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2013.05.28

橋下徹大阪市長による日本外国特派員協会での記者会見報道についてニューヨークタイムズでの取り上げかた

 27日に日本外国特派員協会で行われた橋下徹大阪市長による記者会見報道をニューヨークタイムズが取り上げていたので、その報道のされかたについて、簡単にメモしておきたい。
 該当記事は「Japanese Politician Reframes Comments on Sex Slavery」(参照)で田渕広子記者によるもの。
 最初に概括だけしておくと、一部でよく言われるような偏向報道という印象は受けなかった。どちらかというとそっけないほどプレーンな記事で、最後は、民主党の海江田万里代表が中国のことわざだとした「火を油紙で包むことはできない」という評で締めている。英文で読むと冗句なのか判然とはしないが。
 橋下市長のスピーチは英文(参照)と和文(参照)が存在するので、田渕記者が橋下発言とした部分の引用の正誤が確認できる。というか、そのあたりを以下にまとめてみた。基本的に二個所ある。
 まず一点目から。以下が田淵記者の報道文。太字が橋下氏の発言とされている部分。


“We must express our deep remorse at the violation of the human rights of these women by Japanese soldiers in the past, and make our apology to the women,” Mr. Hashimoto said, speaking to journalists at the Foreign Correspondents’ Club of Japan. But, he added, “it is not a fair attitude to blame only Japan, as if the violation of human rights of women by soldiers were a problem unique to Japanese soldiers.”

 次に橋下市長の英文。田淵記者の引用部に相当する部分を太字にした。

We must express our deep remorse at the violation of the human rights of these women by the Japanese soldiers in the past, and make our apology to the women. What I intended to convey in my remarks was that a not-insignificant number of other nations should also sincerely face the fact that their soldiers violated the human rights of women. It is not a fair attitude to blame only Japan, as if the violation of human rights of women by soldiers were a problem unique to the Japanese soldiers. This kind of attitude shelves the past offenses that are the very things we must face worldwide if we are truly to aim for a better world where the human rights of women are fully respected.

 日本語での対応は以下。ただし、直訳ではないので、文章単位で対応しているわけではない。

 かつて日本兵が女性の人権を蹂躙したことについては痛切に反省し、慰安婦の方々には謝罪しなければなりません。同様に、日本以外の少なからぬ国々の兵士も女性の人権を蹂躙した事実について、各国もまた真摯に向き合わなければならないと訴えたかったのです。あたかも日本だけに特有の問題であったかのように日本だけを非難し、日本以外の国々の兵士による女性の尊厳の蹂躙について口を閉ざすのはフェアな態度ではありませんし、女性の人権を尊重する世界をめざすために世界が直視しなければならない過去の過ちを葬り去ることになります。

 田淵記者の引用のしかただが、記者の関心から抜き出したのだし、それは記者の考えによるものだが、普通に読んでも、橋下市長が強調したかった部分、「日本以外の少なからぬ国々の兵士も女性の人権を蹂躙した事実について、各国もまた真摯に向き合わなければならない」「日本以外の国々の兵士による女性の尊厳の蹂躙について口を閉ざす」が抜け落ちているのは、発言者の意図を伝えるという点ではあまり正確ではないようには思えた。
 なぜこの部分の橋下発言を記事から除去したのか。その部分について田渕記者が触れたくなかったのか。疑問にも思う人もいるかもしれない。だが、そうでもない。引用という形ではないが、田渕記者のまとめとして次のように言及されている。この部分は先に触れた後半分に相当する。

Mr. Hashimoto charged that Britain, France, Germany, the Soviet Union and the United States were guilty of similar violations of women’s rights in World War II, as were South Korean soldiers who served in the Vietnam War. He urged those countries to acknowledge their past before scrutinizing Japan’s wartime history.

橋本氏は、英国、フランス、ドイツ、ソビエト連邦、および米国が第二次世界大戦における女性の権利について、同様の侵害した点で有罪であったし、ベトナム戦争で軍役に服していた韓国兵もそうであったと告発した。彼は、これらの国々に対して、日本の戦時史を詮索する前に自身の過去を認めるよう勧めた。


 田渕記者がこのようにまとめたオリジナルの橋本発言は、先の発言に続く以下である。

Sexual violation in wartime was not an issue unique to the former Japanese army. The issue existed in the armed forces of the U.S.A., the UK, France, Germany and the former Soviet Union among others during World War 2. It also existed in the armed forces of the Republic of Korea during the Korean War and the Vietnam War.

 和文は以下。

戦場の性の問題は、旧日本軍だけが抱えた問題ではありません。第二次世界大戦中のアメリカ軍、イギリス軍、フランス軍、ドイツ軍、旧ソ連軍その他の軍においても、そして朝鮮戦争やベトナム戦争における韓国軍においても、この問題は存在しました。

 田渕記者のまとめとほとんど相違ないように思われるので、引用の形態を取らなかったのは、記事のトーンを整えるためであったように思えるが、よく読むと、意外にも思えたのだが、ベトナム戦争での韓国軍については田渕記者の文章に参照されているが、朝鮮戦争(the Korean War)については抜け落ちている。なぜだろうか。この部分を抜くために引用を避けたのだろうか。疑問は残る。単純な話、この文脈において朝鮮戦争を無視するのはそれなりの意図が想定されてもしかたないだろう。
 もう一つの部分に移ろう。田渕記者の記事における引用部から。

“That was not what I meant,” Mr. Hashimoto said. “My real intention was to prevent a mere handful of American soldiers from committing crimes. In attempting to act on my strong commitment to solving the problem in Okinawa stemming from crimes committed by a minority of U.S. soldiers, I made an inappropriate remark.”

 対応する橋下氏の発言だが、次のようになっていて、また欠落部が目立つ。

There was a news report that, while visiting a U.S. military base in Okinawa, I recommended to the U.S. commander there that he make use of the adult entertainment industry to prevent U.S. soldiers from committing sexual crimes. That was not what I meant. My real intention was to prevent a mere handful of U.S. soldiers from committing crimes and strengthen the Japan-U.S. Alliance and the relations of trust between the two nations. In attempting to act on my strong commitment to solving the problem in Okinawa stemming from crimes committed by a minority of U.S. soldiers, I made an inappropriate remark. I will elaborate my real intention as follows.

 対応する和文は以下。

 また、沖縄にある在日アメリカ軍基地を訪問した際、司令官に対し、在日アメリカ軍兵士の性犯罪を抑止するために風俗営業の利用を進言したという報道もありました。これは私の真意ではありません。私の真意は、一部の在日アメリカ軍兵士による犯罪を抑止し、より強固な日米同盟と日米の信頼関係を築くことです。一部の在日アメリカ軍兵士による犯罪被害に苦しむ沖縄の問題を解決したいとの思いが強すぎて、誤解を招く不適切な発言をしてしまいましたが、私の真意を、以下に説明いたします。

 田渕記者の記事から抜けているのは、「より強固な日米同盟と日米の信頼関係を築くことです」の部分であり、オリジナルでは「私の真意を、以下に説明いたします」とある部分でもそこが強調されているので、やはりあえて橋下氏の意図したい部分だけを田渕記者が抜いたようには見える。
 以上でニューヨークタイムズに掲載された田渕記者による記事中の、引用の照合は終わりだが、あと簡単に同記事を読んでひっかかった点に触れておきたい。

He also invoked a belief shared by many Japanese, including Prime Minister Shinzo Abe, that there was no evidence to suggest that Japan’s wartime government directly forced women to serve in the brothels. He brushed aside, as unreliable, testimony to the contrary from a number of women who had been enslaved.

彼はまた、日本の戦時政府が直接、売春宿で勤務するよう女性に強制したと示唆する証拠が全然なかったとの信念を呼び出した。この信念は、安倍晋三総理大臣を含む多くの日本人によって共有されている。彼は、奴隷にされていた多くの女性から証言は、信頼できないとして、払いのけた。


 この点については、田渕記者の知識が足りないのかもしれない。ここで信念(belief)とされている内容だが、閣議決定され、日本の公式見解になっている(参照)。この公式見解を変更するには、安倍首相を含め多数の日本人が信念を変えたのち、政治的な手順を取る必要がある。信念を変えることは公式見解を変えることの第一歩ではあるが、信念を変えるだけで済む問題ではない。
 
 

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コメント

立場に違いがあるのに、同じ立場で発言しているところが痛いよね。わかりやすくいえば、日本の男と女では立場が大きく違っているのに、同じ立場で発言したらウソだよね。まず、男と女の立場を現実に同じにしてから言えってことになる。言葉って、便利で、同じ立場になっちゃうんだよ、特に、日本語は。まぁ、ネットでも、匿名と実名では立場が違うことをちゃんと認識していれば、匿名のことをいちいち気にしなくてすむのに、全員、実名になればいいみたいな。匿名の医者がネットでブイブイ言わせるのも立場があるからでしょ。医者であることも伏せればいいのに、笑。とにかく、都合がいいところでは立場は同じにされ、現実には、見下したりするわけで、下品すぎる。風俗嬢と顧問弁護士の立場を同じになってから出直してきてほしいものだ。

投稿: | 2013.05.28 19:00

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