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2013.03.04

フィナンシャルタイムズはアベノミクスをどう見ているか?

 昨日付けで、フィナンシャルタイムズがアベノミクスをどう見ているかについて、社説を出していた。内容は、当たり前といえば当たり前だが、それなりに踏み込み、かつある程度明確に論点を整理していた。
 おそらく今日明日には、フィナンシャルタイムズの邦訳を掲載することが多いJBPressや日経に訳文が掲載されるのではないだろうか。だから、それを待ってもよいのだが、フィナンシャルタイムズ関連でちょっと気になる別記事があったので、該当社説のネタを、正式邦訳が出る前にブログのネタで拾っておいてもよいかもしれないと思った。
 まず、その気になる記事のほうだが、JBPress訳では「日本経済、手早い対策は緩やかな停滞より危険か」(参照)、日経訳では「[FT]アベノミクスが危険なこれだけの理由」(参照)である。邦題は異なり訳文も異なるのだが、日経訳には「翻訳協力 JBpress」とあるので、基本的に同質の訳文であろう。
 オリジナルは、ヘンリー・センダー(Henny Sender)氏による2月28日付け「‘Abenomics’is not enough to rescue Japan(アベノミクスは日本救済には十分ではない)」(参照)である。副題は「Structural reforms needed rather than just driving down the currency(単に通貨安に操作するよりも構造改革が求められる)」というもので、趣旨は、その表題と副題から察せられるように、邦題の視点とはやや異なっている。
 センダー氏の見解はフィナンシャルタイムズに掲載された一つの見解であるが、同紙としての見解ではない。では、社説ではどう見ているか。
 安閑とした態度はとっていないという点では、センダー氏の見解に近いとも言える。黒田氏が説くデフレ脱却の意向について。


The attempt to do so will shake Japan’s economy and, maybe, the world’s. This shift is necessary but risky. It is likely to be destabilising, at least in the short run.

デフレ脱却の試みは日本経済と世界経済を揺り動かすだろう。この変化は、必要だが危険が伴う。少なくとも短期的には、不安定な状態をもたらしかねない。


 そして、同社説は、3つの問いを立てて、それに答えている。


1 アベノミクスで弱インフレが達成できるか?


The first question is whether, contrary to the pessimistic view of the BoJ, monetary policy can deliver higher inflation even in a country with entrenched expectations of mild deflation.

最初の問題は、日銀の悲観的な見方に反し、弱デフレ期待に突入している国家において、金融政策によって高めのインフレが実現できるだろうか、である。


 これに対する同社説の答えは、イエスである("The answer is yes.")。
 ただし条件があり、期限なしの外貨購入(open-ended purchases of foreign currency)、より大きな規模での国債引き受け( monetisation of even larger fiscal deficits)、リスクのある国内債券の直接引き受け(direct purchase of risky domestic credits)などが必要だとしている。そしてこれらは政府と日銀が協調しないと無理だとしている。
 理論的には無理ではないにせよ、政策の実施面ではなかなか難しいと私には受け止められた。


2 アベノミクスで日本経済は上向くか?


The second question is whether the achievement of higher actual and expected inflation would end Japan’s long economic malaise.

2番目の問題は、期待されている実質のインフレによって、日本の長期経済停滞が終わりを告げるだろうか、である。


 フィナンシャルタイムズの答えは、「多分、としか言えない("The answer is only perhaps. ")」として、アイロニーを込めている。
 デフレ下で高まった実質金利の低下によって、貯蓄傾向が減ることや、債務の軽減は期待できるが、他面、長期金利の上昇が債務軽減を相殺するかもしれない。つまり、なんとも言えない、ということだ。
 この点について私も、フィナンシャルタイムズ同様、そうかなという印象は残る。


3 アベノミクスで円売り・円逃避が起きるか?


The third question concerns the indirect consequences of this new policy. Higher expected inflation, particularly if accompanied by negative real interest rates, could trigger a run from the yen, not just by foreigners but by domestic residents too.

3番目の問題は、新方針の間接的な結果に関係する。高めに予期されるインフレ、特に実質金利がマイナスになる場合、外国のみならず国内からも、円からの逃避を起こしかねない。


 この点については、フィナンシャルタイムズは、前2問のようには、手短な答えを上げていない。
 理由は、文脈から見ると、国際経済の対応によるとしているためだろう。つまり、世界規模での金融緩和競争になるかもしれないし、日本が近隣窮乏化政策だと非難される可能性もあるということのようだ。


で、結局どうなのか?
 結論は、読みようによってはグダグダしている。


Ending deflation is, in brief, risky. But the status quo is riskier. On its present path, Japan’s public indebtedness will, in time, become unmanageable. Deflation just guarantees a bigger disaster down the road. Instead, the economy has to be brought back into balance and the debt overhang reduced.

一言で言って、デフレ終息には危険が伴う。しかし、現状のままのほうが危険が大きい。現状のまま進行すれば、日本の公的債務はいずれ、対応不能になる。デフレの道の先にはより大きな惨事があるだけだ。その逆に日本経済は、バランスの良い状態と過剰債務削減に立ち返るべきだ。

It would have been far better to have taken these steps 15 years ago. But the BoJ, in its folly, did not act in time. Acting too late is bad. But it is at least better than never acting.

15年前にこの手順を取っておけばよかったことだろう。だが、日銀は、愚かにも、適時の対応を取らなかった。遅すぎた対処はよいことではない。だが、少なくとも、手をこまねいているよりはましである。


 このまま日本経済が進んでいっても地獄があるばかりなんだから、方向を変えるのはしかたないんじゃないかというトーンである。なお、日銀を「愚か」と呼んでいるのは、私ではなく、フィナンシャルタイムズなので、ご注意。
 で、結局どうなのか?

Positive inflation has a role to play among a set of policies aimed at encouraging more private-led spending and growth. Mr Abe is right to take the gamble on inflation. But a gamble it clearly is.

民間部門の支出と成長を鼓舞する一連の政策において、インフレには相応の役割がある。安倍氏がインフレに賭けたのは正しい。だが、これは賭けなのだ。


 賭けだから、失敗するかもしれないよ、というのである。
 そういえば、民主党政権になるときも、政権交代の賭けにかけてみたら、と勧めていたのも、フィナンシャルタイムズの社説であった(参照)。
 お後がよろしいようで。
 
 

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コメント

はじめまして!
フィナンシャルタイムズの意見を要約すると、
やってみなければ分からないけど、やらないままでは、
より悪い状況になるのは確実だ、という事でしょうか。
15年前なら橋本さん小渕さん時代ですが、
小渕さんは教育の面で良いなあと思っていましたが、
当時は金融面はあまり興味なかったので、どういう政策されていたのか
存じ上げないのですよね。
まぁ、結果は現状の通りなのですが。
もっと興味関心をもってニュースを読まねばいけないな、と思いました。
興味深い記事をありがとうございます。

投稿: 美菜子 | 2013.03.05 09:40

 私は金融関係の人間ではありませんが、「アベノミックス」については大きな懸念を持っています。そもそも、賃金の上昇が期待できない状況で、物価上昇だけを誘導することが、国民を利することなのでしょうか。確かに輸出産業の業績は回復傾向にあるようですが、平均賃金の上昇は数年先のことでしょう。それまではさらに苦しい状況がつづくのではないでしょうか。年金生活者はどうなるのでしょうか。
 加えて、マスコミに「アベノミックス」を批判する論調が少ないのも、別の意味で懸念されます。本来、賛否両論が拮抗した状況から正しい道が開かれるものと思います。報道が一方向にだけ傾いていくのは戦前の日本に似ているような気がします。

投稿: Colossus | 2013.03.07 13:00

インフレターゲットで通貨が、通貨として、価値の流通機能を果たすようになるだろう、とは思う。でも、中央銀行や政府の税収が増えて、政府など、市場経済を通らない、特定の少数の人々の裁量に依存した、社会主義的な経済が肥大するだろう、とも思う。結果として、日本も北朝鮮に似てくるかもしれない。

投稿: 星野 泰弘 | 2013.03.14 05:18

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