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2012.09.21

会話がとてもつらいとき

 例えば、会話のなかでこういう発言が向けられることがある。

「補充には数日かかるらしいので、鈴木さんが困るといけないから戻しておきました」

 ここで、私の頭は飛ぶ。飛ぶというのは、ヒューズが飛ぶという、昭和的な事象である。脳髄に激打をくらったような呆然とした状態になる。意識が残っているなら、とりあえず、相手の言葉を繰り返す。「補充には数日かかるらしいので、鈴木さんが困るといけないから戻しておきました」 意味不明。

 「何を補充するのか?」
 「誰が補充するのか?」
 「なぜ鈴木さんが困るのか?」
 「戻しておいたものは補充された何かと同一物または類似物なのか?」
 「鈴木さんが困ることと私とはどのような関係があると話者は想定しているのか?」

 皆目わからない。

 少なくとも、主語と目的語の役割の情報を補って文章を完成してくれるだけでも、よいのだが。少なくとも、以下の空欄が埋まっていると、とても救われる。

 「( )の補充には数日かかるらしいので、鈴木さんが困るといけないから( )を戻しておきました」

 内心は茫然自失しているが、とりあえず自分の表情はここで固定しておく。固めるというのではなく、脳が混乱しているという表現を抑えるためだ。抑えておかないとろくでもないことが連続して起きるという経験から。
 さてと、脳内に広がる荒野に私はひとり立つ。
 常識的に考えるなら、その補充されるべきなにかは、会話の流れのなかで、参照されていたはずである。
 びゅーんと脳内の録音データを再生しなおす。
 これで答えが出るならよい。
 たとえば、「期限切れが近い消火器」とか。
 ところが探索できないことがある。
 もうお手上げ。
 そういう場合、「何の補充ですか?」と聞けばいいだけのことじゃないかと若い頃は思っていて、ひどい目にあってきた。まあ、そのあたりの話は省略。
 長いこと生きてわかったことは、まず、わけのわからない会話に対して、とりあえず同意の素振りをして、そこにさりげなく不可知アイテムに関連する情報を求めるキーを差し込むことだ。こんなふうに。

 「そうですかあ。鈴木さん困るでしょうね。いくつくらい補充する予定でしたっけ?」

 これで、「何言ってるんですか、自転車何台も置くスペースないですよ」とか返信があると、そうか、それは自転車か、という情報を得て、そして私は世界を新しく創造しなおす。どのように鈴木さんを創造するかが次の課題になる。
 なぜ、わけのわからない会話に同意の素振りをまずするようになったかというと、いったい人々はどうやってこの不可解な会話を乗り越えているのかと、人の会話を聞いていて発見したからである。
 人の会話を聞いていると、実は会話は成立していないことが多い!
 これは本当に面白いなと思うのだけど、どう考えても会話は成立していないはずなのに、会話のような状態は継続していく。なぜなんだろうといろいろ見ていくと、とりあえず、同意のようなシグナルを出していることが重要だとわかった。
 なるほど。とりあず、同意のようなシグナルを出しておけば、論理的には支離滅裂な会話でもあたかも会話のように進行するのだ、とわかった。
 しかし、苦しい。
 いや、もうだいぶ慣れた。
 こういうのを普通の人間は、幼稚園の砂場で学ぶのだろうか。
 私は学び損ねたのか、なんからの欠陥があるのか。たぶん、後者なんだろう。アスペに近いのだろうなと思う。
 先日、アスペチェックのサイトを見かけてそのチェックをしたら、ボーダーラインだった。
 そういえば、冗談交じりに「アンとサリーテスト」(参照)をやったことがある。こんなテストだ。

某「どっちだと思いますか?」
私「箱」
某「なんで?」
私「サリーがいない間にアンがビー玉を箱に入れたから」
某「なんでそう思ったの?」
「不確かな状況で不可解なことが問われるというときは、その状況から起きるべき事態と関連人物の行動パターンの可能性の事例をいくつか推測するんだ。この場合だと、ビー玉を探せという不可解な問いかけに対しては、アンがビー玉を隠すというのが一番ありそうなことだと思うね」
某「あなた、最悪ね」
私「え? なんでなんで?」

 
 

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コメント

 話の分からないおっさんが来ましたよ。

>某「あなた、最悪ね」
>私「え? なんでなんで?」

 この設問だと私は自分の籠を先ず調べて無いと分かったらアンの箱を調べますね。行き成りアンの箱を調べることは無いでしょうね。あと、アンの箱を調べる前に(居るなら)アンに「ビー玉無くなったけど触ってないか? どこに行ったか知らないか?」と聞くでしょうね。

 ここでアンに「知っている」と告げられれば教えて貰った先を調べ、「知らない」と言われればアンの箱以外を徹底的に探し、調べるところが無くなってからアンの箱を調べさせて貰います。

 絵図のようにアンが現場に居なければ無断でアンの箱を調べますが、その際も他を徹底的に調べて他に疑う余地が無くなってから最後に調べるようにしますね。

 アンの箱を疑わないという選択肢は無いんですが(だから、いつか必ず調べる)、仮に疑うとしてもギリギリ最後まで疑わないようにします。先ず最初に疑って、調べて、何も無かった場合はアンに対して無用の不快感を与えることになりますから。

 アンが最初に疑われてバレたとしても無実を勘繰られたとしても決して怒らない気性の人だと予め知っていて双方に信頼感があるなら、効率最重視でアンを疑い・調べます。アンを信頼するということは同時に疑うということでもありますから。コイツが悪さしてるな? …くらいのことは気性を知悉しているなら当然想定内ですわな。

 絵図をそのまま見て情景を判断するなら弁当翁さんの判断で間違いないでしょうけど(前後の脈絡を知っているから)、実際に自分がその状況に立ったら前後の状況を知りませんから、そこで客観的な判断が働くことはないですね。「働く」とするなら、それはアスペかも知れませんね。

 前後の脈絡を「実際に自分が知っているならその条件に準じ」「そうでなければ知らないものと看做してから会話や行動を組み立てる」のが一般的な在り方かと思いますけど、自己が知り得た・認識でき得る条件付けを「当事者・関係者・第三者が等しく知り得るものと看做してから」思考を組み立てるのは、アスペルガーかと思いますよ。オタクのお約束トークに通じるものがありますね。そんなの世間は知らないよ、な話を特殊用語や省略語交じりにどんどん話してついて来れない人を無視しちゃう。そういう状況を軽度のアスペルガーと看做すものかと、私は思います。

投稿: のらねこ | 2012.09.21 21:13

不明でも困らない事柄は適当に聞き流す、
不明だと困る事柄だけは聞き返すって事じゃないですかね
それとも僕がまだ若いんでしょうか

アスペテストは思考経路にかかわらず出力が引っかかれば
アウトです

投稿: みかん | 2012.09.21 22:11

こちらを読まさせて頂いたとき、最初、笑ってしまいました。確かに、意味分からない。
最後のサリーとアンのテストは、finalventさんらしいと思いました。凄いなと。

改めてもう一度読み返したら、なんか笑えなかった。
私も、たまに話しの途中で??になる時がありますが、聞き返すのも悪いし、「ふーん」とか「へぇー」とか言ってるとしばらくして(その後の話で)意味が分かったりする事が結構あります。「そういえば‥」と話しをふって変えてしまったりする事もあります。(笑)

逆に、私は主語が抜けるらしく「意味分からない」と、つい最近も言われへこみましたが‥。

サリーとアンのテストですが、常に裏を読むくせがついているというか、例えばクイズ番組の優勝決定戦で、問題を全部言う前に問題を予想してボタンを押し正解してしまう‥という感じではないでしょうか?

「あなた、最悪ね。」と言ったのは、もちろんお医者さんでは無いと思いますが‥嫉妬?じゃないですか‥?

投稿: | 2012.09.21 22:21

自分も「何の補充ですか?」と聞いてしまうと思うので、finalventさんがそれでどんな目に遭ってきたのか、参考までにいつか教えていただけると有り難いです。

投稿: | 2012.09.22 03:33

 最後のテストの件、答えるにあたっての前提条件を「不確かな状況で、不可解な設問」とする時点でやはり少しおかしい気がします。登場人物のサリーの視点に立って考えれば、不確かも不可解も無いと思いますから。
 

投稿: なます | 2012.09.22 11:11

この場合、finalventさんには「サリーはまず最初にどこからビー玉を取り出そうとするでしょうか?」という設問なら問題なく答えられたと思います。
「探す」というのは、目的のものがどこにあるかわからないことが前提の言葉ですから。サリーが健忘症でもない限り、自分でビー玉をしまった場所は覚えているわけで。だから「探す」というからにはサリーにはビー玉がどこにあるのかわからない状態でなくてはならないはず。私は正確にはそれはわからない。が正解だと思います。ただ、finalventさんは、
>「不確かな状況で不可解なことが問われるというときは、その状況から起きるべき事態と関連人物の行動パターンの可能性の事例をいくつか推測するんだ。この場合だと、ビー玉を探せという不可解な問いかけに対しては、アンがビー玉を隠すというのが一番ありそうなことだと思うね」
某「あなた、最悪ね」
私「え? なんでなんで?」

と考えたということで、「アンがビー玉を隠す」ということを一番ありそうと思うということが、彼女(?)何某さんにとっては「最低ね」だったということですよね。

でも、このときやっぱりこの文章のテーマのように「サリーは自分がどこにビー玉をしまったか覚えていないの?」とは聞きづらい。そういうことですよね?

投稿: Tammy | 2012.09.22 11:34

逆に、私にとってfinalventさんの意図が皆目わからない。
最初の会話でfinalventさんがわからないと言っている原因が私には全く理解できない。
この会話で、最初に読者に出すべき情報は、「この会話の相手はfinalventさんとどういう関係なのか」ということだろう。そこをすっとばして、補充するものは誰か?とか、この報告?自体にどういう意図があるのだろうか?という枝葉末節の疑問点をあーだこーだ説明されたって、読者に理解されるわけがないだろう。

で、最後のアスペルガー障害のテストをめぐっての会話とか、その前の、他人同士の会話では論理的につながらなくも会話は続くと思い込むのは、素人目にはアスペルガーじゃなくて「認知の歪み」だと思う。なぜなら、アスペルガー症候群の人ならあとのくどくどとした理由づけなどしない。そういう言い訳が必要なのは「自分の認識している世界の正当性」を他人に解らせる必要がある場合だけだ。

投稿: F.Nakajima | 2012.09.22 16:26

>「何の補充ですか?」と聞けばいいだけのことじゃないかと若い頃は思っていて、ひどい目にあってきた。

この話を聞いてみたい。

投稿: rin | 2012.09.22 23:50

サリーはビー玉で遊びたいと思ったのであって、
「ビー玉を探せ」と誰かに指示されたわけじゃないと思いますが・・・

投稿: | 2012.09.23 00:17

う~ん、訊ねられてるのは読者である被験者であってサリーじゃない訳でしょ?でしたら観察者としては大抵の児童はやはり篭に手をやると思いますけどね。そこにビー球が無かった時にどういう行動をするか、すべきと観察者が思うか?というなら、周囲を捜し、周囲の人に訊ねまわると思いますし、絵にあるような小さな子なら先ずそうあるべきだと考えますけど。これならそうした方が良い理由も教えられますし、単に相手を疑ったり奪ったりする事がリスキーである事も予測できるように諭せられると思います。
只いきなりエキセントリックな事件に巻き込まれると予知するという意味では、弁当氏の回答は有りでしょう。発想や回答がリスクマネージメント・リスク回避的なんじゃないですか?

投稿: ト | 2012.09.23 03:38

これ、絵が無ければ、サリーは例えば「中国」ビー玉は「尖閣」って、国家主権関係を弁当さんの遠まわしな暗喩かなっと?一種の弱肉強食で子供の世界って似てるよね。

投稿: ト | 2012.09.30 16:48

まあ私なら「何を補充したか」、「『戻す』ってどういう意味か」とことん追求しますがね。
それで会話が壊れようが知ったことではありません。

投稿: | 2013.01.03 01:58

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