「さとうきび畑」の歌は、本土側の「沖縄幻想」だったか?
この話は、『考える生き方』(参照)に書かなかった沖縄の話の一部です。というか、途中で削除しました。理由は、単に書籍に取り込む話題のバランスのためでした。つまり、ページ数との関係で沖縄の話の比重が重すぎるのもどうかなということでした。
「さとうきび畑」の歌の風景
本土復帰の前、本土側で沖縄を思ってよく歌われた歌に「さとうきび畑」がある。
「ざわわ、ざわわ」というフレーズが繰り替えされ、広大なさとうきび畑に風が抜けていくようすが印象的だ。歌には、海の向こうから戦争がやってきて、鉄の雨に打たれうたれて父は死んでいったというストーリーが盛り込まれている。本土では当然ながら、これは沖縄戦を示していると普通に理解される。
そして沖縄でもそう理解され、この歌が歌われていると思っている。
たしかに、現代の沖縄ではそのように理解されている。
歌われていないとは言えない。
考える生き方 |
そこでまず「この戦ってなんだと思いますか?」ときいてみた。
「フィリピンでしょうか」という答えもあった。
それにはこちらが驚いたが、その他の答えでも印象としては、この歌の「さとうきび畑」を沖縄の情景だと思っていないようだった。
この食い違った感じはなんなのだろうか。ずいぶん考えさせられた。
たぶん、沖縄で語られる沖縄戦のイメージとかなりずれているからだろう。
沖縄で語られる沖縄戦というのは、平和な海の向こうから、突然戦争がやってきて、肉親が殺されたというものではない。
現地の沖縄では、沖縄戦は、一家で必死に逃げ回り、ガマと呼ばれる洞窟で敵兵や日本兵からじっと身を隠していたり、突然都市部に空襲が襲ったというイメージのほうが強い。
さらに変なことに気がついた。
さとうきび畑は、戦前の沖縄に、それほどはなかったようなのだ。
もちろん、戦前の沖縄にも、さとうきび畑はあった。砂糖を作ることは、薩摩藩支配のころから、沖縄の重要な産業だった。
だが、見渡すばかりのさとうきび畑になった沖縄の風景は、米軍統治下で作り出されたものだったようだ。
沖縄戦が終わり米軍統治が始まった時期から数年は、食料の確保が急務であったため甘藷(さつまいも)栽培が奨励され、サトウキビ栽培は認可されず、戦前に比べても減少していた。
1950年代半ばになって、米政府の指導のもとに、沖縄の主要農産物としてサトウキビ栽培が推進された。そして、1960年代に入り、沖縄で爆発的とも言えるさとうきび畑の広がりを見せた。
1962年のキューバ危機などの影等から国際市場で砂糖が高騰したことも、沖縄のサトウキビ産業に拍車をかけた。
そのころのことだ。「さとうきび畑」という歌が生まれたのは。
沖縄復帰前、本土で流行した「さとうきび畑」という歌は、1964年、作曲家の寺島尚彦が、歌手・石井好子の伴奏者として沖縄を訪問したとき、糸満の摩文仁の丘を観光した印象をもとに作詞・作曲した曲だ。
1964年という年代から考えると、そのさとうきび畑の風景は、米軍統治下で、しかも寺島が訪問する10年ほどの時代に出現した風景だったのではないか。
気になって関連の統計資料を見ると、60年代に拡大の頂点を迎えるさとうきび畑と逆に、稲の耕作地が激減している。稲作地がこの時代に、さとうきび畑に変わっていたのだ。
摩文仁の丘から見た戦争当時の風景は、稲作地ではなかったか。
現地に住んでいたので、古老と、摩文仁からそう遠くない玉城に広がるさとうきび畑を見る機会もあった。広がるさとうきび畑で「きれいなものですね」と私がつぶやくと、彼は「昔は稲作してました」と言われた。
ああ、やはり。
すべてがそうだとは言わないが、現在の沖縄の、美しいさとうきび畑の光景は、戦前の田んぼから1960年代に変わった姿ではないだろうか。
もしかすると「さとうきび畑」の歌は、内地がもっていた沖縄幻想ではなかったろうか。
それが現代では沖縄の歌手も歌い、沖縄の歌のようになっているのかもしれない。
沖縄は本土側の沖縄幻想をどんどんと吸い込んでいくところがある。本土受けのするイメージにもいいし観光にもいい。
そういえば、沖縄の酒と言えば泡盛が話題だが、米軍統治下でよく飲まれていた酒はウイスキーだった。
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