人に限ってフランスに戻ることを認める方針を明らかにしました。
 オランド大統領の異例の演説には不法な移民を取り締まる政策は堅持すると同時に人道面にも配慮する姿勢を示すことで事態の幕引きを図りたいおもわくがあるとみられます。
 しかし国内では家族とともにコソボに残るのか、一人でフランスに戻るのかという選択を中学生に迫るのは酷だという声や、国外退去処分をくつがえせば移民政策が揺らぎかねないという声もあり、今回の事態はフランスの移民政策に波紋を投げかけています。

 NHK報道の要点としては、オランド政権による「フランスの移民政策」のありかたであり、左派政権の人権意識の問題は二次的な扱いになっている。さらに、個別に欧州のロマ問題はあまりNHKとしては注視されていない。
 今回の問題をどのように見るかは、意外に難しい。基本は人権問題であると言ってもよいし、NHKのようにフランスという特定国家における移民政策問題としてもよいだろう。左派勢力による政局の文脈もある。
 が、こうした日本の報道で欠落しているかのように見える前提、そもそもEUとは何かということだ。
 言われれば誰も気がつくだろうが、EUとはその内部での市民の移動が自由である共同体なのである。この理念と、フランスの国内法との整合が問われている。なかでもロマだけが排斥される実態に大きな矛盾がある。
 ロマは「移住の民」と言われているが、実際にはその95%は定住している(参照)。その意味では、ロマというくくりではなく、個別に強制送還する国家とされる国家の市民の問題であるはずであり、それが問題という地平に上がらないようにするがそもそもEUの理念だった。
 今回の事例では、女学生の強制送還先はコソボであり、コソボはEU加盟を目指して安定化連合協定締結に向かっている(参照)。今回の事件から暗示されるのは、個別の事例には個別の背景があるとしても、大枠としては、コソボがEUではないからロマが「強制送還」されている。
 EUはどうあるべきか。理念は明確だが、現実では、フランス国民の大半が今回の事態でもロマ排斥を支持している実態がある。
 これをフランスがどのように解消していくのかは注目されるが、現状のオランド政権の対応を見るかぎり、実態はサルコジ政権と同様なナショナリズムに向かっている。つまり、EUの理念の内実が徐々に崩壊していく過程のように見える。
 
 

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2013.10.14

なんとなく心に引っかかっている、やりきれない二つのニュース

 なんとなくブログを書かない日が重なった。そういうことは珍しくもないし、このところどういう風の吹き回しか、フランス語の勉強に凝っていることなどもあってブログに回す時間が減ったこともある。が、もう一つ理由があって、ブログに向き合うとあのニュースの話題を書こうか書くまいかと悩んで行き詰まってしまう。それだけ心にひっかかっていることなので、少し書いておこう。二つある。
 一つは、横浜市緑区の踏切内に倒れていた74歳の男性を助けようとした女性が電車にひかれて亡くなった事件である。痛ましい事件であり、ご遺族の方に哀悼したい。彼女の善意と勇気を称賛する反面、その結果にやりきれない思いもした。こういうとよくないが自分のような臆病者にはあまり直視したくない話題でもあった。
 話題はその後、大きくなっていった。メディアが美談として取り上げたせいもあるが、政府が紅綬褒章を授与させたこともあっただろう。紅綬褒章は「自己の危険を顧みず人命の救助に尽力した者」に授与させる褒章である。今回の女性の行動はそれにふさわしいと言える。が、それを称えることで、同じような状況に置かれた人にこうした行動を促すことにならないだろうかという思いもあった。
 よく水難事故で子どもが溺れているのを見て、親や大人が救助に飛び込み、そのまま大人が水死することがある。先日13日にも神奈川小田原市の海岸の岩場で、子ども二人が海に転落したのを助けようと飛び込んだ32歳の父親が水難で死亡した事件があった。痛ましい。
 惻隠の情の語源のような話であり、人間の心情として理解できるが、よほど心得のある人でないと、水難事故の現場でそのまま飛び込んで救助ということは難しい。水難事故についてはそうした、ある種の原則が確立されているが、踏切事故についてはどうなのかと問われるとわからない。救助に確実に危険性はあるが水難事故と同様に考えてよいものなのか。
 そうした思いを巡らしつつ、紅綬褒章が「自己の危険を顧みず人命の救助に尽力した者」に授与されるなら、近年の事例はどうなっているのか気になったので少し調べてみた。
 今年の春の褒章の受章者を見ると電車事故関連の紅綬褒章があった。どのような事態だったか。言われると当時のニュースを思い出す人もいるだろう。2012年9月13日朝、横浜市中区のみなとみらい線日本大通り駅のホームから当時高校3年の女子生徒が転落した際、居合わせた通勤途中の会社員と警察官が線路に下りて、彼女を線路脇の側溝に運び一緒に避難したのだった。
 当時のニュースを読み返すと、会社員は「自分が親なので、無意識に体が動いたのかも」「バサッという音がして女子生徒が倒れているのが見え、助けなきゃと思った。側溝で女子高生の頭と右腕を押さえたが、電車が警笛を鳴らしながら入ってきて怖かった」と話したとのこと。また警察官は「考えるより先に体が動いた」と話したともある。二人の反射的な行動だったかというと、他報道では、会社員はホームの向こうから迫る電車のライトを見て「十秒ある」ととっさに考えたらしい。10秒でできると即時に判断のしたのかもしれない。
 2007年には踏切事故関係の紅綬褒章があった。これも言われると思い出す人がいるだろう。その年の8月25日、岡山県高梁市のJR伯備線広瀬踏切で、踏切内に立ち往生した大型トラックに気がついた警備会社員が、誘導を試みたが、その間、下り特急「やくも9号」が近づき警報機が鳴りだしたため、踏切西側の非常ボタンを押した。これによって急行の運転士が早めに踏切内の異状に気付き、踏切を30メートルほど過ぎた地点で停止できた。衝撃が抑えられ、特急乗客の惨事は避けられたが、非常ボタンを押した会社員は巻き添えをとなって命を落とした。
 この二つの紅綬褒章と今回の事例を比べてみると、本質的に大きな差はないとも思える。その意味では、今回政府が紅綬褒章を授与させたことも異例のこととはいえない。こうした事故を紅綬褒章が促すことになるとまでも言えないだろう。
 もう一つ、心にひっかかっていたニュースは三鷹市の女子高生ストーカー殺人事件である。2月にその隣の吉祥寺市でルーマニア人少年による女性殺害事件があったので、初報道があったときは、それに類するものかという印象があった。犯人が捕まった直後、犯人の名前が伏せられていたようにも思えたので、その点も疑問に思った。が、すぐに容疑者の名前が出て、ストーカー殺人事件であることがわかった。
 ストーカー事件というのをどう捉えてよいのかよくわからないのである。自分も地域活動でこの問題の一端に関係したことがあるのだが、解決策が見つからなかった。一般的には、警察はどうしているんだという文脈になりがちであり、この事件でもそうした話題としての展開もNHKニュースなどでも見られた。警察署は今回、相談の内容から危険が差し迫っている状況ではないと判断し、警察署長に報告がされなかったとのことだ。私の印象では、自分の経験からしても、こうした事態で警察が動くことは少ない(むしろ警察は喧嘩両成敗的な態度に出ることが多いので困る)。現在の報道からの印象に過ぎないが、この事例のみ特段に警察の落ち度があったようにも思えない。こうした問題は、現状の体制では防ぎようがないのかもしれない。そのあたりも、やりきれなさにつながる。
 関連のNHKの報道で奇妙に思えたのは、13日「逮捕直前に事件うかがわせる書き込みか」(参照)として、「東京・三鷹市で女子高校生が殺害された事件で、元交際相手の男が逮捕される直前に、インターネットの掲示板に事件を起こしたことをうかがわせる内容の書き込みをしていたとみられることが、警視庁への取材で分かりました」としていたことだ。が、この話題は、ネットに馴染んでいる人には事件の数時間後にわかっていた。13日になって報道したのは、被害者関連の情報が削除されたのを確認してという意味だっただろうか。
 この事件では、痛ましい事件でありながら、女子高校生の活動をする非難する声も聞こえ、その点もある種のやりきれなさが募った。被害者が容疑者と知り合ったのはフェイスブックがきっかけで2年前という報道もある。そうであれば彼女が16歳ごろ、大学生だと思った容疑者と交際していたということになる。随分と恋愛の年齢が早いようにも思うし、その年齢だと交際のありかたは個人の自由とまでも言えないようにも思う。
 恋愛の年齢が早いというよりも、内実が幼い恋愛だったのかもしれない。自分も含め少なからぬ人が、若い時代、幼い恋愛をして、手痛い失恋をする。上手に別れることもできない。幼い恋愛は互いの精神的な成長によって破綻することもある。つらいものだが、人によってはそうして大人になるしかない。社会としては、子どもに向けて大人の恋愛が可能になるような文化を配慮することではないか。
 いや、そうした文学っぽい考え方よりも、この事件はどちらかといえば、偶発的で、そして容疑者の性向に問題があったような印象もある。どうにしたら防げるという問題でもないのかもしれない。というあたりで、やりきれないなと思う。
 
 

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2013.10.09

[書評]魔法びんでゆでるだけ おいしい豆のおかず(牛尾理恵)

 豆を食事に取り入れたいと日頃から思っている。理由は、というと、たんぱく質摂取にできるだけ肉食は避けたいなあという心情もあるが、豆は上手に料理するとおいしいからというのもある。
 若い頃、一時期マクロバイオティックスをやっていて、その豆料理などもよく作った。そこでひよこ豆(ガルバンゾー )の使い方も覚えた。
 で、問題は、というか、問題でもないけど、豆の下ごしらえに手間がかかることだ。豆にもいろいろあるが、たいていは乾物なので、長時間かけて水で戻して、しかも長時間煮る。手がかかる。

cover
魔法びんでゆでるだけ
おいしい豆のおかず
失敗知らず・手間いらず
体にいい毎日の
おかずと作りおきのおかず
 話がいきなりずっこけるが、近年、豆を食べるのに手のかからない方法も増えた。缶詰やパックなどで茹で済みの豆が購入しやすくなったことだ。あと、冷凍品。なかでもグリンピースの冷凍品がけっこうおいしい。カッテージパイを作るとき、ポテトだけだと重たいなあと常々思っていたが、以前英国人仕込みのを食べたら、どっさりグリンピースが付いていて、これはいいと思って、以降、カッテージパイには冷凍グリンピースをどっさり付けている。値段も手頃。さらに話がずれるが、最近の冷凍食品ってとてもおいしい。
 とはいえ、基本は乾物の豆だろ。ということで、なんとか簡易にならないものかというので、この本、『魔法びんでゆでるだけ おいしい豆のおかず(牛尾理恵)』(参照)に手を出した。なんか簡単にできそうである。
 正直に言うと、ちょっと違うのだ。
 実は簡易な魔法瓶で豆を茹でるということは前から知っていた。なのに実践しなかった。理由は二つ。煮え具合の調節が難しいことと、豆には毒があることが多いからだ。
 この本でも、特に、豆の毒性について気になった。豆は基本、毒性があると考えてよい。ジャガイモなどのでんぷんも毒性と隣り合わせで、人類の農業というのは、けっこう植物の毒性と戦いでもあった。
 豆の毒性でなかでも気になるのは、インゲン豆の系統。以前、ヘンテコな健康番組のダイエット特集で、白インゲン豆を炒って食うという話があって、社会問題になったことがあった。厚労省から「白インゲン豆の摂取による健康被害事例について」(参照)というのも出た。
 そこでも書いてあるが「インゲン豆は通常の調理法(水に十分浸してから、沸騰状態で柔らかくなるまで十分に煮る)を行えば、食品安全上全く問題はない」ということで、伝統的な調理法なら、毒性の問題はない。
 問題は、魔法瓶でどうかなということだ。
 考えてもわかるように、魔法瓶だと、初期温度が沸騰状態でもあとはだんだん下がるだけなので、その下がり具合と毒性の消去がどうなっているのか、が問題なのだ。
 そこで、この本、どうか?
 読み落としがあるかもしれないが、少なくとも目立った部分に豆の毒性についての注意書きはなかった。しいていうと、保温性能が「2時間後、80度以上のもの」、保温効率が「1時間後、86度以上」とある。これで毒性が消去できるのか?
 先の厚労省の文書には「インゲン豆のレクチンは75℃での加熱では毒性が残るものの、沸騰状態で5~10分の加熱で壊れた等の報告があります。」とあり、同書の基準と対応の判断が難しい。
 困ったなと思っていた。どっかに情報はないかと探していると、豆類協会の「豆の基本的調理法に関する諸説を検証(その2)」(参照)に魔法瓶で豆を茹でる場合の毒性の研究が掲載されていた。結論から言うと、同研究での実験では、保熱性のよい魔法瓶で沸騰後3時間経過すると、毒性は「特段の問題はない」となるらしい。
 注意したいのは、この結論は、この研究の結果であって、総合的な指針とはならないことだ。実験に使った魔法瓶の状況が、この本の状況と完全に一致しているとも断言できない。
 でも、概ね、本書の指示どおりに使えば問題はなさそうだなという印象はもった。なかでも、この本の指針で面白いなと思ったのは、豆を入れて魔法瓶に入れるというのではなく、豆を最初沸騰した熱湯で洗う点だ。これで豆の温度が上がる。
cover
AL Colle
スロークッカー・タイマー付
煮込み名人 ASC-T22 ホワイト
 私としては実は、豆を茹でるのに魔法瓶は使わない。スロークッカーを使うのだが、それでも豆の毒性が消えるか不安だったので、白インゲン豆や同系の金時豆を使うときは、水でふやかして10分沸騰させてから使っていた。が、以上の経緯をみると、どうもそのままスロークッカーに入れて、6時間もすれば問題なさそうだなと思い、やってみると、まあ、問題ないです。もっとも、自分の使っているスロークッカーはAL Colle(参照)。なお、このスロークッカーベースの「スロークッカーでつくるはじめてレシピ」(参照)にも、白インゲン豆の調理が掲載されている。
 というわけで、秋になってちょっと冷え込むようになってから、朝食用にミネストラを夜に仕込むのだけど、くず野菜などに加えて、豆をぽいぽいっと放り込むことにした。朝になるとええ塩梅にやわらかく煮えていておいしい。
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ガルバンゾー 200g
 ところでどんな豆。この本に出てくる豆は、大豆・青大豆・黒豆、きんとき豆、レンズ豆、ひよこ豆、えんどう豆、あずき・ささげ、の基本6種。それぞれに料理の例が示されている。率直に言って、あっと驚くようなレシピはなかったけど、それなりに面白い。たぶん、豆好きには参考になると思いますよ。
 
 

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2013.10.08

政府から聞こえてくる、10%消費税増税を巡る奇妙な不調和

 8%消費税増税が決まったらとたんに10%消費税増税の話題が出て来た。しかも、政府内に今後の経済の低迷を睨んで政局に関連した不調和がありそうだ。情報が積み重なって錯綜する以前に、気になった時点の動向もメモしておきたい。
 今朝、奇っ怪なニュースが流れた。産経新聞「消費税率10%引き上げ判断、来年末前倒しで調整」(参照)である。消費税増税10%を決定する時期についての話題である。ソースに注目したい。


 消費税増税法で平成27年10月に予定される消費税率8%から10%への引き上げに関し、政府が実施の判断時期を当初想定していた同年4月から、27年度税制改正を取りまとめる26年末に4カ月程度前倒しすることで調整を進めていることが7日、分かった。
 政府高官は7日、10%に引き上げるかどうかを判断する時期について「来年中に判断することになるだろう」と述べた。別の高官は「増税判断の前倒しに備えて26、27年の経済成長が維持できるよう大規模な経済対策を今回取りまとめた」と指摘した。
 10%増税の是非を判断する時期は、8%への引き上げを決断したときと同様、景気動向を踏まえて6カ月前の27年4月とされていた。ただ、各年度の予算は、税収見込みを決定した上で赤字国債規模などを計算し、前年の12月末に閣議決定するのが通例だ。軽減税率の導入も税制大綱に盛り込む方が混乱が少ないとみて、判断時期を前倒しする必要があると判断した。27年4月には統一地方選が行われるため、政治の混乱を回避する狙いもある。
 安倍晋三首相はデフレ脱却を最優先課題に掲げており、10%への税率引き上げを決断する場合は成長軌道を確保できる見通しが立つことを条件にする考えだ。まずは8%増税後の成長軌道を確保するため、規制緩和や国家戦略特区などの経済対策をさらに加速させることができるかが試金石となる。

 消費税10%への増税を決定するのは平成27年4月であったが、これが変更されて平成26年12月になる、というのだが、そのソースが二人の匿名の政府高官である。
 産経新聞とその二人の高官との繋がりがあるのだろうが、形の上では匿名からのリーク情報であり、飛ばしの可能性もある。
 匿名高官リークにまつわる奇っ怪さに加えて、消費税10%増税の話題が、8%増税が決まって、その後の動向を検討する間も待たずに、ほいっと出てくることも奇っ怪である。
 さらに奇っ怪なのは、文脈で読む限り、安倍晋三首相の意思に反していることだ。首相は「成長軌道を確保できる見通しが立つことを条件にする考え」なので、れいによって、この匿名高官らは公式な安倍首相の立場を否定している。首相の内心をリークしているのか、謀略的な動向なのか。
 二人の政府高官リークの内容も見ていこう。この二人が消費税増税10%決定時期を半年早めるとする理由は、27年4月に予定されている統一地方選挙を避けるためであるというのだ。ようするに、消費税問題を選挙の争点マターとするのを避けるといういうことだ。
 この産経新聞の奇っ怪な報道はなんなのだろうかと思っていたら、間を置かす関連ニュースが正午のNHKで流れた。「麻生氏 消費税10%判断は来年末に」(参照)。

 麻生副総理兼財務大臣は、法律で再来年10月に予定されている消費税率の10%への引き上げについて、予算案の編成などを考慮すれば、引き上げるかどうかの判断は、来年の年末までに決めるのが望ましいという考えを示しました。
 消費税率引き上げ法は、税率を来年4月に8%にしたあと、再来年10月には、10%に引き上げると定めています。
 これについて、麻生副総理兼財務大臣は、閣議のあとの記者会見で「消費税の引き上げが必要なのは、毎年1兆円ずつ増える社会保障費の歳出をきちんとした形でみんなで分担しあうということだ」と述べ、社会保障費を賄うため、法律に定められたとおり、再来年10月には消費税率を10%に引き上げる必要があるという認識を示しました。
 そのうえで、麻生副総理は、「消費税率が10%に引き上げられる再来年度の予算編成は、来年の12月末には終わるので、12月までには決めてもらわなければ、予算編成が難しくなる」と述べ、予算案の編成などを考慮すれば、消費税率を10%に引き上げるかどうかの判断は、来年の年末までに決めるのが望ましいという考えを示しました。
 
法律の規定にしたがって判断する
菅官房長官は閣議のあとの会見で「さまざまな方がいろいろ発言しているが、法律の規定にしたがって適宜適切に判断していくというのが政府の基本的な考え方だ。安倍総理大臣も『判断時期を含めて適切に判断したい』と記者会見で述べており、それがすべてだろう」と述べました。

 先の産経新聞がリークした二人の政府高官と同じ内容を、麻生副総理兼財務大臣が、閣議のあとの記者会見で述べたのである。「消費税率が10%に引き上げられる再来年度の予算編成は、来年の12月末には終わるので、12月までには決めてもらわなければ、予算編成が難しくなる」ということである。
 時系列に誤解があるかもしれないが、二人の政府高官による、消費税10%増税のリークがあったのちに、麻生副総理兼財務大臣が同じことを述べたことになる。
 まず端的に疑問なのは、この二人の政府高官と麻生副総理兼財務大臣の関係はどうなっているのか、ということだ。麻生大臣の思惑なり内心を二人の政府高官がリークしたのか、二人の政府高官が振り付けしたことを麻生大臣にダメ押しさせたのか、それとも、麻生大臣にそう語らせるように追い込んだということなのか。
 このNHKニュースでも奇っ怪なのは、またしても、安倍首相の思惑とはずれていることだ。菅官房長官は閣議のあとの会見で、彼は「さまざまな方がいろいろ発言しているが、法律の規定にしたがって適宜適切に判断していくというのが政府の基本的な考え方だ。」と述べている。文脈から普通に考えて、二人の政府高官や麻生大臣の発言は、政府の基本的な考え方に反するしていることを示唆している。これが公式見解である。麻生大臣の発言がなければ産経新聞の匿名リーク記事は飛ばしも疑われただろう。
 同種のニュースは日経新聞でも流れた。「財務相、消費税率10%上げ判断「14年末までに」」(参照)である。ここでは二人の政府高官は出て来ず、形の上では、麻生大臣の言明は政府の公式見解ではないことが暗示されている。

 麻生太郎財務相は8日午前の記者会見で、消費税率の10%への引き上げの判断をする時期について「(来年)12月までにはやらないと予算編成が難しくなる」と語った。政府は2015年10月に消費税率を10%に上げる予定だが、最終判断の時期については明らかにしていなかった。
 消費税率の引き上げは、経済状況などを踏まえて最終判断することが法律で決まっており、政府がいつ判断するかが焦点になっていた。菅義偉官房長官は同日の記者会見で「法律の規定に従って適宜適切に判断する」と述べるにとどめた。
 麻生財務相は「(判断は15年)4月1日でもよいという人がいるが、予算のことを忘れているのではないか」と指摘。来年末に最終判断するのかとの記者団の質問に「事務的に言えば、12月までには決めてもらわないと予算編成が極めて複雑なものになる」と述べた。
 来年12月末までに引き上げを決めれば、政府は新しい消費税率を前提に15年度予算案を編成できる。消費税率の引き上げに伴う景気の下振れなどにも、予算や税制改正などの措置であらかじめ対応できるようになる。
 政府が来年末までに税率引き上げを判断するとすれば、来年後半の経済情勢が極めて重要になる。政府はすでに来年4月の消費税率8%上げに備えた経済対策を決めているが、次の判断を見据えた追加の対策が課題になる可能性もある。

 日経新聞記事からは麻生大臣の思惑は読みやすい。この点で、先の産経新聞のリーク記事とは趣きが異なる。
 ある程度踏み込んで読み取れば、「消費税率の引き上げに伴う景気の下振れなどにも、予算や税制改正などの措置であらかじめ対応できるようになる」ということから、8%増税によって生じる景気の下振れを懸念してのことである。
 さらに踏み込めば、それが、統一地方選挙でその問題が自民党に波及するのをできるだけ防御するということである。
 安倍政権の維持というよりも、自民党維持の政局と財務省の駆け引きが、安倍首相抜きで始まったという印象もあるし、消費税増税による日本経済の落ち込みを今から織り込んでいるんじゃないか、という印象もある、きちんと。
 

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2013.10.06

筋トレ4か月、56歳

 意識して筋トレを再開してだいたい4か月経った。
 6月初旬、手始めに、手頃な筋トレ本を読み、とりあえずの基本を学び、それから関連の英書とか読み、毎日やるもんじゃないからと最初は二日空けてジムに通い、それから三日空けてもよいんじゃないかとして、4か月継続した。
 世の中には三日坊主という人がいるが、私の場合、だいたいなんでも3か月くらいはやる。で、成果が出るかというと、微妙な成果が出て、終わる。三月坊主である。
 筋トレ本でも、「2、3か月はやっても身体に変化はないのでくじけるな」というので、まあ、3か月はとにかくやってみた。今回の筋トレはどうか。微妙。
 効果がないということでもない。力こぶも見えるくらいはついた。でもまあ、筋トレやりましたという力こぶじゃないです。30代もこのくらいあったか。腹筋はどうか。残念ながらシックスパックにははるかに及ばない。というか、シックスパックというのは、基本、皮下脂肪がなければできるものなんで、そっちの問題ではある。
 大胸筋はうっすらついてきたような感じはある。大胸筋ぴくぴくもちょっとできる(気持ち悪いもんです)。脚の筋肉は、ついてきたというより、岩みたいにゴツゴツとしてきた。ふくらはぎに割れ目が少し見える。年取ってぐへーと思ったきっかけの大腿筋も、昔の太さには戻らないが、なんか筋肉ぽくはなってきた。
 まあ、でも、ものは考えよう、というくらいなもの。さすがに56歳ともなると、そう簡単に筋トレの効果は出ないものだなという感じはする。
 筋トレの訓練方法は、最初はいわゆる入門書にあるように、70%くらいの力で10回の反復を3セットというのをしていた。最初は、とほほなほど力が出なくて、しかも四十肩だか五十肩だかもやったので腕立て伏せも潰れるような状態だったが、二週間くらいで腕立て伏せが潰れないくらいにはなった。総じて、見た目の変化はないけど、筋トレって1か月くらいすると、自覚できるくらいの筋力アップにはなるような気がする。階段とか昇る脚も軽くなる。
 その後『10のパワー』(参照)のスーパースロー方式に変えた。20秒1回、これを10回以内の1セットで終わり。というか、6回くらいでフェイル(力尽きる)というやつである。
 やってみると、スーパースローのほうが筋肉のパンプアップ感が残る。1セットだし、レスト(休息)が入らないので、さくさくと進むのもいい。やっていくうちに、『10のパワー』方式をちょっと変えて、10回でフェイル近いくらいのほうがきちんと筋肉動かしている感があるので、そちらにした。
 現状、通常の筋トレに比べて、初期に設定する負荷が半分以下になった。たとえば、レッグプレスだと通常の方式だと70kg近くまで出せたのに、最近では45kg程度である。なんか、傍から見ていると「何、この軟弱おっさん」というくらい軽い。でも、スーパースローでやると8回くらいですげーきつくなってくる。まあ、それが自分の現状ということで受け入れて、むしろできるだけ負荷を下げてみて、それから少し上げて、10回でフェイル近くになるように設定した。
 もしかすると、この方式だと筋力増強に筋肉増強にもならないのかもしれない。が、やっている実感としては一番正しい筋トレのような気がしている。それと、通常速度で最大筋力を出すと、どうもスジを痛めるような感じがするのだ。どうも身体のあちこちに、微少なスジとか関節の故障が貯まっているような感じもして、56歳だぜ、俺、もっと自分の身体いたわれよ感がある。(ちなみに、タニタで計ると身体年齢は41歳。)

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Transcend
MP3プレーヤー
MP300 8GB
 スーパースローで難しいのは、正確にスローの速度を維持すること。当初はランニング用のペースメーカーを使っていたのだけど、回数の記憶が難しいので、カウントの音声(英語にした。欲しい人いるならあげるよ)を入れたMP3プレーヤーを使うことにした。iPod nanoを最初を使っていたが、あれでもちと操作がめんどくさいので、トランセンドの2000円ちょいのを買った(参照)。これ、8GBも容量あって、入れているのは3MBだけという状態。なんかなあと迷ったのだけど、現状では正解だった。こういう使い方をする人や、流しかシャッフルだけでいいという人には、このMP3プレーヤー、軽くて簡単で便利ですよ。
 筋トレで気がついたことは、いろいろある。当初気になっていたのは、50歳過ぎて大腿筋が細っていってやだなあと思っていたのでそこをなんとか、ということだった。だが、それもだけど、上半身の筋肉、なかでも肩がダメダメでしたね。そもそも重たい物を持つとか、腕力を行使するということがなくなっているので、肩がダメダメ。さっきもちょっと書いたけど、これじゃ五十肩にもなるわ、と納得した。現代人、上半身けっこうダメなもんです。
 筋トレ本などを読むと、そのあたりの話は、デルトという項目にある。「デルト」ってなんだと思ったら、"deltoid"のことを普通は、deltと呼ぶのだな、ふーんである。で、デルトを意識するようにした。先日、「後ろ姿がちょっと変わった?」とか人に言われたが、もしかすると、ちょっと「デルト」が付いたのかもしれない。まさかね。
 もともと肥満でもなかったから、それほど身体に変化はないけど、それでも身体が締まって来た感はある。夏の初めに買ったデニムを秋になって履いてみたら、ウエストは緩くなっていた。もともとウエストは細いのだが、さらに細くなったみたい。
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エリプティカルE825
 筋トレだけでなく、カーディオトレーニング、つまり、有酸素運動もしている。使っているのは、エリプティカル(参照)というやつ。日本ではクロストレーナーとか呼ばれている。以前からその存在は知っていたけど、実際にやってみたら面白かった。10万円以下の安価なものから、60万円くらいのものまであって、見たら、Amazonでも売っていた。個人で買う人いるんだろうか?
 エリプティカルというのは、簡単にいうと、トレッドミル(室内歩行・走行訓練機)を改良して、膝に負担にかからないようにした機械。トレッドミルでいいじゃんとか、外を走れよ、というのもあるかもしれないけど、米人のおデブさんとか老人てけっこう膝を痛めているので、その衝撃を少なくするために出来た機械。中年、老人、おデブ向けと言ってもいいのかもしれない。
 これで走るというか、スカイウォークっていう感じで動かすと、けっこう気持ちいい。高級機だといろいろ負荷のかけ方がプログラムできるし、心拍数の管理もできる。気に入ったのはこの心拍数管理で、自分に最適の最大負荷が維持しやすい。これも当初は、15分くらいでへたばったが、やっていくと、めきめきと能力は向上する。そのうち、筋トレより面白くなってきてしまった。
 一回に30分、距離に換算すると4km弱を走ることになる。最近、というか暑い日が続いているのでロードを走ってないが、現状、5kmくらい軽く走れそうな気分ではある。でも、エリプティカルに慣れると、脚・膝の衝撃がわかるようにもなった。ジョギングって年取るとよほどいいシューズで調整しないとヤバそう。
 エリプティカル30分で、消費されるカロリーは250kcal弱。いやあ、汗ぐっしょになって、こんだけ。セブンイレブンのスイーツが一つ。僕は、肥満になったことないんで、いわゆる痩せるダイエットしたことないんだけど、エリプティカルやるようになってから、スイーツは減りました。あれだけの運動が、これで、パア?っていう意識が強くなった。
 この手の有酸素運動は痩せる効果があるんだが、どうか。痩せましたね。僕は170cmちょいの身長だけど、60kgが切れそう。というか、30代は57kgだったので、沖縄暮らしで一気に67kg近くなり、ぐへーとなり、その後は、62kgぐらいを維持していたのだけど、まあ、そこから少し痩せた。体脂肪も13%台になった。この体脂肪というのがくせ者で、気を抜くと15%くらいになる。肥満体質ではないけど、脂肪って付きやすいものだなと思った。
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飲みやすくて美味しい!
これが次世代プロテイン!
SAVAS(ザバス)アクア
ホエイプロテイン100
 食事ももともと小食っぽいのだけど、筋トレに合わせて、ちょっとたんぱく質摂取量を見直した。普通の日本人の食事をしているとたんぱく質不足はない。僕はもともと日本食をあまり食べないのでましてたんぱく質不足はないのだけど、もうちょっとあってもよいかもしれないと思って、プロテンも買ってみた。
 プロテイン? うげー不味そう、と思ったけど、勧められた「SAVAS(ザバス)アクア」というのを飲んだら、え?という感じだった。まず、透き通っているのな。クエン酸が多く入っているので、普通に飲むときっついけど、筋トレあとだと、うまいんじゃね、感がある。
 へえと思って、自分はどっちかというとヴェジタリアンだしなあとソイ(大豆)プロテンも買ってみた。ダメでした。身体に合いません。普通のホエイはどうかと思っていろいろ探してみたけど、これは米国から注文した(Puritan's Pride)。バニラ味というやつ。もしかして、これうまいんじゃないの?と思ったら、うまかったです。いや、水に溶かすと、ちょっとなあだけど、低脂肪牛乳に溶かして飲むと、けっこうおいしい。秋になったので、シェイクしたあと温めて飲んだら、うまーでした。おいしいプロテインってありなのか?
 低脂肪牛乳って書いたけど、僕はこれまで低脂肪牛乳なんて飲むのは意味ないなと思っていた。牛乳の脂肪だってそう多く摂取するのでなければいいじゃんと思っていた。だけど、カロリーとかその他考えて、低脂肪牛乳を飲むようになった。というか、これも最近のは、けっこうおいしい。世の中なんかいろいろ変わったね。
 で、プロテインなんだけど、結論からいうと、筋トレでの効果はなさそう。筋トレのあと、SAVASアクアを飲むけど、これで筋肉が付くということは、少なくとも自分ではなさそう。
 筋トレ本とかだと、プロテインは就寝前に飲むのが効果的とかあるけど、やったら、胃腸が重たいです。どうも自分はそもそもあまりプロテインには向かない。実際、プロテインって消化されるまで2時間くらいかかるから、筋トレと合わせて考えるより、普通の食事でプロテインの総量を考えたほうがよさそうだ。
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アミノバリュー
パウダー8000 47Gx5袋
 そこでよせばいいのに、BCAAなら吸収速いんじゃねと思って、最近は、筋トレではBCAAに切り替えている。アミノバリュー(参照)とかアミノバイタル(参照)とか。効果はまったく実感されません。
 この手のものは、心理的な期待を高めるというくらいで、実際上はほぼ効果ないんじゃないかと思う。もともと、ムキムキになりたいわけではないし。というか、ボディビルダーという人々の生態もなんとなくわかっていて、それ、健康によくねーわとか思う。
 でも、この数日、ぐっと冷え込む日があったが、それでもティーシャツ一枚で寒くない。自分でも、え?という感じ。さすがに半ズボンはよせ、という声があったので、やめたが、半ズボンでも寒くない。
 そういえば、30代でヨガよくやっていた一時期、真冬でもティーシャツ一枚で大丈夫だった。なんか、ヨガのパワーみたいので身体を覆う感じがあった。あの感じはもうない。なんとなく、筋肉が防寒になっているっぽい。このまま巨人化しないのか。
 ま、そんな感じですかね。
 自著(参照)にも書いたけどもともと難病抱えているし、先日も小発作あったので、健康な振りして調子こいていると、そのうちとんでもないことになるんだろう。もうしばらく、年相応にワークアウトが続けられたらええんじゃないか。
 
 

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2013.10.05

悩んだけど、もう少し書いておこう。たぶん、私の発言はそれほど届かないだろうと思うし

 悩んだけど、もう少し書いておこう。たぶん、私の発言はそれほど届かないだろうと思うし、だったら、その程度にまで声を上げておいてもよいんじゃないかと、思ったからだ。話は、一昨日、昨日と関連する消費税増税とマスメディアと権力の構造についてだ。
 昨日のエントリーで、予想はされていたけど、9月12日の、読売新聞による「消費税増税に首相が意向を固めた」とする「飛ばし記事」について、「あれは飛ばし記事じゃない。なぜなら実際に消費税があったからではないか」という根拠から、あれを飛ばし記事とする私の発言について、「負け惜しみ感が半端ない」「強弁」「ファイナルベントはどうしちゃったんだ」というようなコメントがあった。批判と受け止めたい。
 ツイッターなりのコメントなら対話もできる。だが、そうした批判は対話できない場所からのものがどちらかというと多い。コメント者の意図としてはそのまま捨て置かれることが前提なのだろう。
 そもそもそういう立場の人があってもよいとは思う。
 だから、そのこと自体は問題ではない。
 問題は、いや問題の一つは、批判の根拠である。「10月に入ってからの結果が消費税増税だったから、9月12日の読売新聞による『消費税増税に首相が意向を固めた』という記事も、正しかった」とか「リーク記事としては新聞記事として普通のものに過ぎない」とするその考え方である。私は、それはおかしいと思うし、間違っていると思う。
 私がそれを「飛ばし記事」であるとした最大の根拠は、9月12日当日の官房長官記者会見で、公式に否定されたことだった。私は、それで基本的に十分だと思ったし、読売新聞記事やそれに先導された大手メディアの同質の記事も仔細に読めば、最終決定をしたのではないだが、首相の内心の意向を明らかにしたという、ソース不明な奇妙な記事だったからだ。さらに言えば、官房長官からの公式な否定が出たのに、それはさほど重視されなかったことも奇妙だった。
 もちろん、こういう反論も成り立つ。つまり、「首相の内心が公式見解と違うのは違うのと当然だ」という反論である。でも、それは疑問が必然的に伴う。
 どうやって読売新聞は、首相の内心を知ったのか?
 記事にはそのソースが書かれていなかった。
 そこで、「ソースは開示できないリーク記事だった」と考えることはできる。だとすれば、ではどこからのリーク記事だろうか?
 普通に考えれば、首相の内心を知る側近筋ということになるだろう。
 そして、その首相の内心を知る側近筋と読売新聞は独自のチャネルを持っていたということになる。
 加えて、そのリークのチャネルが使われたということは、リーク側の思惑があるということになる。読売新聞も思惑に荷担する。
 だったら、リーク側の思惑がまず考慮されるべきではないのか。
 そこが問題ではないか。私の批判者にそこをなぜ考える人が少ないように見えた。
 状況を思い出そう。
 首相は9月の時点では、10月初旬に消費税増税の決断を公式に開示しないことを明らかにし、また実際、その言明通りに行動してきた。
 リーク側の意図は、すると、首相の表面的な言動と実際の思惑は違うのだということを伝えることにある。
 そのメリットは何か? 
 二つのケースがある。
 (1)リーク側が本当に首相の内心を知る側近筋である場合。そうであれば、首相の意図がこのリークに反映していたことになる。つまり、首相は、なんらかの意図で、公式には言明できないが、1か月くらい先に「消費増税という本心」を国民に伝えたかったということになる。だとすれば、それは何だろうか。「消費税というショックに備えなさい」という配慮でもあったのだろうか。それならなぜ公式に否定したのだろうか。公式な否定は不要でないか。あるいは官房長官は「首相の意向はわかりません」といった内容を温和に伝えることもできたのに。
 (2)リーク側が首相の側近人物であっても、首相と対立する人物であって、リークによって首相を操作したいという思惑を持っていた人物であった可能性もある。それだとどうだろうか。可能性として想定されるから、それも考えてみよう。
 その人物は「消費税増税の決断は現実には首相が決めるのではなく私が決めるのだ」という意図があるかもしれない。リーク情報から社会の消費税増税決定の空気を形成することで首相の外堀を埋める意図もあるかもしれない。あるいは、消費税増税に反感を持つ国民もいるから、「首相の内心をリークすることで反感の空気を形成したい」という意図かもしれない。ただし、この「反感の空気」は世論が消費税を受け入れる空気がある程度醸成されているなら、抑制できる。9月12日時点を振り返ると、消費税は絶対に反対とする世論は少なく、どの時点で導入するかについては曖昧な状態だったが、抑制可能な状況にはあった。
 二つのケースのどちらだろうか。
 もう一度別の視点から整理してみたい。
 9月12日の読売新聞記事で問われるのは、それが「結果的に真実を伝えていたからリーク記事ではない」、または、「普通のリーク記事であって飛ばしというものではない」というより、問われるのは、(1)リーク元はどこか、(2)リーク元の思惑は何か、ということだ。
 この件で問われるは、そこである。
 私の印象だが、私の批判者は、(1)リーク元は首相と同心の側近であり、(2)リーク元の思惑は、首相公式メッセージとは異なる内心を伝えたかった、という前提に立っているはずだ。
 私の批判者はなぜそう考えたのだろうか。
 私の印象としては、安倍首相は、民主党政権時の菅首相や野田首相と同様、最初から消費税増税の思惑を持っていたから、それが読売新聞記事で暴露された、という前提である。読売新聞・渡辺恒雄をナーブに捉えているからでもある。
 その想定が成立する根拠は何だろうか?
 私はそこがわからない。
 私は、逆の想定をしている。
 私は、安倍首相がマクロ経済学を実によく学び、少なくとも私以上にそれを理解した上で、各種の発言を行っていたと見ていた。
 彼が再登場してからのマクロ経済学的な発言は、単純な誤解や報道の歪みを除けば、少なくとも私のレベルの理解からは間違いを見いだせなかった。
 そして、そのこと、つまりマクロ経済学を理解する有力政治家の存在は、長期にデフレ下にあった日本の状況では、かなり珍しいことだし、しかもそのような人物が政治の中枢に立ったことは驚きでもあった。
 ただし、明瞭にしておきたのだが、経済以外の分野で安倍首相を評価できることはほとんどないし、経済分野といっても、金融政策以外の財政政策や産業成長論といった分野で評価できることもほとんどない。
 それでも、日本を長い間蝕んできたデフレをマクロ経済学から認識できる政治家が現れ、しかも政治力を行使できることは、一面では希望だった。
 全面的な希望ではない。
 むしろ、これは市民の視点からすればとんでもない敗北だった。安倍晋三が政治の中枢に復帰したのは、石原伸晃を立てようとした自民党の一派に対して、一種党内クーデターがしかけられてのことであり、陰湿な政争の結果に過ぎないからだ。市民の声が届いたというものではない。その意味では、これは絶望の一形式なのだと言ってよい。
 希望面だけを言えば、安倍首相の金融改革は、想定以上のものだった。日銀副総裁に岩田規久男が就いた一例を挙げても、私には奇跡に思えた。また経済顧問として内閣官房参与に浜田宏一が就いたこともそれに継ぐ。これによって、日銀の基本的な道筋は岩田規久男の動向を注視していけばよく(岩田の命運でわかる)、また政府の経済政策については、浜田宏一の動向に注目していけばよい。
 特に、浜田宏一については、実質三顧の礼で安倍首相が招いたのであり、これまでの安倍政権の経済政策で大きな齟齬はなかった。
 そこでもっとも大きな齟齬のように現れたのが、消費税増税時期という課題だった。この点で、浜田参与は一貫して、消費税増税の延期を述べていた。
 当然、これは安倍首相も重視していただろう。
 しかも、浜田参与の主張は彼の主観というのではく、普通にマクロ経済学の知見から導かれたもので、安倍首相も受け入れることができる。
 ごく簡単にいえば、デフレ脱却の道筋が見える前に消費税増税をすれば、デフレ脱却が非常に困難になるということだ。そして言うまでもなくデフレ脱却ができなければ、経済成長はもとより、雇用の改善などもおぼつかない。
 私は9月12日の時点で、安倍首相が浜田参与と対立する内心を固めていたとは、以上の背景から想定しにくい。
 こうした想定について私の安倍首相への買いかぶりと見る人はいるだろうし、その点は批判を受けたいと思う。
 だが、こうした背景を見るかぎり、安倍首相がデフレ脱却の道筋を明確にする前に消費税増税を掲げ、その結果日本の経済を失速させ、経済が失速すれば首相が排除される日本にあって、自らの首を絞めるような行動をやすやすと取るものだろうか? しかも、9月12日には公式に否定したし、それ以上の否定は首相には不可能であった。
 9月12日の時点で、首相側の公式見解は、消費税増税は未決としていた。しかし、いずれ増税か延期のどちらかに決めなくてはならず、延期の可能性がない場合にも備えてそのプランB(代案)を用意しなくてはならない。この代案作成開始時期を使って、リーク側情報が、読売新聞を先導に動きだした。
 私の批判者が主張するように、公式見解を軽視するという前提に立ち、真実が、9月12日時点での首相の内心にあるというなら、その真実は、首相が政治を離れて自伝でも書くときにしかわからない。
 それでも、以上の流れから、リーク側と読売新聞を中心としてメディアの構造から、首相といえども、謀略(異なる内心が本心だとリークされること)のように陥れることは可能だということはわかる。
 しかも、大手メディアに私が抱いた疑念のかけらも見られなかった。
 私はこの構造を見て恐怖した。
 私の批判者はそういう私を滑稽だという。
 私がそれ(私が滑稽だということ)を確信できれば、恐怖も消える。家畜の安寧である。しばらくは虚偽の繁栄である。その先は、まあ、ということに、なれる。
 
 
 

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2013.10.04

消費税問題は、大手紙の飛ばし記事の研究によい事例でもあった

 消費税増税決定に至るまでの大手紙の報道は、大手紙報道の飛ばしの仕組みを考える上でよい事例を出してくれていた。ただ、事例はどちらかというと退屈なもので、エントリーに書くまでもないかと思っていたが、大手紙報道を安易に鵜呑みにしてしまう人も見かけたので、簡単に振り返っておくのもよいかもしれない。
 最初にこの方向で出て来たのは私の知る限り、朝日新聞だったがここでは、ここでは慎重に増税を決断したという報道にはなっていない。9月10日「安倍首相、増税指標クリアと判断 GDP上方修正で」(参照


 安倍晋三首相は9日、来年4月に消費税率を8%に引き上げるための経済指標面での環境は整った、と判断した。内閣府がこの日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)の2次速報値が大幅に上方修正されたためだ。安倍政権は増税した場合に景気が腰折れするのを防ぐため、経済対策の本格検討に入る。首相は好調な指標に自信を深めており、経済対策の規模や中身を見極めたうえで、10月1日にも増税の可否を最終判断する方針だ。
 内閣府は9日、GDP2次速報値で物価変動の影響などを除く実質成長率が年率換算で前の1~3月期よりプラス3・8%になったと発表。名目成長率はプラス3・7%とした。企業の設備投資が上向いたり景気対策で公共事業が増えたりしたため、実質2・6%、名目2・9%成長だった1次速報値から大幅に上方修正された。
 昨年8月に成立した消費増税法は「経済状況の好転」を増税の前提とし、その目安を「名目3%、実質2%の成長」と規定したが、2次速報値はいずれも上回った。雇用や消費などの指標も1年前に比べてほとんどが上向いている。

 この時点での朝日新聞記事は「10月1日にも増税の可否を最終判断する方針」としていて、それ以前の増税の意向や決断をむしろ否定する記事はなっているものの、「安倍晋三首相は9日、来年4月に消費税率を8%に引き上げるための経済指標面での環境は整った、と判断した」という「判断」のソースは私は確認できなかった。
 技術的に言えばこの時点以前に政府ではコアコアCPIに着目していたので(参照)、その点に触れていない以下の分析には恣意的な解釈の影がある。

 昨年8月に成立した消費増税法は「経済状況の好転」を増税の前提とし、その目安を「名目3%、実質2%の成長」と規定したが、2次速報値はいずれも上回った。雇用や消費などの指標も1年前に比べてほとんどが上向いている。

 問題のブレークは読売新聞12日「消費税率、来年4月に8%…首相が意向固める」(参照・魚拓)であり、非常に興味深い文体で書かれている。一面トップでもあった。

 安倍首相は11日、消費税率を来年4月に現行の5%から8%に予定通り引き上げる意向を固めた。
 増税が上向いてきた景気の腰折れにつながることを防ぐため、3%の増税分のうち約2%分に相当する5兆円規模の経済対策を合わせて実施する考えだ。経済対策は、2013年度補正予算案と14年度予算案の一体的な編成や、減税を柱とする税制改正で対応する。
 首相は、10月1日に日本銀行が発表する9月の企業短期経済観測調査(短観)を分析した上で最終判断し、直後に記者会見を行い、増税に踏みきる理由や経済対策などを表明する方向で調整している。
 消費税は、1%の税率引き上げで2・7兆円の税収増となると見込まれる。複数の政府筋によると、首相は、3%の引き上げで約8兆円の負担を国民に求めた場合、回復基調にある景気が失速しかねないと懸念している。このため約2%分を経済対策で国民に事実上還元することで、景気への影響を1%引き上げと同程度に抑えることにした。

 記事もよく読めば「10月1日に日本銀行が発表する9月の企業短期経済観測調査(短観)を分析した上で最終判断し」とあり、最終的な判断がこの時点でまだであることがわかるが、問題は「安倍首相は11日、消費税率を来年4月に現行の5%から8%に予定通り引き上げる意向を固めた」のソースが不明な点にある。記事からはソースの言及がない。
 この点については同日午前の「内閣官房長官記者会見」(参照)で、そうした意向を首相が公式に発表したことが明確にされた。その時点で、では、読売新聞のこの記事の出所がどこなのかが疑問の対象になる。読売新聞の独断で書かれたとも考えられる。
 合わせて読売新聞同日「消費増税「2%」分実質還元…首相、苦肉の判断」(参照・魚拓)では、「5兆円規模の経済対策を合わせて実施する考え」を首相に帰している。

 安倍首相は、消費税率を2014年4月から予定通り8%に引き上げる一方、5兆円規模の経済対策を行うことで、増税による景気への悪影響を最小限にとどめたい考えだ。
 「経済再生と財政再建の両立」を政権の基本方針に掲げた首相にとって、苦肉の判断だ。
 消費税を14年4月に8%とし、15年10月に10%とする増税は、昨年8月の社会保障・税一体改革関連法成立で決まった。当時野党だった自民党は成立に協力したが、昨年12月に就任した首相は「増税は、回復し始めた景気に冷や水を浴びせかねない」(周辺)と考え、最終判断を保留してきた。
 財務省は「増税を見送れば、財政再建に後ろ向きと取られ、国債価格の下落などで信用低下を招く」と首相に予定通りの増税実施を進言してきた。増税を見送る場合、10月召集予定の臨時国会での関連法改正が必要となる。自民党内でも増税を容認する声が広がっており、首相は「方針転換は困難」と判断した。
 ただ、首相は、3%の引き上げを「あまりにも大幅過ぎる」とみて、2%相当の経済対策を実施する案を考え出した。社会保障・税一体改革関連法は、消費税をすべて社会保障財源に充てると明記しており、政府は、経済対策に充てる財源を別途確保する方針だ。

 読売新聞記事は「安倍首相は、消費税率を2014年4月から予定通り8%に引き上げる一方、5兆円規模の経済対策を行うことで、増税による景気への悪影響を最小限にとどめたい考えだ」としているが、同官房長官記者会見で「具体的な数字は全く出ておりません」として首相側の思惑としては否定され、かつ、その数字が「規模や中身については、これから甘利大臣と麻生大臣を中心に詰めていく」内容であることから、この二つの読売記事の出所は、「甘利大臣と麻生大臣」の系列からであることがうかがわれる。
 むしろ興味深いのは、文脈からわかるように、官房長官は「首相意向」とする記事の出所が「甘利大臣と麻生大臣」の系列からであることを示唆していると受け止めてもよく、政府内での亀裂を物語っているように読めることだ。もしこの亀裂の示唆を避けるのであれば、官房長官は言及を控えただろう。
 読売新聞の動向で興味深いのは、その12日ほど前になる8月31日の社説「消費税率 「来春の8%」は見送るべきだ」(参照・魚拓)では、消費税の見送りを社として主張していたことだ。8月末までは読売新聞は消費税増税先延ばし論に与していた。

 ◆デフレからの脱却を最優先に
 日本経済の最重要課題は、デフレからの脱却である。消費税率引き上げで、ようやく上向いてきた景気を腰折れさせてしまえば元も子もない。
 政府は、2014年4月に予定される消費税率の8%への引き上げは見送るべきだ。景気の本格回復を実現したうえで、15年10月に5%から10%へ引き上げることが現実的な選択と言えよう。
 消費増税を巡って、有識者らから幅広く意見を聴く政府の集中点検会合が開かれている。

 ◆成長と財政再建両立を
 安倍首相が今秋の決断へ、「最終的に私の責任で決める。会合の結果報告を受け、様々な経済指標を踏まえて適切に判断したい」と述べているのは妥当だ。
 日本は、15年間もデフレが継続し、巨額の財政赤字を抱える。景気低迷がさらに長期化すれば国力の低下が進みかねない。
 デフレを克服し、経済成長と財政再建の両立をいかに図るか。日本に求められているのは、この難題に取り組む方策である。
 読売新聞は年々増える社会保障費の財源を確保し、中期的に財政健全化を図るべきだとの立場から、消費増税の必要性を主張してきた。考えは変わらない。
 有識者らの多くは、来春に予定通り引き上げるよう主張したが、問題は、来春が増税するのに適切な時期かどうかだ。
 今年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は、年率換算で2・6%増にとどまった。
 安倍政権の経済政策「アベノミクス」の効果が見え始めてきたものの、民需主導の自律的回復というにはほど遠い。
 懸念されるのは、成長に伴って賃金が上昇し、雇用も拡大するというアベノミクスの好循環が実現していないことだ。
 来年4月は、春闘による賃上げや新卒採用の拡大などが見込まれる重要な時期である。好循環への動きに冷水を浴びせたくない。
 もちろん、消費増税だけで財政は再建できない。増税で景気が失速すれば、法人税や所得税などの税収も期待したほどは増えない恐れがある。それではかえって財政健全化が遠のくだろう。
 政府は今秋、成長戦略として投資減税などの追加策を打ち出す方針だが、そうした政策効果が表れるまでには時間がかかる。

 ◆15年の10%を目指せ
 8%への引き上げに固執した結果、景気が落ち込み、10%への引き上げを実現できなくなれば、本末転倒である。
 他方、消費増税を先送りした場合には、日本国債の信認が損なわれ、長期金利が上昇すると懸念する声が出ている。
 重要なのは、不安を払拭する政府の強いメッセージである。8%見送りはデフレ脱却を最優先した結果であり、財政再建の決意はいささかも揺るがないと表明し、内外の理解を求めてもらいたい。
 増税先送りに伴う消費税収分をカバーする財政資金の確保も課題になる。まず緊急性の低い歳出は削減し、併せて、あらゆる政策を検討する必要がある。
 利子が付かない代わりに、国債の額面分に相続税を課さない無利子非課税国債を発行し、家計に眠る貯蓄を有効活用することは政策メニューの一つだ。
 広く集めた資金を社会保障や防災・減災対策などに重点配分することが考えられる。

 ◆軽減税率を新聞にも
 15年10月に消費税率を10%に引き上げる際は、国民負担の軽減が不可欠だ。税率を低く抑える軽減税率を導入し、コメ、みそなどの食料品や、民主主義を支える公共財である新聞を対象とし、5%の税率を維持すべきだ。
 消費税率を1%ずつ段階的に引き上げる案では、中小企業などの事務負担が増大し、価格転嫁しにくくなるため、賛成できない。
 消費増税の判断にあたっては、世界経済への警戒も怠れない。
 シリア情勢が緊迫化し、米国による軍事行動が取り沙汰される。すでに原油価格が高騰し、円高・株安傾向も続いている。原発再稼働の見通しが立たない中、燃料高に伴い、電気料金のさらなる値上げも予想されよう。
 米国が異例の量的緩和策を縮小する「出口戦略」や、中国の金融リスクも波乱要因と言える。
 1997年4月に消費税率を3%から5%に引き上げた際、深刻な金融不安に加え、アジア通貨危機が重なり、景気が急減速したことが苦い教訓である。
 内外情勢を十分に見極め、日本再生のチャンスを逃さない決断が政府に求められている。


 消費税延期を主張する8月31日の社説から、首相の確認を取らずに消費税増税の意向が定まったとする一面記事が出る9月12日までの間に、読売新聞に何があったのか? 理詰めで考えれば、この間に経済状況が好転したということだが、常識的に考えて、この社説の趣旨を転換するほどの状況変化はない。
 また、やや陰謀論めくが過去の渡辺恒雄の動向からすると、この間に、彼と政府あるいは財務省など官僚との間に政治的な接触があったのではないかとも疑われる。あまりこの点に深入りしたくはないが、この時期の渡辺恒雄の動向を洗うと、9月10日の首相動静(参照)に興味深い記述がある。

 【午前】11時48分、官邸。49分、報道各社のインタビュー。
 【午後】0時4分、無料通話アプリ「LINE(ライン)」の森川亮社長らベンチャー企業経営者と昼食。自民党の塩崎恭久衆院議員同席。55分、麻生副総理兼財務相、甘利経済再生相、菅官房長官。2時4分、閣議。27分、2020年夏季五輪の東京招致に関する閣僚会議。43分、APECビジネス諮問委員会日本委員の亀崎英敏三菱商事常勤顧問らから提言書受け取り。鈴木裕之野村ホールディングス取締役に委員の辞令交付。3時2分、外務省の斎木事務次官、平松総合外交政策局長。57分、自民党の高市政調会長。5時7分、北村内閣情報官、下平内閣衛星情報センター所長。14分、下平氏出る。35分、北村氏出る。6時、ロシアのプーチン大統領と電話協議。38分、東京・丸の内のパレスホテル東京。日本料理店「和田倉」で渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長ら報道関係者と食事。9時36分、東京・富ケ谷の自宅。

 普通に考えれば、この日、9月10日の夕食で渡辺恒雄が首相と会食して、首相の消費税増税の意向を確認したということになるだろう。しかし、12日の官房長官談話はわざわざそれを公式に否定しているし、またそれが仮に表面的であるなら「甘利大臣と麻生大臣」系のリークの示唆は控えただろう。いずれにせよ、この渡辺恒雄との会食に何かあっただろうことまでは推測してよいだろう。
 読売新聞の該当記事で堰を切ったように、共同・時事でも同種の報道が続く。内容および形式は基本的に読売新聞記事を踏襲していて新味はないが、この追従的な日本の報道の仕組みは興味深い。
 同日共同「消費税率、来年4月8%に 首相、10月1日表明へ」(参照)より。

 安倍晋三首相が、来年4月に消費税率を5%から8%へ予定通り引き上げる方針を固めたことが12日分かった。政府は、増税による景気腰折れを防ぐため、税率上げ幅3%のうち2%分に当たる5兆円規模の経済対策をまとめる方向で本格検討に入った。首相は10月1日に増税方針と経済対策を表明し、財政再建とデフレ脱却を両立させる姿勢を示す構えだ。
 景気関連の指標が軒並み改善し、消費税増税法の付則で税率上げの条件となっている「経済状況の好転」がほぼ確認されたと判断した。国の財政悪化が深刻化し、社会保障の財源確保が急務となっており、政府、与党内で増税容認の意見が多いことも考慮した。

 同日時事より「消費税、来年4月に8%=経済対策5兆円で下支え-安倍首相、来月1日にも表明」(参照)より。

 安倍晋三首相は12日、現行5%の消費税率を、消費増税関連法に沿って2014年4月に8%に引き上げる意向を固めた。各種経済指標が堅調なことから、増税の環境は整ったと判断した。増税による景気の失速を避けるため、5兆円規模の経済対策を合わせて実施する方針だ。
 増税の是非を判断するに当たり、首相は4~6月期の国内総生産(GDP)改定値を最重視していた。9日発表のGDP改定値は、名目で年率換算3.7%増、実質で3.8%増となり、消費増税関連法付則18条に増税の目安として明記された経済成長率(名目3%、実質2%)を上回った。
 11日発表の7~9月期の大企業全産業の景況判断指数や、8月の国内企業物価指数も改善。首相は10月1日に発表される完全失業率や日銀の企業短期経済観測調査(短観)の内容を確認した上で、同日中にも記者会見して増税を表明する。

 記事形式として興味深いのは同日遅れて後続した毎日新聞記事「消費税:来年4月8%…首相、10月1日に表明へ」(参照)である。同日の官房長官記者会見を引用しながら、増税の意向が定まっていない点などについてこの報道は意図的に無視している。

 安倍晋三首相は12日、現行5%の消費税率について消費増税法に基づき、予定通り来年4月に8%に引き上げる方針を固めた。増税による景気の失速を避けるため、3%の増税分のうち、2%分に相当する5兆円規模となる大型の経済対策を合わせて実施する方向で調整している。首相は10月1日に日銀が発表する企業短期経済観測調査(短観)を確認した上で、同日中に記者会見し、増税方針と経済対策を同時に表明する方針だ。

 ◇経済対策、5兆円財源カギ
 安倍政権の経済政策「アベノミクス」により、各種経済指標は好転している。判断指標となった4〜6月期の実質国内総生産(GDP)は、改定値で年率3.8%増。増税の目安とされた経済成長率「名目3%、実質2%」を上回った。2020年夏季五輪の東京招致の成功という「第四の矢」の後押しも受け、首相は増税の意向を固めた。
 首相は10日、首相官邸に麻生太郎財務相、甘利明経済再生担当相らを集め、経済対策の中身を今月中に取りまとめるよう指示した。その際、示した文書では「消費税率の引き上げにより、景気を腰折れさせるようなことがあってはならない」と明記。政府高官は「消費税率を引き上げても、景気がよくないと財政再建につながらない」と述べ、経済対策の重要性を訴える。
 菅義偉官房長官は12日の記者会見で、消費増税に伴う経済対策について「消費税を引き上げる場合は経済への影響もあるため十分な対策が必要だ」と強調。記者団から「経済対策の規模も消費増税の判断の一つになるか」と問われると、「もちろんそうだ」と述べ、大規模な対策が不可欠との認識を示した。
 14年4月と15年10月の消費税率引き上げを定めた消費増税法は、民主党政権下の12年8月に成立した。すでに定められた増税について、首相は8月末に6日間かけて「集中点検会合」を開き、有識者ら60人に改めて増税の「是非」を問うてきた。7割の出席者が予定通り14年4月の税率引き上げに賛成を表明した。
 首相が増税実行に熟慮を重ねてきたのは、アベノミクスでせっかく上向いてきた景気への影響を懸念したからだ。財政再建を優先する財務省への反発もあり、首相は経済政策の中身を見極める方針。10月の臨時国会も「成長戦略実行国会」と位置付け、6月に発表した「日本再興戦略」に基づく産業競争力強化法案の早期成立を目指す。


 毎日新聞記事と同種の傾向は、東京新聞「消費税 来年4月8% 首相決断 社会保障目的どこへ」(参照)でも見られた。ただし、官房長官記者会見を毎日新聞よりも冷静にふまえ「消費税率引き上げは正式決定していないとしつつも」と限定した。

 安倍晋三首相は十二日、二○一四年四月から予定通り消費税率を5%から8%に引き上げる方針を決めた。最近の各種経済指標が堅調だとして、増税の環境はほぼ整ったと判断した。増税に伴う景気の落ち込みを避けるため、五兆円規模の経済対策を合わせて実施する方向。ただ、五兆円は消費税2%分に相当し、社会保障に充てるはずの増税の目的が大きく損なわれる。
 首相が増税の是非を判断するのに重視したのは、四~六月期の国内総生産(GDP)改定値。九日発表の改定値は、名目で年率換算3・7%増、実質で3・8%増。消費税増税法の付則で税率引き上げの目安となっている経済成長率(名目3%、実質2%)を上回った。
 政府・与党で予定通り増税を容認する意見が大勢を占めていることも考慮した。また、二〇二〇年東京五輪の開催が決まったことで、一定の経済効果が見込めることも判断材料となった。
 首相は十月一日に発表される完全失業率や日銀の企業短期経済観測調査(短観)の内容を確認した上で、同日中にも増税方針と経済対策を表明する方針。
 ただ、消費税増税に伴う低所得者対策はまだ決まっていない。
 政府・与党は食料品などの生活必需品に関し、税率を低くする軽減税率を導入する準備が整っていないとして、現金を配る「簡素な給付措置」を実施する方針だが、具体的な内容は未定だ。
 政府は八月下旬、有識者から意見を聞き、消費税増税を実施した場合の景気への影響を検証する「集中点検会合」を開催。増税を容認する有識者からも、低所得者対策の充実などを求める意見が相次いだ。
 菅義偉(すがよしひで)官房長官は十二日午前の記者会見で、消費税率引き上げは正式決定していないとしつつも、増税に伴う経済対策について「規模や中身を麻生太郎財務相と甘利明経済再生担当相で詰めている」と説明。正式決定後には、首相が自ら記者会見して発表することを明らかにした。

 振り返ってみると、大手紙報道は異常な事態だった。
 だが、私自身はというと、けっこう醒めて眺めていたし、きっかけでもなければブログに書く気もなかった。もともと、この安倍内閣は麻生太郎副総理兼財務相が実質、石原伸晃を立てようとした自民党内で権力クーデターのようにして作り上げたものだった。その背景には、デフレ政策を堅持する民主党政権への、財務省側の危機感を反映したものだったと思うからだ。
 こうした私の考えを「随分見苦しいw」と言う人もいる。




 私は、本当に思うのだ、「随分見苦しいw」と。だから、こんなことは書かないで、こっそり、日本のメディアと権力の構造について微笑みつつ絶望していたらよかったかな、と。いや、金融緩和はよかったじゃないか、それが消費税の増税のためであったとしても、と。
 
 
 

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2013.10.03

単純に情報操作にひっかかる人々について

【追記】
 エントリーアップ後、@wanroyoさんに主旨をご理解いただき、該当のtoggetterから私のツイートは外していただきました。
 @wanroyoさん、ありがとうございました。
 合わせて、@wanroyoさんに当てた文章は削除しました。
 以下、残る文章は、事実確認以外はすでに過去のものです。読まれるかたはその点ご留意ください。

 ※ ※ ※(以下、エントリー)

 どうでもいいかあとも思うけど、これはけっこう私に向けられた陰湿な攻撃なんで、しかも、そのレベルがかなりトホホなものなのでちょっと言及しておくかな。
 話は、よくあるtogetter、つまり、ツイッターの発言をまとめたもので、これである(参照)。まとめた人は@wanroyo(参照)という人。まとめの意図は以下の通り。


 2013年9月12日に、安倍首相が来年4月に消費税を8%に引き上げ、また経済対策として5兆円を投じる決断をしたと報じられました。9月19日にはそれと合わせて、法人実効税率引き下げを検討していることも報道されました。
 これらをデマだ飛ばしだと憤っていた方々の呟きを、10月1日の首相による増税発表後の呟きと合わせてまとめてみました。

 まとめを見るとわかるように、筆頭に私の9月12日時点のツイートが掲載されて、まあ、普通に読めば、私を「デマだ飛ばしだと憤っていた方々」の筆頭に置いて、揶揄してみた、という趣向と理解していいだろう。実際、安直にそう理解する人もいるみたいだった。例えば。




 ”orz”というは、ががっかり失望したというわけで、一般的に私のツイートに失望されるのはかまわないけど、このツイートについては失望するほうがどうかと思いますよ、というか、この手のチープな情報操作にひっかかるのはどうかと思いますよ。
 この話題を追ってきた人にとっては、こんなずさんな情報操作にひっかかることはないので、ほっておいてもよいのだけど、真に受ける人もいるみたいだった。全部が全部ではないけど、はてなブックマークのコメント(参照)を見るとけっこう見つかる。
 ただし、そのコメントがすべて私に向けられたものではないけど、私を筆頭にまとめられてはいるので、いくばくかは私にも向けられている。
 さて、こんなチープな誹謗みたいなものは、議論の余地なく、事実を見れば明らかなこと。その前に対比として、揶揄されている私の冒頭のツイートは以下。




 このツイートで一番重要のは、"9:14 AM - 13 Sep 13"という日時である。つまり、9月13日の私の発言である。内容は、その前日にあたる、平成25年9月12日(木)午前の「内閣官房長官記者会見」(参照)を元にしたものだった。
 まず、私のツイートで「消費税増税に関連する大手紙の飛ばし」としているのは、次のような記事である。

【読売】 2013/9/12朝刊1面「消費税 来年4月8% 首相、意向固める 経済対策に5兆円」、同2面「『景気に冷や水』回避狙う 『2%』分は実質還元」
【毎日】 2013/9/12夕刊「消費増税 来年4月8% 安倍首相『環境整う』判断 経済対策、5兆円規模検討」
【共同】 2013/9/12「消費増税 来年4月8%に 首相、10月1日表明へ」
【時事】 2013/9/12「消費税、来年4月に8%=経済対策5兆円で下支え =安倍首相、来月1日にも表明」」
【東京】 2013/9/12夕刊1面「消費税 来年4月8% 2%分 経済対策5兆円 首相決断 社会保障目的どこへ」

 具体的にこの9月12日の大手紙報道についての政府見解はどうであったか。平成25年9月12日(木)午前の「内閣官房長官記者会見」で簡単に確認できる。
 映像でも見ることができるけど、簡単に書き起こしておこう。一部聞き取れない部分は**とした。


司会 お願いいたします。
官房長官 えー、どうぞ。はい
テレビ朝日記者 消費税についておうかがいします。テレビ朝日**と申します。一部報道で安倍総理がですね、来年4月から8パーセントに引き上げる方針を固めている報じられています。長官の所見と事実関係をお願いします。
官房長官 あのー、総理が消費税を引き上げるというですね、まあ、決断をしたという事実はありません。えーまあ、総理は種々の経済指標をしっかりと見きわめて、総理自身が来月上旬に判断をされるということであります。ただあの、先般の閣僚懇でですね、消費税を引き上げる場合には経済への影響もあるため、十分な対応策が必要であり、そうした意味合いも含めて経済政策パッケージをまとめるように、総理から10日の閣僚懇で指示があったところであります。規模や中身については、これから甘利大臣と麻生大臣を中心に詰めていく、そこはそうした事実です。
テレビ朝日記者 わかりました。10日の閣僚懇でそうした指示があったということは、素直に受け取れば、消費税引き上げとセットで経済対策のパッケージもという受けとめもできると思うんですが、そうではないんですか。
官房長官 あのー私も実は総理との会談に同席をしました。さまざまな状況を考えた中で、総理は10月上旬に、私が責任を持って判断しますと、そういうことでしたから、全くあの固めたということは事実と違うと思います。
司会 はい。
別記者 **新聞の**ですが、同じ読売の報道で、経済対策の規模なんですが、5兆円規模で総理が指示を出したということなんですが、これは大体5兆円という指示なんでしょうか。
官房長官 あのー具体的な数字は全く出ておりません。
別記者 数字というのも、じゃ、これから。
官房長官 あのー今申し上げましたように、えー経済政策、パッケージ取りまとめるようにですね、総理がこうこう指示したわけですから、それに基づいて、規模や中身については、今申し上げましたように、麻生大臣と甘利大臣との間で詰めていくということになるだろうと思います。ただ、そうしたもの全体を総理自身が掌握した上で、最終的に判断するということですから、まだ判断はしてません。

 官房長官は「全くあの固めたということは事実と違うと思います」と含みを残しているが、会談に同席していた範囲では、安倍総理が消費税増税を決心したことがないというのは事実で、それ以外に安倍総理が内心を記者に漏らした可能性の有無を配慮しているくらいことであり、常識的に考えれば、それはほぼありえないだろう。
 むしろ、官房長官による「具体的な数字は全く出ておりません」という公式発言からすると、5兆円という数字はまったくの誤報であり、これが時事などから出て来たことを考えると、この時点での大手紙の記事は、「甘利大臣と麻生大臣」の筋から出て来たと見てよいだろう。
 二大臣からの筋のリークであれば、大手紙がすっぱ抜き的に報道したこともありえないことではないが、その場合でも、「首相、意向固める」という記事に反して、首相の公式発言を保証する官邸から裏はとっていないことは明白であり、普通に考えて、これは「飛ばし」記事としてよい。
 むしろ、あの時点での私のツイート「消費税増税に関連する大手紙の飛ばしは、大手紙と政界・官界の癒着的構造の結果なんだろうけど」というのはそこを考慮してのことだった。
 
 
 

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2013.10.01

消費税増税。来年の花見は、お通夜状態になるか

 来年(2014年)4月の消費税率8%への引き上げが決まった。それなりにマクロ経済を勉強してきたように見える安倍首相のことだから、もしかするとこの時期での決定は先延ばしにするのではないかという一縷の望みはあったが、むなしかった。
 「この時期で」というのはデフレのさなかということだ。9月27日発表の消費者物価指数(CPI)では、前年同月比0.8%上昇で3か月連続プラスとなり、これをもって同時甘利明経済再生相は、閣議後会見でデフレを脱却しつつある過程にある、と述べたが、加えて、まだデフレ脱却に至っていないことも認めていた。同日のロイター「デフレ脱却しつつある過程=8月CPIで甘利経済再生相」(参照)より。


 同相は8月CPIを受け、日本経済は「長いデフレから脱却しつつあるという過程にある」との認識を示した。もっとも、電気代やガソリン代など円安の影響を除いたコアコアCPIは同0.1%低下と引き続き水面下にあり、「これがプラスに転じ、大きなショックでもない限り、もとの状態に戻らない環境が整備されたときに(デフレ)脱却といえる」と語った。
 その上で、物価が上がっても賃金が上がらないような状況では、デフレ脱却にはならないと述べ、企業業績の改善が賃上げに反映され、設備投資や消費に結びついていく「好循環」が不可欠と語った。

 安倍内閣としては、デフレの指標となる「電気代やガソリン代など円安の影響を除いたコアコアCPI」に着目し、消費税増税決定の判断材料としていた。7月9日ロイター「〔焦点〕政府のデフレ脱却判断、「コアコアCPI」採用へ」(参照)より。

 5月全国消費者物価指数(除く生鮮、コア)が前年比0.0%とマイナスを脱し、デフレ脱却の局面が近づいているとの声が一部のエコノミストから出ているが、政府はエネルギー関連を除いた「コアコア指数」で判断する方針を明らかにしている。コア指数の上昇には、単純に需要の強まりと判断できない「訳ありケース」が含まれているからだ。デフレ脱却判断のハードルが高くなり、結果として消費増税判断に影響する可能性もある。


 このようにコアコアCPIを基準にデフレ脱却時期を判断した場合、脱却を政府が宣言するタイミングは、コアCPIを基準に判断する場合よりも、かなり先送りされる公算が大きい。
 そのことは、政府が秋にも判断する消費税率の引き上げ判断に対し、微妙な影響を与える可能性がある。
 安倍晋三首相周辺のリフレ派と呼ばれる学者や専門家が、増税実施の判断にはコアコアCPIの上昇定着を伴うデフレ脱却の確認が必要と主張しかねないためだ。

 結果からすると、今日の消費税増税決定で、コアコアCPI上昇の定着を待たずに見切り発車した形になった。
 また、同種の指数として東大物価指数(参照参照)もある。
 いずれにせよ、デフレ脱却の見通しがまだたっていない時点で、消費を圧迫する消費増税が決定された。
 どうなるか。
 今日夜7時のNHKニュースでもエコノミストたちの予想をまとめたグラフを示していたが、来年3月ごろまでは駆け込み需要で消費の動向は崩れず、経済成長も緩やかに続くが、3月に入るころか、その半ばあたりで、ズドーンと急降下をはじめる。その渦中で消費税が上がることになる。
 これでは、お通夜のような暗いお花見ということになるのではないか。

 その後は、一時期の落ち込みは来年の8月に向けて持ち直していくとも予想されるが、それでも現在のような状態には戻らず、失われた30年に向けて、日本が邁進していくことなるか、あるいは、安倍首相はなんとか2年もちましたね、立派でした、みたいなことになるかもしれない。
 こうしたことは安倍首相本人もわかっていても、どうしようもならかったのだろうという気もする。
 記者会見では、安倍首相は増税の衝撃を和らげる点に配慮しているふうでもあった。日経「消費税、14年4月8%を政府決定 経済対策5兆円 首相「経済再生と財政健全化、両立しうる」(参照)より。


 消費税率引き上げは橋本龍太郎内閣で1997年4月に3%から現行の5%に引き上げて以来、17年ぶり2回目。民主党政権だった野田佳彦内閣で12年8月に成立した消費増税法に基づく。3%分の引き上げで消費税収は年8.1兆円増える見通しだが、初年度の14年度は約5兆円増にとどまる。政府は5兆円規模の経済対策で負担増の痛みを和らげたい考えだ。

 8兆円の増税に対して、5兆円規模の経済対策、というのだが、問題は単なる引き算ではないことだ。消費税は一年で終わるのではなく、恒久措置となる。さらに2015年にはさらに2%上がって10%になる。デフレ脱却もしれない状態でこれが続く。
 困ったことになったと思うが、とりあえず、8%に上げようとして、ずどーんと日本が沈むか、散りゆく桜の風景とともに静観するしかないだろう。
 
 

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