« ベンガジ襲撃事件のその後 | トップページ | [書評]ゼロからトースターを作ってみた(トーマス・トウェイツ) »

2012.10.27

[書評]知ろう食べよう世界の米(佐藤洋一郎)

 昨日ナショナルジオグラフィックのサイトに「イネの起源は中国・珠江の中流域と判明」(参照)という記事があった。話はタイトル通りでもあるが、発表媒体はNature誌で、原文も公開されていた(参照)。内容の評価についてだが、研究チームが「長い論争に終止符を打つことができた」と自負するほどの価値があるかは私にはわからないが、ナショナルジオグラフィックの記事、および該当論文の概要を読む限り、妥当な見解であり、さほど驚きもなかった。

cover
知ろう食べよう世界の米
(岩波ジュニア新書)
 というのは、最近、といっても7月だが、子ども向けの科学入門書である岩波ジュニア新書で「知ろう食べよう世界の米」(参照)を読んで、話の概要は知っていた。論文概要は次の通り(参照)。

作物の栽培化は長期にわたる選択の実験であり、これがヒトの文明を大きく進歩させてきた。栽培イネ( Oryza sativa L.)の栽培化は、歴史上最も重要な進歩の1つに位置付けられるが、その起源と栽培化の過程については意見が分かれており、長く論争が続いてきた。今回我々は、さまざまな地域から収集した野生イネ、ルフィポゴン( Oryza rufipogon 、栽培イネを生み出した直接の祖先種)の446系統と、栽培イネであるインディカイネとジャポニカイネの1,083系統について、ゲノム塩基配列を解読し、イネゲノムの包括的な変異マップを作成した。選択の痕跡を探索して、栽培化の過程で選択的除去(selective sweep)が起こった55の領域を同定した。この選択的除去とゲノム全域の変異パターンを綿密に解析したところ、ジャポニカイネ( Oryza sativa japonica )は初め、中国南部の珠江中流領域周辺でルフィポゴンの1集団から栽培化されたことが判明した。またインディカイネ( Oryza sativa indica )は、最初に生まれた栽培イネがその後、東南アジアや南アジアに広がるにつれ、このジャポニカイネと現地の野生イネとの交配により生じたことも明らかになった。高精度の遺伝子マップ作成により、栽培化に関係する形質の解析も行った。この研究は、イネの育種のための重要な基盤となり、また作物の栽培化の研究に役立つ効果的なゲノミクス手法を示している。

 むしろ、この概要の背景を知るのは、同書がわかりやすい。もっとも、同書が今回のNature論文を先取りしていたわけでもなく、詳細まで含まれているわけではない。
 興味深いのは、ルフィポゴン(Oryza rufipogon)の、人類の扱いで、同書でもこの点について、開かれた問いを出している。

 ところで人間はなぜ、栽培イネをルフィポゴンだけから進化させたのでしょうか。アジアには、ルフィポゴンのほかにも野生イネを利用する文化があります。それなのになぜ、人間の社会は、ルフィポゴン以外の野生イネは栽培化しなかったのでしょう。西アジアで栽培化されたムギの場合、社会は、コムギの仲間だけでなく、オオムギやエンバクも同時に栽培化させました。どうしてイネではそうなかなかったのか。これについて私はよい仮説を持ち合わせていないのですが、どなたか、これという妙案を考えてくださらないでしょうか。

 インディカについても本書で言及しているが、概ね今回のNature論文と同じく「このジャポニカイネと現地の野生イネとの交配により生じた」という考えを出している。
 同書だが、子ども向けに平易に書かれているし、タイトル「知ろう食べよう世界の米」のように米を食べる話も多い。よく、パエリアはインディカ米だと誤解する人がいるが、欧州でもジャポニカはよく食されている。本書ではロンバルディア平原で15世紀には栽培されていたもある。黒海沿岸でも栽培されていたようだ。それらの伝搬路もよくわかっていない。
 本書で興味をもったのは、米国の米の起源で、基本的な部分はわかっているとも言えるが、具体的な部分では謎も残るらしい。冒頭のナショナルジオグラフィックの記事を読んでいるとき、たまたま米国米の起源で、アフリカ説を見かけた(参照)。黒人奴隷が持ち込んだのかもしれない。
 米の議論は日本や韓国などでは農業保護の観点からナショナリズムの傾向を帯びやすく、日本でも、もっとお米を食べようといった奇妙なキャンペーンも打たれる。だが、米は世界中で食されているし、その食の形態は、本書が平易に説くようにさまざまなバリエーションがある。ピラフにしてもリゾットにしてもいい。マカロニサラダみたいにサラダにしてもよい。しょっぱいおかずで食わなくても、ミルクで甘く煮てもいいし、ライスプディングでもいい。
 本書で強調されている、アジアの「米と魚」また「米と大豆」という組み合わせの食の視点も、アジアを広く知る上で重要だろう。私が馴染んだ沖縄の食文化も原点は、ウムとトーフとイチャガラスであった。
 子どもたちに、本書のように生活に密接した部分から科学や文化を伝えていけば、現状ネットに溢れるようなナショナリズムを介した無益な食の議論もなくなるだろうし、科学/非科学といった教義ではない、生き生きとした科学の魅力も理解できるようになるだろう。
 
 

|

« ベンガジ襲撃事件のその後 | トップページ | [書評]ゼロからトースターを作ってみた(トーマス・トウェイツ) »

「書評」カテゴリの記事

コメント

ワインでさえ、いまだにフランスだけみたいな日本ってね。インドのワインも美味しいのに。

あと、意外に中国の業務用販売されている米が美味しかったよ。国際市場で、日本は勝てなくなってるかも。そのうえ、さりげなく日本でも広まってしまうのだろうね。

投稿: | 2012.10.27 17:22

 日本の食文化は一極集中性に基づく多様性ですから、雑に言えば「どこかの誰かが持ってきた素材(いっこしかない)を料理人が腕を競って最上を目指す」の形態しか無いんですよね。ローカル食文化だと素材そのものから違うのはよくあることですけど、そういうのはマイナーすぎて中々目立たない。「B級グルメ」とか言わなくていいと思うんですけどね。

 それはそうと、今年もお米がぼちぼち採れてるみたいなんで年末にでも持って出る算段ですが、宜しければドゾ。要らなきゃいいです。そんな感じで。

投稿: のらねこ | 2012.10.28 11:01

かつては多様性に満ちていたであろう雑穀・堅果食は忘れ去られ、「伝統食」はせいぜい大正まで遡ればいいところ・・・
文化の伝播や発生を実食して体験するのはきっと面白いと思います。
栄養的には現代の何でもアリ状態がベストですが。

投稿: Hydroxide | 2012.10.29 19:14

> 米国米の起源で、


イネ科の米のほうの話じゃ無いけど、ワイルド=ライス
旨いよ。
1パック1Lb.(454g)が¥100円ーとかで近所
のストアで売ってる。

で、これに
いまブラジル産もも肉切り落とし(一枚肉じゃ無いや
つな)がキロ当り¥240円ーでふつうに売ってるから
塩胡椒して焼いて、和えてオリーブオイルと柑橘汁をかけて食うんだ。

もも肉焼くときフライパンへ一緒に、冷凍の茹で芋を
ぶち込んで熱を通して和えて頂くと尚よし。

いまベビーリーフが3パック¥100円ーで売ってい
るから、そういうのも一緒に和えて食すのだよ。
もしもそれが売って無ければ、ルッコラなら
3把¥100円ーとかでふつうに売ってるだろうから
代替品としてベター。

投稿: 千林豆ゴハン。 | 2012.10.29 21:22

×イネ科→○イネ属

ワイルド=ライスは、イネ科だけど
イネ属では無くて Zizania(マコモ属)、と書
かねばならなかった、というか書きたかった。

投稿: 千林豆ゴハン。 | 2012.10.30 13:34

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [書評]知ろう食べよう世界の米(佐藤洋一郎):

« ベンガジ襲撃事件のその後 | トップページ | [書評]ゼロからトースターを作ってみた(トーマス・トウェイツ) »