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2013.04.02

フィナンシャルタイムズによる黒田日銀総裁評価とアベノミクスの道標

 3月29日付けのフィナンシャルタイムズ社説に「黒田の警告(Kuroda’s warning)」(参照)として、事実上、黒田日銀総裁就任の国会発言に言及して、その評価が掲載されていた。該当社説は当然、日経新聞かJBPressなどに翻訳記事が掲載されるだろうと思っていたが、現状自分の見た範囲では見つからなかった。特に興味深い話題というわけではないし、今後のアベノミクスを考える指針の参考程度ではあるが、メモがてらに簡単に言及しておきたい。
 大ざっぱに「アベノミクス」という呼称を借りると、「アベノミクス」は大筋としてどのようになるか? 困難を伴う、というのがフィナンシャルタイムズの評価である。


How does Japan get from here to there? “With difficulty,” is the answer.

現時点から到達すべき点までの間、日本はどのようになるのか。「困難を伴う」というのがその解答である。


 冒頭いきなり"there"として「到達点」が示されるのだが、これは私の予想に反して、つまり、日本の成長路線といったものではなく、「リバランシング」であった。が、成長と同じ意味であることは、その後の文脈で察せられる。

Just how difficult Japan’s rebalancing act will be was laid out by Haruhiko Kuroda, the new governor of the Bank of Japan, in remarks to parliament this week.

黒田東彦・新日銀総裁は今週国会で、日本のリバランシング政策がどれほど困難となるかについて述べた。


 「リバランシング」はバズワードだったとフィナンシャルタイムズも別記事で昨年述べている(参照)が、後段からはそれほど曖昧なものではない。概ねプライマリーバランスを適正にすると理解してもよいだろう。

Policy makers must restore economic growth, turn deflation into controlled inflation and eliminate the fiscal deficit, without destabilising the bond or currency markets. These are tough challenges. Yet Japan simply must meet them.

政策立案者は経済成長を回復しなければならない。つまり、債権と為替の市場の市場に混乱をもたらすことなく、デフレを制御可能なインフレに変え、財政赤字を除くことである。これはきつい課題であるが、日本は立ち向かう以外にない。

 事実上、アベノミクスと称される金融緩和を慎重に推進するしかなく、財政赤字の問題はその線上にある。逆ではない、というのが重要である。
 この難しい課題に対して援助となるものはなにか。フィナンシャルタイムズは日本国民の政府への信頼だとしている。若干、皮肉なトーンも感じられるが。

Fortunately for the Japanese government, it has patient and trusting creditors: the Japanese people. The 10-year government bond recently touched a low of 0.53 per cent, while the 20-year bond dropped to 1.41 per cent. These extraordinarily low rates are an opportunity, since they make the huge debt mountain manageable. But they are also a threat, since they could jump if expectations of inflation and short-term interest rates were to rise significantly.

幸いなことに日本政府には、日本国民という忍耐強く政府に信頼を置く債権者がいる。先日、十年物の国債金利は0.52パーセントにまで、二十年物は1.41パーセントまで落ちた。この異例な低金利で、巨額の債務が制御可能になるのは、好機ではあるが、同時に脅威でもあるのは、インフレ期待と短期金利が著しく上昇すると、国債金利も跳ね上がるからである。


 インフレによって国債金利が上がるのは当然のことではあり、フィナンシャルタイムズもまどろっこしいことを言っているだけなので、たいした意味はない。が、要点は、債権者である日本国民の政府に対する信頼という点にあると指摘していることだ。
 そこで、フィナンシャルタイムズの論調は、政府が国民の信頼を損なわないようにするにはどのような条件があるかと議論を進めていく。4点を挙げている。


  1. インフレ期待を形成すること。具体的には、国債引き受けと外貨購入(monetisation of fiscal deficits and purchases of foreign exchange)である。加えて過熱したインフレへの対応の明示。
  2. 国債の償還期間の延長。
  3. デフレ終了後の財政健全化と民間部門を含めた構造的黒字の解消。
  4. 成長戦略のための構造改革。

 特段に変わった意見はないものの、フィナンシャルタイムズのこのまとめかたは、さすがに簡素に見通しよくまとまっている。
 3点目と4点目は、デフレの終了後の話題であり、この「デフレ終了」は事実上、2パーセントマイルドインフレと見てよく、その達成は、新日銀および安倍首相は2年後と想定している(安倍政権がその見解でまとまっていないのが残念ではあるが)。
 1と2が当面の課題となるが、このあたりで、ごたごたともめそうな気配はあり、実際のところ、アベノミクスの試練はこのあたりで起きることになるだろう。
 加えて個人的な印象でいえば、「民間部門を含めた構造的黒字の解消」には政治的な敵対勢力が強く出現するのではないかと思われる。
 TPPについては、現状の安倍政権に大きな失点はなく、二年スパンで見た日本の課題としてはそれほど大きなものではない。が、対抗勢力はここを突いてくることは想定され、それにこの政権が対応できるかというと、どうなんだろうかという疑問は残る。
 
 

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コメント

そういえば、来年消費税が上がる予定ですが、
この消費税増税分でインフレとか言うことじゃないでしょうね?

投稿: | 2013.04.02 22:38

2.国債の償還期間の延長。

これが国民の信頼を損なわない条件になる理由がいまいちわかりません……
償還期間の延長は国民への裏切りになる気がするのですが。

投稿: きり | 2013.05.18 22:22

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受信: 2013.04.03 07:07

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