[書評]政権交代 - 民主党政権とは何であったのか(小林良彰)
中公新書で小林良彰著「政権交代 - 民主党政権とは何であったのか」(参照)が先月出ていて、副題を見ても感じたのだが、もう民主党政権は終わって、総括本が出ちゃっているんだ。気の早いことだなと思ったが、考えてみれば、もうしばらくまえから、政権交代は実質的に終わっていたわけだから、総括本が出てもいいのかもしれないとも思って読んでみた。
![]() 政権交代 民主党政権とは何であったのか |
この本だが、あまり明確な印象はなかった。大半がこの三年間のプレーンな記述に終始していた。その意味でかなり公平に書かれている。この政権の全貌を見渡すのには良書といえる。十年後ぐらいに、あの民主党政権ってなんだったっけ、とか回顧するだけの余力が日本にあれば、それなりに参考文献にはなりそうである。こういうと何だが、本文より巻末のまとめのほうに価値が出そうだ。
著者は政治における計量分析などを得意とするらしいが、その特徴はマニフェスト理解などの分析で見られるものの、全体的な議論への反映があまり見られないのは残念だった。執筆の時間的な制約であろうか。あと、これは指摘するのもなんだが、外交政策もだが、金融政策についても疎い印象があった。こうしたテーマは共著などほうがよいかもしれない。
三年間の新聞をまとめました的な記述の後には、終章で意思決定の一般論みたいなものに流れていて、日本特有の政治プロセスへのインサイトもあまり見られないようだった。ただ、しかたないといえばしかたないのかもしれない。日本政治の宿痾ともいえる大きな課題でもあるのだろう。
さて、結局のところ、民主党政権とはなんだかだが、マニフェスト選挙と言われたように、そのあたりの視点から総括してもよく、本書も簡素にまとめていた。
- 「コンクリートから人へ」は八ッ場ダムの迷走のように尻つぼみした。
- 「最低でも県外の普天間基地問題」は、失敗した。
- 震災対応の遅れは、11か月後に出来た復興庁の迷走によく表現されている。
- 企業献金や議員定数問題など、政治家が身を切る話も一向に進まない。
五策に関連して。
- 国家戦略局は事実上実現しなかった。
- 副大臣・政務官増員も実現しなかった。
- 幹部人事制度も実現しなかった。
- 事務次官会議は形式的に廃止にしたが事実上復活した。
- 天下り規制は形式的に進めたが効果なし。
- 行政刷新会議も効果なし。
政権政策について。
- 無駄遣い: 公務員人件費削減・事業仕分けなどを進めた実施はわずか。企業献金や議員定数問題は実施せず。公共事業見直しは迷走。
- 子育て・教育: 母子加算復活・父子家庭への児童扶養手当支援は早期に実施。子ども手当と高校無償化は部分的に実施。家庭省・出産一時金は実施されず。
- 年金・医療: 実施されない項目が多い。後期高齢者医療制度も自民党時代のまま存続。医学部定員拡大・診療報酬増額は実施。
- 地域主義: 農業者個別保障は実現。高速道路無料化は断念。ガソリン税の暫定税率廃止は見送り。郵政民営化見直しは法案成立。
- 雇用・経済: 地域金融円滑化・最低賃金引き上げ・グリーンイノベーションは実施。中小企業法人税引き下げは実施せず。求職者支援制度は実施したが運用に難あり。
著者は「こうしてみると、そのそも二〇〇九年に起きた政権交代とは一体、何だったのだろうか」と感慨を持つが、一言でまとめてはいない。
私の考えでは、結果から見るかぎり、政権交代は民主主義国として一度やってみたという以上の意味はなかったように思う。
むしろ、麻生政権の自民党を壊してしまって、受け皿の政党もまた壊れてしまった部分の影響のほうが大きいように思った。
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コメント
>私の考えでは、結果から見るかぎり、政権交代は民主主義国として一度やってみたという以上の意味はなかったように思う。
ニコニコ動画の「やってみた」「歌ってみた」と同じレベル認定ですか…。随分民度の低い国民ですなあ。それで下手こいたら話にならんから(今現時点でもどうにもならんことが多いでしょ)思慮と熟議を要するんじゃないんですかね? 上手く行くなら「やってみた」でも構わんけど、そうじゃないときの寒さやリスクを考えろっての。
日本の政治と国民の民度には、ほとほと愛想が尽きましたわ。そういう質の人は他で偉くても立派でも究極的に国家を危うくしてしまう点で、無意識レベルでの犯罪者なんじゃないですかね? 自分が率先して世の中壊すのは責任が伴うから嫌だけど、どっかの誰かをそそのかしてやらせるなら自分は知らん顔できるからいいよ系。
破滅願望が世に出ただけなんじゃないですかね? 巻き込まれる側は、本当にいい迷惑。
投稿: のらねこ | 2012.10.20 19:38
複数政党制って政党の支持母体となる社会階層が複数ないと駄目なんですよ。アメリカやイギリス、フランスを見ればだいたい分かりそうなものなんだけど。
だから自民党の派閥による議事政権交代制度はそれなりに日本に合っていたのだと思います。
まあそれを差し引いても、鳩ポがあそこまで無能でバカだったのが予想外でしたが。民主党は政党と言うには人材が居なさ過ぎましたね。マスコミもチェックせずに意味不明に持ち上げてたし。
投稿: みかん | 2012.10.20 23:18
先の選挙で民主党に一票入れちゃった人たちは、入れなかった人たちにキチンとごめんなさいしなきゃ駄目ですよね。こんだけ世の中滅茶苦茶にしといて、今さら知らなかっただの実験失敗だのなすりつけだのは通りませんわ。
今回が初めてじゃないでしょ。細川内閣の連立政権時代も同じように混乱をもたらしたし、村山富市内閣の馬鹿さ加減も酷いもんでしたわな。回を追うごとにどんどん酷くなっていくのは「狙って滅ぼそうとしているとしか思えないレベル」ですけど、今回それをやらかしちゃった以上、もう次は無いですよ。仏の顔も三度バックでアウトレイジ ビヨンドですわ。
みんなで野球やりましょう。話はそれからですわ。「野球」の意味が判らなければ映画館での視聴をオススメ。そのくらいやんなきゃ駄目なレベルですよ。
投稿: のらねこ | 2012.10.21 00:50
民主党政権とは何か。
私に言わせれば、日本の神様からこれ以上嫌われた為政者はかつていなかっただろう、という、それだけ。
無神論者の集まりは、日本の政治土壌には合いませんよ。
投稿: enneagram | 2012.10.24 08:37