FOXニュース記者が米司法省から監視されていたという話題
2009年だった。バラク・フセイン・オバマ・ジュニアが第四十四代アメリカ合衆国大統領初就任を果たしたのは。そしてその年彼は、2009年度ノーベル平和賞も受賞した。受賞理由は、ええと、なんだったか。「牛に名前をつけることでミルクの量が変化する」だっただろうか。いやそれは獣医学賞だ。平和賞はたしか、「頭を殴るときのビール瓶は空のほうがいいか」だった。いやそれはノーベル賞じゃなかったような気もする。覚えていますか、正確に?
選挙期間中の米国メディアは、日本人からすると、狂乱だよなという印象がある。しかたがないものだろうし、かく言う日本でもこの夏からは、しだいに米国のようになっていくだろう。前哨戦とも見られる兆候もある。政治に関わる報道はいかにあるべきか。
報道の問題といえば、なにか大切なことが日本国憲法の前文にも書いてあってような気もする。が、それとは別に偏向報道というのも問題は問題だろう。
特に保守派の偏向は目に余るものがある。これも2009年だったが、スレート・グループ編集主幹ジェイコブ・ワイズバーグがこうした問題としてFOXニュースを取り上げ、「全米最悪FOXニュースの偏向ぶり」(参照)という記事を書いていた。日本語版Newsweekのサイトに翻訳が残っている。
FOXニュースは右派寄りの偏向報道を行っている――10月8日、ホワイトハウスのコミュニケーション責任者アニタ・ダンにそう非難されたとき、FOXはこの種の批判を受けた際のいつもどおりの態度を取った。偏向などしていないと反論する一方で、実際には紛れもない偏向報道を続けたのである。
FOXニュースの右派寄りの偏向報道は誰の目にも明らかなものだったらしい。
FOXのウェブサイトでこのダンの批判に関する記事を読めば、一目瞭然だ。その記事は5人の人物のコメントを引用しているが、そのうちの2人はFOXで働いている人間。5人がそろいもそろって、オバマ政権高官によるFOX批判を事実無根と非難し、あるいは政治的に愚かな行為だと嘲笑している。ダンの主張を支持する人物のコメントは1人も引用していない。まさしく、偏向報道のお手本のような事例だ。
ウェブサイトだけではない。テレビのFOXニュースにチャンネルを合わせると、いつものキャスターやコメンテーター連中が同じ主張を異口同音に唱えていた。オバマ政権のFOX叩きは批判勢力潰しの陰謀の一環だ、FOX以外の報道機関はすべてオバマ寄りではないか、オバマ政権はFOXを批判する暇があれば国の舵取りに専念せよ......などなど。
「オバマ政権はFOXを批判する暇があれば国の舵取りに専念せよ」そうかもしれない。国の舵取りこそが報道より大切なのかもしれない。
かくして執筆者のジェイコブ・ワイズバーグはそのジャーナリストの精神を高らかに歌いあげてこの記事を締めた。
FOXとどう接するかはホワイトハウスにとっては政治的損得の問題だが、ジャーナリストにとっては倫理の問題だ。ジャーナリストがFOXの番組に出演すれば、その政治的プロパガンダにお墨付きを与え、まっとうな報道機関の役割を低下させるのに一役買う結果になる。
良識あるジャーナリスト諸君、FOXに出演するのはもうやめよう。派手なボイコット運動を行って話題をつくれば、FOXの思うつぼだ。ただ黙殺するのがいい。
私? この記事をきっかけにFOXから出演依頼があっても遠慮させてもらう。
ジャーナリストの鑑ともいえる発言だが、現実面としても、FOXニュースと関わるのは危険なことだったようだ。
それから4年。先日のニューヨーカーの記事「ローゼンの令状を秘密にしておくために検察はどのように戦ったか」(参照)を読むと、FOXニュースに関わると、政治が優先されるのだろうなという真相がわかってくる。日本国内報道は見かけないので、ちょっと読み取りの勘違いがあるかもしれないが、話の概要はこういう感じだった。
表題にもなっている「ローゼン」は、ローゼン・メイデンではなく、偏向報道とされるFOXニュースのワシントン支局長、ジェームズ・ローゼン記者である。FOXの政治部門の中枢に近い。
ことは、彼が2009年、北朝鮮が国連の安保理決議に逆らってミサイル実験を目論んでいることを報じた際に生じた。その報道の情報源を不審に思った米国司法省は、国務省で安全保障を担当するキム・ジンウー補佐官を調べ、国家機密の漏洩罪で起訴したのだた。
通常に報道の自由が守られている政権であれば、司法省の関わりはここで終わり、あとは、起訴されたキム補佐官の主張の吟味に移るばかりなのだが、そうではなかった。連邦検察当局は、FOXニュースに目を向けたのである。そして、FOXニュースの記者ローゼンに共謀者の嫌疑をかけ、彼の個人メールを秘密裏に調査する権限を連邦判事に求めた。かくして、ローゼン記者のプライバシーを含めた追跡調査が国家の元に秘密裏に開始されたのだった。
普通に考えると、いくら偏向報道と言われるFOXニュースとはいえ、ジャーナリストに対する連邦政府の介入は過剰であるようにも思われるので、ちなみに、報道の自由を求めるレポーターの会(the Reporters Committee for Freedom of the Press)もこの件について批判の声明を出していた(参照)。
なぜこんな事態になったのか。FOXニュースの報道への弱みを握るために、記者の私信を米政府が暴いたと考えるのは、行きすぎた邪推というものだろう。司法省がAP通信の通話記録を押収していたことも発覚して問題になったが、そこはそれ、リベラルなオバマ政権である。
その後、この問題の現状はどう推移しているか、ローゼンの名前で、ニュースを検索すると、ハフィントンポストの記事が目立つようだった――一例(参照)。ハフィントンポストとしてもこうした、政治と報道の自由について問題に関心を持つのかと、考えさせられる。日本版のほうではないけど。
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コメント
オバマ大統領は有能だと思いますか。
期待はずれの人が多いと思います。
投稿: 洛書 | 2013.05.25 15:48