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2012.10.11

華為技術(Huawei)製品に中国政府によるスパイ機能が仕組まれるか

 中国政府が米国の通信ネットワークに、バックドアと呼ばれる、悪意のあるハードウエアやソフトウエアを組み込む危険性があるとして、米国政府とその契約企業は中国通信最大手・華為技術(Huawei)と2位・中興通訊(ZTE)の製品を使用しないように促す勧告書(参照)を、米国下院情報問題常設特別委員会(HPSCI)が米国時間の8日、公表した。
 中国製の通信機器を使用していると、国家機密が中国政府側に漏洩する危険があるということだ。
 本当だろうか。本当だとすれば、米国だけの問題とはいえず、日本はどう対応したらよいかが問われる。が、ざっと報道を見た範囲では、そうした観点で日本では問題化されていないようなのでブログで拾っておくことにしたい。
 まず、そもそもそんなことがありうるのだろうか? つまり、中国が自国の通信機器にバックドア(裏口)を設置することがありうるのか。米議会の妄想ではないのか。
 もちろん中国は反論している(参照)。これは国家的なスパイ行為を名目にした市場締め出しではないかという思いが中国側にはある。。
 この問題は、10日付けのフィナンシャルタイムズ社説「華為技術を狙い撃ち(Targeting Huawei)」(参照)でも論じられいたが、読みやすい邦訳も出た(参照)ので、それを借りると、ようは華為技術のオーナーが不明な点にある。


 華為の所有者が誰であるのかはっきりしない。創業者は人民解放軍の元軍人。会長は中国のネットワーク上のeメールからテキストにいたるまですべてを監視している保安機関と関係がある。華為はそうした関係を否定するが、主張に説得力はない。英国など華為を受け入れている国は自国のネットワークで華為が存在感を高めていることに神経質になっている。

 フィナンシャルタイムズは、よって、「華為は下院報告は噂に基づいていると指摘した。そうであるならなおさら不透明性を払拭したらよい」と流すのだが、それ自体、無理筋の話とみてよい。
 仕組みはスレート「(Is the World's Second-Biggest Telecom Provider a U.S. Security Threat?)」(参照)が言及している。幸いこれも邦訳(参照)がある。

 華為に巻き返しの手段はあるのか。噂されているIPO(新規株式公開)が実現しても、表面的な影響しかないだろう。同社はすでに財務内容を公開しているし、既に株式を公開しているZTEも今回の批判をかわせなかった。
 むしろ、古参の役員ばかりで占められている取締役会を変革したほうがいいかもしれない。収入の3分の2を国外で稼いでいるのだから、国際経験の豊富な人材を取締役会に加えるのは当然ではないか。
 とはいえ、一企業の力ではどうしようもないこともある。中国経済はあらゆる面で国家に細かく統制されており、中国企業が政府主導の経済から距離を置くことは不可能だ。中国の政治家に「中国代表」と評される華為が国外のビジネスを切り離すのは不可能だろう。
 米中の政治的関係が改善する日まで、華為とZTEは政治的な「人質」という立場から逃れられそうにない。

 実際のところフィナンシャルタイムズのいう不透明性の払拭というのは、事実上、中国企業に外資を投入させ国際企業化すればよいという帰結になる。日本の郵政でもナショナリズム的な観点から反動が巻き上がったが、ナショナリズムが暴走している中国ではこれは端から難しい。
 いずれにせよ、中国企業を国際化せよという構図なのだろうか。それとも、フィナンシャルタイムズが懸念するように貿易上の問題なのか。

 一方で米議会とホワイトハウスも平衡感覚を保つ必要がある。報告は華為とZTEを米政府の調達から排除し、企業合併・買収活動を禁止するよう求めている。それでは世界第2位と第4位の通信機器大手が世界最大の市場で商売の機会をほとんど得られなくなる。中国がシスコなど米国の通信機器メーカーに対抗措置を取る可能性がある。
 中国と米国は世界経済が鈍化する中で貿易摩擦にかまけている余裕はない。バラク・オバマ大統領は先週、中国企業による4カ所の風力発電所の買収を差し止めた。米国の無人航空機実験施設に近いという理由からだ。大統領は2週間前には中国の自動車部品メーカーへの補助金について世界貿易機関(WTO)に提訴した。共和党の大統領候補ミット・ロムニー氏は大統領就任の初日に中国を為替操作国と認定すると約束している。彼は中国をひどい知的財産権泥棒と非難している。
 こうした批判には真実も含まれている。だがワシントンはもっと広い視野を持つことも必要だ。貿易戦争の危険は封じ込めなければならない。

 冷静な議論に見えながら、中国の不可解さに対しては相応の防御意識がはたらくのはしかたのないことだろうし、中国のスパイ活動への懸念は裾野が広く、通常の国であれば、日本のような鷹揚とした対応は取りがたい。
 加えて奇っ怪な話がある。ウォールストリートジャーナルでこれを大統領選に絡めた読み筋である(参照)。

 報告書は両国間の貿易関係が緊張の度合いを増す中で発表された。中国の対米輸出姿勢は11月投票の大統領選でオバマ大統領と共和党のロムニー候補との争点にもなっている。オバマ陣営は今週、インターネット上の選挙キャンペーンの中で、華為技術が以前に米国企業を買収しようとして失敗した案件について、ロムニー氏が経営していた未公開株投資会社を通じて関係していたとの印象を与えようと試みた。

 報告書の背景に米民主党の思惑があったとは想像しがたいが、奇妙な展開を見せる可能性がないわけではない。
 
 

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コメント

ZTEで気になったのですが、以前SBMはデータバンクを韓国に移す、を発表されていましたけど‥‥関係ないですね、
全然政治的な事はわからないので、失礼してしまいました。

投稿: 背界 | 2012.10.11 19:04

悩ましい問題ですね。でも、転ばぬ先の杖ということも。
逆に、これはアメリカもやる気になればそのような事が出来るということなんでしょうね。
私は日本が、より心配です。

経済問題のウザったい所は、政治問題よりもずっと先読みが利かない不透明なところにありますね。マスコミの鳴らす経済上の警鐘も、それが本当に正しいか否か、当たるか外れるかなんて誰にもわからないわけで。経済問題はいつも政治の鼻面をつかんで引きずり回すけど、引きずり回す主の顔を、いまだかつて誰も見たことがない。

投稿: ジャンゴ | 2012.10.12 13:23

逆の立場で、米国製品には概ねBackdoorが仕込まれていると考えて良いのでしょうか。イラクで一部使用されたとのニュースが有りましたね。WINDOWSもIOSもANDROIDも、多分LINAXも。ウイルスも含めヤリタイ放題。秘密情報はアナログに紙で金庫というのが、現実的なのかもしれません。

投稿: ihei | 2012.10.18 19:45

中国の肩を持つわけじゃないけど、締め出し臭い
世界のスマフォ市場じゃ中華製は飛ぶ鳥を落とす勢いだしね

投稿: | 2013.02.05 07:02

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