2013年、参院戦、雑感
事前に今回の選挙の予想をブログに書いてなかったという点では後出しジャンケン風になってしまうが、大きく予想外な結果というのはなかった。ブロガーでもあり実際のところ熱心な部類のツイッター利用者でもある私は、ネットからも今回の「ネット解禁選挙」を見ていたが、選挙結果とネット活動についても想定外のことはなかったように思う。
ネットから覗いた選挙の風景では、山本太郎氏やワタミこと渡辺美樹氏が話題だった。が、私には彼らの主張とその国会議員としてのステータスが今後の国政に大きな影響力を与えるとは思えなかった。それでも話題は話題であり、ネットの話題らしく消化されていくのを面白ろおかしく傍観していた。
話が今回の選挙の重点からは逸れるが、ネットで話題の山本太郎氏の主張と支持は、ネットと現実をまたがり、興味深い現象でもあったとは思う。彼の主張は基本3つあり、(1)反原発、(2)反TPP、(3)ブラック企業の規制、だった。このように簡素にまとめてみると、共産党の主張・論点と同じであることがわかる。ということは、山本氏の特徴はコンテンツ(主張内容)よりもメディア(何をつかって主張したか)とレトリック(主張のしかた)である。メディアとレトリックに酔う少なからぬ人がいたという意味だ。こうした現象をもって、メディアにはネットが活用されたとも逆説的に言えば言えるだろう(活用され過ぎて選管違反でもあるようにも見えたが)。また、共産党の今回の微妙な躍進には加えて、コンテンツ(主張内容)部分への共感と反自民党、さらに民主党への幻滅ということでもあっただろう。現実世界での共産党の活動は高齢層が多く、老人たちのパワーの潜在力に感得するものはあった。
今回の選挙の重要な論点はなんだったか?
実はそれが不在だというのが論点だった。有権者にしても自分の一票がどのように国政に反映するのかはっきりとしていなかった。
山本氏の主張ような3点がこの選挙の論点だと思う人には明瞭な選挙ではあっただろうが、多数にしてみれば国政に求めるものは、生活につながる経済の向上であり、その点において、前民主党政権は失敗していたという幅広い印象が覆せなかった。経済が上向きなら、総選挙の重要性の認識が減るというのは大衆の「合理的な無関心」の当然の帰結である。
経済が論点であるなら、アベノミクスが論点であり、その3矢、(1)金融緩和、(2)財政出動、(3)構造改革、についてどのように野党が対論を出せるかが論点になるはずだった。
だが、その部分こそ、メディアやネットからははっきり見えなかった。くどいが、山本氏や共産党のような論点が事実上の目隠しになっていて、結果的に自民党を利していた。
多様な意見はあるが、日本国民の暗黙の総意が今後の経済の向上であるなら、アベノミクスがどのように今後機能していくか、潜在的な問題点がどこにあるかが問われなくてはならない。そこが明瞭ではなかった。しいて言えば、みんなの党は論点を理解していた。維新党も一部では理解されていた。一部というなら民主党も同じ。この状況から言えば、こうした理解者を薄く団結する政治力が不在の選挙であった。この不在は、私が見やすかった東京都選挙区で結果的に大きな負の影響をもたらしていた(山本太郎は落選させることができたはずだったと思う)。
山本氏・共産党的論点、あるいはその延長とも言えるが、(4)憲法改正、も論点化されてはいた。安倍自民党総裁も意図的にそこを薄い団結の焦点にしている向きもあった。
しかし懸念されるという意味での改憲は自民党が単独安定多数になってからの課題であり、早急な課題ではない。今回の選挙の枠組みで課題になるとすれば、自民単独で参院が仕切れるようになればということだが、そうならなかった。今回の結果では公明党との連立がなければ不可能である。しかも公明党の主張は改憲ではなく加憲である。私も、加憲というのはよいアイデアであると思うので、この面では現実問題としては公明党を支持したい。
参院選後の最大の政治問題は、10月をメドに迫る消費税増税の決定がある。これについて今回の参院選の結果がどのように反映するかが、実は、今回の参院の最大の難問でもあった。どう読むかが難しい。
自民党が優勢になることが、消費税増税回避につながるとは言えないのがその難点の核心である。私の見てきたところでは、安倍総理は現時点での消費税増税は危険だという認識を持っているが、それが自民党内で支持されるかまで読み切れない。逆になる可能性も高い。
単純な議論にすれば、であれば、消費税増税に反対する野党勢力に荷担すればよいではないかということになる。この点では増税策を推進してきた民主党の出番はない。すると、その補助勢力として役立つのは、みんなの党か維新党かということになる。そこが今回の選挙で個人的に迷ったところだった。なお、共産党や社民党など旧左翼系の政党も消費税増税に反対しているが理路がまったく異なるので、その荷担は混乱を招くだけになるだろう。
この文脈で言えば、今回国政で自民党が優勢になったことで、旧来の自民党政治に戻ったという判断は選挙後の現時点で言うことはできない。その判断は、消費税増税決定が下される10月の時点でということになるだろう。以前も書いたが、消費税が日本経済に深刻な影響を与えるのは8%増税が終わった時点なので、その間、アベノミクスがまさに旧来の自民党のように利権と再配分の政党に堕してしまえば日本経済の先行きは懸念される事態になる(そうでなくても中国経済の消沈化も懸念されるが)。
具体的に今回の選挙ついて、特に新味はないとも言えるのだが、NHKの結果表示がわかりやすかった。ちょっと見にはわけのわからない図だが、20秒も見入っているといろいろ納得する(参照)。
今回の選挙で明瞭でもあり前回などからも予想もされていたが、一人区は優勢な政党が全取りしてしまう。今回は自民党が圧勝した。この時点で、自民党の圧勝と民主党の敗退は予想されていた。「ねじれ解消か」は偽の論点だった。
二人区やそれ以上の区については後に回して、比例区については、基本的に国民の支持政党の傾向が反映する。これも今回は自民党と組織票の固い公明党ががっちりと押さえた。その他の党もそれなりに押さえていて、どの政党もきちんと選挙運動していたことが読み取れる。
残りは、中選挙区的な二人区やそれ以上の区であり、数が増えれば比例区に近づく区分だが、ここではその傾向通り、国民の支持や既存基盤のある政党が比例的に上がってくる。ざっと見た印象では、民主党が壊滅したわけでもない。
今回の選挙をもって二大政党は終わったという議論も見かけたが、むしろ、民主党は、鳩山さんや菅さんのように抜群に面白い人を整理して、みんなの党や維新党と集合すれば、新しい勢力にはなりうるだろう。アベノミクスが自民党の混乱で頓挫したときの代替勢力として期待したい。
その他の雑感としては、社民党が諸派になるのかとか、沖縄の社大党とはなにかということも思うことはあるが別の機会にしたい。
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コメント
無名で、100票くらいの影響力がある人。こういう人が減ったか、投票を拒否した結果じゃないかな。政治というのは人の結びつきが一番重要なんであって、個々が分裂して、「知」で投票するわけじゃない。結びつきがなくなった人や、結びつきを求めてる人が、意外な投票行動に、一部あっただけで、政治的思想や団結を維持できるわけではないと思う。
アメリカの民主主義がいいところは、そういう100票無名人が、政治団体の中で地位が向上するようなシステムになっていること。そして、最終的には大統領も。で、次の選挙では、日本もこうなっていくんじゃないかな。
さて、ネットでいうと、有名な方々がどれだけ人の結びつきがあるだろうか。ただ、なんとなくは影響しあうようにはなっているみたいだけど。この点でいうと外国人はすごいよね。シンガポールの弟子がネットの中で好例になっているイベントでいっしょに遊びたいとコンタクトしてきた。こちらもメールで交換しつつとふっておいてどうなるかわからないけど、思ったとおりにすすめば、8月は毎日が楽しいな。
政治は、人と人との結びつきですぞ。ネットでも可能ですよってことで。と、最後にワタミ議員には、公務員教育に力を入れてもらいたい。公務員の労働環境を徹底的に調査して国民に知らせていただけることを期待しておく。
投稿: | 2013.07.22 12:37
貴ブログ、拝見しております。
本エントリにて言及のございました沖縄社会大衆党についてのエントリをリクエストいたします。当方、wiki程度の知識しかなく、特に当該党が沖縄の人々のどういった層に訴求しているのか、その点を知ることができればなあ、と思っております。
よろしくご検討くださいませ。
投稿: osanai | 2013.07.28 01:05