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2013.02.12

[書評]10万年の未来地球史 気候、地形、生命はどうなるか?(カート・ステージャ)

 「10万年の未来地球史 気候、地形、生命はどうなるか?」(参照)という邦題をそのまま借りて、「10万年後、地球はどうなるか?」という疑問を投げかけたい。どうなるのだろう。当然、そのころ人間はどうなるのだろうかという問いも含まれる。

cover
10万年の未来地球史
気候、地形、生命はどうなるか?
 本書は、この問いに、現代の科学からかなり妥当に答えを出している。なかなかの大著だが、SFのように面白い。というか、面白さの点でこれ、SFとなにが違うのか。
 本書にはもう一つの意図がある。地球温暖化問題である。簡単に言うと、人類が排出する二酸化炭素など温室効果ガスが、地球の未来に影響を与えるという点だ。
 そう言うと、「なんだ、当たり前ではないか」という反応もあるかもしれないが、問題は、その影響の範囲と、その影響が深刻だという場合、現在の人類に何ができるのかという問題になる。
 この問題は、いろいろ議論されてきたが、「10万年の未来地球史」という視点からどうなるだろうか。
 最初に、読む前の思い、あるいは私がこの本に関心を寄せた時点の思いを述べておくと、「10万年後の地球や人類なんて、あと20年も生きられない私にとってどうでもよいし、現存の10代の人にとっても100年は生きられないのだから、どうでもいい問題ではないか」、ということだ。
 加えて、「10万年後、地球はどういう形であれ存続しているだろうが、人類のほうはすっかり滅亡しているんじゃないか」とも思っていた。
 読んでみてどうだったか。
 基本はあまり変わらない。依然、10万年後はどうでもいいと思う。が、読後、自分の感覚は変わった。10万年後の地球や人類をややリアルに感じられるようになった。別の言い方をすると、どうせ10万年後に人類なんか滅亡しているよという思いは、かなり減った。
 本書には、私のような考えを持つ読者も想定されていて、率直にこの愚問にも答えている。その答えに納得するかどうかは置くとして、10万年後に人類はまだ地球にいそうだという感じはしてきた。それはどんな人類? 不思議な感覚でもある。センス・オフ・ワンダーというか、SFっぽいなという印象はそこからだ。
 本書の主張だが、地球温暖化問題の文脈で見ていくと、私にはなんともわかりづらい。科学的な説明が複雑だというのではない、「何が言いたいのだろう、この著者は?」という疑問が先に立つからだ。
 基本は、「地球温暖化問題は重要で、温室効果ガスは削減すべきだ」という立場になっていることはわかる。それでその理由はというと、よくある、地球温暖化を放置しておけば地球や人類や各種生物が終局を迎えるといった危機とは違う。ではなにか。
 このまま温室効果ガスを放置しておくと、13万年後に厳しい氷河期がくるからだというのだ。
 え?、なにそれという感じである。
 冗談というか、ポストモダン的な物語か、あるいは手の込んだ批評文学なのか。いやそういうことはあるまい。私の理解した範囲でいえば、温室効果ガスを人類が放出し続けなくても、地球は定期的な、弱めな氷河期を5万年後に迎えるのだが、温室効果ガスを放出したことで、その5万年後の氷河期は打ち消されてしまうというのだ。
 それって、いいことなんじゃないの? と、思わずにはいられない。
 そのあたりで、著者の主張がよくわからなくなる。寒冷化に向かう説明も、大著のわりにそこは、いったん上がれば下がるといった曖昧なもので、強いて意図を汲めば、地球振動による定期的な変動を考慮してのことのようだ。
 できるだけ著者の意図に沿ってみた私の理解でいうと、5万年後の氷河期は現状の温室効果ガスの累積で打ち消してしまっても、そのころにはもう人類には化石燃料が残っていないから、13万年後の氷河期が厳しいものになるというのだ。
 ちょっと、それは、どういう話なんだ。いや、ふざけたいのではない。
 そのあたりで、なんとも奇妙な迷路に陥ったような感じになる。私の率直な意見を言えば、10万年後の人類は、原子力によってほぼ無限のエネルギーを獲得しているから、その時点まで化石燃料を心配する必要はないだろうということだ。もちろん、「原子力」なんて現在日本の発狂キーワードを出すとろくでもない表層的な反論が来るだろうから、原子力と特定せず、未来エネルギーの開発と言ってもいい。いずれにせよ、10万年もあれば人類は、エネルギー問題は解決するだろう。
 しかも、その問題となる13万年後の氷河期なのだが、それで人類が死滅してしまうわけでもない。この点は著者も理解している。
 ではなにが問題なのだ?ということになるが、ここで、はっと気がつくのだが、こうした問題で、私たちはしばしば、地球滅亡や人類滅亡というフレームワークを設定してしまう。そういう危機を煽る制度的な思考はもうやめたほうがいいだろう。あるいは、人類が滅亡するなら、どういうプロセスになるのかといった話も冷静に考えるとよい。本書は、疫病のリスクや惑星衝突の挿話なども含まれている。
 現実を冷静に見るなら、つまり中国やインドなどの動向を見ても、温室効果ガスの排出は止まらない。
 もちろん、それを抑制するための人類の努力は重要だろうと思うし、それに加えて、地球物理学的に見れば、むしろ地球は次の氷河期を迎えるだろうことも普通に認めたい。
 そのあたりも含めて、普通に科学的に議論し、そこから可能な、妥当な国際合意を作ればよいだろう。さらに言えば、本書が指摘しているように地球温暖化がもたらす海の酸性化の生態系への影響なども、今後の人類の課題として取り組んでいけばよいだろう。
cover
Deep Future
 本書は、以上の、地球温暖化問題という枠組みだけなく、地球の歴史を扱った書籍としても読める。むしろ、そう読んだほうがよい。地球温暖化という関心の設定で損をしているような気がする。
 本書は、普通に地球と惑星のクロニクルとして読んでも十分に面白い。地球滅亡や人類滅亡という関心は挿話としてよい。なお、英語版"Deep Future: The Next 100,000 Years of Life on Earth"(参照)はまだKindle化されていない。邦訳もまだ。
 繰り返しになるが、私も含めて、これまでつい、地球温暖化問題を地球滅亡や人類滅亡といった黙示録的な問いに引っ張られがちだった。しかし、私については、本書を読むことでだいぶゆったりと見通せるようになったように思う。そう思いたい方は、ご一読を。高校生の科学学習にも向いている。
 
 

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