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2012.10.08

[書評]最新型ウイルスでがんを滅ぼす(藤堂具紀)

 癌の標準的な治療は3つある。三大治療法とも言われる。病巣を手術によって除去する外科療法、抗がん剤を用いる化学療法、放射線によってがん細胞を殺傷する放射線療法。癌の種類やステージによって有効な治療法の選択は異なる。こうした説明を聞いて、ふーんと思う人は、おそらく幸いである。

cover
最新型ウイルスでがんを滅ぼす
(藤堂具紀)
 本書「最新型ウイルスでがんを滅ぼす」(参照)では、この三大治療法は「この三十年以上、進歩がありません」と書かれている。著者は臨床医であり、臨床医からするとそれが実感なのだろうと察するとともに、非固形癌治療や分子標的治療は進歩した面もある。それでも、この30年間に癌について革新的な治療法が出現したとは言い難い。免疫療法など第四の治療法も模索されているが大きな成果はないと言ってもよいだろう。本書の、ウイルスを利用する治療法も客観的に見れば現在その段階にある。しかし、本書には大きな期待が持てそうだ。
 書名には「最新型ウイルス」とあり、「新型ウイルス」を連想させてしまう点は出版側も悩んだところだろう。実体は、単純ヘルペスウイルスⅠ型を遺伝子変化させたものである。著者が開発しているのは「G47Δ」という人工ウイルスである。これを治療的に癌患者に感染させ、癌細胞を標的として破壊させる。NHKサイエンスZEROでも紹介されたことがある(参照)。
 人工ウイルスによる治療と聞くと、映画「アイ・アム・レジェンド」(参照)が連想され、恐ろしさを感じる人もいるだろう。だが、その側面についても本書は十分に配慮して説明されていて、危険性はない。むしろその確認のためにも本書が読まれるべきだろう。
 「G47Δ」は現在開発中ではあるが、実験段階の同種のウイルスの動物実験の成果を見ると驚嘆せざるをえない。まさに人類の科学的叡智というものを実感させる。科学技術のディストピアが陰鬱な倫理とともに語られる昨今、人類の科学が切り開く展望を爽快にかつわかりやすく見せてくれる。
 早くこの夢のような癌治療法が確立してほしいと願わざるをえないが、その道は険しい。創薬そのものが難しいからだとも言えるし、その難しさの背景にある、特許を主軸とした、世界の仕組みも関連する。こうした社会的問題も本書から知ることができる。
 私が本書で一番関心を持ったのは、著者が臨床医であることだった。一人の臨床医が最先端の医学研究にどう取り組んでいったのかという、その経験談と、臨床医ならではの感性に惹かれた。この感性のありかたこそ未来の日本にとって重要なのではないか。
 日本の最新技術が今後どのようにあるべきかについて、しばしば基礎研究と公費の枠組みで問われる。それはそれで重要ではあるが、こうした現場にいる天才的な人々をどのように支援していくかのほうが大きな鍵だろう。
 あと、ディテールになるが、著者の癌観も興味深いものだった。あまり一般書では語られることがないように思われる、癌幹細胞説についてもさらりと、しかし臨床医ならでは直観をもって語られていて感心した。個人的には癌幹細胞説を包括的に論じた書籍が読みたいものだと思っている。
 
 
 

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