人類祖先のアジア起源
先日雑誌「サイエンス」のニュースに人類祖先のアジア起源の話があった(参照)。その手の話は以前にもあるし中国の学者とかが好みなので、またその類かなとも思っていたが、「サイエンス」誌でもあるしネタ元の論文を見たらPNASだったので、それほどネタ臭いというわけでもなさそうだった。記事は「サイエンス」から「ワイヤード」にも転載されていたので、日本でも翻訳も出るんじゃないかと思うが、今のところなんとなく見当たらない。ニュースとして取り上げているところもなさそうので、簡単にブログで拾っておきたい。
あらためて言うまでもなく、人類の直接的な祖先はアフリカで発生したというのが定説である。だが今回のPNAS掲載の論文「ミャンマー発祥の始新世中後期霊長類と初期類人のアフリカ植民地化(Late Middle Eocene primate from Myanmar and the initial anthropoid colonization of Africa)」(参照)によると、約3700万年前にミャンマーの古代沼沢地に人類祖先の類人猿が生息し、ここから、この系統がアフリカ大陸へ旅をして、そこを「植民地化」したのではないかというのだ。
信じたがたい印象はあるが、サルの発生がアジアというのは不自然でもないし、1990年代には中国を含め、アジアで類人猿の化石も発見されてきた。逆にこれに相当する類人猿の起源をアフリカに求めることは難しい状況のようでもある。すると人類が発生の元になる類人猿は、いったんアジアからアフリカへ向かったという道筋もありうるかもしれない。
推測の元になっているのは、2005年にミャンマーで発見されたアフラシア・ジジディ(Afrasia djijidae)の臼歯である。ここから一気にアフリカ大旅行説というのも突飛な話に思えたが、リビアから発掘された、従来メガネザルの系統と見られていたアフロターシウス・リビカス(Afrotarsius libycus)と酷似しており、これがアフラシアと同系である可能性が高まっている。アジアとアフリカ間での、こうした類似性の発見も初めてらしい。
アフラシアのほうが古いことから、むしろアフロターシウスはアジアからリビアにやってきた類人猿と推測されるが、単純にこのアフラシアが祖先とも言えなさそうだ。アフラシアに類似の類人猿がアジアからアフリカに到達し、ここで外敵がないことで多様な進化を遂げたようだし、その多様性の進化の爆発が人類への道だったようだ。今回発見されたミャンマーの系統はその後絶滅したのだろう。
それにしても、どうやってミャンマーからリビアにやってきたのか不思議だ。当時は陸続きでもない。気の遠くなるような時間をかけたとしても、時間が経てば移動するというものでもないので、依然不思議である。ひょっこりひょうたん島みたいなもので流れ着いたという考えもありそうだが、それも空想が過ぎるようには思える。
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コメント
おおーっ、こんな話があったんですね、驚きました。
ミャンマーからリビアへの移動に関しては、それはまあ、太平洋の島々やアメリカ大陸にも人は移住したわけですしね……。
投稿: 税収総額 | 2012.06.13 09:41