[書評]恋愛検定(桂望実)
NHKで6月頃放送されていたドラマ「恋愛検定」を先日見た。なぜ今頃、というと、録画していたことを忘れていたからだった。50分くらいの4話ものである。おでんくんに出てくる神様のような「恋愛の神様」が登場するファンタジーという、軽いコメディータッチの作品なので、さらっと見られるものかと思ったら、1話づつ、ずしんと重たい。一話見ては、うるうるしてしまった。
調べてみたら、原作(参照)があるようなので、あのうるうる感というか、胸キュン感をもう一度確かめたくて読んでみた。テレビドラマとはちょっと方向性の違う作品だった。
![]() 恋愛検定 |
第1話「自称恋多き女 四級検定」は、30過ぎた自称恋多き女。つまり勘違い女の話である。化粧品会社広報部長を演じる田中麗奈が意外と言っては失礼だが、お見事だった。彼女については私はあまり知らない。大河ドラマ「平清盛」でも、まあ気丈なキャラとしてそんな感じかなというふうに見ていた。年は若いとばかり思っていたが、今回のドラマの映像はなかなか辛辣で、どうみても30は過ぎたでしょうというのを上手に捉えていた。実際は撮影時に31歳の終わりというあたりだったのだろう。女優の内面も透けてみさせるような演技には魅了された。
話は、4話通じてなのだが、「恋愛の神様」が人間の世界にやってきて、恋愛能力を検定するというのだ。英検とか漢検のノリである。が、恋愛が成立すると合格というのではなく、恋愛能力が試されるだけ。悲恋でもよいのである。ドラマのほうは気の利いたファンタジー的に描いていたが、小説のほうはポケモンのようにそういう異世界を制度的に描いていた。
「恋愛の神様」は意外にも酒好きの中年のおっさんである。ドラマではだらっとした風体でほっしゃんが演じていた。好演であった。なぜ中年男なのかというと、おそらく原作者の内面を反映しているからなのだろう。
2話目「無駄にやさしい女 三級検定」では、惚れた男には別に好きな女がいる。男への恋情から彼らの恋愛を哀しく助ける道化の一人という設定である。エドモン・ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」(参照)の現代版といったところだが、その恋愛の手助けとしてのメールの扱いが私には面白かった。私の青春にはメールはなかったからだ。電子メールはかれこれ四半世紀も使っているが、それで恋とかしたこともない。メールで恋愛はご勘弁と思っている私には、ここはちょっと異世界を覗くようでもあった。
主人公・香川紗代はマイコが演じていた。この人、朝ドラで見た人だなとわかったが、今回のドラマで、もしかして、この人、ハーフじゃないだろうかと思った。日本人とはちょっと違う顔の表情がある。どうやらそうらしい。あとで人に聞いたら、知らなかったのぉと驚かれた。自分も濃いめの顔をしているせいか、こういうのに鈍いんだよ。
マイコの演技は上手に切なかった。切ない感じをうまく出せる女優はなかなかいないなというのと、ドラマでの女優の選択の妙を思った。
第3話は男の側である。よって私などにはそれほど面白くはない、とまで言ってよいかわからないが、「石橋を叩き続ける男 二級検定」というようになぜか二級である。いわゆる理系男をありがちに描いているのだが、かたきも当然いて野波麻帆が演じていた。これはこれで上手だった。前二話と脚本の質が違うので、この作品は加藤綾子によるものだろうか。あと三話が荒井修子だろうか。
第4話「神様が惚れた女 マイスター検定」は、10年前に恋人を事故で失ってもう恋をすまいと思い込んだ39歳の沢田ゆかりを木村多江が演じていた。木村多江という女優さんはよく知らないが、見たことあるなと思った。私のおばあさんの若い頃に似たタイプの美人というか、こういうタイプに惹かれる人は多いのだろうと思う。私はちょっと微妙に苦手である。そんなことはどうでもよい。
物語は、子連れの男との再婚への微妙な恋情を描いていた。悪くない。いいと言っていい。ただ、恋愛のこういう、なんというのか、40歳を越えていくあたりからが、本当に難しいものがある。
さて、原作のほうはどうだったか。
設定は似ている。登場人物名も同じ。ドラマの側から見ると、脚本家の力量もわかって面白いというか、最近の脚本家というのは巧みなものだなと確認する。私は韓流ドラマというのを見ないのだが、ここまで繊細に人間の心情が描けているだろうか。描けているのかもしれない。わからん。
ドラマと原作の違いは、ドラマに採用されなかった、「堀田慎吾 三級受験」と「森本瑠衣 一級受験」の物語によく表現されている。
堀田慎吾は女性への理想は高いものの仕事は適当にやっていればよいという36歳の男。現実世界ではそこまで典型的な男もいないだろうと思うが、その心理の働かせかたは、かなり正確に描かれていて、自省力のある男性なら痛みを感じるだろう。物語では、ほぼ理想の24歳の女性との見合いに失敗する。理想さえ高くなければ34歳の看護婦さんとうまくいそうにも見える。ネタバレになるが、検定期間が終了して落第し、「僕の日常が再開された」という言葉で終わる。まさに蛇足だが、その意味は「死」でもある。
「森本瑠衣 一級受験」は堀田慎吾の女版である。私は女性の心理というのがわからないが、これも正確に描かれていているのだろうと思う。たいていの女性はこういう心理で生きているのだろう。女というものの薄気味の悪い部分だと思う。ここはさすがにネタバレは書けない。
原作には、心理学者のゆうきゆうの解説が付いている。なんとなくだが、これは出版社側の企画で最初から彼が入っての作品だったような印象がある。その解説は、いわゆるこの手のハウツー本にありがちな内容以上はなく、むしろ原作はそのハウツーを越えた部分の深みにうまく到達している。
深み? 恋愛はたやすくないということ。
なぜたやすくないのかというと、私たちはたいていは凡庸な人間だからだ。見映えもぱっとしない。勉強や仕事の能力もない。カネもなければ縁故も薄い。それで恋愛なんかできるわけないと世間と妥協して生きているし、その妥協の上手下手が端的に言えば結婚にかかわる。それでいいのか? よいわけはない。凡庸さの痛みのような部分におそらく恋愛は毒でもあり薬でもあるようにはたらく。
| 固定リンク
「書評」カテゴリの記事
- [書評] ポリアモリー 恋愛革命(デボラ・アナポール)(2018.04.02)
- [書評] フランス人 この奇妙な人たち(ポリー・プラット)(2018.03.29)
- [書評] ストーリー式記憶法(山口真由)(2018.03.26)
- [書評] ポリアモリー 複数の愛を生きる(深海菊絵)(2018.03.28)
- [書評] 回避性愛着障害(岡田尊司)(2018.03.27)
コメント
…話の引き具合がアレですね。ナニですわ。
×田中麗奈が意外と言ってはしつれだが、お見事だった。
○田中麗奈が意外と言っては失礼だが、お見事だった。
×2話目「無駄にやさしい女 三級検定」では、惚れた男には別に好きな女いる。
○2話目「無駄にやさしい女 三級検定」では、惚れた男には別に好きな女がいる。
些細なことですが、こんなもんで。
私事。先日から失踪した駄猫ねこさん(雌推定6歳・淑女)と愚猫ふぐりさん(雄推定6歳・へたれ)の仲がどうにも縮まらず、ねこさんはふぐりさんを嫌って失踪したのでは? との疑惑も浮上。別にそこまで仲悪くも無いんですけど、近寄ると逃げる・追い詰められるとシャーする症状が改善されず気を揉んでいたところ。めいめい勝手に寛いでるぶんには丁度いい関係なんですけどね。野良なだけに、縄張りやらテリトリーやら、そういうのに煩いのかもしれず。
今春にも1週間ほど消息不明になっていたことがあるのでまたいつか帰ってくるさと思っていますけど…もし万が一を考えると心配で心配で夜も寝られず。ねこカムバック…と思いつつ、愛犬サチ&駄犬ユキ(母娘)、愚猫ふぐり、孫の金魚(4尾)を愛でております。
わんわんだっこ。
投稿: のらねこ | 2012.10.06 08:55
のらねこさん、誤記、ご指摘ありがとう。前のほうは直していたのだけど、次のはご指摘で気がついた。
投稿: finalvent | 2012.10.06 08:59