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2012.05.29

野田政権「社会保障と税の一体改革」をフィナンシャルタイムズはどう見ているか

 野田政権「社会保障と税の一体改革」をフィナンシャルタイムズはどう見ているか。5月21日の社説に興味深い指摘があった。日本経済について言及されているので翻訳が出なければブログで拾っておこうかと思っていたら、案の定、出た。JB Pressからだった。「Financial Times 社説:日本経済、1~3月期の伸びは続かない」(参照)である。
 この社説、どのくらい注目されているのかと見ると、ツイッターでの言及が34、はてなブックマークが12、フェイスブックのいいねが37。どちらかというとあまり振るわない。しかも、それらのコメントを見ると、ネットにありがちとも言えるのだが、否定的なものであったり、本論とは関係ない部分に釣られていたりするものが多い。まあ、しかたがないのかもしれない。
 JB Pressの訳文を原文とざっと照合したが、訳漏れもなさそうで、プレーンに訳されている。なかなかするどい指摘ではないかと私は思うので、ちょっとツッコミを入れて解説代わりにしたい。
 まずタイトルなのだが、JB Pressの「日本経済、1~3月期の伸びは続かない」は意訳。悪い意訳ではないが、内容を読むとわかるように、今後日本経済、特に、野田政権「社会保障と税の一体改革」はどうあるべきかということが課題になっているので、ネットにありがちなんだが、タイトルに釣られると中身が精読されにくい。というか、ネットだとタイトルしか読まない人やタイトル中のトリガーワードに反応して終わるだけの人が少なくない。
 ただ、これ、意訳はしかたがないだろうと思う。元のタイトルは「Flash in Japan」。直訳すると、「日本のフラッシュ」で、では「フラッシュ」って何? なのだが、これは、カメラのフラッシュのような「閃光」の意味を核に「news flash(速報)」がかけてある。そこで、「現下の日本の速報」ということで、「日本の第1四半期の国内総生産(GDP)1%、年率換算で4.1%という高成長」を速報として伝えるという意味合いがある。
 そこで翻訳者としては諦めざるを得ない。だが、これ、「Flash in Japan」は、「a flash in the pan」の駄洒落なんですよ。こういうフィナンシャルタイムズの駄洒落を見る度に、うへぇと思うのだけど。
 で、「a flash in the pan」の意味は、これは辞書には、「線香花火的な企て(をする人), 竜頭蛇尾(に終わる人) 」というふうに説明されているはず。
 この「pan」って何? なんだが、普通の英語だと、Panというと日本語でいうフライパンのことだけど、これは、天秤皿の皿みたいな皿で、「a flash in the pan」というときのその皿は、火縄銃(Arquebus)の火薬を入れる皿状の"Flash pan"のこと。図のBのところ。この皿から弾のとこまで火薬が入ると実弾がでるが、皿のことで、パーンと発火、フラッシュですね、しても、弾は出ない。不発になる。

 どうも余談が長くなりすぎたけど、日本経済の現下の成長に見えるのは不発のパーンで終わるという含みが、フィナンシャルタイムズのこの社説にある。
 さて、中身。
 日本経済が一発屋で終わらないためにはどうあるべきかが、フィナンシャルタイムズ社説の論点になる。まさに、そこは当の日本人にとっても関心を持つべき部分である。


 とりわけ日本は、潜在成長率を実質と名目の両方で引き上げる必要がある。名目成長率の引き上げには適度なインフレが必要だが、この国ではもう15年間もごぶさただ。その意味では、日銀が渋々ながらも、1%というインフレの「目途」を導入したことは前進である。

 日本の経済にとって重要なのは、実質成長率と名目成長率の両方で、経済成長する必要があるということ。
 実質成長率というのは、ふつうに経済の成長と呼ばれているイメージに近い。人気のブロガーさんとかネットで人気のご先生がたが、毎回毎回手を替え品を替え、日本には経済成長が必要だ、経済成長をしないとなんたらかんたら、とネタを投下している経済成長のイメージに近い。
 多少難しいのが名目成長率かもしれないし、あるいはこっちのほうがわかりやすいかもしれないが。製品・サービスの伸び率を時価で示したもの。実質成長率はこれから物価上昇を引いたもの。
 名目成長率だと「時価」が重要になる。おカネの価値というのは変化するので、その時でのおカネの価値で伸び率を見るということ。なので、おカネの価値が下がっていると、名目成長率は伸びやすいし、その状態は、おカネの価値が下がる分、物価が上がっていくことでもあるから、インフレにもなる。
 ということで、フィナンシャルタイムズが言っているのは、名目成長率を上げるには、多少インフレが必要だよということで、日銀が1%であれ、インフレに向けた金融政策をやってくれてよかったねというのである。
 だた、これね、読みようによっては爆笑ものの皮肉かもしれない。1%というのは誤差の範囲だし、以前から日銀はそれを知っていて1%は暗黙に織り込まれていたものだった。なので、今回の日銀の政策は、実は「なんちゃってインフレターゲット」という面白い代物。
 続けてフィナンシャルタイムズはこう述べていく。

 日銀がこの目標を達成するには、利用する手段の面でもっと創意工夫が必要になるだろうし、いずれはこれを2%に引き上げることも検討すべきだろう。3~4%の名目成長率が数年続けば、すでにGDP比200%という心配な水準に達している政府債務残高の引き下げにも確実に寄与するだろう。

 ここがポイントで、フィナンシャルタイムズは、日銀に向けて、インフレ目標を「いずれは2%にしなさい」と言っているのである。
 「利用する手段の面でもっと創意工夫」のあたりの原文はこう。

The bank needs to be more imaginative in the instruments it deploys to meet that goal – and should consider raising it to 2 per cent in due course.

 意訳すると、こうなるかな。

日銀は、中央銀行に任されている手段の独立性から、その行使できる手段に頭を使って、インフレ目標を達成する必要がある。つまり、所定の時期には2%に上げることを考慮すべきなのだ。

 ということで、フィナンシャルタイムズは日銀に対して、近い時期にインフレ目標を2%にしなさいよと勧めているのである。頭を使えよと。
 そして、インフレ目標が、3~4%なれば、数年のうちに、政府債務残高の引き下げが見えてくるというのである。
 つまり、人気のブロガーさんとかネットで人気のご先生が毎回毎回手を替え品を替え、莫大な赤字を抱えた日本はいずれ大変なことになるなんたらかんたら、とネタを投下いるけど、フィナンシャルタイムズは、それ、3~4%のインフレ目標でなんとかなりますからぁ、と言っているのである。
 わかっている人にとっては、「別にどってことない普通の話」ということなので、それでネットでもこのフィナンシャルタイムズの社説はさほど注目されなかったのかもしれない。
 ただ、この社説、そのあとに、野田政権の増税もいいんじゃないのと、一見、転調している。

 野田佳彦首相が消費税率引き上げ法案(現行の5%を2014年に8%に引き上げ、2015年に10%に引き上げる)を提出したことは幸先のよいスタートだと言える。もしこの法案を通す対価が首相の地位の喪失であるなら、野田首相はこの対価を払うべきだ。

 しかも、その増税のために、野田ちゃんは切腹しても浮かばれるよ、という雰囲気なのだ。
 へえと思うかもしれないけど、実は、これ、世界が野田政権に向ける目を、けっこう赤裸々に表現していて面白いところ。野田ちゃん、哀れだなとも思うけど、世界が君に求めているのは、ご切腹なんですよ。ひどいなあと思うけど。
 なので、ここでフィナンシャルタイムズが、インフレ目標の意味をわかっていながら、増税もまた善し!、なんてなぜ言っているのか、不可解でもあるけど、それは、長期的に日本には増税は必要だと見なしているから。

 長期的には、日本は若い労働者たちの負担を軽減し、裕福な高齢者や現金をため込んでいる人々の負担を増やすべきだろう。消費税率の引き上げはその一助になる。何らかの富裕税や、投資や利益配当を促す法人税の導入も必要だろう。また女性の労働参加率は48%とあまりに低く、英国を約7ポイントも下回っている。

 つまり、フィナンシャルタイムズとしては、今回の消費税引き上げよりも、政府が増税にシフトすることで、高齢者からカネを吸い上げろよ、と言っている。
 その意味では、だったら、逆進性の高い、しかも歯止めの利かない消費税というのは、筋、悪すぎじゃね、と私などは思うのだが、まあ、そこはフィナンシャルタイムズはぐっと目をつぶってしまう。
 そして、話の締めで、海外労働者の受け入れを提言するから、これに反感をもつ人の多いネット民には受けが悪い。そこだけ注目されることにもなる。

最後に、日本は移民の受け入れをもう少し増やしてもよいのではないか。確かに、深刻な人手不足は生じていない。だが若い世代や女性の待遇を良くする場合と同様に、日本は移民の受け入れからフレッシュなアイデアや活力を得ることができるだろう。

 しかしこの締めは、現下の日本とっては、英国風なジョークと聞き流してもいい部分。そこだけ着目して釣られてしまうのもなあ。
 さてと。
 このフィナンシャルタイムズの要点をまとめると、こうなる。

(1) 政府のカネをばらまいて見せかけの成長を演出しても線香花火に終わるから、日本は成長戦略が必要になる。
(2) 特に名目成長率が重要なので、日銀は2%のインフレ目標を掲げる時期を考慮せよ。
(3) おカネを貯め込んだ高齢層からカネをむしり取るために増税が必要になるという文脈で、消費税増税もしかたない。
(4) 日本が国家として増税をきっかけに成長戦略に転じることを世界は注目している。

 とま、そんなところです。
 
追記
 「a flash in the pan」の説明についてコメントをいただき、なるほどと思い、その部分を訂正した。

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コメント

なるほどそういうことだったのか、と、このエントリーを読んで元記事の真意がわかった。
元記事を読んだとき、なんでFTが消費税増税を支持してるのかわからなかったが、
その後ろの高齢者とお金溜め込んでいる人にかかってたんだね。
読解力が足りない自分に喝ですな。
消費税が自分のトリガーワードになってるせいで近視眼的になってるせいもあるのかも。
冷静にならなければいけないです。自分。
気づかせてくれてありがとうございます。

投稿: 六条御息所 | 2012.05.29 17:59

増税は、外国の貿易が有利になるからでしょ。外人が自分たちに不利になることは言わない・・・

投稿: | 2012.05.29 19:28

これは原文が酷いし悪いのか?
インフレにするなら貯め込んだ金まで反感買ってまで吸い上げる意味すらない。日銀にやらせば総て幸せになるんでしょ?
そんな単純な話じゃない?途中に嘘が混ざってるのか総てに一貫性なく支離滅裂な印象
どうするか自分たちのことは自分たちで考えましょうと言うことか?
てんでバラバラな好き勝手な有り様
指導者不在より日本インテリジェンスが臆病で愚かなんだろう
こんなの本気にしたら国が無茶苦茶になるわ!

投稿: シーモンキン | 2012.06.15 17:31

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