« Kindle Fire HDを買った話 | トップページ | 2012年、今年よく聞いた曲 »

2012.12.30

かつやの対決

 かつやの対決、といっても、あのイオン御曹司のそれではない。そんなの勝てる気がしない。そうじゃないんだ、かつやだよ、かつやだよ、かーちゃん。違う。トンカツの「かつや」だ。ポークコートレットだよ、いや、それ、全然違うってば。
 年末押し迫り、お前は何をしているのだと神様から静かなる細き声を140文字以内でつぶやかれつつ、寒風吹きすさぶ町を歩いていたら、いつになく、ごろーさんみたいに、腹が減ったのだ。

cover
孤独のグルメ
Blu-ray BOX
 おれ、あんまり腹が減らないおっさんなんだが、ここは、そうがつんと、ドンもので責めるか。がつん、どんどん。がつん、どんどん。ごろーさんみたいだな。
 そうしていたら、道のむこに、かつや、が、見えるじゃないですか。あれに見えるは、かつやじゃないか。かつや、と書いてある。イオンと書いてあるわけじゃない。
 かつや、か。それだ。
 前回、かつやで、海鮮カツ丼を食べたとき、猛烈に後悔したのだった。
 そもそもなんで海鮮カツ丼なんてものを食ってしまったんだ。いくら据え膳食わぬは男の恥といっても、そもそも据え膳じゃないだろ。自分で注文したんだろ。自己責任だろ。新自由主義だろ。あの時の自分は自分じゃなかった、なんて、男の台詞じゃないだろ。
 海鮮カツ丼。その甘美な響きにだまされた。カツ丼っていうから、カツが入っているのと思うじゃないか、普通。それ海鮮だ。迫り来るバルチック艦隊。ポークに海老、それに、牡蠣、どどーん、と連想してしまったのが死亡フラグ。期間限定とあるのも、アマゾンポチリ猿には、あとの祭りだよ。
 カツ、じゃ、ねーよな。これ。
 いや、カツか、カツなのか、これ。いや、これ、なんだ?
 海老フライ二つ。嘆息、嘆息。八年間、漁村でしかも海老の養殖所の近在で暮らした、おれは知っている。見知らぬ町で海老フライだけは食わないことにしようと誓ったのに。忘れていた。
 海老フライを囓る。
 だめだこれ。
 そして、牡蠣フライ。これは地雷だとわかっていて、ぐっと踏み込む。ぶっちゅう。
 そして、イカフライ。ああ、だめだめだ。
 こうなったら、どばどばと泥のようにソースをかけるしかないと理性を飛ばして、ヤンキー娘が泥レスリングできるくらい、ぶっかけた。
 食えない。食えないしろものになった。さんざんな目にあったのだった。
 あれから、三か月。リベンジの時を待っていた。前振りが長いぞ。
 迷うことはない。カツ丼だ。
 ソースカツ丼じゃないぞ。
 店内の脂ぎった熱い空気。戦場はここだ。
 「お一人様ですかあ、カウンターにどうぞ」とナースの言葉。
 カドの席に座る。思えば、これが最大の失敗だった。
 しかし当面の問題は、梅か竹かだ。
 松は、無理すぎる。
 梅か、竹か。それが問題だ。
 竹、食えるのか? 無理だろ。無理無理。理性を取り戻せよ。梅だよ。梅ちゃん先生。
 「梅」とおれは小声で言う。中国江西省の洞窟の中に取り残されたような、さびしい響きがした。
 かつやで、梅しか食えないのか、おれは。でも、しかたないな。
 あたりを見渡す。
 おっさんたちは、がっついている。だが、おれは、梅。これがおれの生きる道。梅。
 店は混んでいたので、カツの出も遅い。
 ポケットから、韓国製のスマホを取り出して、てろてれとツイッターを見ていた、その時だ。
 カドの、目の前の席に、おっさんが座ったのだ。おっさん? いや、爺さん?
 白髪交じりの髪はぼさぼさ。肌は皺くちゃで、あぶらけなし。カーキー色の汚いコートを羽織ったまま。おい、タイムスリップで昭和の神田古書店からやってきたみたいな男だ。そして、どことなく、インテリくさいのがたまらない。坂本龍一と新宿高校で同級生だったがよぉ、とか言いだしそうな爺さんである。
 おれより、年上だろうな。当然。
 いやこれで、おれもけっこうな爺さんだからな。ユニクロの薄手のダウジャケットとかぴっちっと着ていてもな。
 眼前に、おっさんの横顔。うへーなポジションである。見るなよ、おれ。と、ツイッターのタイムラインをすべらす。
 ははは、こちらは、ツイッターをばっち使いこなす(死語)、デジタルオヤジだぜ、と思った瞬間、アッパーカット。
 爺い、おもむろに、ずだ袋の書類のなかからタブレット端末を取り出した。
 え?
 そこでタブレット端末? ありかよ。
 何、機種なんだよ?
 と、思ったとき、そういえば、おれも鞄のなかに、先日買った、糞みたいなKindle Fire HDが設定途中で入れたたままだったことを思い出す。
 まずい。まずいな。
 なんてことだ。どうしてこんなときに、iPadを持ってこなかったのだ。
 ここでずしんとしたKindle Fire HDを出したら、おれの負けだろ、がちで。
 爺さんの機種ななんだ?
 まさか、Nexsus 7。だったら、おれの完全な敗北だ。
 いや、Nexsus 7 じゃないな、これ。分厚いぞ。
 この分厚い感は、レグザじゃあるまいか。最新型じゃないな。
 こ、これなら、Kindle Fire HDで勝てるかもしれない。しかし、おれのKindle Fire HDはWifiだが……しかし、この韓国製スマホのテザリングでなんとかなるはずだ。へいっ、こっちはノマドだぜ、ノ・マ・ド。
 そのとき、「梅」と声がした。
 ふっと、かつやに居ることを思い出した。
 おれは、かつやのカウンターでKindle Fire HDとスマホでテザリングしようとしていたのだろうか。むむむ。
 なんて悪夢だ。今は目の前のことに専念すべき時なのだ。かつやのカツ丼「梅」を無心に食う時なのだ。
 と、そのとき、またもアッパーカット。
 「竹」と爺いの声。
 竹、だと?
 竹、食うのか、爺い。食えるのか、竹?
 うああ、デジタルで負け、食欲で負け、女で負けるのか、おれ。あ、女は関係ないか。
 二発のアッパーカットを食らって、食欲も減退。
 梅ですら、食い切れないんだよ、おれ。
 その間、爺さん、ひたすら、分厚いタブレットを見ている。競馬速報か?
 といううちに、爺さんの前に「竹」出現。
 梅と竹と、こんなに量が違ったっけか。ずどどどーん。魚雷命中。
 沈んだな。北緯30度43分東経128度04分水深345m。
 完全な敗北だった。
 かつやの対決は終わりを告げた。
 梅すら食い切れなかったのだ。
 
 

|

« Kindle Fire HDを買った話 | トップページ | 2012年、今年よく聞いた曲 »

「雑記」カテゴリの記事

コメント

素朴な疑問、なんで、日本産のよく選ばれた牛肉を使った牛丼がでないのだろう。美味しいものは売れるのに・・・、庶民は美味しく楽に食べられるなら、財布もゆるむはずなんだけどね。それとも、美味しくならないのかなぁ、日本の牛を使っても。

ちなみに、ベーコン丼もうまいような気がする! あと、朝食メニューにバター丼、笑。

投稿: | 2012.12.30 15:25

海鮮カツ丼は、私は食べたいですが。海鮮丼だとお寿司(お鮨?)になるか。海鮮丼がいいな。漬け丼もいい!
どんな海老なら大丈夫なんですか?海外の養殖場(海老)TVで見た事ありますが・・。
梅が食べきれないのは、神様がFinalventさんの体を気づかったからですよ、きっと・・分からないけど。(笑)

良いお年を!!よい年越し蕎麦を!!!(^^)

投稿: | 2012.12.31 17:31

牛丼、駅そば、ハンバーガー。もはや全て外国産。とある東京の「駅そば」で食べていた時の店員さんの会話。「わかめは中国産だから、時々、虫が入っているんだわ。よく見といて」。おーい、食ってるお客の前で言わんでも。食器返却口に置かれていたダンボールには『むきタマネギ、中国産』の文字。天ぷらは中国産だったのね。そばつゆも合成調味料たっぷり。「安い、早い、うまい」には、こういう背景があるんですね。名前は出さないけど、ある牛丼チェーンを通りかかった時、目にした風景。良い年のカップルがニコニコしながら牛丼をほうばる姿。別に悪くない。極東ブログ様の言葉を借りれば『新自由主義だろ、自己責任だろ』だから、デートで激安牛丼チェーンを利用するのは構わないんだけど。あるハンバーガー・チェーン(ニコニコ・マーク)は、味覚の依存症を利用して大規模な激安販売を行っている。あのフィレオ・フィッシュ、いったい何の魚なの?調べた限りでは、ドキュメンタリー映画『ダーウィンの悪夢』の魚(ナイル・パーチ)ではないようだ。でも、あのハンバーガーには、ドキュメンタリー映画『ビック・コーン』の脂肪分たっぷり・成長ホルモン剤たっぷりで「太らせた」牛肉を使用している。だから、最近の女子高生は、お胸が異常に発達している(おっぱい星人、サイコー!)。だけど、中年期になると、それが「ガン細胞」へと変化するわけですよ。で、抗生物質をたっぷり投与して、ガンを抑制する。医療費の激増。悪循環?…あれ?人間にとっての『食育』って何でしたっけ?昔の「医食同源」(食事が薬でもあった時代)。そんな言葉は、もはや死語。日本産の牛肉でも、その肥料が外国産だったら、結果的には同じなのでは?「国産の納豆」でも、あの大豆の肥料は日本産なんですか?スイスの女性が世界一巨乳なのは、成長ホルモン剤たっぷりの牛乳を摂取しているから。誰が悪いの?今さら社会の流れは変えられない。花粉症やアレルギーも、全ての根源は「食生活の偏食」でしょ。そりゃ、添加物を大量に摂取すれば、アレルギーになるわな。「餓死」もイヤだけど、「害食」もイヤだな。最後に一言。「今日の食事が、10年のあなたの身体を作る」。牛丼、駅そば、ハンバーガー。さらには、コンビニ弁当(塩分強め)、パック野菜も漂白剤で洗浄しているし、いったいオレらは何を食うべきなの?要するに、売れれば良い。病気になったら抗生物質を投与。では、その悪循環の行き先は?

投稿: 大東亜 | 2013.01.01 02:54

久しぶりに、この外食行って敗北感シリーズ来ましたねヽ(´▽`)/
普段冒険しない私は、たまに冒険してヤラれちゃうと、なかなか立ち直れません

投稿: | 2013.01.03 14:25

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: かつやの対決:

« Kindle Fire HDを買った話 | トップページ | 2012年、今年よく聞いた曲 »