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2012.06.24

曖昧母音が英語発音のポイント。"April"の発音は「エイプリル」ではないよ

 もひとつだけ英語発音の話。曖昧母音が英語発音のポイントということ。これはけっこうあちこちで言われていることだけど、ちょっと書いみたい。
 ちなみに、"April"の発音は「エイプリル」ではないよ。「米国英語だとそうだけど英国英語だと……」という人は英国英語も確認してみるといいけど、違うよ。"April"の"ril"のところは曖昧母音になる。米語だと「エイプラ」に聞こえる。英国英語だと「エイプゥ」みたいになる。いずれにしても、「リル」みたいな「i」の音はない。でまあ、それはなぜなのかという話なんだが。たぶん、ややこしいので、この手の話がお好きなかたは、どうぞ。

マイクロソフトの"Surface"は「サーフェイス」?
 久しぶりに曖昧母音のことを考えたのは、先日、マイクロソフトが"Surface"という新端末装置を発表したのがきっかけ。これ、なんて発音しますか? 英語に詳しそうな人が「サーフェイス」みたいに発音していて、え?と驚いて、ちょっと考えこんでしまった。
 ちなみに、私はといえば、「サーフィス」だと思っていた(音引きのところはR母音だけど)。つまり、"face"ところは「イ」に近い音ということ。
 「プログレッシブ英和中辞典」(参照)を見ると発音として[sə'ːrfis]とあり実際の音声も確認できる。聞くと「サーフィス」のように、つまり「フィス」のように聞こえる。Dictionary.comでは、発音は[sur-fis]とあってはやり「サーフィス」のように聞こえる。まあ、そうじゃないかと思っていたのだが……。
 ま・て・よ。

"Surface"の発音は「サーフィス」でいいのかな?
 さすがに、"interface"みたいに「サーフェイス」みたいに発音はないとしても、これ「i」じゃないんじゃないかと思いなおした。「プログレッシブ英和中辞典」やDictionary.comが間違っているとまではいわないが、違うんじゃないか。
 手元のロングマンの英英を見ると、やっぱり、['sɜːf'əs]だった。曖昧母音だ。 すると、発音的には「サーファス」に近いはず。辞書には音声もついているので聞いてみると、たしかに曖昧母音で「サーファス」に近い。
 ただ、聞きようによっては「サーフェス」に聞こえないでもない。これはあれだ、マクガーク効果(参照)ではないけど、単語的ないし日本語母語のフレームワークの意識が先行しているイルージョン現象かもしれない。

"Surface"の発音は……わからん
 すると、この"Surface"の"face"の部分の音は現在、曖昧母音化が進んでいる途上かとも思って、他の辞書と、たまたまロングマンの英和を見たら、[səː(r)fIs]だった(最初の/ə/の上にアクセントが付くが)。日本語だと「え」に近い「い」の音。
 ロングマンの英英と英和で扱いが違うのもなんだろうか。疑問に思って英和のほうの発音を聞いたら、英英と同じ。実際には['sɜːf'əs]だった。なんじゃ、これ。
 ちなみに英辞郎Proも見たら[sə'ːrfəs]とあり、曖昧母音にしていた。音があるので聞いてみると、これはかなり「サーフェス」のように「エ」に近い音に聞こえる。
 Cambridge Dcitionaryを引くと、/ˈsɜr·fəs/ (参照)と /ˈsɜːfɪs/ (参照)が混在。とはいえ、この前者は米語、後者は学習者用。ここには英国発音もあり、それを聞くと、「サーフィス」に近く、けっこう「イ」に聞こえる。

マイクロソフトは"Surface"をなんて発音してるか?
 そういえば、オリジナルはどうかな。マイクロソフトのプレゼンテーションを聞いてみる。
 最初の入道の発音は「サーフェス」っぽいが、二番目の雲水の発音は「サーファス」に近い。

 他のビデオを見ると「サーフィス」ふうの発音もあり、どれが正しいというものでもないそうではあるが、概ね、曖昧母音化していく途中とは言えそうな感じ。

日本のメディアは「サーフェス」ってことで、ここはひとつ
 日本のメディアは"Surface"をどう伝えるのか。
 マイクロソフト自身のサイトをみたら日本語表記の情報が見当たらなかった。
 日本語版ウォールストリートジャーナルや日本語ロイターはどっちも「サーフェス」としていた。他のメディアで「サーフェイス」や「サーフィス」はなかったので、日本のメディア的には「サーフェス」で定着したもよう。知らなかったが、"Surface"で「サーフィス」と読む男性歌手ユニットがあった。

/fəs/の/ə/っていうのが、シュワ
 この曖昧母音、英語では、schwa(シュワ)と呼ばれる。
 日本語の「あいうえお」でいうと、「う」や「お」に近い音でもあり、「サーファス」というほど「あ」に近くはないが、じゃあ、「サーフス」かというとそこまで「う」ではなく、じゃあじゃあ、というと「え」にも近い。
 「サーファス」と表記すると「あ」が強調されかねないし、「サーフェス」あたりが日本語に近いのかもしれない。

"face"の発音はその部分の意味理解に関係していそう
 さて、なんで"surface"の"face"がシュワ化したのか?
 これ、言語学的には、音声学でも音韻論でもなく形態論な問題かな。あー、簡単にいうと、その部分をネイティブが意味としてどう理解しているかに関わってくるという話。
 たとえば、"interface"の場合は、「顔(face)」を付き合わせるという意味の意識があるから、「フェイス」がくずれない。「インタフェス」っていうのはない。
 "typeface"なんかも活字の「面(face)」だから「フェイス」。
 ところが、それらと形態素として区別される"preface"の"face"なんかだと、"surface"と同じ現象が起きる。これも、「プリフィス」から「プリファス」へシュワ化が起きているみたいだ。

"Surface"の"face"のシュワ化はなぜ?
 次に問題なのは、['səːfIs]が['səːfəs]へというように、変化しちゃったのはなぜか。つまり、「サーフィス」と「サーフェス」どう違うかということ。
 まず、人によって違うというのはある。それでも、「サーフィス」という発音の場合は、シュワ化はしていない。なぜなのか?
 これは、別の視点を取ると、アクセントの問題なのだな。

アクセントが消えると母音字はみんなシュワ化する
 英語の辞書だと、2シラブルの語にはアクセント位置を示す記号が付く。4シラブルだと第2アクセントの記号も付く。
 "anniversary"は5シラブルのan·ni·ver·sa·ryで、[æ`nivə'ːrsəri]のように、第1アクセントが「ヴァ」で、第2アクセントが冒頭の「ア」になる。まあ、ここまでは学校とかでも教える。
 あまり教えられていないのが、英語っていうのは、アクセントを失うと、みんなシュワになっちゃうということ。
 これがさ、どんなスペリングであっても、シュワになるというのが英語のすごいところ。ウィキペディアにいい例があった(参照)。


like the 'a' in about [əˈbaʊt]
like the 'e' in taken [ˈteɪkən]
like the 'i' in pencil [ˈpɛnsəl]
like the 'o' in eloquent [ˈɛləkwənt]
like the 'u' in supply [səˈplaɪ]
like the 'y' in sibyl [ˈsɪbəl]

 スペリングからだと、発音が想像付かないのが英語の面白いところ。
 "April"なんかも。[e'iprəl]、つまり、「エイプラゥ」になってしまう。日本語で料理の「レシピ」とかいうあれ、"recipe"は[re'səpi]、つまり、「レサピー」。
 さらに、シュワは流音に結合するとき消えちゃうんで、ウィキペディアには、 "pencil"に[ˈpɛnsəl]とあるけど、これは実際には[pe'nsl]になる。「ぺぬそぅ」ですな。エル(l)の音はシュワを吸収しちゃう。
 「ライトノベル」とかの"novel"は、[nɑ'vl]、日本語っぽくいうと「ナヴォ」。
 鼻音もシュワを吸収することがある。"student"は「スチューデント」じゃなくて、[stju'ːdnt]となって、これ、日本語で書きづらいが、「スチューウン」になる。
 で、こっからがさらにややこしい。

シュワ化されないのはアクセントがあるから
 "surface"を[sə'ːrfis]のように、「サーフィス」と読むということは、実は「フィス」の部分になんか微妙なアクセントがあるということだ。(なお、英国英語だとshwaはR母音と同じ発音表記になるけど、これは音韻としては、schwaではなくR母音とみたほうがいい、と思う。)
 どういうことなのか?
 "surface"のような2シラブルの単語だと、第1アクセントは必ず存在するが、それ以外は、辞書には表記されないが、そのシラブルのアクセントは、第1ではないけど、無アクセントでもないかもしれないということ。
 なんか奇妙なことを言っているみたいだけど。
 例えば、"accident"という単語、第1アクセントは冒頭のaにある。これが"accidental"だと、第1アクセントは"den"に移り、冒頭のaは第2アクセントになる。アクセントが残るから冒頭の"a"はシュワ化されない。

そこにあるのは、ステルス・アクセント!
 そこで、"ambassador"だが、辞書には、[æmbæ'sədər]のように、第1アクセントしか表示されない。けど、冒頭の"a"がシュワ化されていないということは、ここに、なんかアクセントがある。これをなんと言うのか知らないので、ステルス・アクセントとしときます。
 "surface"の発音に戻ると、「サーフィス」として発音されているときは、話者の意識に、「フィス」のところにステルス・アクセントの意識が残っている。
 これが、"interface"のように「面(face)」という意識なら、「サーフェイス」になるのだけど、そうじゃないんだろうなという意識がある。
 しかし、「じゃあ、そのフィスってなんだよ、僕にはわかんないなあ、どうでもいいや」に意識が変わると、意味を担う形態としての意識が薄れてシュワ化する。
 ただ、この部分はなかなかシュワ化しづらいのかもしれない。
 「しかし、いや、どうでもよくないんじゃないの」という意識を"sur"が引っ張っている。「"sur"は"surrealism"(サーリアリズム)のように、"over"という意味あるよね、"face"がなんだかわからないけどさ、面かなんかの上だよ」みたいな意識が、シュワ化を押しとどめるのではないか。
 余談だけど、"sirloin"(サーロイン)というのは、語源的には、この"sur"が付いた"surloin"、つまり、"loin"の「上(sur)」の部分という意味。でも、無教養なのか洒落なのか、"loin"の尊称(sir)のように意味が勘違いされて、"sirloin"になってしまった。

まとめ
 なんかひどくめんどくさい話になってしまったけど、要点は2つだけ。ついでに1個付け足してとく。

  1. 英語は綴りを見てローマ字風に発音しちゃだめだよ。アクセントがなければ、なんでもシュワ(曖昧母音)になっちゃうから。
  2. RやLなど声が続く子音の前にシュワ(曖昧母音)がくると、シュワも消えちゃうよ。
  3. 英単語の聞き取りに一番重要なのは、シュワの聞き取りだよ。もちろん、発音するときも大切だけど。
   

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コメント

"surface" について、あくまで私見ですが、
まず、"sur" に第1アクセントがあるので、直後にくる "face" の "a" が相対的に曖昧で弱い音になっている=シュワー化している。
そうすると、"face" の部分は、唇歯摩擦音[f]→シュワー→歯摩擦音[s]という音の並びになると思います。唇歯摩擦音も歯摩擦音も口の前のほうに調音点があるので、このふたつに挟まれたシュワーが、口の前のほうで発音する弱母音[i]に近い音に変化しているのではないでしょうか。
"interface" の "face" がくずれないのは、"in" と "face" の間にアクセントのない音節 "ter" が入って、緩衝帯になっているからだと思います。
ちなみに、"typeface" は "type" と "fece" という独立した単語の合成語なのでそれぞれの単語の発音が維持されているだけで、接頭辞+語幹で構成される "surface" "interface" "preface" とは分けて考えたほうがいいと思います。
長々と失礼致しました。

投稿: MasaruS | 2012.06.24 18:55

中国語は、「メロディーの言語」。
そして英語は、「強弱の言語」です。

投稿: 千林豆ゴハン。 | 2012.06.25 11:47

デヴィッド・ボウイのThe Man Who Sold The Wolrdなんかでは"face"が限りなく「ファイス」に聞こえるんですが、これは単に英国英語なだけなんでしょうかね。

投稿: | 2012.06.26 23:19

ハイシュワーじゃないの?

投稿: | 2012.07.23 16:20

曖昧母音をカタカナ表記すること自体どうかと思いますが、表記するにしてもsurfaceの"face"を「フェイス」とするのは誤りだと思われます。
フェスやフィス、ファスはやむを得ず表記するなら全て正しいのでは……
なにせ「曖昧」母音なので。
長文失礼。

投稿: | 2012.12.20 16:34

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