中国経済は破綻するか
中国が抱える問題は各種存在するが、中央政府にとって大きな課題になっているのは経済問題である。その現状をどう見るかについて「ディプロマット」に10日、簡素なまとめ記事があったのでそれを紹介し、そこから気楽な印象を述べてみたい。気になるかたや、そんなことがあるのかと疑問に思うかたは、リンクを辿って原文を読むといいだろう。
該当記事は「中国の銀行は債務の超大型爆弾を秘匿しているのか?(Are Chinese Banks Hiding “The Mother of All Debt Bombs”?)」(参照)である。今週の日本語版ニューズウィークにも抄訳が掲載されている。
記事の前半には問題の概要となる数字が上がっている。それによると中国は、2009年初頭から今年6月末までに、中国の国内総生産(GDP)の73%に相当する35兆元(5兆4000億ドル)の新規貸し付けを行った。その三分の二は2009年と2010年に景気刺激策によるものだ。
記事ではリーマンショックという名称は出て来ないが、ようするにリーマンショック後の対応だった。欧米ではこの時期に財政支出をしたが、中国はこれを銀行融資の形にした。地方政府はこれを使って無計画なインフラ投資などを行い、結果、不良債権が発生している。
焦げ付き具合だが、2011年6月の中国の監査局の発表では、地方自治体の借金が2010年末に10兆7000億元(1兆7000億米ドル)とのこと。ディプロマットではビクター・シー・ノースウェスタン大学教授による試算を併記し、15.4兆元から20兆1000億元としている。
中国では地方政府は自前の資金調達が禁止されているため、銀行融資は地方政府系投資機関、通称、LGFV(Local Government Financing Vehicle)を仲介する。これは一種の形式的なペーパーカンパニーで中国に1万社ほどあると言われている。そのバランスシートは地方政府の一般会計とは別建てになるので「飛ばし」しやすい仕組みでもあり、ここに不良債権が貯まる。
これがどのくらいかなのだが、シー教授によると、LGFVの債務残高は、2010年末までに9.7000億元から14兆4000億元で、そのうち二割は焦げ付いている。2兆元から2兆8000億元の損失を最終的に銀行が被ることになるだろう。円換算で35兆円くらいだろうか。
この数値の影響をどう見るかなのだが、現状の中国では日本の預金保険機構のような銀行救済スキームがないので、地方銀行によっては取り付け騒ぎが起こる可能性もあるだろう。
胡錦濤政権側もこの問題を知らないわけではなかったが、今年10月に実施される指導部の大幅入れ替えを前にして地方政府の債務期限を一年先送りにした。習近平政権が取り組む課題としたわけである。
ディプロマット記事では、LGFVの債務に加え、政府誘導のバブルに関連し、不動産業界や製造業にもバブル崩壊があるだろうと見ているが、試算は上がっていない。加えて、中国経済で重要な役割を実質担っているヤミ金融(shadow banking system)に大きな打撃があると予想している。これによって受ける銀行側の損失は1兆元、日本円で12兆円ほどになると試算している。社会不安を惹起しかねないのではないかと懸念される。
中国政府は公式にはこれらの銀行債務問題を明らかにはしていない。ディプロマット記事は最後に疑念を表して終わる。
習近平政権はこの銀行不良債権問題に対応できるか。16日のフィナンシャルタイムズ社説「中国経済の新モデル(A new model for China’s economy)」(参照)では、これらの問題を含めた中国次政権の経済問題を簡素に論じていた。同紙社説では不良債権の存在を認めながらも深刻な問題とはしていない。問題はむしろ、中国の成長戦略の方にあるとしている。現状では行き詰まると見ている。
中国経済について同紙の処方箋としては、インフレを7%に抑えつつ、社会資本投資を活発化させ、中国人の貯蓄傾向を緩和し、国内消費を活発化させればよいというものだ。中国市民の所得が向上すれば課税も期待できるとしている。
なんだ簡単なことではないかとも思えるが、フィナンシャルタイムズとしては、現状の中国はさらなる財政支出で成長を刺激しようとしていることへの批判である。
フィナンシャルタイムズ社説のトーンからすると、中国経済は総じてさほど危惧するほど深刻な事態ではないだろうとも思いつつ、社説の結語は多少奇妙な印象を与える。
China’s immediate growth problems are far from insurmountable. The state has low debt and more than $3,000bn in foreign exchange reserves. But the current growth model is unsustainable. Now that he is back, Mr Xi should start thinking about a new one.急を要する中国の経済成長問題は、まったくのところ解決不能とはいえない。中国は、公的債務は少なく、3兆ドルの外貨準備がある。しかし、現在の成長モデルを維持することはできない。習近平氏が姿を現したのだから、彼は新しい経済モデルを考え始めなければならない。
気になるのは、「3兆ドルの外貨準備」の意味合いである。同じくフィナンシャルタイムズだが8月5日に「中国の現金積み上げは防御にはならない(China’s cash pile provides no shield)」(参照)という署名記事を掲載し、中国が現行の経済モデルを取っているなら諸要因から、5年以内に「3兆ドルの外貨準備」も底がつくとしている。
その予想が正しいかはわからないが、習近平政権が大きく経済政策を転換しなければ中国はあと5年は保たないだろうという印象は深い。あるいは、もともとリーマンショック時につぶれていたはずの中国経済がここまで保ってきたということをずっと後に不思議なことだったなと思うのかもしれない。
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コメント
>ディプロマットではビクターシー・ノースウェスタン大学教授の資産を併記し、
中国の経済事情と一大学教授の資産に何の関係が……? と思ったら試算ですか(笑)
投稿: | 2012.09.20 17:11
誤字指摘ありがとうございます。その箇所は訂正しました。
投稿: finalvent | 2012.09.20 17:14
“The Mother of All Debt Bombs”は「債務の超大型爆弾」とでも訳すのが適切です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/Massive_Ordnance_Air_Blast_bomb
投稿: | 2012.09.20 19:53
訳語の件、納得しました。その訳語にしました。ありがとうございます。
投稿: finalvent | 2012.09.20 20:18
些細なことですが誤字発見。
>中国が原稿の経済モデルを取っているなら諸要因から、5年以内に「3兆ドルの外貨準備」も底がつくとしている。
×原稿の経済モデル
○現行の経済モデル
>習近平政権が大きく経済政策を転換しなければ中国はあと5年は保たないだろうという印象は深い。(以下略)
細かいことまでは存じ上げないのでネット情報やブロガー考察待ちで思案を組み立てる程度のことですけど、リーマンショック以降の動乱をなんとか踏ん張るも上海万博あたりで命脈尽きたものと看做していましたので、そこから今まで持ち堪えてるだけでも中国大したものだと思います。
古来から中国人朝鮮人は国が危なくなったら華僑(在日)化してさっさと逃げちゃう質があるだけに、もっと崩壊は早いものかと思ってたんですね。これが日本人だと先の福島原発騒動みたいに結局逃げないから見方も違ってくるんですけど。
弁当翁の言に反するようでアレですけど、今後の見立てとしては某所緑のおっさんブログにあるように「駄目なのは分かりきってるけど尻尾巻いて逃げたら関連日本企業だって本気で連鎖倒産しまくってマジやばいからお前ら逃げるんじゃねえぞ死んでも意地でも守りきれよ!?」…式に明日なき篭城戦をやるんじゃないかと。思うんですね。
日系資本が入ってるところほど、そういう動きに出るんじゃないかと思いますね。今後の中国が政治的にも経済的にも駄目になって日本を急速に上回る勢いで衰退するのは自明なんですけど、そこでさっさと逃げて戦後の恨みをまたひとつ増やすくらいなら手傷が深手になってでも…の勢いで援けに行く人(企業)が増えそうな気すらします。
そういうのって「義を見てせざるは勇無き也」な日本的美意識で中国人や中国政府に通じるかどうかは微妙ですけど、それを敢えてやることによって次に繋がる何かを得ようとするというか。日本の富と力の源泉はマネーじゃないんですね。マネーはあくまで結果。そのことを中国に(通じるかどうかはともかく)伝えようとする…そんな旅が始まるんじゃないかな? と愚考します。
私昨今の中韓は政治的に好きじゃないから正直死ね滅びよと思ってますけど経済芸能文化交流面ではそこまで嫌がってもないんで(政治的なごり押しが絡むから嫌なだけ)、互いの国の頑張る諸氏が踏ん張る限りは生き延びて欲しいとも思ってますんで、その筋で今後の行く末を見守っていきたいなと思ってます。
投稿: のらねこ | 2012.09.20 21:37
いずれにしても、仮に中国経済が破綻しても、武力政権の覇権国家がまた到来することは変わらないでしょう。
投稿: アンチ中国 | 2012.09.20 21:43
のらねこさんへ。誤字のご指摘ありがとうございます。訂正しました。経済については、一蓮托生的な部分もあるので、日本も覚悟はしたほうがいいでしょうね。
投稿: finalvent | 2012.09.20 21:57
中国経済は破綻するか
↑ 破綻する ○ 。
投稿: ロモラオ | 2012.09.21 10:19
finalventさま
“The Mother of All Debt Bombs”がMOABのもじりなのはすぐ分かったのですが"Mother of all..."というのは一般的な言い回しみたいですね。勉強になりました。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mother_of_all
投稿: | 2012.09.21 10:30
"The Mother of All"は、"Arrogance is the mother of all evil."とかで、いわば諸悪の根源、みたいな意味合いで理解していたのですが、"the largest or most significant example"ということで、スーパーマリオブラザーズのクッパみたいなものですね。語感を取り違えていました。
投稿: finalvent | 2012.09.21 10:38
たしか香港返還のころから、長谷川慶太郎先生が、「中国は崩壊する」、「中国は滅亡する」と、機会を見つけては何回もおっしゃってましたが、とうとう、中国も崩壊しますか。
長谷川先生も、やっと狼少年でなくなるわけですね。ずいぶん時間がかかりました。中国の当局も、きっと必死の延命努力をしていたのでしょう。
投稿: enneagram | 2012.09.22 07:59
まあ、当初の予定通り、2020年を一区切りに中国は解体するんだと思うのですが、問題は崩壊後の中国。やっぱり軍閥とか出てくるんですかね(笑)。
ただ、中国相手にうまく立ち回ろうとすると火傷するというのは歴史の教訓だと思ったりするんですが。特に親中派の皆様は半殺しの目に遭ったりしてね。
それでも、戦前には受け入れるべき洗練されかつ濃厚な文化のエッセンスがありましたが、今はただ下品でチンピラな国なんで付き合いたくないですね。
投稿: ジャンゴ | 2012.09.23 02:00
中共自身が中国経済の大失速は不可避と判断し尖閣問題を口実に対日経済制裁を実施し、中国経済の破綻の原因を日本に押し付けて中共支配の維持強化を図ろうとしていると勘ぐっています。どう転んでも中共はメリットを取れるわけです。
投稿: | 2012.09.23 14:27