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2013.04.11

振り込め詐欺はなくならないだろうと思った

 先月、警視庁が「振り込め詐欺」の新名称募集をツイッターでしていた。何に決まったのかとちょっと関連のニュースを見たが、まだ決まってはいないらしい。「振り込め詐欺」では多様な詐欺実態に合わなくなったこともあるだろうが、警視庁としては、ネタとして盛り上げて社会に注意を促したかったのだろう。とはいえ私としてはそれほど関心のある話でなかった。
 以前は「オレオレ詐欺」と呼んでいたように記憶している。昔から親族をいつわった詐欺というのはあっただろうが、2004年頃から、ある程度組織的に「オレオレ詐欺」のような詐欺が展開され、社会問題となったのだろう。
 それしても、と当時思った。世の中には、子供や孫が「おれだよ」とだけ言って、親や祖父母に電話して金を無心するというのがあるのかと、うらやましかった。
 私は、そもそも親に「おれだよ」とか電話したことはない。ではどう電話するかというと、名前を名乗る。それが普通だと思っていたのだが、若い頃世の中に出て仕事をしているとき、たまたま職場から親のいる自宅に電話をかけることがあり、そのとき、同僚から「今の電話の相手、お母さん?」と聞かれたことがある。
 「そうですよ」と答えると、「お母さんにいつもああいうふうに話をするの?」とさらに聞かれた。どうやら、同僚は親にはそういうふうに電話はしないらしい。その話を聞いて私のほうが驚いたものだった。私は、親に「おれだよ」とか言わない。
 思い出すと、親に対する電話の応答は、社会に出る前でもそうだった。なので、大学とかの友人で、その親に電話するのを聞いたとき、方言に変わって親密に語りだす人がいて、そうか彼は地方出身であったかと思ったものだった。
 私にはそういう方言はない。生まれたころからいわゆる標準語(共通語)を日常使っていた。家族間でもそうだし、親密な友だち間でもそうだった。若い頃の恋愛とかでも恋人に「おまえ」とかその名前を呼び捨てにすることはなかったように思う。正確には忘れちゃったけど。
 話をもとに戻すと、「オレオレ詐欺」っていうのが会話として成立してしまうのが、自分にとってはなんとも不思議な世界だった。さらに親密な関係で金銭のやりとりが簡単にできてしまうというのも不思議だった。たぶん、私の親であれば、そういう金の無心に乗ることはそもそもない。
 社会に瀰漫する「オレオレ詐欺」はその後、手法が変わり、「オレオレ」だけでなくなったので「振り込め詐欺」と呼ばれるようにはなったが、実態にある種の親密な会話がベースになっていることは変わらないようだった。しかし、新種の手法として、税務署などお役所というか公的機関を真似た詐欺が増えてきたようだった。これは私も二度ほど経験がある。
 一つは税務署を名乗った電話だった。が、私は昔からナンバーディスプレイを使っているので、その電話番号が税務署とは思えないなと奇妙に思って、話を聞いていた。
 最初から詐欺だろうと思ったわけではなかった。相手は、若い人の声だがお役人らしくきちんと話しかけてくるのだが、私はというとそれに輪をかけてきちんと話す人なのである。そのうち、相手が「これはなんだか変だぞ」と思っている、奇妙な動揺のような印象が伝わってきた。
 なんというのか、化けの皮が剥がれるかもしれないという不安のように、言葉が崩れだしてきた。そのあたりで、ぶちっと切れた。
 そのあと、ついでなんで税務署には、そういうことがありましたよとは一応報告した。市民の若干の役割のようなものだろう。
 もう一つの事例は、なんかよくわからない公的機関を名乗っていた。なんだろう、それ、と思ったが、私の丁寧な対応は特に変わらない。そして展開は同じようになってきて、相手の言葉にちょっとほつれが出て来た。この人、たぶん、日常はそういう会話してないんだろうなと私は思った。そのうち、なんだかよくわからないが相手が奇妙な理由を付けて切った。ボロが出ると思ったのだろうか。
 以降、この手のよくわからない公的機関からの電話はなかったが、先日、NHKの調査会社を名乗るアンケート調査と称する電話があった。以前の詐欺電話っぽい人のように若い男性ではなかったし、それほど丁寧は口調でもなかった。
 話を聞くに調査はNHK本体によるものではなく、NHKが外部に委託したようではあった。団体の名前は忘れたが、ナンバーディスプレイには0120で始まる番号が表示されていた。
 なぜフリーダイヤルから電話がかかってくるのだろうと少し疑問に思った。また委託団体に私の電話番号という情報伝えてよいと私がNHKに許可したことがあっただろうかとも疑問に思った。
 それでも、アンケートくらいは答えてもいいだろうと快諾を伝えたところ、テレビを付けてNHKにチャンネルを合わせて、どうたら操作をしてくれという。地上波のチェックをしたいらしい。
 その説明手順と意図がよくわからないので、正確に聞こうとすると、かなり細かいことを言い出したのだがさらに理解しづらい。困惑した。NHKの受信料はきちんと払っているので痛い腹を探られるということはないのだが、こうした相手からの指示に従っていくと、洗脳商法のように、次第に関連の指示に従うことに疑念が薄れてくるものだ。まずそれが嫌だった。私は基本的に他人から動作を命令されても納得しないとしないのである。
 このまま操作しても疑念などもあって途中で躓きそうだし、そうなってから、その操作は嫌ですとかいうのもめんどくさいことになりそうなので、その時点で、「口頭で答えられるアンケートには答えますが、操作を必要とするアンケートにはお答えするのはお断りします」と述べた。
 相手がどう出るかと思ったが、さらっとわかりましたと引き下がったのでほっとした。
 あれはなんだったのだろう。疑問のポイントは、本当にNHKからのアンケート調査だったのだろうかということだ。相手の0120で始まる電話番号は記録されているので、メモをしてNHKに問い合わせてみた。問い合わせは、よくわからないが通常の電話料金に加えて有料になるらしいが、それで疑問が解決できればいいかと思った。
 結果だが、NHKが正式に委託したものらしかった。電話番号もそれであっているとのことだった。つまり、さっきのアンケートは不審な電話ではなかったのである。
 新種の詐欺ではなかったのだなと思ったが、もう一つ疑問が残った。電話をかけた人が本当にNHKから委託の調査員であることは、どのように口頭で証明したらよいのだろうか、ということだ。
 公的な機関から電話があったとき、それが本当にその機関からの電話だということを、私はどのように知ることができるのだろうか?
 既知の間柄であればわかるが未知の人からの電話の本人を、その人が語るようなスターテスであることはどのように信頼できるのだろうか。
 しばし考えたのだが、私の中間的な結論は、なし、である。
 相手が偽装されているかどうか、知ることはたぶんできない。ナンバーディスプレイは多少役立つだろうが、それでも十分だとはいえない。
 その先思ったのは、私にかかってきたNHK委託の調査員はそれでいいとしても、これを詐欺に応用することは可能だ、ということ。しかもそうした応用に遭遇すれば、少なからず人が信頼してしまうのだろう。
 現在の「振り込め詐欺」などはまだATMといった戸外の装置を使っているが、いずれ携帯電話を含めて自宅の電子機器で金銭の授受などは可能になるだろう。というか、すでに携帯電話からでも金銭授受がからむ契約は可能だ。
 そうした場合、相手が本当に名乗っているとおりの人であるかはわかりえないのだから、新種の詐欺もまた防げない。
 公的な機関が、通信媒体を介したとき、信頼できないというのは、困ったことだし、解決策もなさそうだ。
 ツイッターとかなら本人認証マークみたいなものも取得できるが、そうした仕組みを公的機関にどう導入したらいいのか、わからない。
 これではいつまでたっても、「振り込め詐欺」のようなものは、名前をいくら変えても、なくならないだろうと思ったわけである。
 
 

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コメント

公的機関や信頼出来る企業の場合は、ナンバーディスプレイが緑色に光りつつその名称がでる仕組みを電話機に導入すればいいのではないでしょうか

投稿: naruse | 2013.04.11 19:48

私は三人兄弟で親戚の者とも声がよく似ているそうで、名前を名乗らなければ、親でも誰だか分からないと言われます。

>>naruse
その手は、アンケート会社等外部の会社に委託されたものは有効ではないです
そもそも「信頼できる企業」とはどうやって決めるのかということになります

投稿: bow-who | 2013.04.11 20:49

コールバックサービスを悪用しナンバーズディスプレイに偽装した発信者番号を表示する手口もあるそうです。
http://allabout.co.jp/gm/gc/55747/2/

投稿: fksk | 2013.04.12 01:50

ちょっと本筋とは違いますが、東京にも標準語(共通語?)とは違った東京弁というのがあって、それが使えない坊ちゃんは微妙に浮いていたような気がします。ともあれ人情の隙間に付け込む犯罪は永遠になくならないだろうな、とは思います。それを防止する策は結局人情も無くしてしまうような気もしますです。ども。

投稿: たまむし | 2013.04.15 19:36

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