夏草や民主党とやらの夢の痕
小沢一郎元民主党代表が民主党を離党した。理由は、野田佳彦首相の消費増税方針について「首相の下での民主党は政権交代を成し遂げた民主党ではない」(参照)とのことだ。それはそうだろう。小沢さんらしいなと思った。
小沢さんは、1993年に自民党を出て新生党を作り、1998年、同党を継承した新進党を出て自由党を作り、一大勢力になるかと思いきや54人とみすぼらしい結果になったものだった。2000年、保守党という分派が出てさらに弱体化した。その年の衆院選、窮地の小沢さんは本人が一人、殴られながら旧体制に突撃していくという、お笑いCMに出た。笑った。そして共感した。私は小沢さんを自覚的に支持するようになった。世論は小沢さんを叩きまくり、二度と目はないと見ていた。そうだろうと私も思っていた。
小沢さんは「構造改革」「規制緩和」「官僚制打破」を説いていた。郵政の解体も視野にあった。
2005年の小泉政権下の郵政解散は、市民社会に突出した部分の公務員を「構造改革」し(参照)、また民営化によって「規制緩和」していくという点で、小沢さんの理念に近いものではないか。ここは党派性よりも、まさに小沢さん自身が説いていたように、政策とその実現に大きく賛同する時ではないかと思った。
が、あのとき、小沢さんは曖昧に民主党を動かなかった。小沢さんでも党派の論理で動くのかと思った。
あのときの小沢さんの思いはこういうことだった。2003年時点、まだ自由党の時代だったが、週刊エコノミスト9月9日号でこう語っていた(参照)。
――自由党は、「構造改革」「規制緩和」を口にする点で、小泉首相と方向が似ている。
まったく違う。一緒くたにされることで困っているくらいだ。小泉氏から「あなたとは言っていることがだいたい同じだ」と言われたが、決して同じではない(笑)。
小泉氏であろうが、自民党が政権にある限りは、何も変わらない。というのは、自民党は高度経済成長期時代から続く既得権益の上に乗っているからだ。われわれが主張している改革というのは、その構造を変えることだから、自民党にとっては自殺行為に等しい。「自民党をぶっこわす」などと言葉は過激だが、自民党である小泉政権に自民党の存在を否定するような改革ができるわけがない。
その後の小泉首相(当時)は本当に、自民党を自殺に導いた。国会が野合と化そうとしているとき、首相である小泉氏は、国民の声はこれとは違うはずだと蛮勇をふるって国民に声をかけた。民主主義が死にかけた局面でもあった。私は国民としてその声に応えた。
本当の自民党の自殺は安倍政権から始まった。安倍政権は「高度経済成長期時代から続く既得権益」の構造を改革しようとしたと同時に、旧勢力の復旧を目論んだ。矛盾した政治から安倍氏は難病もあって自滅した。自民党は壊れた。そのあとの自民党の政権は、ただ政治主体の管理であり、それなりに福田さんも麻生さんもよくやっていたと思う。
なによりリーマンショックのさなか、麻生さんはかなりベストに近い仕事をされていたと思った。が、世論は麻生さんを叩きまくった。いちいちくだらないネタだった。これは不当な話であると私は思ったし、この経済状況下で政権交代をすることはよくないと思い、自分なりの論も述べた。残念なことにその大半の予想は当たった。外れたとすれば、ここまで無残に民主党が崩壊するとまでは思わなかったことだ。
政権交代が近づくにつれ、私から見れば、小沢さんは変わった。何が変わったかといえば、「構造改革」「規制緩和」を口にしなくなった。代わりに、労組の代弁者のような輿石氏と手を組みだした。私には不思議なことに思えた。さらにそのころから、今まで見たこともないような、小沢のシンパがメディアにわき出したのである。
「構造改革」「規制緩和」を語らなくなった小沢さん。そして、輿石氏と組むやわきあがる小沢シンパ。なんて変な光景なんだろうと思った。
さて、今日。小沢さんは、民主党を離れた。輿石氏とも離れたのかというと、そこまではよく見えない。
「構造改革」「規制緩和」を再び語るようになったというふうもない。時事のまとめた要旨ではあるがこう語っている(参照)。
先月26日に衆院本会議で消費税の増税だけを先行する社会保障と税の一体改革関連法案の採決に際して、反対票を投じた者のうち38人に加え、消費税増税法案に反対の参院議員12人の計50人の離党届を輿石東幹事長に提出した。
私たちは、衆院採決の際、国民との約束にない消費税増税を先行して強行採決することは許されない、社会保障政策などは棚上げして、実質的に国民との約束を消し去るという民主、自民、公明3党合意は国民への背信行為だと主張してきた。こうしたことから、われわれは「行財政改革、デフレ脱却政策、社会保障政策など増税の前にやるべきことがある」と主張し、反対票を投じた。
これまで輿石幹事長には今回の法案の撤回を求めて、何よりも民主党が国民との約束を守り、努力するという政権交代の原点に立ち返ることが最善の策であると、訴えてきた。
本日まで、3党合意を考え直し党内結束するという趣旨の話はなかった。出てくるのは反対した者に対する処分の話ばかりだった。国民との約束を守ろうとする者たちを、国民との約束を棚上げにする者たちが処分するとは、本末転倒な話だ。
もはや野田佳彦首相の下での民主党は、政権交代を成し遂げた民主党ではない。民主、自民、公明という3大政党が官僚の言うがままに消費税増税の先行を3党合意で押し通すことは、国民から政策を選ぶ権利を奪うことだ。3党合意は、政策の違いを国民に示し国民に政党を選んでもらうという二大政党政治、われわれが目指してきた民主主義を根底から否定するものだ。
私たちは、国民の生活が第一の政策を国民に示し、国民が政治を選択する権利を何としても確保することこそ、混迷にあるこの国を救い、東日本大震災で被災した方々をはじめ、国民を守る政治家としての使命であるとの決意を新たにした。
私たちは今後、新党の立ち上げも視野に入れて、政権交代の原点に立ち返り、国民が選択できる政治を構築するために本日、民主党を離党した。
小沢さんの新しい旗にはなんと書かれているか。「行財政改革」「デフレ脱却政策」「社会保障政策」である。
「行財政改革」はかつての「構造改革」と同じとしていいだろう。
「デフレ脱却政策」はまさに現下政治家に求められるものであって、諸手を挙げて賛成したい。かつての「規制緩和」は広義に「デフレ脱却政策」のなかに吸収されたとしてもよいだろう。
「社会保障政策」については、残念ながら、技術論的に可能な対応の組み合わせは限られていて政策の余地は実際にはあまりない。この部分に突っ込んでも、無残な結果になるだけだろう。
政策的に問題となるのは、新しい旗である「社会保障政策」は官僚に頼るしかないことだ。ここで稚拙に「官僚制打破」を言い出してもしかたがない。
昔の小沢さんに少し戻った気がしないでもない。新党を従えて、小沢さんはかつての小沢さんに戻るのだろうか。
戻らないだろうと私は思っている。
小党となり政策政党たらんとしたかつての自由党の党首には戻らないだろう。彼にとって政治とは数である。また数を換算しはじめるのではないか。今回、小沢氏に従った大半は速成の愉快な一年生議員であり、民主党を頼んでの比例区からの当選も多い。率直に言って、この部分は早々にふるい落とされる。そしてその数の分だけ、また小沢さんは焦ることになる。そして、数の取れる変な旗を振るのだろうし、「間違えられた男」をまた演じるのだろう。梶山静六さんのように消えていくのだろう。
小党が乱立し、他方、国会の熟議を無視した密談で翼賛会が形成されていく。こうした図のなかで、政治主体がまず求められるのはしかたがないが、政治がなんであるかという理念の旗が、どこかでまだ見えていて欲しいとは思う。
オーキド・ユキナリ先生風に、一句。
夏草や民主党とやらの夢の痕
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コメント
弁当さんの政治関連ブログも安倍ボクちゃんの品定めに失敗してから壊れ始めたような。世継ぎもなく年を取ると目が曇りますね。いつまでも自分を凌ぐ理想のリーダーを追い求め、後継に委ねることができない。
自分に世継ぎがいれば、後継にバトンを渡すことは、自分の世継ぎへバトンを渡すことの通過儀礼に過ぎない。そうやって社会は連綿と引き継がれてきたものです。こういう寛容性がなくなったのも、アダルトチルドレン増加の社会現象なのでしょうね。いい加減、小沢さんなんて忘れましょうや。野田さん世代へバトンを渡し、次の世代がまたバトンを受け取ればいいんですよ。
投稿: YT | 2012.07.03 00:50
きっと、小沢さんも時代に招かれて日本の国会にいる人なんですよ。
きっと、小沢さんも、時代に突き動かされてこういう行動をとっているんですよ。
でたらめに見える日本の動きも、もしかしたら、世界最先端の現実を演じているのかもしれません。
小沢さんの今日は、竹下内閣の時代にリクルート事件が起きたときから、胚胎されていたものなのかもしれません。
投稿: enneagram | 2012.07.03 10:07
自分が支持している政党に投票すると確実に少数政党乱立国会になると考えられるし、
だからといって自分の意にそぐわない政党には投票したくない…。
自分の考え方がガキなんでしょうかね?
迷ってます。
とりあえず組閣できそうな党に投票するべきなのでしょうか?
投稿: 六条御息所 | 2012.07.03 11:51
デフレ脱却政策とはまず技術であって、具体策が無くばスローガンに過ぎない。まずは現状のマクロ認識を聞きたいところだが、小澤にあってはそうしたことは考えたことも無かろう。貴殿の先だってのエントリと同じく、"日銀が~”というだけでは話にならんのですよ。小澤は昔から何も変わっておらんしメディアのレッテル・太鼓持ちもなにも民主党以後ではない。愉快な一回生議員と同じく知的陶冶が無ければ安易なスローガンにコロっとやられる。
投稿: 黒須 | 2012.07.03 11:59
ナイーブに言えば、小沢さんは変わったんじゃなくて、タチの悪いマキャヴェリストなんとさ。
投稿: 久立珍重 | 2012.07.03 12:40
ほんとにねぇ。どちらかというと「左」の側からの、メディアやネット周辺のわけのわからない小沢シンパ。当の小沢自身が、ある意味ではそうしたシンパに絡め取られるようにして身動きできず、ますます「改造計画」とは真逆のことを主張するようになっていった悲劇。かつての保守の王道的政治家の末路がこれではあまりに寂しい。
投稿: | 2012.07.04 02:29
> 梶山静六さんのように消えていくのだろう。
はい。あなたがお書きになられています通り、今回の民主党離党をもってして小沢一郎氏の長い政治生命は事実上終わりました。
代わりに最も大きな政治的資本を得たのが、野田氏と共闘することでこの離党劇に漕ぎ着けた功労者たる石原伸晃氏です。
来たる選挙の勝敗がはたしてどのような形で終わることになるにせよ、野田氏退陣後の政治状況で重要なのは、勝つのが自民党か民主党かなのでは無く、”石原/前原”なのか”谷垣”なのかだという点にこれをもってして移りました。
投稿: 千林豆ゴハン。 | 2012.07.06 16:24
なんつーかさー、
自分の上の年代の人間が
ろくなことをやってないしろくなアタマしてないのを
毎度毎度再確認させられるのってまじウンザリ。
つっこみだけ入れとくわ。「郵政民営化」の具体性に
小沢一郎は過去も現在も遠く及びません。はい。
安倍政権は拉致の全面解決のための憲法改正を掲げた
実質シングルイシュー政権。
しかし、
・その目的をぼかして「政治日程に乗せる」しか言わなかったこと
・目的に気づいちゃった左派勢力も目的をぼかして寝技に徹したこと
・肝心の愚民が、憲法改正が拉致解決のためだとはてんで気がつかなかったこと
(マスゴミがあーだから誰にも教えてもらえない)
これらの結果、安倍政権は野党とマスゴミの寝技に
抵抗らしい抵抗もせず沈んだってわけ。
投稿: 通りすがり | 2012.07.08 05:16