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2012.02.11

イランを巡る不明瞭な状況

 イランを巡る不明瞭な状況を解き明かすことは難しいが、日本ではあまり見かけない話題もあり、簡単にだがそろそろ触れておいたほうがよさそうに思えてきた。話題のきっかけは1月11日の、イラン科学者モスタファ・アフマディロシャン(Mostafa Ahmadi Roshan)氏の暗殺である。
 翌日のAFP「イラン核科学者が爆弾攻撃で死亡、政府「イスラエルと米国の仕業」」(参照)より。


 イランのファルス(Fars)通信などによると、首都テヘラン(Tehran)で11日、自動車爆弾攻撃があり、核科学者のモスタファ・アフマディロシャン(Mostafa Ahmadi Roshan)氏(32)が死亡した。
 テヘラン東部にある大学の前で、同氏が乗る車にバイクの2人組が近づき、車にマグネット式の爆弾を仕掛けて爆発させたという。この攻撃でアフマディロシャン氏と車を運転していたボディーガードが死亡、1人が負傷した。

 イラン側はこの暗殺にイスラエルと米国が関与していると見ていた。1月13日付け読売新聞「イラン核施設幹部暗殺「CIAとモサドが関与」」(参照)より。

イランの最高指導者ハメネイ師は12日、同国核施設幹部の暗殺事件について、米中央情報局(CIA)とイスラエル情報機関モサドが支援したと明言した。
 国営通信が伝えた。ハメネイ発言は、事件に米国やイスラエルの関与があったとイランが結論づけたことを意味し、イランと米国の対立は一層深まりそうだ。
 ハメネイ師は、中部ナタンツにある核施設幹部だったとされる核科学者モスタファ・アフマディロシャン氏が11日、首都で爆殺された事件を受け、同氏の遺族へのメッセージを発表、この中で、「このテロ事件の首謀者はCIAやモサドの支援を受けて犯行を実行した」と述べた。

 イラン側の主張に裏付けとなる証拠が挙がっているかについては、他の報道からも読み解けない。
 問題は、この、イランが主張する、イラン科学者への暗殺が単発的なものではないという点である。先のAFP記事はこう伝えている。

■過去にも同様の手口で3人死亡
 アフマディロシャン氏は、出身大学のウェブサイトによると、ナタンツ(Natanz)のウラン濃縮施設の副所長を務めていた。
 イランでは、2010年と11年にも、同様の手口による攻撃で科学者3人が殺害される事件が発生している。このうち2人は核活動に従事していた。

 また、1月12日ブルームバーグ「イランの核科学者が爆死-政府はイスラエルの犯行と非難」(参照)より。

米国やイスラエルがイランに対し核開発の中止を求める中、同国の核科学者が標的となった事件は少なくとも3件目。


米国務省のヌーランド報道官は11日にワシントンで、「善良な市民に対するいかなる暗殺行為および攻撃も非難する」とのコメントを発表。イスラエル外務省のパルモール報道官は電話で、報道に関するコメントはないと語った。

 真相はわからないという状況が続き、実際のところまだ確定的なことがいえる状況ではないが、NBCが8日、関連の興味深い報道「Israel teams with terror group to kill Iran's nuclear scientists, U.S. officials tell NBC News」(参照)をした。

Deadly attacks on Iranian nuclear scientists are being carried out by an Iranian dissident group that is financed, trained and armed by Israel’s secret service, U.S. officials tell NBC News, confirming charges leveled by Iran’s leaders.

イスラエルのシークレットサービスはイラン反体制派に資金提供、訓練、武装を実施しているが、イランの原子物理学者への致死的な攻撃は、このイラン反体制派によって実行されたと、米国高官はNBCに語った。これはイラン指導者からの嫌疑を確認するものでもあった。

The group, the People’s Mujahedin of Iran, has long been designated as a terrorist group by the United States, accused of killing American servicemen and contractors in the 1970s and supporting the takeover of the U.S. Embassy in Tehran before breaking with the Iranian mullahs in 1980.

このイスラム人民戦士機構は、米国からテロリスト集団として従来から指定され、1970年代に米軍人と請負人を殺害し、イラン宗教指導者と断絶する以前の1980年、テヘランの米国大使館乗っ取りを支援したことで告発されている。

The attacks, which have killed five Iranian nuclear scientists since 2007 and may have destroyed a missile research and development site, have been carried out in dramatic fashion, with motorcycle-borne assailants often attaching small magnetic bombs to the exterior of the victims’ cars.

2007年以来、5人のイランの原子物理学者を殺害し、ミサイル研究開発場を破壊したとみられる攻撃は、劇場的に実行されている。よくある手口は、オートバイに乗った襲撃者が、犠牲者の自動車外部に小型時期爆弾を設置することだ。

U.S. officials, speaking on condition of anonymity, said the Obama administration is aware of the assassination campaign but has no direct involvement.

オバマ政権はこの暗殺活動を知っているが、直接的には関与していないと、匿名を条件に話す米国高官は語った。


 現状では真偽が確かめられないが、NBC報道によれば、2007年以来、5人のイランの原子物理学者が、イスラエル諜報機関支援したイラン内反対派によって暗殺され、オバマ政権は直接関与していないものの認知している、ということになる。おそらく、米国高官がそのように認識しているという点までは真実であろう。
 ではそのような、まさに陰謀と言ってもよい事態が進展しているのだろうか。そう考えても妥当なようだ。1月11日付けテレグラフ「The undeclared war on Iran is heating up」(参照)の推論は説得的だろう。

The assassination of another Iranian nuclear scientist in Tehran is further evidence that an undeclared war is being waged to prevent the ayatollahs from acquiring nuclear weapons. Mostafa Ahmadi-Roshan, a university professor who also worked as deputy director at the Natanz uranium enrichment facility, is the fifth Iranian scientist to be assassinated since 2007.

テヘランでまた原子物理学者の暗殺されたことは、シーア派指導者が核兵器獲得を阻むための、宣戦布告のない戦争が遂行されているという証拠を重ねるものである。ナランツのウラニウム濃縮施設副所長でもある大学教授、モスタファ・アフマディロシャンは、2007年以降に暗殺された5番目のイランの科学者である。

In addition, Iran’s nuclear programme has suffered serious damage from the Stuxnet computer virus, while mysterious explosions have occurred at two military bases, one of which killed the senior officer responsible for developing Iran’s ballistic missile programme.

加えて、イランの原子力計画はスタクスネット・コンピューター・ウイルスで重大な被害を被っており、2つの軍事基地で謎の爆発が起きたことで、イラン弾道ミサイルプログラム開発責任者の高官一名が殺害された。

It is highly unlikely that these events are unrelated, and the sophistication of the attacks suggests they are being carried out by agents working for Western or Israeli intelligence.

これらの事態が無関係だとはありえない。精巧な攻撃は、それが西側またはイスラエル諜報機関で働いている工作員によることを示唆している。


 証拠はない。だから、憶測にすぎないと言うことはできる。また、NBCのリーク報道もなんらかの意図による可能性もあるだろう。だが、一連の暗殺の背後にイスラエルを想定しないというのは、あまり合理的ではないだろう。
 だが、そうだとするなら、これはまさに"an undeclared war"(宣戦布告なき戦争)と呼びうるものになる。この状況を西側諸国は、それは憶測にすぎないとして看過していくのだろうか。現状としては、そうならざるを得ない。
 というのも、この延長にあるのは、イスラエルによるイランへの空爆であり、その遅延には非人道的な暗殺もやむなしという事実上の是認がある。
 イスラエルによるイラン空爆については、そのストーリーがもはや常識を逸したものではないことは、出川展恒NHK解説委員の時論公論「イスラエル先制攻撃はあるのか?」(参照)からもうかがえる。

 イスラエルには、慎重論もあるものの、ネタニヤフ首相やバラク国防相は、「核を持ったイランとの平和共存は不可能」と考えているうえ、「残された時間はわずか」と見ているようです。
 「イランは1年以内に核兵器を製造できるようになる」という情報があるうえ、濃縮ウランが地下の施設に移されれば、攻撃で破壊できなくなると懸念しており、そうなる前に、限定的な攻撃を、数日間行い、国連の主導で停戦に持ち込むシナリオを想定していると言うことです。

 この読みはかなり正確だろう。つまり、濃縮ウラン施設が地下に施設される時期に、過去の事例のように、限定的な空爆がなされる可能性は高い。
 出川解説委員は言及していないが、全体の流れから私はもう一つのシナリオもありうると考えている。
イラン国内の争乱の醸成である。現状、イラン国内は外側で見ているより不安定な状況にある。11日付け毎日新聞「イラン:権力闘争激化 反大統領派、体制変革を警戒」(参照)より。

 緊張緩和の動きと並行するように、イラン内政は混迷を深める。国営放送によると、反大統領派は今月7日、近く大統領を呼び、経済政策などの「不正」を問うことを決めた。反大統領派の先頭に立つラリジャニ議長は「大統領は国会を軽視している」と再三批判。大統領への喚問が実現すればイスラム革命(79年)以来初めてで、国会選挙を控えた大統領派のイメージダウンが狙いだ。
 イラン政界は、改革派が力を失う中、保守派内が大統領派と反大統領派に分裂。反大統領派はさらにラリジャニ議長らのグループや、革命防衛隊のレザイ元最高司令官らのグループに分かれ、綱引きを展開する。
 石油や天然ガスが豊富なこの国で、政界の関心は対外関係より莫大(ばくだい)な利権に向く。利権確保は政界の主導権と裏表の関係だ。

 こうしたイラン内の分裂に乗じて、イランの体制転覆までの争乱はないとしても、アフマディネジャド大統領派を失墜させるような争乱の誘発はありそうに思える。
 
 

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2012.02.10

バーレーン、2012年2月

 深刻化するシリアのデモ弾圧の中止を求める安保理決議案が、拒否権を持つ常任理事国の二国、ロシアと中国によって否決された。これで国連としてのシリア対応は不可能になり、有志連合を形成する構想が現在模索されている(参照)。有志連合とはいっても、当面の目的は食糧や医薬品などの人道支援となり、軍事的な介入にならないだろう。
 国家による深刻なデモ弾圧という点ではシリアと同じで、しかも日本ではほとんどニュースとして見かけないのが、バーレーンである。日本語でバーレーン関連のニュースを検索するとF1レースやサッカーが多く、デモを弾圧しているニュースはほとんど見当たらない。
 昨年は日本でも、「アラブの春」の一環として報道されたバーレーンの争乱(参照)だったが、その後どうなったか。二つの面で深刻化している。
 現状だが、弾圧による最初の死者を出した昨年2月14日の「怒りの日」(参照)から一周年を記念し、デモ活動が盛り上がっている(参照)。アルジャジーラの報道もYouTubeで見ることができる。

 日本の外務省もこの現状を熟知していて、9日付け「バーレーン:2月14日に向けた治安情勢(注意喚起)」(参照)を出している。


2月14日は,2011年の反政府大規模デモ活動の発生から,ちょうど1年を迎えます。同日の前後には,シーア派の反政府政治団体である「ウィファーク」がバーレーン当局の許可を得てデモ集会を予定しています。また,非合法妨害活動を行っているグループも,当日に向けて様々な反政府活動を呼び掛けており,特に「旧真珠広場」に向かってデモ行進を行う可能性もあり,注意が必要です。
 過激なグループが,タイヤを燃やす等の非合法妨害活動が各地で活発化する可能性もあり,デモ集会が行われる地区周辺では,一時的に道路封鎖されたり,交通渋滞が発生するおそれがある他,デモ参加者と治安部隊との間で小競り合いが発生することも予想されます。

 ただし、外務省の情報に「当局は治安維持活動を強化させており,デモ等が2011年のような大きな混乱に繋がる可能性は低いと思われます」とあるように、大きな混乱は想定されていない。逆にいえば、それだけ弾圧が強い状態にある。
 つまり深刻化の一面は、現状を含めバーレーン政府によるデモ弾圧緩和の兆候が見られないことだ。
 この点ではシリアの現状と同じだと言える。また、少数が多数を弾圧しているという構図もシリアとバーレーンは同じである。
 ではなぜシリア問題は国際問題となり、バーレーン問題はさほど話題にならないのか。また日本ではさしたる報道もないのか。理由の一端は、弾圧の規模があるだろう。シリアでは弾圧による死者が7000人を超えているが、バーレーンでは40人ほどと見られてる。
 深刻化の別面は、米国を筆頭に西側社会およびアラブ連合のダブルスタンダード(ダブスタ)が露呈してきていることだ。単純な話、なぜシリアの反抗勢力に西側が荷担し、バーレーンのそれにはないのか。
 これは実際的にはごく簡単な理由である。バーレーンには米国の第五艦隊司令部(ホルムズ海峡への対応が含まれる)があること、弾圧している少数派はサウジアラビアと関係が深く、弾圧される多数派が親イランのシーア派が多いことだ。単純に見れば、西側諸国は親イラン派のシリア現政権には厳しくあたり、親イラン派のバーレーンのデモには目をつぶっているという状態である。
 しかし、「アラブの春」が名目上であれ民主化という看板を添えていることや米国を含め西側のシリア政府への批判が人道を名目にしているのなら、現状のバーレーンへの対応は見事なダブスタにしかならない。9日ロサンゼルスタイムズ「Bahrain should stop prosecuting protesters, U.S. envoy says」(参照)もそう見ていた。

Bahrain is a sensitive spot for the United States: It has long been an ally against Iran, but police crackdowns there have spurred charges that the U.S. has a double standard on human rights.

バーレーンは米国にとってセンシティブな場所である。そこは、対イランの同盟国だが、米国が人権についてダブルスタンダードを持っていると非難されてきた警察弾圧がある。


 米国がこの状況の認識をまったく持っていないということではない。9日付けでマイケル・ポスナー米国国務次官補は人道的見地からバーレーンへの非難を述べていた(参照)。また、1月27日米国国務省声明(参照)では、バーレーンが改革されるまで米国による武器売却を控えるとしている。

Question: Has the State Department sent a revised Bahrain arms sale package to Congress?

質問: バーレーン向け武器売却包括案を議会に送ったか?

Answer: We are maintaining a pause on most security assistance for Bahrain pending further progress on reform.

回答: 改革のさらなる進展まで、私たちは、バーレーン向けの安全保障援助の大半を休止している。


 この質疑には、オバマ政権らしいダブスタの背景がある。7日付けワシントンポスト「U.S. must bring pressure to bear on Bahrain」(参照)が指摘していた。

The United States has exceptional influence in Bahrain, in part because the U.S. Navy’s 5th Fleet is based there. But the Obama administration has mostly refrained from using that influence. It tried to go forward with a $53 million arms sales package last year until it met stiff resistance in Congress.

米国はバーレーンに例外的な影響力を持っている。一つには、米国がそこに第五艦隊を置いているからだ。しかし、オバマ政権はたいていの場合、その影響力の行使を控えてきた。この政権は昨年、議会での強固な抵抗に遭うまで、5300万ドルの武器販売を推進しようとしていた。


 オバマ政権は、バーレーンがこうした状況にありながら、議会の抵抗がなければバーレーンに向けて武器販売を実施しようとしていたのだった。それが「休止」しているという意味である。
 ということは、議会抵抗前にもオバマ政権は武器売却を進めていたということでもあった。このことは、先の質疑にこう続くことからもわかる。

During the last two weeks, representatives from the State Department and Department of Defense briefed appropriate Congressional staff on our intention to release some previously notified equipment needed for Bahrain’s external defense and support of Fifth Fleet operations.

この二週間、国務省と国防総省からの代表者は適切な議会スタッフに向けて、バーレーンの対外防衛と第五艦隊支援に必要であるとして、事前通知した備品提供についての私たちの意図の概要説明をした。



This isn’t a new sale nor are we using a legal loophole. The items that we briefed to Congress were notified and cleared by the Hill previously or are not large enough to require Congressional notification.

これは新規販売ではないし、私たちは法の抜け穴も使っていない。私たちが議会に概要説明した品目は事前に議会に届けて問題なしとされたものか、あるいは議会通知を要するほど大きくはなかったものである。


 つまり、共和党多数の議会から突き上げがあってから、民主党から出たオバマ大統領の政権はバーレーンへの武器売却を見直した。また議会に指摘されるまでは、違法ではないということで、昨年来バーレーンでのデモ弾圧下でもこっそりと開始していたのだった。
 繰り返すが、デモを弾圧しているバーレーンへ、共和党多数の議会が抵抗を表明しなければ、民主党オバマ大統領の政権はこっそりと武器売却を続けていた。
 米国はダブスタだが、民主党のオバマ大統領の政権のダブスタには見事なものがある。
 
 

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2012.02.07

アフガニスタン戦争、西側諸国敗戦のお知らせ

 公式には言われていないし、非公式に言うのは少し早いという印象もないわけではないだが、全体動向からしてもう確定と見てよいだろう、「アフガニスタン戦争、西側諸国敗戦のお知らせ」である。負けましたね。
 大本営風味の西側報道を見ていても、おや?と疑問に思うような話が増えてきた。たとえば4日付けNHK「アフガン 民間犠牲者が過去最悪に」(参照)では、表題通り最悪の現状を告げている。


 アフガニスタンで去年1年間に戦闘やテロに巻き込まれて死亡した民間人の数は3000人を超え、2001年にアメリカが軍事作戦を始めて以来最悪となりました。
 これは、国連アフガニスタン支援団が4日発表したもので、アフガニスタンで去年1年間に戦闘やテロに巻き込まれて死亡した民間人は3021人で、前の年に比べて231人増えました。2001年の同時多発テロ事件を受けてアメリカがアフガニスタンで軍事作戦を始めて以来、最悪の犠牲者の数です。

 どうして最悪の事態になったのか。

 全体の77%に当たる2332人が、タリバンなどの反政府武装勢力によるテロや攻撃が原因で死亡し、このうち、道路などに仕掛けられた爆弾が女性や子どもなど最も多くの人の命を奪ったと国連は指摘しています。
 一方、アフガニスタンの治安部隊や国際部隊の攻撃に巻き込まれて死亡した民間人の数は全体の14%に当たる410人で、前の年より若干減ったものの、空爆による犠牲者が増えているとして、国際部隊に対して対策を取るよう強く求めています。

 タリバンが弱体化したようすもないことや、惨状がすでに昨年から続いていたことがわかる。ではどうするのか、という先の暗示も報道にある。

 アフガニスタン情勢を巡っては、アメリカ政府が水面下でタリバンと接触を重ね、和平に向けた糸口を探ろうとしていますが、タリバンは対話に応じる姿勢を示す一方で、アフガニスタン国内で依然テロや攻撃を繰り返していて、今回の国連の報告は治安が一段と悪化している現状を浮き彫りにしています。

 この話だが、常識をもって読み返すと、あるいは太平洋戦争末期の日本を例として思い出してもわかることだが、「和平に向けた糸口を探ろう」という「和平」とは「終戦協定」という意味である。タリバンが優勢なので、敗戦側の西側諸国が終戦の条件を探しているというのが現状である。つまり西側諸国はアフガニスタン戦争で敗北したのである。
 このことは先日の、アフガニスタン駐留海兵隊たちがタリバン戦闘員の遺体に放尿する映像の流出事件の後日経過からも顕著だった。13日付け毎日新聞「アフガン:遺体に放尿 米高官、相次いで批判 和平交渉への悪影響懸念」(参照)より。

アフガニスタン駐留米軍兵士とみられる男たちが旧支配勢力タリバン戦闘員の遺体に放尿する映像が流出した問題で、オバマ米政権の高官から12日、兵士らの行為を非難する発言が相次いだ。アフガン安定化に向けタリバンとの和平交渉再開を準備している米政権は、反米感情の悪化に危機感を強めている。

 重要なことは映像の内容ではなく、「タリバンとの和平交渉再開を準備している米政権」という背景で流出したことだった。
 もちろん映像内容からはタリバンに対する米国の侮蔑と受け止められてもしかたがないので、報道時にはタリバンと米国がさらに緊張するかとも見られていた。しかし、タリバンはそのように反応はしなかった。それどころかタリバンと米国の交渉はこの機に前進した。同日毎日新聞「アフガン:遺体に放尿「罪のほんの一例」 タリバン「米対話に影響せず」」(参照)より。

 アフガニスタン駐留米軍の複数の兵士が旧支配勢力タリバンの戦闘員の遺体に小便をかける映像が流出した問題について、タリバンのムジャヒド報道官は12日、「米兵が過去10年間にアフガン人に対して犯してきた罪のほんの一例に過ぎない」と切り捨て、近く再開が伝えられている米国との対話には影響しないとの見解を示した。AFP通信などが伝えた。

 するとあの映像の流出元はタリバン側であるとは想定しづらいし、交渉にあたっている部分の米政府側でもないだろう。いずれにせよ流出をしかけた勢力が失敗したと見てよい。
 その後、タリバンと米国の交渉は前進した。23日付けNHK「米 タリバンとの交渉働きかけへ」(参照)では、タリバンと米国の交渉窓口の成立を伝えている。

 アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが中東のカタールに窓口となる事務所を開設する見通しとなったことを受け、アメリカ政府の高官は、アフガニスタン政府とタリバンとの和平交渉につながるよう働きかけていく考えを明らかにしました。
 アフガニスタンを訪れているアメリカのグロスマン特別代表は、カルザイ大統領らと会談したあと22日、記者会見に臨みました。
 この中で、グロスマン特別代表は「アメリカとアフガニスタンの両政府は和平プロセスを進めていく」と述べ、反政府武装勢力タリバンとの対話を通じてアフガニスタンの和平を目指す立場を改めて示しました。
 そのうえで、アメリカとタリバンとの水面下での対話の結果、タリバンがカタールに事務所を開設する見通しになったことについて、「事務所の開設は和平に向けたアフガニスタン人どうしの対話の促進につながらなければならない」と述べ、アフガニスタン政府とタリバンとの和平交渉につながるようアメリカとして働きかけていく考えを示しました。
 一方で、タリバン側が求めているアメリカ軍のグアンタナモ収容所に収容されている幹部の釈放について、グロスマン特別代表は「まだ決まっていない」と述べ、タリバン側の要求に応じるかどうかは、明らかにしませんでした。

 具体的な協議も開始されたとの報道もある。30日付けAFP「タリバンと米国、和平交渉に向けてカタールで協議」(参照)より。

 アフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)が、10年におよぶ米国との戦争を終結する和平交渉に向けた米国側との協議を、カタールで始めたことが明らかになった。
 元タリバン幹部のマウラビ・カラムジン(Mawlavi Qalamuddin)氏が29日、AFPに語ったところによると、タリバンと米国側は交渉の前段階としての信頼醸成を図っており、このプロセスにはしばらく時間がかかるという。

 この報道はタリバン側からは否定されているようだ(参照)。
 どたばたと実質的な終戦協定へ向けた動きが進んだのは、北大西洋条約機構(NATO)が、それぞれの国内事情から白旗を掲げていた要因が大きい。簡単にいえば、フランスも米国がどちらも今年の大統領選で、アフガニスタン戦争の戦死者累積に耐えきれなくなってきた。
 4日付けNHK「NATO アフガン撤退方針を確認」(参照)より。

 NATOの国防相会議は2日、ブリュッセルにある本部で始まり、初日は、アフガニスタン情勢について協議が行われました。NATO加盟国は、再来年2014年末までにすべての治安権限をアフガニスタン側に移譲することで合意していましたが、フランスのサルコジ大統領が27日、計画を1年前倒しして来年2013年末までに部隊を撤退させる方針を示し、アメリカのパネッタ国防長官も1日、来年半ばにも軍事作戦を終了させる方針を示しました。

 同報道ではそれでも、当初どおり「2014年末までに権限移譲を完了」させるという方針は堅持されたが、実際の軍事力の裏付けはないに等しいことはパネッタ国防長官が言明している(参照)。
 さらにこの文脈で1日、BBCがNATO内部報告書のリークを行った(参照参照)。リークの重要点は、パキスタン3軍統合情報部(ISI)がタリバンを支援しているというものだ。もっともこの指摘はすでに国際的に想定されていたので驚きで迎えられたというものでもないが、パキスタンが問題に深く関わっている以上、アフガニスタンの問題として切り離し、従来のようにな軍事態勢で解決できるものでもないことも明らかになった。
 アフガニスタン戦争は「オバマの戦争」(参照)でもあった。その失態の兆候はマクリスタル司令官の事実上の更迭で暗示されていた(参照)。
 イラク戦争もアフガニスタン戦争も開始したのはブッシュ元大統領であり、日本のジャーナリズムやネットの議論では、戦争を開始させたブッシュが諸悪の根源のように言われている。しかし、第一期のオバマ政権時代を振り返るなら、イラクを再び混乱に落とし込み、アフガニスタン戦争を敗戦に導いたのは、オバマ大統領ではないのかと思われるが、そうした議論は見かけない。
 
 

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2012.02.06

[書評]ドミニオンへの招待2012(ホビージャパン編)

 買おうか迷ったのだけど、まあいいかと思ってなんとなく予約しといた「ドミニオンへの招待2012(ホビージャパン編)」(参照)が先日届いて、ざっくり読んでみたが、いいんじゃないの、これ。前回の「ドミニオンへの招待」(参照)がなんというか、よくあるグルメ本みたいに評者の主観まとめで、げんなりしていたので、今度はどうなんだろと懸念していたのだったけど。

cover
ドミニオンへの招待2012
 ドミニオンについては以前「ドイツのボードゲーム史上初の三冠を獲得したドミニオンはなるほど面白かった」(参照)というエントリーを書いたことがあるが、以降もぼちぼちと楽しんでいる。ドミニオンは基本セット(参照)だけでも十分遊べるし、なによりこの基本をやらないことには話にならない。
 次が「陰謀」(参照)だがこれもけっこう面白い。基本セットと混ぜて使うこともできるし、混ぜて使ったほうが面白いかもしれない。がちでお薦め。
 「基本」と「陰謀」はそれぞれ単独でも遊べるが、以降のドミニオンは、この2つのどっちかを持っていないと遊べない、という拡張セットになる。そこで第三弾は「海辺」(参照)だが、いろいろな意見はあると思うけど、マットやトークンなど小物が導入されているせいもあってその分ドミニオンぽくない。これはちょっと別次元のゲームっぽい発展だなという印象。僕は、好きですよ。海賊船が好きすぎる。
 問題は「錬金術」(参照)だ。この手の趣向が好みの私としてはホイホイと手を出したのだが、今までの貨幣に加えてポーションという価値システムが入ってきて、これがなんつうか混乱するんだよ。この拡張は、なし、じゃないかなと悩んだ。
 そして「繁栄」(参照)は説明読んだだけで、めげた。「属州」よりも価値の高い勝利点カード「植民地」に「金貨」よりも価値の高い財宝「白金貨」かよ。たしかに、手持ち12点で属州を買うときのトホホ感はあるんだが、これも錬金術のポーションみたいに混ぜづらいし。
 自分のドミニオン人生もここもまでかと思って、「収穫祭」(参照)についても、「褒賞」カードとか見てためらっていた。拡張していくのがトレーディングカードっぽいのかもしれないが、なんかシステム的に美しくない感じがするんだよ。
cover
ドミニオン「異郷」
 と・こ・ろ・が、「異郷」(参照)は、いいんじゃないかと思って買ってやってみると、よい、です。カード獲得時の即時効果というのが導入されてはいるけど、それほど違和感はないし、「基本」「陰謀」との相性もいい。ヒャッハー面白いんじゃね、ドミニオン、という感じです。
 ということもあって、このあたりでこれまでのドミニオンを振り返るという意味合いもあって「ドミニオンへの招待2012」を読んでみた、と、こういうわけですね、つまり。
 本の内容だけど、ほとんどがこれまでのカードの説明。で、この説明が、けっこう、よい。さすがゲームやりこんでいるという、ガッツリ感があって。ただ、この組み合わせはいいとかいうお節介な説明はちと微妙な感じがしないでもないけど、しかしあれですね、結局、もうもう、ドミニオンの定石みたいのはあるんで、しかたないのかもしれない。
 カードの基本解説に加え、お薦めサプライ例も掲載されていて、ほぉと思ったのは、「繁栄」に着目している部分もありというあたりか。あと、書籍として面白いのは、戦略の解説。ページ数的には少ないのだけど、そうそうとかうなずいてしまった。今後、この手の戦略本が出てくるんじゃないか。
 ドミニオン選手権のレポートも面白かった。話は知っていたのだけど、世界大会で日本代表が優勝しちゃったわけですよ。なでしこジャパンとか、「日本女性が世界最強なのは当然だろ」くらいにしか思っていない私でも、すごいな日本、とか思いましたね。日本の未来がなんたらとか暗い顔して、偉そうな正論ほざいてないで、みなさん、ドミニオンでもやったほうがいいですぜ。
 そういえば、iPhoneアプリにドミニオンがあって、無料。しょーもないなあ偽物、と思っていたら、どうも偽物ともいいがたい雰囲気。正確なところはわからないけど、ちょっと触ってみるかなと触ってみた。ぽちり。基本だけなんだど、なかなかよく出来ていて驚いた。iPadでもできますね。ドミニオンって四人以下でやると煮詰まって面白くねーと思ったけど、iPadで対戦というのは、なんかジンラミーでもやっている雰囲気で悪くはないです。このアプリ、いずれ正式版が出るなら買うし、他の拡張も入れてくれるといいなと思った。あ、当然、表記は英語ですが、やってて特に問題はないですよ。
 
 

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