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2012.10.26

ベンガジ襲撃事件のその後

 米国大統領選では、意外にもロムニー候補が追い上げて詰めの部分が見えないものの、おそらく全体の流れではオバマ再選ということになるだろう。どちらが勝っても、それほど米国の政策に大きな変化はなく、むしろオバマ氏は再選することで歴史的にはさらにしょっぱい評価を得ることになるのではないか。
 それを前倒しにするような話が、むざんな死者を出した9月11日のリビアの米領事館襲撃事件である。
 この事件は当初、こんなふうに語られていた。9月13日付けCNN「ベンガジの米領事館襲撃で大使ら4人死亡 リビア」(参照)より。


 今回の事件は、イスラム教の預言者ムハンマドを冒とくしたとされる映画がインターネットに投稿されたことに対する抗議行動が発端となって発生した。エジプトの首都カイロの米大使館もこの映画をめぐって襲撃され、星条旗が破り取られている。
 オバマ大統領は「我々は他者の信教を中傷する一切の行為を拒絶する」「しかし今回のような非道な暴力は、断固として正当化できない」と非難した。

 日本でもそのように報道されていた。
 本当だろうか。オバマ大統領は上手な嘘をついているのではないか。
 疑惑をまず、同記事で再考してみよう。

 米政府高官などによると、領事館はロケット式の手りゅう弾によって襲撃されて炎上。 建物は武装集団に取り囲まれ、スティーブンズ大使らは建物の屋上へ脱出しようとして、ほかの職員と離ればなれになった。死亡したのはスティーブンズ大使のほか、情報管理担当官のショーン・スミス氏と国務省の警護担当職員2人。死亡に至った詳しい経緯は明らかになっていない。

 暴徒がロケット式の手榴弾を持っているだろうか。9.11に示し合わせて実施されていることも注目したい。

 関係者によると、ムハンマド映画に対する抗議行動を武装集団が扇動したのか、単に利用しただけなのかは分かっていない。スティーブンズ大使が狙われていたとは思えないという。
 米当局者はこの襲撃について、計画的な犯行だったとの見方を示している。リビア東部のイスラム武装勢力の動向に詳しい関係者は、過去にもベンガジの領事館を襲撃したことのある国際テロ組織アルカイダ系の集団が、今回の襲撃にも関与した疑いが最も濃厚だと語った。

 この報道を見直してみると、「ムハンマド映画に対する抗議行動を武装集団が扇動したのか、単に利用しただけなのかは分かっていない」というように、ムハンマドを侮辱する映画の文脈で語られていた。
 それが正しければ、ベンガジ領事館で明白な抗議デモがあったはずである。ところが、そんなものはなかったようだ。10月11日時事「オバマ政権の対応に疑念=リビアの公館襲撃から1カ月-外交政策、大統領選の争点に」(参照)より。

オバマ政権は当初、事件をイスラム教を侮辱したビデオに対する抗議デモの延長線上にあったと説明し、攻撃をテロ組織アルカイダと関連がある「テロ」と断定したのは、発生から2週間以上が過ぎてからだった。公館前のデモがなかったことも最近判明した。

 テロだったのである。
 さらに、アルカイダによる9.11を模した計画的な襲撃であったとしたら、どうだろうか? そうであれば、オバマ政権はそれを、ムハンマド侮辱映画の反動という偶然の事件に早々にすり替えて見せたことになる。すり替えなければ、米政府の対テロ政策の根幹的な失態であることになるからだ。
 9月19日の時点ではオバマ政権は当初の文脈を固持しているようだった。同日ブルームバーグ「リビア米領事館襲撃、事前に計画されたものでない-米当局者」(参照)より。

 9月19日(ブルームバーグ):米国家テロ対策センターのディレクター、マシュー・オルセン氏は19日、リビアのベンガジで11日に起きた米国領事館襲撃事件について、事前に計画されたものではなかったとの見解を明らかにした。同事件ではスティーブンス駐リビア米大使を含む4人が犠牲となった。
米国とリビア両国の当局者の間では、米領事館襲撃が急進的なイスラム主義者によって事前に計画されたものだったか、過激派が平和的なデモに乗じて攻撃を実行したのかについて、公式見解が分かれている
オルセン氏は上院国土安全保障委員会の公聴会で、米当局は実行犯が国際テロ組織アルカイダか、北アフリカを拠点とするイスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQMI)に関与している可能性を示す証拠に目を向けていると説明。その上で、「現在手元にある最高の情報は、今回の攻撃が便乗主義的なものだったことを示している」と指摘した。同氏は、調査はまだ終わっていないとしている。

 9月19日の時点では、「公式見解が分かれている」とうことだった。分かれる理由は、アルカイダによるテロであれば、オバマ大統領は嘘をついていたことになるし、対テロ政策の失策ということになるからだ。
 オバマ大統領は9月26日の国連総会の演説でも、リビアで殺害されたスティーブンス大使について、言論の自由と寛容の精神の双方を守ることを訴えることで、先のように、偶発事件のストーリーを維持しようとしていた。10月以降、テロだと認定された現在から見ると、オバマ大統領、必死だったなの感がある。
 オバマ大統領への疑惑は、選挙戦ともあいまってまだ曖昧な状態にある。
 昨日の日共同「チュニジア人逮捕 リビアの米領事館襲撃」(参照)より。

 【カイロ、ワシントン=共同】AP通信によると、チュニジア情報省報道官は24日、米大使ら4人が死亡したリビア・ベンガジの米領事館襲撃事件に関し、チュニジア人の男(28)が逮捕されたことを明らかにした。
 男は今月上旬、トルコに不正パスポートで入国しようとして拘束され、チュニジアの首都チュニスに身柄を移されたという。襲撃事件に関与した疑いが持たれているが詳細は不明。
 一方、ロイター通信は、在リビア米大使館が事件直後に「イスラム過激派アンサール・シャリアがインターネット上で犯行を認めた」とワシントンに報告していたと報道。
 ただアンサール・シャリアはその後、関与を否定しており、クリントン米国務長官は24日「現地からの報告がいかに流動的だったかを示している」と述べ、オバマ政権の対応に問題はないとの立場を強調した。
 米国内では、オバマ政権が襲撃事件をテロと認識しながら、政治目的で「反米デモが拡大した暴動」と説明したとの疑惑がくすぶっている。

 問題は、襲撃事件に対するアルカイダの関与によっても明確になってくる。もし、その関与が濃ければ、偶発事件だとは考えづらい。どうか。昨日のCNN「アルカイダ系の2組織が同時関与か リビアの米領事館襲撃」(参照)はこう報じている。

(CNN) リビア東部ベンガジの米国領事館が今年9月11日に襲撃され、クリストファー・スティーブンス米大使ら米国人4人が殺害された事件で、米情報機関がアルカイダ系のテロ組織「イラク・イスラム国」が襲撃の中核的な役割を果たしたと分析していることが25日までにわかった。
 米政府高官がCNNに明らかにした。米情報機関当局は先に、襲撃には同じアルカイダ系の「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」が関与した形跡があると指摘しており、アルカイダ系の2組織が大使らの殺害に加担していた可能性が浮上した。

 現状では計画的犯行の線が色濃いが、決定的な証拠までは挙がっていないかに見える。
 加えて、国内報道は見当たらないが、実は、襲撃直後、オバマ政権側は、この襲撃がテロであることの情報を得ていたようだ。10月24日付けロイター「米政権はリビア襲撃の二時間後に戦闘組織の犯行宣言を受けていた(White House told of militant claim two hours after Libya attack: emails)」(参照)より。

Officials at the White House and State Department were advised two hours after attackers assaulted the U.S. diplomatic mission in Benghazi, Libya, on September 11 that an Islamic militant group had claimed credit for the attack, official emails show.
米政府と国務省の政府高官は、9月11日、リビアのベンガジにある米国外交使節への襲撃の二時間後に、イスラム武装グループが攻撃声明を出していたことについて、電子メールで示した。

 オバマ大統領は、テロ対策の失態を上手に手品のように文化的な軋轢の問題にすり替えてみせたのではないか。疑惑は残る。
 
 

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「時事」カテゴリの記事

コメント

本当に どちらが勝っても、北米の政策に違いはないと思ってみえるのですか。残念です。私は、このサイトを影響のあるブログだと思っているので、別のコメントを期待していました。

投稿: | 2012.10.26 23:21

ロケット式の手榴弾って想像してみたら吹いてしまった。

投稿: ES | 2012.10.27 13:52

今回の大統領選挙では、どちらも実務中道なので、争点はほとんどありませんよ。

参考:
Zakaria: Is it a debate when the candidates agree?
http://globalpublicsquare.blogs.cnn.com/2012/10/23/fareed-zakaria-is-it-a-debate-when-the-candidates-agree/

投稿: finalvent | 2012.10.27 14:27

>ロケット式の手榴弾
第3世界で広く流通しているRPG-7のようなものでは。
マスコミなんかは「ロケット砲」「ロケットランチャー」などと誤った報道をしますが、厳密に言うと擲弾発射器(Grenade Launcher)に分類されるようです。(もっと厳密に言うと対戦車擲弾発射器になりますが)

http://ja.wikipedia.org/wiki/RPG-7

投稿: | 2012.10.27 21:06

どちらも「実務中道」と言って「どっちも同じさ」というのはうなずけない。

ザカリアは外交関係のジャーナリストであって、行政全般にわたって詳しいわけじゃない。その外交にしても中東問題がほとんどで、例えばEUの金融危機や中国に対するスタンスがほとんど議題に取り上げられなかったという、運営側に対する批判が出ている。

あとは、米国にとって最も大事なのは国内の問題だろう。そこで両者には大きな違いがあるという見解が出ている。
http://tameike.net/pdfs8/tame500.PDF

投稿: F.Nakajima | 2012.10.28 21:02

F.Nakajimaさんへ。
>ザカリアは外交関係のジャーナリストであって、行政全般にわたって
>詳しいわけじゃない。
それは吉崎達彦も同じようなものだと思いますよ。

EUの金融危機には米国として両者の差はありませんし、ありえようもないでしょう。直接的な関与は原理的にできません。

「中国に対するスタンスがほとんど議題に取り上げられなかった」というはシンプルな誤解でしょう。

参考⇒FT: US rivals fall prey to China syndrome
(http://www.ft.com/intl/cms/s/0/d5fb0604-1d19-11e2-a17f-00144feabdc0.html )

また、吉崎さんのこの見解は、8月24日で、その後のロムニーがオバマを追い上げる要因となった中道路線化を含んでいないように思われます。

重要なのは、吉崎さんは思想を重視して、政治・外交の環境的制約を重視していないことです。あるいは、ものごとを戯画的捉えすぎています。

実務中道というのは、そうする以外に米国の進路はないという意味でもあります。それはバーナンキによる金融政策にしても、司法が税制と見なしな医療保険制度改革でも同じで、内政上の大きな差違も出ようがありません。

差があるかに見えるのは価値観や文化戦争的な部分だけでしょう(それが思想でもあり、思想を重視する弱点でもありますが)。

投稿: finalvent | 2012.10.28 21:52

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