核廃絶を目指すオバマ米大統領、2013年春、いまここ
核廃絶を目指すことでノーベル平和賞を受賞したオバマ米大統領に関連し、核廃絶を国是としてきた平和国家日本にとって、5月30日付けの中国網「米が戦術核兵器のF-35搭載を検討 日韓豪の魅力的な戦闘機に」(参照)は多少気になる話題ではないかと思えた。軍事問題は難しく、全体像が見渡せないが、国内報道やこれをテーマとした議論も見当たらないように思えるので、簡単にブログで拾っておきたい。
話の当面の起点となる中国語によるオリジナル記事はわからないが、日本国内向けには次のように手短にまとめられている。
米国は新たな国防予算の中で、110億ドルを戦術核兵器の現代化改造に充てる予定だ。将来的に、これらの改良後の戦術核兵器はF-35戦闘機に搭載される。これは敵国の軍事目標に対する、爆撃効果の引き上げを目的とするものだ。
米国の計画によると、今回の改造は核兵器および発射装置を対象とする。
米国は欧州に配備しているB61-3/B61-4戦術核兵器を米国に戻し、その他の数種類のB61の長所と結びつけ、新たなB61-12核爆弾を開発する。同核爆弾は2019年の交付を予定している。
B61-12の性能はこれまでの性能を上回り、TNT換算で5万トンの破壊力を持つ。米国はB61-12に、B61-7のTNT換算36万トンの破壊力をもたせようとしている。そこで米国の科学者は爆弾尾部の誘導装置を改造し、命中精度を高めた。精度が高められたことで、TNT換算5万トンの破壊力を持つ核爆弾は、36万トン級の核爆弾に相当する脅威となる。
オバマ政権が、旧来の戦術核兵器B16を改良し、実質的に36万トン級の核爆弾に相当する核能力に高めようとしているとのこと。これにオバマ政権は現在、多くの予算をつぎ込もうとしている。
これはどういう意味があるのだろうか?
核爆弾の能力向上という点では、核兵器の推進の形態とも取れるし、あるいは新たな核を作らずに、旧来の核兵器を改造するだけなのだから、オバマ米大統領がノーベル平和賞の理念をこのような形で実現したと言える。どちらだろうか。
関連して、昨年の9月だったが赤旗に興味深い指摘があった。「米核兵器管理 事実上の新型開発をやめよ」(参照)である。
米政府は核兵器管理で、製造から年月を経た核兵器が問題なく所定の動作をするよう整備し、さまざまな実験もそのために利用しています。それは使用期限の延長であって、兵器としての新たな能力を付け加える「新型」開発ではないというのが建前です。
しかし、整備では数多くの部品が交換され、そのなかで核兵器は改造され「近代化」が図られます。「新型」というべき核兵器に生まれ変わることもあります。
爆発力を広島型原爆の50分の1から24倍まで選択できるB61核爆弾。既存の4種類の型を統合し、新たにB61―12がつくられます。小さい爆発力で効果をあげられるよう精密誘導装置が備えられます。ブッシュ前政権当時に“使いやすい核兵器”として大問題になった小型核兵器が、オバマ政権下でひっそりと開発されています。
オバマ大統領が新たな核兵器を開発するのは、核兵器の役割を認めるからであり、「核抑止力」論にしがみついているからです。それは核爆発を起こさずとも、核兵器の威力を活用する立場であり、「核兵器のない世界」への最大の障害です。「核抑止力」論への批判がますます重要です。
その後、この話題を赤旗がどう維持・継続しているかわからないが、比較的最近の関連の話題では、4月28日「核兵器向け予算を国民へ 首都選出のノートン下院議員」(参照)があった。
【ワシントン=山崎伸治】米国の首都ワシントン選出のエレノア・ノートン下院議員(民主党)がこのほど、核兵器を廃絶し、核兵器に向けられていた予算を国民のために使うよう求める「核兵器廃絶、経済・エネルギー転換法案」を現在開会中の第113議会に提出しました。
ノートン氏は1994年以来、毎回の議会に同趣旨の法案を提出し、今回が11回目です。
今回の法案は、米国政府が核兵器を無力化・解体するという国際協定を2020年までに交渉することを義務付け、核分裂物質や放射性廃棄物を厳重に管理することなどを規定。さらに核兵器に使われる予算を住宅や医療、年金、環境保護に当てることも盛り込んでいます。
ノートン氏は法案について18日の本会議で演説し、「議会が国民向けや基盤整備のための大切な予算を削り続け、世界がイランや北朝鮮への核拡散の懸念に直面するなか、この法案はことさら時宜にかなっている」と強調しました。
法案は、93年9月にワシントンで実施された住民投票で56%の賛成を得た提案を基本にしています。
赤旗の報道では、「世界がイランや北朝鮮への核拡散の懸念に直面するなか」という文脈が強調されている。
だが、その一週間ほど前のガーディアン報道「誘導兵器案浮上でオバマは核化回帰が非難されている」(参照)があり、同記事では、ベルギー、オランダ、ドイツ、イタリア、およびトルコに備蓄された約200個のB61重力爆弾を、ステルスF35戦闘爆撃機で利用可能な誘導兵器に作り替える計画が話題になっていた。
おそらく、赤旗が取り上げた4月28日の記事は、一般的な核廃絶問題ではなく、ガーディアン記事や中国網にあるようにステルスF35戦闘爆撃機に搭載可能なB16核爆弾開発の文脈だろう。
ごく簡単に言えば、オバマ政権は今後、敵レーダーに検知されないようなステルス戦闘機に小型の核爆弾が装備できるようにするために、新たな予算をつぎ込むということである。
核兵器強化としてこの事態を見ていくとき、多少奇妙に思えるのは、現在の報道の文脈では、基本的にNATOの強化に見えることだ。NATOに冷戦時に迫る脅威があるのだろうか? という点で考えると、イランやインドのの核弾頭搭載可能ミサイルが想起されるはする。これが大問題なのだろうか。
オバマ政権の核化戦略の本質がよく理解できないのだが、NATOにおける核兵器強化の必要性がさほどないなら、多少陰謀論めいた推測ではあるが、むしろそれを必要とする地域を刺激させないための名目上の動向であると考えられなくもない。中国網記事の副題「日韓豪の魅力的な戦闘機に」はこの点を示唆しているのだろう。
米国の核の傘に不安を覚える韓国や、平和への祈りを天に届けようとしている日本など、アジア地域には、大国中国を除くと、当然ながら、具体的な核戦略はないので、米国としては、核の傘のフォローアップの一環として、ステルスF35戦闘爆撃機に搭載可能なB16核爆弾開発をしているということはないのだろうか。
この問題についてわかりやすい解説記事があればよいのだが、ニューヨークタイムズなどでも予算問題や核廃絶の文脈としてだけ取り上げているだけで(参照)、オバマ政権の軍事戦略の大筋のなかでの位置づけが見えてこないように思える。
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