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2012.05.28

野田政権「社会保障と税の一体改革(消費税増税)」の見取り図

 謎と言ってもよいのではないかと思う。野田現政権「社会保障と税の一体改革」が、である。わずかではあるが自分なりの整理と見通しを書いておきたい。

今回の消費税増税は、増税日本の第一歩
 「社会保障と税の一体改革」といっても根幹は、村山内閣以降18年ぶりの消費税増税法案である。3月30日に閣議決定され、国会に提出された。閣議決定とはいえ、政権交代のマニュフェストにもなく、与党民主党のなかで合意されているわけでもない。民主党の有力者と騒がれている小沢一郎代議士も反対している。野党自民党としては、与党民主党内の合意ができてから審議に応じようとしている。与党がまとまっていないければ、野党の対応もできないのは当然だろう。
 閣議決定された消費税率引き上げ法案は、消費税率を二段階に分け、現行の5%から10%に引き上げることが表向きの目的である。一段階目は2年後の2014年4月でここで8%になり、二段階目は2015年10月に10%に引き上げることになる。ようするに3年後には消費税が10%になる。おそらくその後も上がる。各種の試算からしてそれでは足りないからだ。消費税があと5%上がるというより、増税日本の突破口となるのがこの法案の本質である。

「景気弾力条項」は意味を持つのか
 自民党政権時代、特に最後となった麻生政権時代でも消費税増税は検討されていたが、日本経済の回復を待って実施するという常識ある方針であった。民主党はその点の配慮もないのかというと、さすがにそうもいかない。自民党時代の政策を真似て、消費税増税は「経済状況の好転」を条件とした。これが「景気弾力条項」である。
 具体的に「経済状況の好転」が何を意味するか。これは、2020年度までの平均で「名目3%、実質2%の経済成長率」を「政策運営上の努力目標」とする、としたことである。
 このあたりから、謎が忍び寄る。
 まず疑問。2015年には消費税は10%に上がるが、その時点で2020年度までの「名目3%、実質2%の経済成長率」はどういう扱いになるのか。
 とりあず消費税を上げてしまって、その後の5年間でなんとかなるさ、あるいは、消費税を上げれば「名目3%、実質2%の経済成長率」となるさ、ということなのか。と、書いていて吹き出してしまうが、冗談のような話である。
 謎としてまとめるとこうなる。2020年までの「名目3%、実質2%の経済成長率」という「景気弾力条項」は、2020年以前の時点でどの程度、条件としての拘束力を持つのか。まったくわからない。たぶん、無視されるのだろう。

「名目3%、実質2%の経済成長率」は日銀が変わらない限り無理
 謎はふくらむ。「景気弾力条項」である「名目3%、実質2%の経済成長率」はどのような具体的な政策課題となっているのか。まともな人間なら物事を計画するにあたって条件を整えようとするものだ。当然、消費税増税以前に、条件を満たすための政策課題が議論されなければならないはずだ。
 ところが、野田政権、これが皆目見当たらない。謎である。
 簡単に考えてみよう、実質2%の経済成長率というのは普通に成長戦略である。名目3%の経済成長率は、日本の通貨の価値が関係しているから、日銀の金融政策、つまり金融緩和が関わってくる。
 だが、その2面が見えない。いや、1面は明確に見えている。日銀は断固として金融緩和を拒んでいるからだ。日本の名目成長率は2000年以降マイナス0.6%なので、大きな政策転換なくして名目3%になりうるわけがないのだが、その政治プロセスはすでに途絶している。あー、つまり、ダメダメじゃんということ。

なぜ野田民主党政権は、増税に爆走したのか?
 現状、野田政権は、消費税問題の条件整備をすっとばして、なによりも消費税増税に邁進している。なぜこういうことになってしまったのだろうか。
 この謎、つまり野田政権の爆走理由については、それほどむずかしくない。解いてみよう。ポイントは、貧乏人対策である。
 現状、「社会保障と税の一体改革」で大きな課題になっているかに見えるのが、貧乏人対策である。そして、この部分、「社会保障と税」が、消費税増税と一体になるから、「一体改革」なのである。あなたが貧乏人なら、話はさらにわかりやすい。
 国家が消費税増税に突っ走ってしまうと、貧乏人は振り捨てられる。金持ちは高い物も買うから消費税を多く支払うともいえるが、金持ちはどの価格帯の物を買うかは選択可能だ。ところが貧乏人は基本、安い物しか買えない。それにがっつり、消費税が付く。つまり、消費税というのは貧乏人イジメの政策である。これを「逆進性」と言う。
 なお、消費税は逆進性ではないのだという、あたかも増税で経済成長するみたいな面白い屁理屈がないわけではない。だが現状の国政の状況としては、消費税の逆進性を対処するかという課題になっているので、面白い話題はネットで人気のご先生がたに任せて、ここでは現実を見ていこう。

逆進性の補正は「給付付き税額控除」か「複数税率」か
 消費税の逆進性、つまり、貧乏人には重税になるという傾向を補正・是正するには、基本、二つの政策がある。その二つがまさに現在、議論されている。
 一つは、消費税増税で貧乏人に重税になった部分、補正としてお金を上げましょうということだ。これが「給付」。他の税を軽減するという「控除」もある。2つを含めて「給付付き税額控除」という対処方法になる。これが、野田政権側が対処として提示している政策だ。機能するなら悪くないといえるし、採用している国もある。
 もう一つの政策は、貧乏人が買う物の消費税は安くしとけ、という方式である。食品は貧乏人の生死に直結する。だから食品の消費税は軽減し、学生はブログなんか見てないで書籍で学ばないとますます阿呆になるから書籍の消費税は軽減する、といった政策である。消費税が複数になる。これが「複数税率」である。自民党がかつて掲げたわりに、現下の党としての政策としてまとまっている印象はない。
 自民党と民主党って、もはやなんの違いもないというか、民主党はかつての自民党の単なる劣化版になってしまった現状はあるが、それでも理念としては、自民党は人が働いてそれでも所得が少なければ税金を軽くしましょうという政党である。これに対して、民主党は貧乏人には国がお金を上げましょうという政党である。
 当然、民主党は、貧乏人が増えるならじゃんじゃん、バラマキしょうということになる。さて、そのカネどこから? というのが問題になる。
 民主党はバラマキのための財源が欲しい。だから、消費税に血道を上げているのである。
 これは、国家に寄生する官僚制度にも都合がいい。特に財務省が野田政権を全面的に支援しているという図ができあがる。
 「でも、民主党のバラマキ方式でいいじゃん。私、貧乏人だし」という人もいるだろう。そこで、「複数税率」ではなく「給付付き税額控除」なのか。

「給付付き税額控除」は無理
 話を簡単にすると、「給付付き税額控除」は無理。なぜかというと、貧乏人がどのくらい貧乏なのかというのは、その所得の情報を国家が知っておく、つまり捕捉する制度が必要になる。逆に言えば、国民の所得捕捉の制度ができてから、「給付付き税額控除」が可能になる。だったら、今議論すべきは、国民の所得捕捉の制度ではないかとなる。ところがそうなっていない。
 この時点で、実は野田政権はまともな政治プロセスとしては、終了になっているはずなので、なんでこのゾンビが、かくまでがんばっているのかよくわからない光景ではある。輿石先生のフォースであろうか。
 消費税を上げるというなら、「複数税率」にするしかない。
 だが、これは無理ではないが、困難。なぜ困難かというと、流通での計算が複雑になるからということもだが(もともと日本の消費税にはインボイスがないという欠陥がある)、官僚がそこまで仕事をしたくないのである。もっと官僚さん働いてよという感じでもあるが、だって人手が足りませんと答えらるのがオチになる。
 だったら、できるだけ、簡素な「複数税率」の制度から始める、まず、食品から、となりそうなものだが、現状の自民党にはそうした議論はほとんど見かけない(あるのかもしれないが)。かろうじて目立つところでは5月28日の産経新聞社説「軽減税率 与野党で導入を議論せよ」で提言されている。
 結論からいうと、消費税を上げるなら食品を基本とした簡素な「複数税率」から着手すべきだが、現状では誰もやる気がない。原発廃止というもっと重要な課題があるからもしれない(冗談)。

こりゃびっくりの奇手登場
 じゃあ、どうなるの。ダメじゃん、ということになる。
 ところが、それでも野田政権は暴走しようとして、奇手の政策を出してくる可能性がある。おっと、その手があったかと。日本の官僚は、「兵は詭道なり」の孫子を学んでいるのである。これが政治を面白くしてくれる。眺めていると二つ、奇手がありそうだ。
 その一。目眩ましの折衷案。「複数税率は好ましいが、いずれ消費税は10%を越えるのだから、その時点で食品など貧乏人につらい消費税を10%に抑えよう」というのである。これは名案。朝日新聞が5月20日の社説「消費増税と低所得層―軽減税率は将来の課題に」で掲げ、旭日旗をばたばたと振って支援している。なるほど、この理屈なら複数税率の議論は、野田政権消費税を上手に救ってくれるではないか。
 ご冗談でしょ、朝日新聞社さん。
 いくら、目先の10%が大増税国家への一里塚とはいえ、現段階から10%を越える消費税を国民的合意にせよというのですかね。そりゃ無体な。
 そしてこの奇手は、その後の軽減税率が空手形であるということからしても、現状の議論のまさに目眩ましそのもの。
 その二。カナダで実施されている「GSTクレジット」という直接給付制度の真似がある。消費税増税に合わせて、貧乏人、つまり、低所得世帯に直接お金を給付するのである。それって、民主党の「給付付き税額控除」と同じではないかと思えるし、同じなのかもしれない。しかもそれって「子ども手当」の本質だったんじゃないとも思えてくる。それもそう。
 だが、現下の消費税増税ならなんでもするという状況での直接給付は、所得の捕捉なんて細かい制度はどうでもよく、どんぶり勘定で貧乏人にバラマキということになる。おそらく、安価な食品の増税分は試算しやすいだろうから、その分はカネで渡してしまえば、貧乏人も消費税増税に文句はあるまい、ということである。
 この奇手で問題となるのは、貧乏人を詐称する人である。これを防ぐには、現在貧乏人詐称をするとひどい目にあわせておくといい。というか、昨今の貧困騒ぎは生活保護の文脈ではなく、直接給付の下準備なのではないか。


 いずれにせよ、野田政権は失費税増税に爆走しているものの、そして、「景気弾力条項」も実質消えてしまっているものの、貧乏人対策なしでは、消費税増税は難しいだろうなというのが最後の関所になっている。
 自民党としては簡素な複数税制で、民主党としては大ざっぱな直接給付で乗り切りたいところだろう。
 財務省的には乗り切ればいいので、どっちでもいいよ。
 日銀的には金融緩和がなければ、どっちでもいいよ。
 

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コメント

>野田政権は失費税増税に爆走している

失う費用税とは、しゃれたいいまわしだね。

投稿: | 2012.05.29 19:32

 野田さん(あるいは財務省)が消費税に期待する理由は所得税よりも消費税の方が税制として優れていると判断しているからだと思います。優れた税制とは税収が経済活動(GDP)にきちんと比例していることです。国の統計では所得税はGDPに比べて変動が激しく、消費税は安定しています。
 所得税のように頭で考えたような税制はもはや正しく機能していないと考えられます。情報では脱税が多いようですし、また「控除」と称する奇妙な方法で(事業主とサラリーマン、専業主婦と働く主婦など)アクロバティックに操作されている所得税が公平とは言えないわけです。その点消費税は経済活動そのものを反映していますから(消費税を納める人のごまかしを別とすれば)公平です。そういう優れた点があるから欧米で採用されているわけですよね。
 消費税は弱者に重いとよく言われます。所得税なら弱者は無税という簡便な救済方法がありますから、攻撃し易い欠点です。でも「弱者は無税」みたいな「頭で考えた」救済方法は自己満足的で、経済活動をゆがめる可能性が強いと思われます。控除とか現金給付の結果として低所得者(より正確には税を納めない人)が高級外車に乗るような事態をきちんと避けられる方法でなければなりません。その意味で欧米で食品だけは無税としているのには(食品の範囲とか難しい点もあるようですが)合理性があると思われます。
 税率のようにお金で解決する以外の政策で弱者を減らすことを行政がちゃんと行うことがもっと大切なのではないでしょうか。日本は格差が大きい国とよく言われます。控除とか現金給付でごまかしてはいけません。

投稿: Kappnets | 2012.06.09 19:11

消費税増税がなぜ行われようとしているかを考えると、つまり税収を増やして、その分を社会保障費の増額や国債償還の財源にしようというわけでしょう。しかし、たとえばそもそも消費税を3%から5%にして、税収は増えたのでしょうか。国債の発行や残高は減少したのでしょうか。

投稿: 院長 | 2012.06.11 19:31

これからの日本を破綻させないための歳入の確保が大事です。国税の確保に関していろいろ議論はなされていますが、社会保障と税を一体として歳入の改革に関する議論は不十分と考えます。村田租税政策研究所のメンバーが中心になってそれらの政策提言をこのブログで行っています。

投稿: ブログ:みんなの税~社会保障と税の一体改革の提言~ | 2012.09.16 08:38

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