ブルガス空港バス爆破テロの背景
18日のことだが、ブルガリアの東部のブルガスの空港でイスラエル人観光客を乗せたバスが爆発し、当初6人が死亡すると報道された事件があった。その後、死亡者は7人となった。イスラエル人が国外で犠牲になった事件としては2004年以降最悪のものでもあった。
日本でもこの事件は報道はされた。AFP「ブルガリアの空港でバス爆発、6人死亡 イスラエル人を狙った攻撃か」(参照)がそれなりに詳しい。
バスにはブルガリア国内の黒海(Black Sea)沿岸にあるリゾート地に向かう観光客らが乗っていた。ブルガリア内務省当局によれば18日午後5時(日本時間同11時)ごろ、空港に降り立ったイスラエル人観光客らを乗せたバスが爆発し、付近のバス2台も炎上した。首都ソフィア(Sofia)にいる内務省職員は爆発による死者は6人、負傷者は32人だと述べた。
目撃者によるとパニックを起こした乗客らがバスの窓から飛び降り、地面には衣服が引き裂かれた遺体が散乱。救急車のサイレンが鳴り響き、空港上空には黒い煙が立ち昇った。イスラエルのメディアは、ブルガスの空港に到着したイスラエル人観光客には、学校を卒業して軍隊に入隊する直前の若者たちが多く含まれていたと報じている。
誰が引き起こしたテロなのだろうか。初報道では、イスラエルからの声明を加えていた。
イスラエル当局はバスは銃撃され、爆弾を投げつけられたと発表した。ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相は「イランによるテロには強硬に対処する」と述べ、「ここ数か月で、タイ、インド、グルジア、ケニア、キプロスなどでイランはイスラエル国民に危害を加えようとしてきた」と指摘した。
その後、自爆テロの疑いは濃くなった。NHK「ブルガリア 自爆テロか」(参照)より。
ブルガリア東部の空港で、イスラエルの観光客が乗ったバスが爆発し、これまでに7人が死亡、30人以上がケガをした事件で、ブルガリア政府はイスラエル人を狙った自爆テロの可能性が高いとみて捜査しています。
この事件は、ブルガリア東部、ブルガスの空港で、18日夕方、イスラエルのテルアビブからのチャーター便で到着した観光客が、空港からホテルに向かうために乗り込んだバスが爆発し、これまでに7人が死亡、32人がケガをしたものです。
事件から一夜明けた19日、ブルガリア内務省は、死亡した人たちのうち1人だけ身元が確認できなかったことから、この人物がイスラエル人を狙ってバスの中に爆発物を持ち込んで爆発させた、自爆テロの可能性が高いとみて捜査していることを明らかにしました。
事件が起きたブルガスは、黒海に面した夏のリゾート地で、毎年、多くのイスラエル人が海水浴を楽しむために訪れています。
ブルガリア政府はイスラエル当局と連携しながら事件を起こした人物の特定を急ぐとともに、空港や観光地の警備を強化することにしています。
確定したわけでもないようだが、自爆テロであったとみてよいようだ。犯人と見られる男の写真も公開されている(参照)。
問題は2つある。
(1)誰がしかけたテロだったか。イスラエルはイランによるものだとしている。
(2)他にも同種のテロが「ここ数か月で、タイ、インド、グルジア、ケニア、キプロス……」というのはどう評価したらよいのか。
1点目の問題はその後も明らかになっていない。少なくとも米国政府としては立場をそれほど明確にしていない。2点にも関連し、イスラエルからの情報を得ている米国にとって、真相についてまったく不明であると見ているかイスラエルの見方を暗に非難しているかというのは不自然である。イランと交渉を進めるための、外交上の配慮だろうと思われる。オバマ大統領は名指しを避けあいまいな非難をしている。20日付けAFP「ブルガリアのバス爆発事件、自爆犯らしき男の映像を公開」(参照)より。
イスラエルと強い同盟関係にある米国のバラク・オバマ(Barack Obama)大統領は、「米国は他の同盟諸国と共に、この攻撃の実行犯らを特定して裁きを受けさせるために必要なあらゆる支援を行う」と表明した。
しかし、米国防総省のリトル報道官は事実上ヒズボラの犯行を示唆している。20日時事「ヒズボラの犯行の可能性=ブルガリアのバス爆破事件-米国防総省」(参照)より。
【ワシントン時事】米国防総省のリトル報道官は20日、ブルガリアで起きたイスラエル人を狙ったとみられるバス爆破事件について、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの犯行の可能性があるとの見方を示した。同報道官は記者団に「攻撃にはヒズボラの仕業とみられる特徴がある」と述べた。
ヒズボラはイランやシリアのアサド政権の支援を受けているとされる。イスラエルは爆破事件について「イランのテロだ」(ネタニヤフ首相)と主張しており、米国が同様の結論を出せば、核開発問題をめぐり対立しているイランとの緊張が一段と高まる可能性もある。(2012/07/21-06:55)
2点目の扱いが難しい。これら各地のテロは、一つの意味を持つ一連の事件なのだろうか。イスラエルはイランとヒズボラを名指しでそのように主張している。7月23日時事「イラン、20カ国でテロ活動=イスラエル」(参照)より。
【エルサレム時事】イスラエルの対外情報機関モサドのパルド長官と国内治安機関シャバクのコーヘン長官が22日、閣僚にブリーフィングし、イランとイスラム教シーア派武装組織ヒズボラが過去2年間、20カ国以上でテロを実行するために活動してきたと報告した。(2012/07/23-07:11)
米報道では関連を示唆しているものが多い。2月のタイでのテロでは発生時点でインド、グルジアのテロと関連付けられていた(参照)。インドが証拠を握っているとの報道もある(参照)。米国の手前黙っているのか、イランからの報復を恐れているのかわからない。
背後にあるのがイランであるとしても、またイスラエルの言い分がすべて正しいとも思えないが、先鋒にヒズボラがいるというのは概ね西側報道の了解事項となっているようだ。
ヒズボラは言うまでもなく、レバノンを拠点としているイスラム教シーア派に属する組織である。シーア派としてイランと同様、またシリア政権のアラウィ派にも近い。1982年、レバノン内戦でイスラエル軍侵攻を受けて結成された。
ここで当然、現在のシリア情勢とヒズボラの関係は連想される。レバノン情勢はどうなっているのか。危ういのである。29日付け毎日新聞「レバノン:宗派対立、シリア内戦化で緊迫」(参照)より。
【トリポリ(レバノン北部)前田英司】シリアの内戦化が隣国レバノンの宗派対立の火に油を注いでいる。シリア反体制派を支持するイスラム教スンニ派とアサド大統領の出身母体のアラウィ派が衝突を繰り返す一方、アサド政権と蜜月関係のシーア派民兵組織ヒズボラが政権擁護に暗躍しているとの観測も飛び交う。シリア主要都市での戦闘激化で大量の難民も押し寄せて、レバノン情勢はシリアの混迷に引きずられて流動化の様相を深めている。
日本から遠い話のようだが、シリア、レバノン、イスラエルの三方のはざまのゴラン高原には日本から自衛隊が派遣されている(参照)。戦闘地域となれば、民主党政権の対応が求められる。
さてあらためて、イランやヒズボラによるとするなら、テロの目的はなんなのだろうか?
明白なのは、イスラエルによるイランへのテロの報復であることだ。イランの核科学者はどう見てもイスラエルの関与で殺害されている(参照)。
案外、それだけ、つまり、報復の連鎖というだけのことかもしれない。シリア情勢と関連があるとすれば、アサド政権とイランがイスラエルを問題に噛ませてアラブ社会の動向を変えたいということも考えられないではない。が、あまり自然な読みではないだろう。大筋で見るなら、イランの核化を阻止するためのイスラエルの牽制なのだろうが、それほど組織的な意味合いはなさそうだ。
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