[書評]ちょっと早めの老い支度(岸本葉子)
どきっとする書名で手に取った。あの、岸本葉子さんが「老い支度」だなんて。
![]() ちょっと早めの老い支度 岸本葉子 |
「はじめに」はこう始まる。
老後が怖い。そう思ったのは三十になろうとする頃、結婚しないかもしれないと感じはじめたのと同時期だ。
女と男の心の動きは違うが、30歳になったときは、ひどく年老いた気がした。そしてそこからの時の流れは速かった。
自分は老後が怖いかというと、すでに半分余生のような捨て鉢な感じもあってよくわからない。
岸本さんは、「怖くなくなった」と言う。
不安は、わからないところに生じる。得体が知れないものほど恐ろしい。
三十代よりも今の方が老いにたいしてなじみが出てきた。視力の衰えひとつも体験すると「なるほど、こうなっていくわけね」とつかめる。
本書で岸本さんは、視力の衰えのことで、老眼鏡を必需品だと書いている。
そのあたりは、よくわからない。先日百均でクリップを買ったおり、老眼が各種置いてあったので、もしかしてこれって便利なのかなと試してみたが、まるでわからなかった。近眼と乱視のほうがひどいからだろう。
老眼は免れているのかもしれないが、老いを感じないわけではない。
この本で岸本さんは忘れっぽくなったという話も書かれているが、自分も思い当たるふしがあってどきっとする。じわっと記憶力なども衰えていくのだろうか。
で、どうするか?
という話がいくつも、生活の見直しになるようなヒントとして指摘されていて、女の生活と男のそれとは違うものの、うんうん、なるほどなと頷きながら読んだ。いろいろ実行したいこともある。
「好みの低年齢化は、まま起こる」もおもしろかった。五十歳すぎたら岸本さんは、かわいいものを好むようになったという。なるほど。
自分は男性なので、女子のかわいい趣味はないが、だんだん感覚が子ども帰りしている感じはする。お酒を飲まなくなったし、大人らしい性的なアピールというか色気も抜けてしまい、子どものような気分でいることも多い。
英語を含めて向学心がふっとわくともあるという。それも頷ける。私も一時期、もう勉強とかしてもそれが何かの足しになるような未来はもうないから、勉強みたいなことはどうでもいいと思っていた。が、どこかで逆転した。脳みそが動いて、ものに関心あるうちは自分のために勉強していても、いいんじゃないかと気楽に考えるようにした。歴史、英語、科学、ふつうに勉強はおもしろいものだなと思う。
意外に思える話もあった。岸本さんは、風呂場のカビ落としが大変なので、いっそのことお風呂はスポーツジムで済まそうというのだ。その手があったか。おもしろい生活だな。それも老いに向かう生き方のコツと言えないこともないだろう。
本書には二点、対談が含まれている。産婦人科医とマネーライターが相手だ。前者は閉経などにともなう女性の身体の変化の話だが、岸本さんのなまなましい体験のようなものは出て来ない。後者は老後のためのお金の話だ。年金の話題もある。
ああ、しかし。
いつのまに年を取ったのだろうか。岸本葉子さんの「微熱の島 台湾」(参照)を感動して読んだのは私が32歳のことで、それを参考に台湾に三度行った。あの本を書いていた岸本さんはまだ20代だった。そして、30代、40代、それぞれの時代の思いをつづったエッセイを時の流れに合わせて書いてきた。
岸本さんは私より4つも若いので、同世代の感覚からは少しずれる部分があるが、それでも、近い世代の感覚がいつも生きていていた。そして、いよいよ50代か。
| 固定リンク
「書評」カテゴリの記事
- [書評] ポリアモリー 恋愛革命(デボラ・アナポール)(2018.04.02)
- [書評] フランス人 この奇妙な人たち(ポリー・プラット)(2018.03.29)
- [書評] ストーリー式記憶法(山口真由)(2018.03.26)
- [書評] ポリアモリー 複数の愛を生きる(深海菊絵)(2018.03.28)
- [書評] 回避性愛着障害(岡田尊司)(2018.03.27)
コメント