« 2012年9月9日 - 2012年9月15日 | トップページ | 2012年9月23日 - 2012年9月29日 »

2012.09.22

日米による離島防衛上陸訓練に関連して

 日本の陸上自衛隊と米国海兵隊は、敵に奪われた離島を奪還するとのシナリオのもと米領グアムで実施した離島防衛の日米共同訓練映像を今日公開した。共同訓練自体は8月末に開始されたものだが、現時点ので報道関係者への公開は、現在の尖閣諸島問題やオスプレイ配備問題といった文脈を意識してのことだろう。
 日本の陸上自衛隊が参加したことで日本ということが注目されるのもしかたがないが、各社報道を読むと、全体構図があまり正確ではないので、背景について補足しておいたほうがよいかもしれないと思えた。簡単に言及しておきたい。
 まず、日本でのありがちな反応の例は、朝日放送「日米で「離島奪還」訓練“尖閣”念頭で中国刺激?」(参照)である。ニュース自体は短いながら、タイトルに「尖閣」を意識させていた。
 共同は比較的平易な報道だった。「日米、グアムで「離島奪還」訓練を公開 「特定の島、想定せず」」(参照)より。なお、タイトルは産経で付けたものだろう。


 陸上自衛隊と米海兵隊は22日、米領グアムで行っている離島防衛のための共同訓練で、上陸する場面を報道関係者に公開した。敵に奪われた離島を奪還するとのシナリオ。
 陸自は「特定の国や島を想定していない」としているが、尖閣諸島をめぐる日中の緊張が高まる中、中国にとっては刺激的な訓練となった。
 22日朝、グアム島西部の米海軍基地内の海岸で、陸自と海兵隊の隊員が同じゴムボートに乗って上陸。陸自隊員は、付近を制圧する想定で小銃を構えて移動した。
 陸自と米海兵隊の共同訓練はこれまで、米西海岸や、日本国内の山間部の演習場で行われてきたが、初めて離島を使って実施。参加部隊も米側が沖縄に司令部を置く第3海兵遠征軍(3MEF)、日本側が九州と沖縄を管轄する西部方面隊で、尖閣諸島など南西諸島を強く意識させる内容となった。(共同)

 共同の受け止め方は、報道側としても意図したとおりだっただろう。
 共同に比べて、NHKでは、事実報道はかなり抑制していた。「陸自 米海兵隊と初の上陸訓練」(参照)より。

 陸上自衛隊は今月、沖縄のアメリカ海兵隊と初めて、グアム島や北マリアナ諸島のテニアン島などで上陸訓練を行っていて、22日、その様子が公開されました。
 訓練には、沖縄・九州にある部隊の陸上自衛隊員およそ40人と、沖縄の海兵隊のおよそ2200人が参加していて、このうち18日からグアム島で始まった上陸訓練の様子が、22日、公開されました。
 訓練は、離島が攻撃された場合を想定し、小型のボートを使って上陸するもので、現地時間の午前9時すぎ、自衛隊と海兵隊の合わせておよそ60人が、沖合に停泊した艦艇から出発しました。
 隊員らを乗せたボートは7隻で、横一線に並んで海上を進み、一斉に砂浜に乗り上げました。
 砂浜では、上陸した陸上自衛隊員らが、物陰に身を隠したり、低い姿勢で銃を構えたりしながら前に進み、周辺に相手の部隊がいないか確認するなどしていました。
陸上自衛隊の井藤庸平3等陸佐は、「訓練は特定の国を想定したものではないが、国内では上陸訓練の場所が限られているので、グアム島などを離島の一つと見立てて訓練できるのは意義がある」と話しています。
 また、アメリカ海兵隊ボート中隊のトービン・ウォーカー中隊長は、「訓練を通じて日米の信頼関係をさらに深めることができるので、今後も訓練を続けることが大切だ」と話しています。

 事実報道のあと、NHKは米国海兵隊とオスプレイの関係についても言及している。

オスプレイ発着可能の艦艇も参加
 訓練に参加した陸上自衛隊のおよそ40人は、先月下旬、沖縄の海兵隊員と共に、沖縄県うるま市のアメリカ軍基地「ホワイト・ビーチ」で、アメリカ海軍の強襲揚陸艦「ボノム・リシャール(4万500トン)」と、揚陸艦「トーテュガ(およそ1万6000トン)」の2隻に乗り込みました。
 陸上自衛隊の部隊は、2隻に乗り込んだまま、およそ2000キロ離れた北マリアナ諸島のテニアン島に移動しました。
 「ボノム・リシャール」は、ことし4月、長崎県の佐世保基地に配備されたばかりで、甲板を強化するなどの改修が施され、沖縄への配備が計画されている新型輸送機「オスプレイ」の発着艦が可能になっています。
 訓練では、この艦艇に指揮所が置かれ、自衛隊と海兵隊の指揮官が、情報を交換しながら、それぞれの部隊に指示を出しています。
 この艦艇が所属する部隊のキャサール・オコーナー司令官は、先月の就任式典で「オスプレイの配備により、自衛隊との活動で、より高い能力を発揮できるようになる」と述べています。

 ごく簡単に言えば、日本の離島防衛には海兵隊のオスプレイが重要だということの暗示のようにも受け止められる。
 だが、この部分をよく読むとわかるように、海兵隊の強襲揚陸艦は長崎県の佐世保基地に配備されており、またオスプレイもそこで離発着が可能であるという指摘である。するとこの構図では、沖縄へのオスプレイ配備の意味は弱いことがわかる。
 さて今回の共同訓練についてだが、NHKはこう説明している。

日米双方の思惑は
 日米両政府は、ことし4月に発表した共同文書で、「動的防衛協力」という新たな考えを打ち出しました。
 日米共同での訓練や施設の使用、それに警戒監視を拡大することで、アジア太平洋地域で日米の存在感や能力を示そうというもので、今回の訓練もその一環です。
 グアム島や、北マリアナ諸島のテニアン島周辺では、日米共同の訓練場の整備が検討されていて、日本側が費用を負担するかどうかなど、年内に具体的な内容を決めることにしています。
 こうした動きの背景には、南西諸島の防衛態勢を強化するため海兵隊のノウハウを吸収したい自衛隊と、国防費の削減を求められるなか、日本の協力を取りつけ、グアム島の戦略拠点としての重要性を高めたいアメリカ軍の、双方の思惑があるとみられます。
 さらにアメリカ海兵隊は、ことし4月、南シナ海に面した島でフィリピン軍と上陸訓練を行ったり、先月末からはオーストラリア北部の訓練施設で、オーストラリア軍と合同演習を行ったりしていて、中国が活動を活発化させているアジア太平洋地域で、日本やオーストラリア、それにフィリピンなどとの連携を強めたいというねらいもあるとみられます。

 気がつかれただろうか。NHKの報道には「尖閣」は登場していないのである。
 もちろん「南西諸島の防衛態勢」という言及があるので、事実上、尖閣諸島を含んでいるとはいえる。
 それでもNHKによる説明の焦点は、「中国が活動を活発化させているアジア太平洋地域で、日本やオーストラリア、それにフィリピンなどとの連携を強めたいというねらいもあるとみられます」という点にある。
 NHKの読み取りは正しく、この件で米国の関心は、日中関係よりも、中国の太平洋侵出が問題であり、むしろ、フィリピンを中心として南シナ海での中国との衝突が懸念されている。
 日本では報道を見かけないように思えるのだが、中国はこの海域の八割を支配したいと目論んでいる。
 この件の主要な報道としては、8月19日付けのニューヨークタイムズ「Asia’s Roiling Sea」(参照)がわかりやすい。

The South China Sea, one of the world’s most important waterways, has been contested off and on for centuries. These days, with the sea bounded by some of Asia’s most vibrant economies — China, Vietnam, the Philippines, Taiwan and Malaysia — the competition has become a virtual free-for-all.

世界でもっとも重要な海路の一つ、南シナ海は数世紀にわたって争奪が繰り広げられてきた。最近では、この海域に面するアジアで経済発展が著しい国々である、中国、ベトナム、フィリピン、台湾、およびマレーシアが、実質的な乱闘を行うに至った。


 中国が太平洋への覇権で問題を起こしているのは、ベトナム、フィリピン、台湾、マレーシアである。むしろ、先日の尖閣諸島に関連する反日活動は、日本に向けて「大乱闘」へのお誘いでもあった。

Beijing’s ambitions are large: the president of a Chinese research institute, Wu Shicun, told The Times’s Jane Perlez that China wanted to control no less than 80 percent of the sea.

中国政府の野望は大きい。吴士存・中国研究所所長は、中国はこの海域の少なくとも80%を支配したいと、本紙記者ジェーン・パールズに語った。


 中国の野望について、VOAに関連の地図があったので引用しよう。なお、台湾まで線が引かれていないが、中国にとっては台湾は自国領土という含みがあるためだ。また、その北の延長はどうなるかなのだが、中国の思惑としては沖縄も中国領土に含めているかもしれない(参照)。

 米国はこうした中国の帝国主義的な侵出の事態に憂慮している。ニューヨークタイムズに戻る。


The United States is plainly concerned, and rightly so. In recent months, for instance, China has enlarged its army garrison on a bit of land known as Yongxing Island. Mr. Wu said the aim was to allow Beijing to “exercise sovereignty over all land features inside the South China Sea,” including more than 40 islands “now occupied illegally” by Vietnam, the Philippines and Malaysia.

米国は明白にかつ正当に憂慮している。例えば、この数か月で、中国は永興島として知られている島に駐留部隊を拡大した。その目的は、ベトナム、フィリピン、およびマレーシアによって「違法に現状占有された」40を超える島を含め、「南シナ海にあるすべての形状の土地に主権を実効にすること」を中国政府が可能にすることだと吴氏は語った。

The Obama administration protested that this provocative act risked further inflaming the situation. In return, a leading Chinese newspaper told the United States to “shut up” and stop meddling in matters of Chinese sovereignty.

オバマ政権は、この挑発的行動が状況を悪化させる危険を冒していると抗議した。その返答として中国主要紙は、米国に「黙れ」と言い、中国の主権への干渉をやめるよう主張した。


 日本ではあまり報道されていなかったのかもしれないが、この8月、南シナ海の領有権を巡って、中国と米国はやり合っており、実際のところ、をの直後に今日報道された共同訓練が実施されたのである。むしろ、この時点では野田政権が魚釣島を国営化にするというのは米国には想定外の時点であり、米国としては「尖閣」は念頭にはなかっただろう。
 対中国の領土問題で、注意しなければならないのは、「二国間の話合い」である。ニューヨークタイムズは次のように主張を続けているが、これは米国政府と同じ意見だろう。

China would prefer to deal with territorial disputes bilaterally because it thinks it can strong-arm its neighbors. The United States has to take a neutral position on the claims but has proposed a fairer way of settling them — through negotiation and “without coercion, without intimidation, without threats and without the use of force.”

中国は領土問題を二国間問題として扱うことを好むだろう。そうしておけば、相手国を力でねじ伏せることができるからだ。米国は、領土主張については中立的な立ち場を取らねばならないが、解決に向けて公正な手法を提案している。それは、交渉によって、「強制なく、威嚇なく、脅威なく、そしてかつ武力行使を伴わず、推進されるものである。


 こうした背景があって今回、中国は、尖閣問題をネタに反日活動という対外的な失態をして米国の逆鱗に触れた。ニューヨークタイムズが示唆していた内容が表面化したわけである。レオン・パネッタ米国防長官が、習近平中国国家副主席にどやしこみ(参照)、領土・領海問題は交渉で平和的に解決すると中国に吐かせた。21日付け日経「習近平氏「領土・領海、交渉で平和的に解決」(参照) より。

【北京=島田学】中国共産党の次期トップへの就任が決まっている習近平国家副主席は21日、広西チワン族自治区南寧で開いた「中国―東南アジア諸国連合(ASEAN)博覧会」で演説し、「周辺国との領土や領海、海洋権益を巡る争いは交渉を通じて平和的に解決する」と述べた。中国の国営中央テレビが伝えた。
 直接的には、フィリピンやベトナムなどと領有権を巡って対立する南シナ海問題を指すとみられる。ただ、日本政府による沖縄県尖閣諸島の国有化後、中国指導者が周辺国との領土を巡る対立で「平和的解決」に言及したのは初めて。国際社会で中国の海洋進出への懸念が高まっていることを念頭に「我々は永遠に覇権を唱えない」とも強調した。
 習氏は20日にはベトナムのグエン・タン・ズン首相とも会談。南シナ海問題について「この問題が中越関係のすべてではないが、処理を誤れば両国全体に影響を及ぼす」と指摘。ズン首相も「両国に見解の違いはあるが、交渉と協議を通じて適切に解決したい」と応じた。中国の国営新華社が伝えた。

 これで中国の海洋侵出の野望が終了したかというと、言うこととやることは違う中国のことだから、どういう展開になるかはわからない。おそらく手を変え品を変えて続くだろう。
 日本としては、領土問題については、アジア諸国と連携し、軍事を関与させない平和解決の基準作りに着手すべきであり、そのためにもアジア諸国ともっと連携していくべきだろう。
 
 

| | コメント (5) | トラックバック (1)

2012.09.21

会話がとてもつらいとき

 例えば、会話のなかでこういう発言が向けられることがある。

「補充には数日かかるらしいので、鈴木さんが困るといけないから戻しておきました」

 ここで、私の頭は飛ぶ。飛ぶというのは、ヒューズが飛ぶという、昭和的な事象である。脳髄に激打をくらったような呆然とした状態になる。意識が残っているなら、とりあえず、相手の言葉を繰り返す。「補充には数日かかるらしいので、鈴木さんが困るといけないから戻しておきました」 意味不明。

 「何を補充するのか?」
 「誰が補充するのか?」
 「なぜ鈴木さんが困るのか?」
 「戻しておいたものは補充された何かと同一物または類似物なのか?」
 「鈴木さんが困ることと私とはどのような関係があると話者は想定しているのか?」

 皆目わからない。

 少なくとも、主語と目的語の役割の情報を補って文章を完成してくれるだけでも、よいのだが。少なくとも、以下の空欄が埋まっていると、とても救われる。

 「( )の補充には数日かかるらしいので、鈴木さんが困るといけないから( )を戻しておきました」

 内心は茫然自失しているが、とりあえず自分の表情はここで固定しておく。固めるというのではなく、脳が混乱しているという表現を抑えるためだ。抑えておかないとろくでもないことが連続して起きるという経験から。
 さてと、脳内に広がる荒野に私はひとり立つ。
 常識的に考えるなら、その補充されるべきなにかは、会話の流れのなかで、参照されていたはずである。
 びゅーんと脳内の録音データを再生しなおす。
 これで答えが出るならよい。
 たとえば、「期限切れが近い消火器」とか。
 ところが探索できないことがある。
 もうお手上げ。
 そういう場合、「何の補充ですか?」と聞けばいいだけのことじゃないかと若い頃は思っていて、ひどい目にあってきた。まあ、そのあたりの話は省略。
 長いこと生きてわかったことは、まず、わけのわからない会話に対して、とりあえず同意の素振りをして、そこにさりげなく不可知アイテムに関連する情報を求めるキーを差し込むことだ。こんなふうに。

 「そうですかあ。鈴木さん困るでしょうね。いくつくらい補充する予定でしたっけ?」

 これで、「何言ってるんですか、自転車何台も置くスペースないですよ」とか返信があると、そうか、それは自転車か、という情報を得て、そして私は世界を新しく創造しなおす。どのように鈴木さんを創造するかが次の課題になる。
 なぜ、わけのわからない会話に同意の素振りをまずするようになったかというと、いったい人々はどうやってこの不可解な会話を乗り越えているのかと、人の会話を聞いていて発見したからである。
 人の会話を聞いていると、実は会話は成立していないことが多い!
 これは本当に面白いなと思うのだけど、どう考えても会話は成立していないはずなのに、会話のような状態は継続していく。なぜなんだろうといろいろ見ていくと、とりあえず、同意のようなシグナルを出していることが重要だとわかった。
 なるほど。とりあず、同意のようなシグナルを出しておけば、論理的には支離滅裂な会話でもあたかも会話のように進行するのだ、とわかった。
 しかし、苦しい。
 いや、もうだいぶ慣れた。
 こういうのを普通の人間は、幼稚園の砂場で学ぶのだろうか。
 私は学び損ねたのか、なんからの欠陥があるのか。たぶん、後者なんだろう。アスペに近いのだろうなと思う。
 先日、アスペチェックのサイトを見かけてそのチェックをしたら、ボーダーラインだった。
 そういえば、冗談交じりに「アンとサリーテスト」(参照)をやったことがある。こんなテストだ。

某「どっちだと思いますか?」
私「箱」
某「なんで?」
私「サリーがいない間にアンがビー玉を箱に入れたから」
某「なんでそう思ったの?」
「不確かな状況で不可解なことが問われるというときは、その状況から起きるべき事態と関連人物の行動パターンの可能性の事例をいくつか推測するんだ。この場合だと、ビー玉を探せという不可解な問いかけに対しては、アンがビー玉を隠すというのが一番ありそうなことだと思うね」
某「あなた、最悪ね」
私「え? なんでなんで?」

 
 

| | コメント (12) | トラックバック (1)

2012.09.20

中国経済は破綻するか

 中国が抱える問題は各種存在するが、中央政府にとって大きな課題になっているのは経済問題である。その現状をどう見るかについて「ディプロマット」に10日、簡素なまとめ記事があったのでそれを紹介し、そこから気楽な印象を述べてみたい。気になるかたや、そんなことがあるのかと疑問に思うかたは、リンクを辿って原文を読むといいだろう。
 該当記事は「中国の銀行は債務の超大型爆弾を秘匿しているのか?(Are Chinese Banks Hiding “The Mother of All Debt Bombs”?)」(参照)である。今週の日本語版ニューズウィークにも抄訳が掲載されている。
 記事の前半には問題の概要となる数字が上がっている。それによると中国は、2009年初頭から今年6月末までに、中国の国内総生産(GDP)の73%に相当する35兆元(5兆4000億ドル)の新規貸し付けを行った。その三分の二は2009年と2010年に景気刺激策によるものだ。
 記事ではリーマンショックという名称は出て来ないが、ようするにリーマンショック後の対応だった。欧米ではこの時期に財政支出をしたが、中国はこれを銀行融資の形にした。地方政府はこれを使って無計画なインフラ投資などを行い、結果、不良債権が発生している。
 焦げ付き具合だが、2011年6月の中国の監査局の発表では、地方自治体の借金が2010年末に10兆7000億元(1兆7000億米ドル)とのこと。ディプロマットではビクター・シー・ノースウェスタン大学教授による試算を併記し、15.4兆元から20兆1000億元としている。
 中国では地方政府は自前の資金調達が禁止されているため、銀行融資は地方政府系投資機関、通称、LGFV(Local Government Financing Vehicle)を仲介する。これは一種の形式的なペーパーカンパニーで中国に1万社ほどあると言われている。そのバランスシートは地方政府の一般会計とは別建てになるので「飛ばし」しやすい仕組みでもあり、ここに不良債権が貯まる。
 これがどのくらいかなのだが、シー教授によると、LGFVの債務残高は、2010年末までに9.7000億元から14兆4000億元で、そのうち二割は焦げ付いている。2兆元から2兆8000億元の損失を最終的に銀行が被ることになるだろう。円換算で35兆円くらいだろうか。
 この数値の影響をどう見るかなのだが、現状の中国では日本の預金保険機構のような銀行救済スキームがないので、地方銀行によっては取り付け騒ぎが起こる可能性もあるだろう。
 胡錦濤政権側もこの問題を知らないわけではなかったが、今年10月に実施される指導部の大幅入れ替えを前にして地方政府の債務期限を一年先送りにした。習近平政権が取り組む課題としたわけである。
 ディプロマット記事では、LGFVの債務に加え、政府誘導のバブルに関連し、不動産業界や製造業にもバブル崩壊があるだろうと見ているが、試算は上がっていない。加えて、中国経済で重要な役割を実質担っているヤミ金融(shadow banking system)に大きな打撃があると予想している。これによって受ける銀行側の損失は1兆元、日本円で12兆円ほどになると試算している。社会不安を惹起しかねないのではないかと懸念される。
 中国政府は公式にはこれらの銀行債務問題を明らかにはしていない。ディプロマット記事は最後に疑念を表して終わる。
 習近平政権はこの銀行不良債権問題に対応できるか。16日のフィナンシャルタイムズ社説「中国経済の新モデル(A new model for China’s economy)」(参照)では、これらの問題を含めた中国次政権の経済問題を簡素に論じていた。同紙社説では不良債権の存在を認めながらも深刻な問題とはしていない。問題はむしろ、中国の成長戦略の方にあるとしている。現状では行き詰まると見ている。
 中国経済について同紙の処方箋としては、インフレを7%に抑えつつ、社会資本投資を活発化させ、中国人の貯蓄傾向を緩和し、国内消費を活発化させればよいというものだ。中国市民の所得が向上すれば課税も期待できるとしている。
 なんだ簡単なことではないかとも思えるが、フィナンシャルタイムズとしては、現状の中国はさらなる財政支出で成長を刺激しようとしていることへの批判である。
 フィナンシャルタイムズ社説のトーンからすると、中国経済は総じてさほど危惧するほど深刻な事態ではないだろうとも思いつつ、社説の結語は多少奇妙な印象を与える。


China’s immediate growth problems are far from insurmountable. The state has low debt and more than $3,000bn in foreign exchange reserves. But the current growth model is unsustainable. Now that he is back, Mr Xi should start thinking about a new one.

急を要する中国の経済成長問題は、まったくのところ解決不能とはいえない。中国は、公的債務は少なく、3兆ドルの外貨準備がある。しかし、現在の成長モデルを維持することはできない。習近平氏が姿を現したのだから、彼は新しい経済モデルを考え始めなければならない。


 気になるのは、「3兆ドルの外貨準備」の意味合いである。同じくフィナンシャルタイムズだが8月5日に「中国の現金積み上げは防御にはならない(China’s cash pile provides no shield)」(参照)という署名記事を掲載し、中国が現行の経済モデルを取っているなら諸要因から、5年以内に「3兆ドルの外貨準備」も底がつくとしている。
 その予想が正しいかはわからないが、習近平政権が大きく経済政策を転換しなければ中国はあと5年は保たないだろうという印象は深い。あるいは、もともとリーマンショック時につぶれていたはずの中国経済がここまで保ってきたということをずっと後に不思議なことだったなと思うのかもしれない。
 
 

| | コメント (13) | トラックバック (0)

2012.09.19

中国様のお考えを拝聴してみようではありませぬか

 私は中国語がわからないので環球時報の英語版を読むのだが、なかなか含蓄深いお話があったので、ここは一つ、日本国民も中国様のお考えを拝聴してみようではありませぬか。拙い試訳ではあるが(参照)。

9月18日には戦争を顧みる機会である

 今日は、前世紀、日本が中国に侵入した、あの9月18日の出来事の81周年記念日である。日本侵略への抗戦は1945年に終了したが、魚釣島問題での最近の世論加熱をめぐって再びその警戒が沸き起こってきている。中国と日本の間に新たなる戦争が始まるのかと懸念する人が多数いる。
 西太平洋域の国々にあって両国は主要な競争相手であった。81年前に始まった惨事で中国は、日本による最大限の屈辱に苦しんだ。日本は強大な軍事力の優位で隣国を侮蔑し続けた。日本政府が降参してもその心理的な優位が断念されることはなかった。日本人にしてみれば、中国の勝利は米国やソ連によってもたられたものである。
 1970年代と1980年代の短期間の友好気運が邪魔をされてきたのは、両国が歴史や領土について多数の口論に巻き込まれたからだ。個々の口論が日中間の現在の関係の中心になってきたようだ。
 こうした二国関係に大きな影響を与えたのが、中国の台頭である。中国は国内総生産の点で日本をすばやく凌駕した。軍事支出も日本を越えた。この間、核の力や宇宙開発技術も中国の戦略的発展を支援した。理論的に言えば、中国は日本を粉砕することが可能である。
 日本は中国の脅威と中国による報復の可能性に怯えるようになった。心理的な弱みを抱え込むようになった。
 靖国神社問題、教科書問題、南京虐殺問題など日本が持ち出す問題は、日本がしだいに自信喪失になってきたことを反映している。日本の右翼政治家が強硬姿勢を取るのは、彼らが中国の台頭を懸念しているからである。魚釣島を巡る現在の危機は、中国を怒らせる最後のチャンスだと見なす日本人が多数いる。
 9月18日記念を振り返ってわかるもっとも重要な要素は、81年前と比べ、二国間の力の均衡が変わったことである。多大な苦難を乗り越え、中国は戦略的に日本を打ち負かすことが可能になった。中国は日本に報復する必要などない。力の優位差を拡大していくことが、日本に対する中国の戦略的優位を強固なものにする。日本は、中国人の抗議活動者やその世論を恐れてはいないが、中国が台頭を続ければ、畏怖するようになるだろう。
 抗議活動というのは、中国がまだ弱い国であった時代に、侵略や挑発に立ち向かうひとつの方法であった。いまだ中国人が愛国心を示す手段でもある。だが、私たち中国人は、中国が強大になるのに合わせて、こうした方法を段階的に過去のものとしていくべきだろう。
 9月18日は中国屈辱の日である。中国はこれ以上の屈辱を受けることがないよう、強国となり団結しなければならない。そうでなければ、記念日の出来事はすべて無意味なものとなる。


Sep 18 offers chance to reflect on war

Today is the 81st anniversary of the September 18 Incident, which started Japan's invasion of China last century. Though the War of Resistance against Japanese Aggression ended in 1945, the alarm has been raised again surrounding the recent escalation of the Diaoyu issue. Many are questioning whether another war will break out between China and Japan.

Both were major competitors in the West Pacific for several centuries. The catastrophe that started 81 years ago saw China suffer the worst humiliation by Japan. The huge power advantage has sustained Japan's contempt toward its neighbor. Even Tokyo's surrender didn't break its psychological advantage. For Japanese, China's victory was granted by the US and the Soviet Union.

The brief friendly momentum in the 1970s and 1980s has been interrupted as the two countries are involved in many disputes, such as those over history and territory. These concrete disputes seem to be the core of the current Sino-Japanese relationship.

The factor that affected this bilateral relationship is China's rise. China exceeded Japan swiftly in terms of GDP growth. Its military spending also surpassed that of Japan. Meanwhile, its nuclear power and space technology have supported China's strategic development. In theory, China could destroy Japan.

Japan has become worried about China's threat and the possibility of China's revenge. Its psychological vulnerability has been accumulating.

The controversies Japan raised over the Yasukuni Shrine, textbooks and the Nanjing Massacre have reflected Japan's gradual loss of confidence. Right wing politicians in Japan have advocated a hard stance toward China because they are concerned about China's rapid rise. Many Japanese reckon the current crisis over the Diaoyu Islands is the last chance for Japan to ignite China.

Looking back at the September 18 Incident, the most striking fact is the shifting balance of power of the two in 81 years. After overcoming great difficulties, China can strategically outcompete Japan. China doesn't need to take revenge on Japan. Enlarging the gap in strength is key to consolidating its strategic superiority over Japan. Japan is not scared of Chinese protesters or public opinion, but it would be dreadful for it if China continues to rise.

Demonstrations used to be one way that China dealt with invasion and provocations by other countries when it was a weak country. It is still the means through which Chinese show their patriotism. Perhaps we should gradually leave such means behind us, as China has grown powerful.

September 18 is the date of China's national humiliation. China must be strong and united to avoid any further humiliation. Otherwise, all the commemorative events today have no meaning.


cover
キングダム 公式ガイドブック

| | コメント (8) | トラックバック (0)

2012.09.17

現下の中国の反日暴動と尖閣問題についてメモ

 現下の中国についてどうなんですか、ブログ書かないんですかと問われて、まあ、それほど予想外のことはないし、実は予想していることは別にあるんだけど書くと物騒なんで、どうしようかなと思っていたけど、ちょっと概要的な部分をメモしておきますか。
 まず、今回の中国の反日暴動の原因なのだけど、これはいうまでもなく政治的な裏がある。こんなのは陰謀論とか部類にも入らないイロハな話だけど、問題はどういう政治的な構図なのかというより、どういう具体的な力学というのが、まだはっきり見えない。
 構図については大ざっぱに言えば、このところ勢力を固めて院政が敷けるかと思っていた胡錦濤と共青団へのバックラッシュであり、太子党や軍、地方勢力といった個別利権の政治勢力との対立がある。ではどういうふうに対立しているか。
 この部分についても存外に単純で、中国共産党第18回大会で、現行9名の政治局常務委員を共青団に有利な7名体制にするかということで、俺も入れろ俺も入れろと2名枠でもめているのだろう。だから、単純な算数で、9名なら太子党的な勢力の勝利、7名なら共青団の勝利、8名ならぼちぼちでんなということ。ここは今後の中国を見極めるキモになる。
 この数値差で対日政策が変わるかというと、それはあまりなく、そもそもこの対立は基底には中国が抱え込んだ内政問題への対処手法の差しかない。問題のおそらく核にあるのは、民工や格差の問題より銀行不良債権問題だろう。もともとこれに対処するために共青団が権力を固めて、習近平すらしかたないかとそっちと協調する矢先でこの、中国お得意の反日ドタバタの引き金を引いてしまった。習近平の昨今の挙動は直接的な権力闘争より、俺関係ないもんねデモンストレーションのようだ。
 今回、反日暴動がここまで燃え上がったのは、現行政治局常務委員9名のうち5名が対日批判の踏み絵を踏んだからで(参照)、このうちの1名がくずれればもうちょっと温和な反日運動で終わったことだろう。逆にいえば、その時点で、問題の焦点が政治局常務委員の数問題なのがバレている。中国はこう点ではわかりやすい広報をしている国ではある。
 暴動のきっかけと見られることが多い尖閣諸島の領有権問題だが、これは誰も指摘してないみたいなので不思議なのだが、基本、意図的な誤解から発しているのではないか。
 英語のニュースを読んでいて、あれっと気がついたのだが、尖閣諸島について"nationalize"という言葉が使われている。「国営化」ということで、それ自体全然誤訳ではない。これまで尖閣諸島魚釣島の所有者は民間だったのが国に移ったということだ。ところが、"nationalize"という言葉には、日本国がぶん盗ったという響きがないわけでもなく、中国での報道でもそれに該当する言葉で、そういう印象が先になったのではないだろうか。
 つまり、「宿敵日本国粋主義者」とやらの石原慎太郎が日本国化を目論み日本国政府が煽動されて、日本国ではないものを日本国に国営化した、みたいな文脈で受け取られたのではないだろうか。
 こうした誤解が生じるのは、日本側でも「宿敵日本国粋主義者」とやらで石原慎太郎をなにかといえばバッシングする勢力がいて、今回の問題は石原氏が寝た子を起こしたからいけないみたいなトホホな議論もあったからだろう。これは珍妙な話で、同島は最初から日本人が所有しており日本国の領有権に含まれている。だから、私的なセクターで売買は可能だし、石原氏であろうが都であろうが、国家が関与しない民間での商取引でしかない。逆に、ここに国が関与してしまえば問題が大きくなるのだから、寝た子を起こすな論でいうなら、悪いのは野田首相になるのだが、あまりそういう指摘がないあたりが日本の議論の香ばしいところだ。
 実際のところ、今回の野田政権による同島の国営化だが、普通に考えたら柳条湖事件記念のこの時期(参照)にやるのはマヌケの極みみたいなもので、いくらマヌケな民主党政権とはいえそこまでマヌケということはないのだから、これには意図があったと見てよく、当然ながら、私的セクターから国家セクターに動かせば中国のメンツを潰すことになるのは想定されていた、にもかかわらず、なんでやったのかメリットが問われることになる。
 なんでだろうかと考えてみたのだが、このあたりの指摘も見かけないのだが、以前鳥取あたりだったかの防衛について調べたおり、私有地の防衛の難しさという話があり、ははあ、これは防衛上国家セクターに移しておくといいという判断をやったなと思った。
 ということは、日本政府側では明白に中国が同島に国家攻勢をかけてくると判断したのだろう。
 実際、鳩山政権でへなへなになったアジアの軍事バランスで生じたベトナムやフィリピンによる中国との海洋衝突を見ていると、中国の実動はオンスケジュールと見てよい。
 すると今回の尖閣諸島まわりの野田政権の対処は、しかたがなかったかなという印象は深い。そして言うまでもなく、今回の中国での反日暴動は、それを名目にしているだけで別の動機で動いている。
 とはいえ日本側が本気になったことは中国に伝わるし、中国も国家として自国領土を守るというメンツが潰されたに等しい。中国政府のメンツが潰されたらどうなるか。チベットやウイグルの状況を見ても明白なように、具体的な行動に出ざるをえない。
 これは来るなあと思って見ていると、だいたい想定どおりになってきた。ただ細部を見ていると、中国政府側としては米国へのメンツも配慮して軍事活動を前面に出さず、上手に国際法を遵守して国内広報活動している。随分中国もエレガントになってきたものだと微笑ましかった。
 ついでなので、尖閣諸島と米軍、つまり日米安保の関係だが、米国はこの地域の領有権問題には口を挟まない。そもそも米国は他国の領有権問題には口を出さないし、そもそもでいうなら、軍事同盟は領有権には関わりない。同盟を結んだ政府の維持がそれを支持する国民を質として強固にされるということで、政府の問題である施政権にかかわる。このあたり、赤旗(参照)とかまるでわかってないのか虚構新聞なみのジョークなのかわからない話を繰り出して、釣られている人もいる。
 尖閣諸島については基本的に日本の施政権の問題であり日本の施政権が外れれば、竹島や北方領土のように米国は基本的には関心を失うし、日米安保とは関係がなくなる。
 そこで尖閣問題は、日本側がこの地域の施政権を確立しているかにかかっているのだが、あまり知られていないし異論も多いのだが、日本の実質的な軍事力はこの地域では優位になっている(参照)。
 対する中国としては実際には軍事活動で一気に解決できないし、現下、内政が不安定な状態の中国では手が出せない。そうした中国の手の内を読んで、中国の弱みにつけ込んで野田政権が国有化に踏み出したのかもしれない。
 ついでに言うと中国はこの地域の海洋資源を狙っているという議論が日本では多いが、それだけのコストを払ってここで資源を狙うより、中国としては基本はシーレーン防衛が重要である。
 中国側からするとここで台湾や日本を足がかりにシーレーンを米国に牛耳られているのはつらい。中国は日本が無謀な戦争を引き起こした原因となる、欧米のABCD包囲網の歴史を知らないわけではないから、あれを中国に対してやられたら終わりだくらいは普通に考えている。
 そのための中国側の防衛戦略で重要になるのが空母なのだが、そのあたりのお仕事が米国の逆鱗に触れてしまい、どうしようかと困っているところである。中国としては、米国の信頼を得て、このシーレーンと日本は任せてほしいとしたいところだが、米国および西側としては、シリア問題でも協調しないし、パキスタンやイランの裏でも暗躍したり、アフリカなどに小型武器をばらまいては資源囲い込みをやっている中国が、信じられるわけもない。
 くわえて、これは奇貨というべきなのか、中国での反日暴動が激化すると、その大義であった尖閣諸島の中国占領が汚れてしまうので、ためらいも生じる。あれだけ実質的には汚い外交をやりながら、中国という国はきれいな大義に酔ってしまう国なので、ローレックスやディオールの店まで襲撃するような反日暴動の延長に尖閣諸島所有があると見られるのは嫌う。こういう中国人の感覚をまさかと思う人は環球時報とか読むといいですよ(参照)。そもそも中国の政府側としては、尖閣諸島問題は実動をちらつかせて棚上げ戦略を採っておけば、30年後ぐらいにはこの地域は自然に中国のものになると考えているのだから、ここで自国の民度を暴露するような行動には出たくない。こうした要素が状況に抑制的に機能するかもしれない。
 以上が現下についての私のざっとした見取り図なのだが、今後はどうなるか。事態はそう平穏には推移しないし、日本の対中関係はいっそう厳しくなるだろう。なにより、中国を暴発させないために、尖閣諸島の防衛はきちんと行うべきだろう。
 やっかいな時代になったものだと思うが、国際世界ってこんなものですよ。
 
 

| | コメント (19) | トラックバック (1)

« 2012年9月9日 - 2012年9月15日 | トップページ | 2012年9月23日 - 2012年9月29日 »