マリ共和国への国連安全保障理事会による軍事介入計画
西アフリカのマリ共和国の状況について国内ではあまり報道がなく、考えようにもよるのだが深刻な事態になっている。このブログでは4月26日エントリー「マリ共和国で起きていること」(参照)で言及したが、その後の状況、特に、国連安全保障理事会による軍事介入の計画について補っておこう。
前回触れたように3月22日、西アフリカのマリ共和国で軍部のアマドゥ・サノゴ大尉が率いる「民主主義と国家の再建のための国民委員会」(CNRDR: the National Committee for the Return of Democracy and the Restoration of the State)によってクーデターが発生した。
これによってトゥーレ大統領はネガルへ出国。4月に議会議長だったトラオレ氏が暫定大統領に就任。8月にCNRDRの関係者を入閣させた国民連合内閣が成立し、暫定首相にはディアラ氏が就任した。
この3月のクーデーターの混乱に乗じて、北部独立を掲げるトゥアレグ人勢力は攻勢を強め、北部ガオ州の州都ガオを掌握。さらに世界遺産の都市であるトンブクトゥ制圧し、北部の主要都市を掌握した。
トゥアレグ人勢力は二系ある。北部に「アザワド」という国家の独立を求める遊牧民トゥアレグ人の武装組織「アザワド国民解放運動(MNLA: National Movement for the Liberation of Azawad)と、アルカイダ系イスラム過激派「アンサール・ディーン(Ansar Dine)」である。
中部都市トンブクトゥはこの時点で、アンサール・ディーンがMNLAを追い出して支配下に置き、マリ共和国北部から中部はアルカイダの新しい拠点になっていった。
前回にも触れたが一連の政変は、カダフィのリビアを西側が潰したことの余波であり、カダフィ大佐の傭兵が大量の武器をもってトゥアレグ人勢力に荷担したせいであった。
いずれにせよリビア崩壊が、マリ共和国北部から中部はアルカイダの新しい拠点をもたらしたのだが、このアンサール・ディーンは指導者の縁故を含め、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQMI: Al Qaida au Maghreb Islamique, AQIM:Al-Qaeda in the Islamic Maghreb)」と関連がある。
ここでオバマ米政権がスピンをかましたベンガジ事件を思い出してほしい(参照)。あの事件は、オバマ政権が当初ふかしていたムハンマドを冒涜する映画に対するイスラムの怒りではなく、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQMI)」の関与があったと見られる。
どういうことなのか。
西側がもたらしたリビア崩壊が、新しくマリにアルカイダの拠点を生み出したということだ。
現状マリでは、民間人40万人が難民になり、5歳以下の子ども60万人に栄養失調状態にある。人道危機と言ってよい。
ここにきて12月10日、ディアラ暫定首相だがサノゴ大尉の指示で、身柄を拘束された(参照)。背景にあるのは、マリの政情不安である。
国際社会がまったく手をこまねいていたわけではない。10月の時点で国連安全保障理事会が軍事介入を検討している。10月13日付け朝日新聞「安保理、マリ軍事介入への計画求める 国連・AUに」(参照)より。
【ニューヨーク=中井大助】無政府状態が続くマリ北部をめぐり、国連安全保障理事会は12日、国連やアフリカ連合(AU)に対し、45日以内に軍事介入の計画を策定するよう求める決議を全会一致で採択した。計画が策定された後には、改めて軍事介入を承認するための決議も検討するという。
マリでは3月にクーデターが起きた後、北部をイスラム武装勢力が支配。フランスが提案した決議は、アルカイダ系を含めたテロ組織の活動を指摘、周辺国を含めた治安の悪化につながる可能性を懸念している。事態を解決するため、潘基文(パンギムン)事務総長が西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)とAUに要員を派遣し、介入計画を策定するよう求めている。
45日が過ぎたのだが、どうなっているのか。
11月14日共同「マリ軍事介入計画を承認 アフリカ連合」(参照)より。
エチオピアからの報道によると、アフリカ連合(AU)は13日、イスラム過激派らに北部を掌握されたマリに対する西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の軍事介入計画を承認すると表明した。
同計画では、ナイジェリアやニジェールなどから兵力3300人の部隊をマリに派遣予定。AU平和安全保障委員会のラマムラ委員長は、AUの承認により、ECOWASに属していない他のアフリカ諸国からの派兵も可能になると記者団に述べた。
ECOWASは、国連安全保障理事会の承認が得られ次第、部隊を派遣するとしている。(共同)
その後はどうなったのだろうか。国内報道からは見えないようだ。
12月10日のVOA「UN Security Council Has Growing Concerns Over Sahel」(参照)を読むと微妙にもたついているようだ。年内にはなんらかの動きはあるのかもしれない。問題は資金のようでもある(参照)。また、ダルフール危機でも見られたが広域に軍の展開が難しいという技術上の問題もあるのかもしれない。
米国オバマ政権としても、人道危機とはいえ、また失態を重ねかねないアルカイダと事態に関与しなくないというのもあるのだろう。
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コメント
日本はマリで長年ODAを実施。が成果は無かったか。いつもいつも無念。もともと苛酷な土地でさらに紛争とか。
投稿: | 2012.12.13 22:01
誰しも、すき好んで悪い方向に行こうとは思っていない。だけど、結果的には、悪い方向へと進んじゃった。北朝鮮だって、共産主義の創設当初は「世界一の天国」と称され、実際、日本からも共産主義に憧れて亡命する人もいたのに、現在は飢餓に苦しんでいる。北朝鮮の人たちだって、自分たちの国が悪くなってほしいとは誰も思っていないはずなのに、結果的には軍事優先の「ならず者」国家になっちゃった。ダルフールでの民族紛争だって、例えば先進国アメリカの黒人街のスラムだって、どんなにヤクザなギャングだって、自分の子どもにはギャングになってほしいとは思わない。だけど、結果的には、ギャングの子どもは、やっぱりギャングになってしまう傾向が高い。では、その理由は何故なんでしょうか?みんな「悪くなってほしいとは思わない」のに、結果的に悪くなってしまうのは。(まあ、日本だけは別次元なんですけど。日本人はみんなマゾヒスト(SMのドM)ですから。自虐的歴史観、自虐的メディア、自虐的官僚主導の内閣。何より、国民全体がバカときている、という自虐的オチを付けて)。
投稿: 大東亜 | 2012.12.14 14:32
やれやれ、ようやくPCが復調しました。
>何より、国民全体がバカときている(投稿: 大東亜 | 2012.12.14 14:32さん)
日本人が馬鹿か賢いかと言われれば、馬鹿だけど賢いし賢いけど馬鹿としか言いようが無いんですが。技術や知性やセンスを磨いたり発露したり賞を取ったり…そういう部分では賢いでしょうけど、協調性や同質性を他者に対して要求しすぎる面があって(それって端的にファシズムですけど)、そういった部分は企業のブラック化や老若男女問わずのイジメ問題や政治方面における人材の不足や政治的見識を発露しなきゃならない局面でのどうしょうもない馬鹿さに現れる。
それって、国民自体が馬鹿かどうかよりもタイプや向き不向きの問題なのでは? 下っ端や下士官級では非常に有能でも将校・参謀・将軍…と格が上がるほどに人材の質が下がるってのは戦前の日本軍に対する評言ですけど、それが戦後70年ほど経った今でも「まだ健在だった」ってだけのこと。
あと、日本の場合はそうだった(そう言われた)だけのことで、どこの国でも「そういう質に流れる人は一定数居る」って意味では同じなんじゃないかと思いますよ。アフリカではそういう発露の仕方だった、日本ではこういう発露の仕方だった、ってだけのこと。
投稿: のらねこ | 2012.12.14 19:02
例によって。
「ガダフィの傭兵」といっても、彼らはサウジやシリアやアフガン出身じゃありません。彼らの大部分はマリ出身者です(一部行き場所のないはぐれ者が混じっている可能性はありますけどね)。
AQMIと言われる政治組織についても現状、わかっていないことが多すぎるんですよね。実際には(汚職や差別などで)政府に不満をもっている少数民族がアフリカには多数存在していますし、彼らがAQMIに参加したり、潜伏場所を提供するのも当然過ぎます。
米国やEU、あるいは周辺諸国が躊躇しているのも、ぶっちゃけていえば、AQMIメンバーと、政府に不満を持っている普通の村人との違いは何なのか説明できないことですね。
投稿: F.Nakajima | 2012.12.15 18:38